女王

 ゴンッ

 船を漕いでいた頭はついに沈没、額を思い切り机に打ち付けた。眠い。

「ユーキ甘やかし過ぎ」

 授業が終わると同時、べーちゃんに冷たい視線を送られる。「まさか」病人だから多少頼まれ事を引き受けているが、彼に対して甘やかすも何も無いだろう。
 土曜は朝帰って学校。放課後初めてベンチに入り、物足りなさを感じつつ花宮家へ。高熱に魘されたまこちゃんは布団と間違えたのか私の袖を掴んで離してくれず、眠りの深い頃に抜け出そうと思っていたが寝落ちしてしまった。早朝目覚めると夜と同じ体勢──丸くなるまこちゃんに袖を掴まれ、ベッドの横に座り上体をベッドに向けたまま。お陰で身体はバキバキ、腰を寝違える最悪のコンディションで女子の試合に挑んだ。難無く圧勝し帰宅してメールを入れようとしたタイミングで電話が入ったので再び花宮家へ。昼間38度台に下がったと言う熱は夜39度を越えていた。お昼ちゃんと寝てたのと疑ったが、今朝体温計は37.2度を表示した。この分なら明日か明後日に出席出来るだろう。もう山は越したと晴れ晴れした気分で登校した次第である。
 「無自覚って怖いよねぇ」モノローグに浸っていると呆れられてしまった。そんな事無いよ。もし甘やかしているなら今日も家へ行くだろうが、その気は更々無い。うん、甘やかしてない。

「ガキじゃないんだから一人でも大丈夫っしょ。ユーキが面倒見なくてもさ」
「面倒って……ご飯作るくらいしかしてないよ」
「ならそんな眠そうなワケないじゃん」
「これは気が張って眠れないだけ」
「家帰んなよ」
「帰ってるよ」
「夕方っしょ? 夜帰んなよ、夜」
「……ほ、放っとけないじゃん。ほら、なんか雰囲気がさ」
「はいキタ、それが甘やかしてるっつってんの。マジでヤバかったら自分で救急車呼ぶなりなんとかするって」
「うーん……」
「週末また男女両方試合でしょ? んで今週末中間テストあんだよ? 特特落とすよ」
「試合は出るし、学術特待も落とさないから大丈夫」
「はぁ……ならしっかり昼ご飯食いな。他人にかまけて自分の体調管理さえ儘ならないなんて超自己犠牲強い献身、キモ過ぎて鳥肌立つからやめてよね」
「これは献身じゃなくて、眠くて食欲がないだけ、」
「他人にかまけて自分の体調管理怠るなんて許さないからね」
「申し訳ございませんでした」

 酷く怒ってらっしゃるべーちゃんが怖い。「通い妻?」「それな」「エロい」後ろで原ザキコンビがこそこそ言い合うのを聞きながら、鞄からお昼ご飯を取り出す。原ちゃん思春期だなぁ。
 眠気に動くのが億劫だしまこちゃんも居ないので、今日は教室でお昼を食べる。いつもの面子も皆教室だ。まこちゃん居ないからかな、皆どんだけまこちゃん好きなの。人の事言えないけど。

「まぁユーキは仕方無いとして……正直問題はあっちだよね!」
「?」
「どうせアレっしょ? お家来てー帰っちゃやだーお風呂入りたーいご飯作ってー、逆に、食べたくなーいとかって駄々捏ねてんのが目に浮かぶわ。赤ん坊か、赤ちゃん還りですか? ハァ?」
「「ブフッ!」」
「心底悪意のある言い方だね……」
「でもほぼ正解、間違ってないっしょ? ほらねぇ」

 べーちゃんの言葉に原ザキコンビが吹き出す。二人はあの時部室倉庫に居たので、赤ん坊(仮)が誰を指しているか当然解っているだろう。

「なになにー! 種田さん親戚の子の面倒でも見てるの?」
「部活はマネでプライベートはベビーシッターってお前マジ世話好きだな」
「「「ブフォッ!!!」」」

 窓口女子三人組+元二組男子=元二組六人組の言葉に、今度はべーちゃんまでもが吹き出した。

「ぶはは! 親戚じゃないけどガキではあるわ。ユーキ面倒見良過ぎるから、あれしろこれしろっていい歳こいてワガママ俺様気質なクソガキ!」
「働き振りは聞いてるぜ、慈悲深く健気で献身的なマネージャー様。ベビーシッターやってないで男テニにも来てくれ。それか分裂しろ、一体くれ」
「それアホみたいだからやめて。面倒見てないし、男テニには行かないし、プラナリアじゃないんだから分裂もしない」
「種田ちゃん、子供ってすぐ付け上がるから甘やかすとダメ男に育つよ」
「いやぁアレもう手遅れだね。外では良い子、内ではワガママのダメ男の典型」
「子供なんてそんなもんよ。私の弟も嫌いな物は『姉ちゃんが食べさせてくれるなら食べても良い』とか言うけど、せがまれて授業参観行ったら澄まし顔で好き嫌いなく給食食べててビビったもん」
「あの弟君そんな事言うんだ!?」
「良いな……俺の妹は顔合わせただけで『兄貴ウザイ』だぜ……弟君幾つ?」
「小二。めちゃくちゃ甘えたなんだよ、まぁそこが可愛いんだけどさ」
「そりゃ小二なら可愛いよね、小 二 なら。ねぇユーキ?」
「……そうかもね」
「寝付く前に部屋出ると嫌がるし、風呂もそろそろ一人で入って欲しいんだけどなぁ。種田さんも大変じゃない? 風呂入れるの。あれが一番めんどいわ」
「いくら子供相手でも親戚じゃねぇなら別じゃね?」
「……寝るのもお風呂も別だね」
「あぁそっか。てかその子幾つ? 『いい年こいて』って高学年?」
「えー……っと、その……」
「えっ! まさか中学生!?」
「ブハッ! ふ、はは! もう勘弁して、笑い死にそうなんですけど!」
「原くん知ってる子?」
「知ってる知ってる、この前ユーキチャンと居るの見たよん。ねーザキ?」
「お、おう……ブフッ!」

 うわぁどうしようこれ。何故こういう時に限って元二組六人組は教室に居るんだ、君達いつも我先に食堂行くじゃん。

「にしても『帰っちゃやだ、ご飯作って』って種田さんに相当懐いてるね!」
「……そんな事言ってないよ」
「言ってないけど雰囲気が超饒舌に物語ってんだよねぇ?」
「似たような事言ってたじゃん。卵粥とチョコムース作ってって駄々捏ねてたよん」
「お前花宮の娘しながら母親もやってんのか……つまり花宮は孫持ち……」
「ブフッ! お花はってかお花g、ゲフンゲフン……これもうわかんねぇな。アンタらよく殺され無かったね」
「向こうは気付いて無かったからねん」
「ん? 卵粥ってその子風邪?」
「……ひいてるね」
「風邪なのに親は留守かぁ」
「じゃなきゃご飯作ったりしないよ」
「へぇ? 普段も時々作ってんじゃん」
「……じゃなきゃお家行ったりは殆どないよ」
「へー? 『殆ど』つー事は風邪じゃない時も行ったりするワケ?」
「……二人とも楽しそうだね」
「「愉しいに決まってんじゃん」」

 声を合わせるべーちゃんと原ちゃんに溜め息を吐く。精神的に疲れる会話に、ご飯を食べる気力が完全に奪われた。反対を向いて机に沈むと、ニヤリと笑う健ちゃんと目が合う。なに。

「そういや花宮休みだね」
「だねぇ瀬戸、お花も 風 邪 で 欠席だね。お花の親は忙しいから一人寂しく苦しんでるのかなぁ心配だなぁ……ねぇユーキ?」
「……そうだね」
「案外一人寂しくは無いんじゃない?」
「やっぱ瀬戸もそう思う?」
「 今 は 、一人寂しくだろうけど」
「そうだねぇユーキ?」
「……そうかもね」
「田辺ほんとイイ性格してるよね」
「瀬戸には敵わないけ「そりゃどうも」

 幸い元二組六人組は風邪の子(仮)と風邪で欠席の花宮クンが結び付かないようだ。「花宮君大丈夫かな?」「花宮ってなんか病弱なイメージあるわ」「解る。ひょろくねぇのにな」「肌白いもん」「女子より全然美白」「お前らの女子力()」呑気にそんな会話を続けている。まこちゃん病弱気味なの地味に気にしてるからやめて、逆鱗に触れるよ。

「べーちゃん機嫌悪いね」
「田辺サマには経験による未来予知能力があるから怒ってんの。勿論両方に」
「……大丈夫だよ」
「だと良いけど。アタシは病み上がり+テスト前って面倒臭い時に原達に弄られるお花を笑いたいだけ。時限式の嫌がらせは一回で良いから宜しく」
「うん」

 べーちゃんがここまで言うのは私を思ってくれての事だ。彼女は私がまこちゃんを心配する気持ちも、きっと花宮母が出張中なのも察している。だからご飯を作りに行ったりするのを止めはしない。しないが、彼女から見ると甘やかし過ぎだから怒っているのだ。
 「お花が病弱チックなのは強ち間違いじゃないわ。その癖ギリギリまで痩せ我慢して長引くんだもん、仕方無い奴だよ」苦笑するべーちゃんだってほんとはまこちゃんを心配している。彼が風邪をひくと高熱が出て長引くと知っているから。べーちゃんツンデレってやつ。
 「良いからさっさと飯」にやにやしていると冷たく微笑まれたので、即座にウィダーを開ける。眠い。マスクを外し頭だけ上げて機械的にチャージしていると、これまで静かに食べていた康くんがこちらを振り返った。

「昼食はそれだけか?」
「ん」
「……これじゃあどちらが病人か解らないな」
「眠いだけ。マスクはただの予防」
「ならもう少ししっかりしろ。威勢が良くないと、虐め甲斐がないだろ」
「はい?」

 この人は一体何を言っているんだ。やっぱり康くん天然さん? アホ? 飲み口を銜えたまま怪訝に思い見上げると、彼は口からぶら下がるウィダーを掴んだ。なんだろう、首を傾げ、

「────ッ!?」

 ると、思い切りそれを握り潰した。
 瞬間、凄まじい勢いでゼリーが口に入り気管へ流れた。噎せて吐き出しそうになるのを必死に堪える。飲みきれないゼリーが顎を伝う。は、鼻が。

「古橋何やってくれてんの!?」
「えぇぇええ古橋君!!?」
「あの状態でああしない奴居ないだろ」
「ktkrやっぱり古橋君はミステリアスな紳士キャラじゃないSだ鬼畜だイジメっ子キャラだ! 私の萌えレーダーに狂いは無かった!」
「あぁ良かったな種田、ゼリーの色が白じゃなくて」
「古橋ナニ言ってくれてんの!?」
「だって白だとあからさまに咥内射、」
「やめろクソムッツリ! 詳しく言えって意味じゃねぇから!」
「俺はどちらかと言うとオープンだと自覚しているけど? それより溢すなよ種田、ちゃんと全部飲め」
「真顔で何言ってんの……だめだコイツ……早くなんとかしないと……」
「「「「「古橋/古橋君怖い」」」」」

 康くんの行動に流石にいらっと来た。去年1on1を申し込んだ時の比じゃない、いらっ…………と来た。べーちゃんも、私を思うなら代わりにぶち切れるより背中を擦って欲しいよ。「ちゃんとゴックンした? 古橋に出されたの!」「な、ナニ言ってんだよ! 種田大丈夫か!?」ついでに止まない原ちゃんの笑い声にもいらっと来る。そして心配してくれているがザキちゃんは死ぬ程頼りない。「お前ほんと学習しないね」何より呆れる健ちゃんが意味解んない。学習? こんな事されたの初めてだけど?
 「康くん、」やっとの思いでゼリーを飲み込み掛けた声は、随分低い響きになった。元二組六人組がびくりと動きを止める。

「ゼリー鼻に入った」
「そうか」
「痛い」
「そうか」
「……痛いんだけど」
「そうか」
「ブハッ! 古橋!」
「古橋楽しんでるね」
「あぁ愉しいよ」

 ……少しばかり病人の頼まれ事を引き受けて、疲れて眠い所へこの仕打ち。別に誉められたくてやっている訳では無いし、嫌ならやらなければ良いんだけど。それにしてもこれは酷くないか。眠い、疲れた、苛々する、なんなんだ。鼻の奥はまだキツキツ痛んだ。
 素早く右腕を伸ばし康くんの口元を掴む。引き剥がそうとするがそうはさせない、掴む手に容赦なく力を込めれば彼は抵抗をやめた。口がむにってなってる。手を緩める、むにむに。

「ふっ、変なの」
「む、ぅ」
「康次郎クンはどうにも言葉で説明しても解らない愚鈍みたいだなぁ……ウィダーって鼻に入ると痛いの。まぁ確かに無害そうな味と状態なのに少し意外だよね。クエン酸が入ってるから? それともゼリーとは言え固形だからかな?」
「ぅ……」
「実践したら解るかな? 動かないでね。何も君の鼻に外傷を与えたい訳じゃない、飲み口ぶっ挿して中身を流し込むだけ。ウィダーって鼻に入ると痛いんだよーって説明してるだけだから。ね?」

 空いた片手でまだ残っているウィダーを持ち、にこりと微笑み首を傾げる。周りからは短い悲鳴が上がった。笑顔なのに酷いな、なんて。

「例え気管に入っても若いから肺へ届く前に吐き出せる筈だ、肺炎の危険性は極めて少ないよ。なんなら食べ物を粗末にしないためにそのまま飲み込めば良い。そういえば副鼻腔に入ったら蓄膿症になるのかな? 膿じゃなくてウィダーが詰まって腐るの、どうなんだろう?」
「種田、」
「心配しなくても私はあんまり食欲が無いから、この中身が君の中へ消えてしまっても何も問題は無いよ。寧ろ助かる、安心してね」
「種田、悪かった」
「『悪かった』? だから? 『悪かった』は悪いと言う事実を認めてるだけだ。一体全体何が悪かったの?」
「……無理矢理口に出して飲ませて?」
「「「「「ブフッ!」」」」」
「それで? 悪かったから、なに?」
「……」
「ちゃんとごめんなさいして欲しいなぁ……してくれるよね?」
「……」
「ちゃんと、ごめんなさい、して」
「…………すまない」
「『すまない』? 康くん『ごめんなさい』と『すまない』の成り立ち知らないの? 国語得意なのに」
「……御免+成さるの命令形で『許せ』の尊敬語。謝罪してもしきれない、詫びの気持ちが『済まない』」
「うん。良いの? 私はウィダー持ってる訳だけど」
「?」
「『済まない』のならそれ相応の誠意とやらを見せてくれる姿勢がある──ウィダーを流し込んで良いって事にならないかな。例え命令でも『無理矢理口に出して飲ませて悪かったと思うから、どうか免じてくれ』と私に許しを乞わなくて良いの? I’m sorry.ではなくPlease forgive me.だね。私は最早どちらでも構わないけど康次郎クンはどうかなぁ」
「……」
「ごめんなさい、してくれる?」
「…………ごめん」
「ごめん?」
「……なさぃ」
「……………………及第点、かな。まぁ良いよ、許そう」

 掴んでいた手を離して座る。余程謝りたくなかったのか、康くんはジト目でこちらを見てくる。そんな目をされても困る、康くんもだだっ子か。

「種田」
「なぁに、康次郎クン?」
「…………ムカつく」
「それは 悪 か っ た ね 」
「「「「「うわぁ」」」」」

 引かれるが謝る気など更々無いので仕方無い。「お前も機嫌悪いね」健ちゃんが笑う。だって私は眠いのだ、それに機嫌なんて関係無くあんなのは誰だって怒るだろう。

「種田ちゃんどんだけ私を萌えさせるつもりなの『許しを乞わなくて良いの?』ってなんだよSな古橋君に謝らせるとか隠れ女王様属性かそれはそれでありかもしれないあざっす!」
「『謝って』じゃなくて『ごめんなさいして』って所がポイント高いわ」
「それより顎クイで笑ったとこだよ、ウィダーさえなければ完璧だった!」
「顎クイって完全に鷲掴みだっただろ……で、隠れ女王様に謝罪させられた古橋さん今のご心境は?」
「お楽しみの所突き落とされた感想を」
「ごめんなさいさせられた気分は如何っすか古橋さん」
「……お前ら鬱陶しいぞ」

 元二組六人組に寄って集って弄られてるっぽい康くんを取り敢えず鼻で笑っておく。正直全体的になに言ってるかよく解んないけど。

「いやいやいやいや万が一にもユーキが女王様キャラは有り得ないわ」
「「「「「だな、絶対」」」」」
「田辺と男バス御一行が口揃えて言うと説得力がやべぇな」
「そうだよ、私女王様じゃない」
「そうだな、お前は犬だ、豆芝」
「古橋……ってユーキが女王様を理解してる……だと……? 説明プリーズ!」
「? 童話とかで出てくるじゃん」
「あぁそっちかお母さん超ビビった」

 そもそも一体何処から女王様の話になったんだろう……金曜考えた事となんか繋がってる、かも? うーねむい。

「私は……召し使いだよ、たぶん」
「……ユーキ頭回ってる?」
「ブハッ! 男バスの? ユーキチャンそこはメイドっしょー」
「あーハウスメイド……確かにマネ業ってそんな仕事だね」
「ユーキ頭回ってないよね?」
「ねーユーキチャン、『お帰りなさいませ、ご主人サマ』ってヤツやってよ」

「お帰り下さいませ、原ちゃん」
「酷ェ!」
「ユーキ頭回ってないじゃん!?」

 べーちゃんなにその三段活用。べーちゃんも原ちゃんも煩いなぁ。

「とゆうか……女王様ならもっと、こう…………あーうん、ほら、女王様。うんうん、私は違うよ」

 自分で言いながら自分で納得した。

「待って種田ちゃんなんで花宮君の席見てんの?」
「「「「「ブフォ!」」」」」

 そう、女王様ならまこちゃんだろう。彼は貴族は貴族でも公爵とかよりもっと上の地位だと思うし、風邪の時もガキ大将よりぴったりだ。つまり私は王族の召し使い? 何気に地位が高いな。
 なんて納得を重ねていたが、いつもの面子が吹き出し机に沈んだ。今日皆吹き出し過ぎだよ。そして元二組六人組は困惑……これマズったかな。

「み、見てない、気のせいだよ」
「見てた見てたよ気のせいじゃないよ私の目と萌えレーダーに狂いはないんだよ種田ちゃん! 優等生な王子様の裏の顔は俺様鬼畜キャラだったら大変美味しいですな私の願望の斜め上をまさかの変化球でちょっとどんな顔すれば良いか解らないけどこれもこれで……」
「見てな、」
「花宮が……」
「女王様……!?」
「だから見、」
「いや待てお前ら、種田の女王様イメージはあくまで童話だ」
「でも童話でも女王様なんだよな……俺真っ先に浮かぶの白雪姫なんだけど。どういう事だよ」
「どういう事なの種田さん!」

 聞いてよ。欠席してる間に猫の面を勝手に剥がすなんて殺され兼ねないんだから。実際は美に固執する部分意外、白雪姫の継母で全然違和感ないけど。
 鞄からチュッパチャプスを取り出し、がりがりと噛みながら頭を回す。疲れた時には甘いもの。

「んあー……ほら、確かに白雪姫では冷酷非道、残虐に描かれてるけど。本来女王って国の母とか、権力を持った母の象徴だと思うの」
「クッ! そっちに持ってくんだ、」
「健ちゃんちょっと黙「はいはい」
「一家に留まらない多大な権力、政治や学問に精通する聡明な頭脳、民の手本となる優美な立ち振る舞い、優しくも時に厳しい判断を下す冷静さ……とか、ぴったりだなって?」
「ぶはは! お花中学は生徒会長サマで今は風紀委員長サマ候補筆頭、学年主席だしねぇ! マナーやらもきっちりしてるしそうとも取れるわ!」
「オマケに次期男バス主将だしねん! ふ、ははは!」

 まこちゃん風紀委員だったんだ。つまり風紀委員長に主席に主将に……もしかしたら監督も。二学期から大丈夫かな。

「言われてみれば……」
「確かにそう……か……?」
「種田ちゃんのお母さんだし」
「言わんとする事は分からなくもねぇけど……なぁ?」
「花宮くんだよ?」
「なんで王子様、せめて王様じゃないの種田さん!?」

 なんでと言われても王子様は猫の面だし『王様』はもう居る、何より女王様がぴったりなのだ。爆笑しながら入れられたべーちゃんと原ちゃんのフォローもあり、納得しそうな元二組六人組。「んー……だか、らー」「種田さん寝ないで!」あと一押しだが、ねむい。

「えー? ぁー、あれだよ……」
「起きて!」
「だってまこちゃん、は……美人さん」
「「「成る程」」」
「それで納得すんのかよって思うけど」
「確かに花宮ってイケメンって言うか」
「綺麗系っつうか」
「「「美人だわ」」」
「お? これはBLの香りが、」
「「「あ、俺らホモじゃないんで」」」

 やっと追及が終わった。こうもすんなり納得してくれるなら、最初からそう言っておけば良かった。後ろと右隣で笑い過ぎておかしくなっている人達が騒がしいが、もう眠さが限界だ。

(まこちゃん休み明けにこのネタで弄られませんように……)
「「ぶは! う、ははは!!!」」
(…………無理そう)

 私は儚過ぎる淡い希望を胸に、夢の世界へ旅立った。

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