story.8

シャボンディ諸島から出たシルヴィアは船の中にある部屋の中で、ある手配書を見ていた。手配書とはローの物である。その手配書を見て、ローのことを思い出していた。

『うふふっ、随分と男前になってたわね…』

シルヴィアはローの顔を思い出し、うっとりとしながら彼とキスを交わした自身の唇へと触れた。
ローが幼い頃にもこうしてよくキスをしていたが、その頃とは訳が違う。しかも、その時は頬止まりで唇にしたのは今回が初めてだった。今回もそのつもりだったが、気づいたら唇にしていた。何故唇にしたかわからなかったが、思い出して胸が高鳴ってるのを感じた。
幼い頃は可愛らしかったが、大人に成長して男前になっていた。シルヴィアが思わずドキドキしてしまう程に。

『って、わたしったら最低ねドフィがいるのに何考えてんのかしら』

そうだ、シルヴィアにはあんなに自分を愛してくれている素敵な彼氏のドフラミンゴがいる。だというのに、いくら魅力的な男性になっていたとは言え、ドフラミンゴ以外にトキメいている自分自身に嫌悪感を覚えた。だがその反面、心の変化に戸惑いを感じていた。このローへの胸のドキドキはまだ完全にではないにしろ、常にドフラミンゴに感じているドキドキと同じ類だからだ。

──二人とも好きになろうとしてるなんて許される訳ないわ。許しちゃいけない。

そう思い、シルヴィアは目を閉じた。そして浮かんでくるのはドフラミンゴのことだった。
幼い頃にシルヴィアと過ごした時の彼、そして男らしく逞しく成長して自分をその大きな身体で優しく抱き締めて深い愛情を注いでくれる彼を思い出し、シルヴィアは再び胸の高鳴りを感じていることに安心した。

──大丈夫、わたしはドフィだけだわ。彼を失いたくないの。とても大切で愛しい彼を…。

シルヴィアはドフラミンゴを守る為ならなんでも出来る自信があるし、彼が願うなら国1つ滅ぼす事も出来る。
だが、ドフラミンゴをローは殺すと言っていので、そうなる前にローを始末しなければならないのだが、シルヴィアはローを殺せるか自信がなかった。何故ならば彼も大切だからだ。
幼い頃はまるで自分の息子の様に特別可愛がっていたのだ。離れてから何十年経った今でも、それは変わらない。例えもう一つの感情が芽生え始めてしまっていても。出来ることならローへの想いを断ち切りたいが、それはまだもう少し掛かりそうだ。

ドフラミンゴはローが戻って来ると思って疑っていない。ドフラミンゴの右腕としてローの為にハートの席を空けている程までに。

──お願いよ、ロー…どうかわたし達の所へ戻ってきて……。

シルヴィアはそう願わずにはいられなかった。
ドフラミンゴは本当に裏切り者は容赦しない。それは実の弟のロシナンテでも、殺してしまった程に。あの時の喪失感と深い悲しみはもう二度と味わいたくない。意味は違えど、どちらも大切なのだ。

シルヴィアは本に挟んでいた1枚の写真を取り出した──その写真はロシナンテ、シルヴィア、ロー、ドフラミンゴが肩を寄せあって笑顔で写っている写真だった。この写真はローとロシナンテがいなくなってからドフラミンゴに捨てろと言われたがどうしても捨てられず、本に挟んで隠し持っていた物だ。シルヴィアはその写真を見てどんどん溢れてくる涙が止められず、写真を胸に寄せて抱き締める様に持ち、身体を少し丸めて静かに泣き続けた──



それから大分泣き続けたシルヴィアは、涙が出なくなる程までだった。幸いにも目を擦らなかったからか、目は晴れていなかったが目の充血が凄いことになっていた。
シルヴィアはその自分の顔を鏡で見て苦笑いをし、このままドフラミンゴに会う訳にもいかないので洗面台へ向かって顔を洗った。

そして、すっかり泣き疲れてしまったシルヴィアはベッドへ向かい横になると目を閉じ、少し寝て休むことにした。起きた頃には目の充血も引いている事だろう。









──ぷるぷるぷるっ

『!!?』

少しだけ寝るつもりがぐっすり寝てしまったシルヴィアは、机の上に置かれてる電伝虫の音で目を覚ました。シルヴィアは寝起きで少しボーッとしながらも、ベッドから下りて電伝虫がある机の方へと向かった。

──ぷるぷるぷるっ、ガチャっ

《やっと出たか、シルヴィア!!大丈夫か!?なんかあったのか!?》
『ええ、大丈夫よ。少し寝るつもりがぐっすり寝てしまってたみたいなの…心配かけてしまってごめんなさいね』

どうやらドフラミンゴは結構前から掛けて来ていたが、中々シルヴィアが出ないから襲われたんじゃないかと心配していた様だ。その事にシルヴィアは心底申し訳なさそうに謝った。

《…フフフ!!なんだそうか、寝てただけかァ!!お前が無事でよかった!!》
『ほんとごめんなさいね…』
《フッフッフッ、そんなに謝らなくても別にシルヴィアは何も悪いコトしてねェんだ。なァ、そうだろう?》
『…ええ。』

悪いコトという単語に少しビクッとしたが、それを悟られない様に頷いてなんとか誤魔化した。昔4人で撮った写真を見て泣き疲れたから寝てたなんて、口が裂けても言える訳ない。

《ならおれは気にしねェさ!!──ただ、おれの可愛いシルヴィアチャンの寝顔を拝めなかったのは残念だったがなァ!!フッフッフッ!!》
『もうドフィったら!!からかっちゃ嫌よ』
《フッフッフ、別にからかっちゃいねェんだが、元気出たか?》
『ええ、ありがとう。──ドフィ、愛してるわ』
《っ!!…フフフフフ!!おれもだシルヴィア!!今お前が目の前にいたら可愛すぎて間違いなく襲っちまってたなァ!!それが出来ねェのが残念でならねェ…!!》

シルヴィアは恥ずかしがって自分から滅多に愛してるとは言わないため、ドフラミンゴは驚きのあまり息を呑んだが、次の瞬間には嬉しそうに応えてくれた。シルヴィアはそんな彼に愛しさが込み上げてくるのを感じた。

『うふふっ、もうそろそろで本部に着くはずだから、そしたらたっぷり愛してね?』
《おいおい、あんまり煽るんじゃねェよ!!…それにしてもシルヴィア、今日はやけに積極的じゃねェか!!なんかあったのか?》
『…城から出る前に我慢させてしまったから。それに、久々にドフィと長時間離れて寂しかったからたっぷり愛されたいと思ったの』
《フッフッフッ!!そういうコトならお望み通りたっぷり愛してらなきゃなァ!!覚悟しろよ、今日はお前が可愛すぎて手加減出来そうにねェからなァ!!》
『ふふっ、今日はとても熱い夜になるわね』

シルヴィアは今日は逆に酷く抱いてほしかったため、手加減されない方がありがたかったのだ。そして、ドフラミンゴの深い愛情でローに芽生え始めている想いを忘れさせてほしかったのだ。

──コンコンッ

扉が控え目にノックされ、ドフラミンゴに許可を取り扉を開けると部下がいた。どうやら海軍本部マリージョアに到着したので、報告しにやってきたようだ。部下にお礼を言い、ドフラミンゴに到着した事を伝えて通話を終了し、上陸した。