本編の最初期に同時並行で書き殴っていたものなので、夢主の設定や性格、未登場含めキャラとの関係性等が本編と違います
卵のパラレルっぽい感じかも
何故か皆お互いの名前を知ってる
今以上にキャラが掴めていない
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酷い頭痛に起きれば見覚えのないボロボロの教室に居た。至る所に穴や傷、赤黒い汚れが付いていて、机や椅子は倒れている。カーテンは破れ割れた窓の外は、禍々しい夕焼け空。
(まるでホラーゲームの舞台だ……はは……は)
起こした体が酷く軋んで、長時間気を失っていたと解った。記憶を辿るが練習後部室でスタメンでダベっていた所までしか覚えていない。誘拐? まさか。男だぞ男子高校生だぞDKだぞ、犯人は相容れない変な趣味の奴か俺に運命を感じた愛の重い女神か……無いな、夢か。無理矢理ふざけてみるが、頭痛と軋む体はこれが現実だと訴えている。不気味なこの場所は一体何処なんだ、これはなんなんだ、俺はどうなるんだ。
ふと足元を見ると直ぐ側に、黒いセーラー服に緑のジャージを羽織った女神……いや天使が居た。これは確か霧崎第一のマネージャーだったか、ここで一緒に気を失っているなんて運命か。ときめきと心配と不安、そして一人じゃないと言う安堵、取り敢えず起こそうと強く揺さぶる。
「ぅー…………ゃだ……」
や、やだって! なにこれかわいい!
起きる気配が全く無い彼女。気絶していると言うよりは、体を小さく丸めすやすやと眠っている。めっちゃ可愛い。俺はどちらかと言えば女神=綺麗なお姉さん派だったが、天使=可愛い女の子も全然アリだ、やばい。決してロリコンではない、それは違う意味でやばい。こんな意味不明な状況じゃなければ……! なんてひたすら現実逃避していた時だった。
「あっ、森山さん見っけ! 来て下さい、早く! 走って!!!」
勢い良く開いた扉からまさかの秀徳の高尾が呼びかけてきた。その必死さに頭で考えるより早く霧崎第一の天使を抱えて走った。憧れのお姫様抱っこなんてしてる余裕はなくて形振り構わず俵担ぎだ、悔しい。
教室を出ると何故かテニスのラケットを持つ緑間も居た。とにかく走れと吠える二人に続き混乱しながらも突き動かされるまま走る。後ろから聞こえる、ずるずる、ぺたぺたという音に振り向こうと、
「振り向かないで早く! 死にたいんですか!」
その声に無心になって足を動かした。なんだ、本当に何が起こっているんだ。
階段を降りた所で二人はペースを落とした。もう安全なのか足音も聞こえない。そして先程と違い校舎内が随分綺麗だ、窓の外は相変わらずだが海常とそう変わらないだろう。「ここでっす!」職員室と書かれた教室に入ると、島の様に配置されたいくつかのソファーセットとそれに集う知った顔。海常、誠凛、秀徳、桐皇、陽泉、洛山、そして抱き上げている天使が所属する霧崎第一のバスケ部の面々だった。
「森山! 無事で良かった!」
「お前らも居たのか!?」
「あぁ。その子は……霧崎第一のマネージャーか? 気を失っているのか?」
「いや、多分寝てるんだが……全然目覚めないんだ。高尾に呼ばれて咄嗟に抱えてよ、走ってかなり揺れた筈なんだが、」
「森山サン、マネージャーがお世話になりました。連れて来て頂いて有難うございます」
小堀の言葉に答えていると、霧崎第一の花宮が俺を遮り「重いでしょ、すみません」柔らかな苦笑とは裏腹に天使を無理矢理引っ張る。その強引さに霧崎第一のバスケの暴力性と危険さを思いだし、思わず拒むように腕に力が入った。「ふはっ、」花宮は一瞬、質の違う笑いを零し、そして霧崎第一が集まっているソファーを指差す。
「厚かましいお願いで悪いんですけど……ついでにあそこまで運んであげて貰えませんか──……」
──うちの、マネなんで。
強調するように言った。この天使が何故あんなバスケをする霧崎第一のマネをやっているかは解らない、嫌々やらされているのかもしれない。だが花宮が言った事は最もだ、了承する。
「花宮えらい警戒されとるやん、自分とこのマネやのに。監督どころか主将失格やで〜」
「今吉サン辛辣だなぁ、冗談キツイですよ」
「まぁそないな冗談はさて置き……こんな非常事態まで猫被らんでもええで花宮。ここにおる面子は皆知っとるし」
うん、そうだな。
こちらへ来た今吉の言葉にこの場に居た全員の心が一致した気がする。視界のあちこちで強く頷いて居る者が映った。花宮は下を向き大きく溜め息を吐いた……上げられた顔に先程迄の笑みは無い。
「……はぁ、解ってますよ。こいつ引き取るまではと思って」
「いや猫被っても警戒されとったやん。なぁ森山」
「ま、まぁそうだな」
「せや、霧崎第一がアカンのやったらその子ワシが預かるわ、中学の後輩やねん。ついでになんなら今からでも桐皇に転校させるし〜」
「あんたなぁ……」
はい、と笑顔の今吉に手を出される。転校までするのか。てか天使は今吉の後輩で現在は霧崎第一のマネ……なんか濃いな。どうしようかと今吉と花宮を交互に見ていると、霧崎第一のソファから一人、如何にもチャラそうな原がフラフラ寄って来て、
「そりゃ無いっしょー今吉サン。はい森山サンありがとねん」
「!?!!?」
流れるように天使を俺の手から取りお姫様抱っこした。狡い、俺もしたい! てかコイツ、慣れてる! 霧崎第一の元へ帰った彼はそのまま天使を膝の上に座らせていた。羨ましい。
「あんたもうすぐ卒業すんでしょ。まぁしなくてもあいつは行かないだろーけど?」「酷いなぁ花宮、冗談やん。本気にするとか余裕無い男やなぁ」隣ではいつのまにか今吉と花宮が鼻で笑い合っていた。こんなよく解らない状況で何を言い合っているんだ……思わず小堀と目を合わせる。
赤司がパンパンと手を叩いた。「全員揃いましたし状況整理しませんか?」その声に皆ぞろぞろと中央のソファーセットに集まる。一年だが本当にカリスマ性の塊だ。ソファーに各校の主将が座った。
「……その前に。花宮さん、彼等を起こして貰えますか?」
「あれは放っておいて大丈夫だ」
「しかし説明も二度手間でしょうし、もしも彼女が何かを知っていた場合に、」
「ふはっ、その大層有能な脳味噌はあんなチビ女がコレを企てたとでも言いてーのか? 流石御曹司だけあって随分無駄な……あー悪いな間違えた、贅沢な使い方してんなぁ」
「……花宮さんこそ、霧崎第一の割りに勿体無い頭脳の使い方をしているようですね。彼女に疑いは無くとも、」
「まぁまぁ二人とも。花宮、ちゃんと起こしたりぃや」
「チッ…………後悔すんなよ赤司サマ」
早速挫いた話し合いに、今吉がストップをかける。花宮の心底バカにした言い方にこちらに集まっていない霧崎第一のメンバーが嘲笑し、多くの人間が不愉快そうに顔を歪めた。空気を悪くする天才だな。
「健太郎、起きろ。お前ら類起こせ」
「んがっ……」
「えーもう寝たままにしたげよーよ」
「一哉、空気読め」
「それお前が言うな!」
天使の名前は類というのか……。
そうして始まった天使起床作戦だが彼女はなかなか起きなかった。後悔ってそれでか。「あー昨日大雨やったもんなぁ」「練習終わってミーテ室で寝落ちた所だったんで」今吉の苦笑に花宮が答える。首が取れる程がくがくと揺さぶったり耳元で騒いでいるが無意味。皆その様子に注目していた。
「種田起きろ、縛りあげるぞ」
「ルイチャン起きてー皆に視姦されてるよん」
「んー……ゃだ……」
「今日寝汚な過ぎない? 今なら例え襲っても寝てるでしょ」
「お、おま! 襲っ、て、ちょ! ななななに言ってんだよ! つか寝汚いてお前が言「例え話に動揺し過ぎでしょ」
「襲ってちょ、ってなんだよ……キメェ……」
「ぶ、あはは、花宮笑かさんとってや!」
そのうち危ない単語まで飛び出し、俺含め何人かは赤い顔を片手で覆ってきょろきょろ、誠凛のカントクはブチ切れて抑えられている。高尾は爆笑しているが。
「仕方ねーな康次郎アレやれ、あんま長くすんなよ」あれってなんだ? すると古橋が類ちゃんの口と鼻を抑え、耳元で名前を呼んでいる。
「「「ちょっと!」」」
「部外者は黙ってろ。お前ら代わりに起こせんのか?」
「えらい物騒やのう」
その言葉に皆沈黙する。「種田起きろ、死ぬぞ」お前が言うな。類ちゃんの顔がどんどん赤くなっていって可哀想だ。彼女の体が大きく二度痙攣した。やばくないかこれ? 俺が起こす、と声をかけようとした時、
「んー! ん、んんん!」
目を開けタップするがその手は離されない。「おいっ!」誰かが叫び駆け寄ろうとするとやっと古橋が手を離した。
「ッぷは、はぁはぁ……これきらい。おはよ」
起きた類ちゃんは慣れているのか平然としていた。真っ赤な顔で息を荒げ瞳は涙でうるうる、可哀想だがなんだかイケナイ気分になりそうで目に毒だ。
「類チャンおっはよーん」
「お前早く起きなきゃいつか死ぬぞ」
「俺を殺人犯に仕立て上げる気か「てか種田落ち着き過ぎ、状況見なよ」
「え? ──ッ」
瀬戸の言葉にこちらを見た途端ビクリと震え僅かに目を丸くして動きを止める。確かに謎めいた状況だが……それにしては驚きすぎだ。俺が目覚めた教室と違い、ここは至って普通の職員室。後ろに何かあるだろうか、振り向くが何も無い。硬直して動かない類ちゃんに疑問を感じていると、古橋が彼女の小さな顔に手を添え、顔を自分の方に向け……え? ち、近い! き、キス!?
「類、怖いか」
「…………こ、わくない……大丈夫、ありがと」
そう言って微笑んだ。うわああぁ超可愛い! 流石天使! 「ならいい」顔を離す古橋。
「えー……良いですか? 類さん、何か「種田はここが何処か、何か解る?」
「よく解んない、今起き「それは見てた」
「うぃ」
赤司の言葉を遮って瀬戸が投げた質問の答えは案の定で。遮られた赤司は一瞬動きを止めたが、咳払いしてごまかした。
「……では改めて。状況整理しましょう」
その言葉にはっとする。半数以上の人間が顔が赤い。勿論俺も赤いだろう。なんかもう色々と、霧崎は危険なチームだ……。
赤司の進行を元に情報をまとめるとこうだ。
全員部活終わりで気がつくとここに居た。何も知らないし、明らかに学校だが皆見覚えはなくここが何処かも解らない。このフロアは下への階段が無く一階に位置しているようだが外への出入口はない。二枚のプリントがあり、一枚は名簿で各校バスケ部のスタメン他主要メンバーが載っていて、今は全員揃っている。そしてもう一枚には──……
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『stay or slay』
おめでとうございます! 貴方達は『stay or slay』のプレイヤーに選ばれました!
このゲームは全く新しい体験型リアルアドベンチャーゲームです! プレイヤーは貴方自身、ゲームの目的を決めるのも貴方自身です! フィールドを散策してアイテムを回収するも良し、二階から上に出現する敵と戦いスリルを味わうも良し、プレイヤー同士の交流をはかるのも良し! 時間の流れはありませんし、生活に必要な物も出来る限り取り揃えていますのでご心配無く! いつまでも、いつまでも、心行くまでお好きなように『stay or slay』の世界をお楽しみなさい。
「どう楽しめば良いか解らないよぅ……」
そんな迷える子羊ちゃんな貴方には固定シナリオの回収、そして唯一のエンディングがお勧めです! 隠れシナリオもあるから、頑張ってフルコンプを目指してね!
固定シナリオ『死亡』
条件:死ぬ、誰かの死を目にする
敵による場合のみ、保健室に空きのベッドがあれば復活可能
固定シナリオ『厳禁』
条件:自殺、職員室裏口の破壊
厳しい処罰が与えられる。処罰の内容はお楽しみ
固定シナリオ『失問』
条件:申請した肉体の欠損
ゲームマスターが可能な範囲で質問に答えてくれる。欠損部分は自由に選択可能
エンディング『脱出』
条件:?、『職員室裏口の鍵』入手
誰かがアイテムを入手した時点でプレイヤー全員にエンディングを迎える権利が与えられる。ヒントはゲームタイトル
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「エンディング『脱出』はそのまんまの意味でええやろ。この学校……いやこの世界からの脱出か」
「シ、シナリオ『死亡』って……」
「それもそのままの意味だろ。ジャンルにもよるが……ゲームでシナリオ回収って言えばその記録が保管され後から見れたりする、俺達で言えばトラウマとして記憶に強く根付くってところか。『失問』に関しては記憶どころか肉体に刻み込まれそうだがな」
急に存在感を出した黛の言葉に皆が沈黙する。体の一部を失うのは勿論、復活出来るなんて信じられない。例え出来たとしても死ぬなんて嫌だ。それと「敵による場合のみ」って事故とか、有り得ないけど例えば味方がころ、
「殺されるならまこちゃんかしょーいち先輩が良い」
類ちゃんの言葉に場の空気が凍る。「ぇ?」誰かの小さな声が聞こえた。
「これワシ喜んで良いとこ?」
「なんでそうなんだよ。下手な事言ってんじゃねぇ、パニック起きんだろーが」
「だって嫌な相手に殺され「そこじゃないから。まずプレイヤー同士じゃないでしょ」
「敵でも良いんじゃねぇのか?」
「全員が脱出権限が貰えんだから普通に敵だろ、ヤマも類もバカか」
「「そっか」」
「てかルイチャン殺される前提かよウケ「ない。どんだけだよ種田」
「受け身なところは生き死にでもぶれないのか。殺すって考えはないのか」
「そりゃ無くは無いけど一番に狙われそうだから。赤いの躊躇い無さそうだし陽泉とか大きいから、」
「不用意な発言は避けてください。皆が混乱します」
赤司の声に霧崎第一が静かになる。そりゃあ味方に殺されたら復活しないのかなんて考えたけど、何故そんなバトルロワイヤルな話になるのか。話題に上がった陽泉は特に複雑な表情をしている。「あ、赤司、その、どうゆうことー?」戸惑った葉山の声に赤司が答えた。
「エンディング『脱出』の条件です。鍵の入手ともう一つ、ヒントはゲームタイトル『stay or slay』……意味は『留まるか殺すか』」
「つまりずっとここに居るんが嫌なら殺すしかないっちゅう訳やな。で、類はその相手がプレイヤー──このメンバーやと思ったと」
「復活は『敵による場合のみ』。リスク無しクリアなんて有り得ねーとでも思ったんだろ?」
「うん」
「そりゃミスリードだろ。もし同士討ちするにしても、試すなら敵を全部潰してからで良いだろーが」
「そうです。そもそもエンディングの権利は鍵を見つけた者ではなく全員、なら同士討ちの必要はないでしょう」
成る程、俺は納得したが黄瀬を初め一部はちんぷんかんぷんなようだ。ほっとしている一部は同士討ちの可能性を視野に入れていたのかも知れない。霧崎第一が全員話について行った辺り流石進学校だと思った。それと同時に何の躊躇いも無く物騒な話をする彼らに不安になる。復活するかも解らない死をリスク無しと言う花宮も、殺す考えに「そりゃ無くは無い」と答えた類ちゃんにもゾッとした。
「つまり敵を倒して鍵を入手すれば脱出出来る」
その言葉に今度こそ全員が納得した。
ソファーとコーヒーテーブルのソファーセットは謀ったように八つあり、各校が陣取り残ったその中心で赤司今吉花宮が探索のために作戦会議をしている。陽泉は敵の居ない一階部分の探索に出かけた。俺達海常は作戦会議の横、誠凛と秀徳の間だ。室内の空気は重い。当然だ。敵を倒せば脱出、死んでも復活……とは言え敵はグロテスクなゾンビらしく、復活するかは解らない。そんなものに立ち向かうのは勇気が居る。ゾンビに出くわした者達は特に俯き、言葉を発しない。赤司達三人の作戦会議の声が良く響いていた。俺達海常も、酷く静かだった。
そんな中、類ちゃんと古橋がやって来た。
「て、てて天使!」
テンションが空回っているが仕方ない。だって怖いんだ。
「天使? 森山さん、ここまで運んで来てくれて有難うございます。助かりました」
「いやいや良いんだよ、当然の事をしたまで。類ちゃんが無事で良かった。あの教室で二人倒れていたはきっと運命の導きに違いない。こんな怖い所で出会う……不謹慎かもしれないが、運命だよ!」
「運命?」
「あぁ、君と俺は運命の赤い糸で繋がれている!」
「森山さんメルヘン」
「そうだな、湧いている」
うわあああ引かない! 俺の発言に引いてない! 喜びと共に振り返ると笠松に蹴られた。その後類ちゃんと目が合ったのか叫び声を上げる笠松。だがその叫び声に少女──類ちゃんの声も混じっている。どうしたんだ、笠松に蹴られた俺を心配してくれたのか。見ると彼女は古橋に隠れるように後ろへしがみついて少し興奮した様子でこそこそと何か言っている。古橋狡いぞ、代われ。本物、凄い、格好良い、雑誌……そんな単語が聞こえる。雑誌って事は当然黄瀬の事だよな、またお前が持っていくのか。黄瀬は困惑の表情に少しの嫌悪を滲ませて類ちゃんと俺を見ていた。「頼んでみれば?」古橋に促され、深呼吸した類ちゃんが目を泳がせながら出て来る。
「あの。こんな時にあれですが、握手、お願いできませんか? 海常の──……」
下を向いて目を泳がせる類ちゃんはぎゅっと制服のスカートを握りしめている。黄瀬は嫌そうだ。狡いと思うが確かに解らなくもない。こんな状況でもモデルをしなければならないのは酷だ。類ちゃんは良く言えば健気、先程の様子からしても案外図太く、そして厚かましいのかも知れない。「あの、」黄瀬が声を掛けた時だった。
「──笠松さん」
「「「「は?」」」」
「お、っ!?!?」
「あ、やっぱりだめか。すみません……康くんだめだった」
「黄瀬じゃないの?」
「キセ? 誰ですか?」
「「「「えええぇぇえええ!!!」」」」
衝撃だ。他の高校も驚きの声を上げている。霧崎第一と高尾は爆笑。類ちゃんは年頃の女の子でありバスケ部のマネなのに、モデルでキセキな黄瀬を知らなかった。「あの黄色い睫毛のシャララだ」「あぁ黄色いのか、なんで?」「モデルでキセキの世代」「だから?」暢気に古橋とお喋りしている。黄色いのって、だから? って素晴らしいスルーっぷりだ。
「な、なんで類ちゃんは笠松と握手を……雑誌がどうとかって」
「小柄であの速さっていうのが自分と似たタイプの選手で尊敬してる。IHで青いのにファールさせたりとかの根性格好良い。スタミナしっかりだし、精神的に折れない強さとか、ちょっと荒っぽいし、なんか凄い格好良い。あ、雑誌は月バスです」
「荒っぽさだけだろ、惹かれたの」
「そんな事ないよ」
ベタ褒めだな。面白く無い気持ちで笠松を見ると顔を真っ赤にして狼狽えていた。ヘタレめ。青いのって青峰か。小堀が握手してやれと言うが、笠松は壊れた玩具の様に何度も首を横に振っていた。
「ごめんね、こいつ病的な女性恐怖症で」
「ウルセエよ森山! あ、あぁあああ」
「そうですか……じゃぁ康くん代わりに握手して」
「「「「は?」」」」
「何故だ?」
「その後康くんと握手する」
「俺は野郎と握手する趣味は無い」
類ちゃんは少しズレてるらしい。そんな所も魅力的だ……。ほんの少しだけ残念そうにしている。
「じゃぁ帰ったらサイン頂けませんか?」
「え?」
「あ、ダメですかね」
「い、いいぃぃいいや」
笠松がまた何度も首を横に振る。それに少しだけ嬉しそうに笑って「やったー」と古橋とハイタッチしている。
「今度海常にお邪魔しますね」
そんなにも簡単に。そりゃぁさっき物騒な事を言っていたから、敵に、死に、ただ恐怖するような子じゃないとは思っているけど。それでもするりと「帰ったら」「今度」と口にする彼女は、やっぱり天使のように輝いていた。