story.10

これは大人組がシルヴィア達の元から離れた直後の話である──


「さて、どうなるやら」
「ドフィとロシーは既にもうシルヴィアちゃんが大好きで仕方ないって感じだったわね」
「さすが私とアランダインの娘だわ!モテモテね!」

ホーミング夫婦とアランダイン夫婦は酒や食事を楽しみながら、シルヴィア含む子供組の様子を離れた場所で見守る事にしたのだ。

「あ、ドフィが先に話しかけたわ!」
「やはりドフィが先か!」
「ドフラミンゴくん中々積極的な子ね!」

この時、丁度ドフラミンゴがシルヴィアに名乗って話しかけた時である。その様子を物陰から料理をつまみながら、興奮気味に話す大人組。傍から見たら不審者寸前である……。

「ロシーくんの方は黙ってシルヴィアとドフラミンゴくんの様子を見てるな…」
「ロシーは内気な子だからな…」
「えっ、あの子泣いてるわよ!?」
「なに!?」
「シルヴィアが気づいたぞ!」
「あ、泣き止んだわ!!」
「シルヴィアちゃんとドフィに構ってもらえないから拗ねてたんだな!!」

ホーミングが多少ズレた事を言った。実際はそうではないのだが、傍から見たらそう見える様だ。

「あっ!ドフィがロシー置いてシルヴィアちゃんとどっか行くみたいだ!」
「シルヴィアを独り占めしようって事ね!中々やるわね!」
「と思ったらシルヴィアちゃんが気づいてロシーを連れて行ったぞ!」
「シルヴィアちゃん優しい子なのね…」
「あァ、ほっとけない性格なんだ」
「だから誰からも好かれる子なの」

アランダインとシンディは愛しい我が子を見る様な優しい顔で、シルヴィアを見つめた。

「あれ?なんだかドフィの様子が…」
「ドフラミンゴくんお皿持ったまま立ち尽くしてるが…」
「気づいたシルヴィアちゃんが呼びかけてるね!」
「なんだか優しい表情して何かをシルヴィアに言ってるわね!気になる!」
「もしや気持ちの変化に気づき始めたのかもな!ドフィは賢い子なんだ!」
「これからが楽しみね!」

シンディの言葉に他の大人組はうんうんと頷く。確かにその通りだろう。気持ちに気づいてからこそ始まるものがある。

「ロシーの方はまだ難しそうね」
「そうねー、理解するにはまだ無理じゃないかしら」

シンディの言葉にまたしてもうんうんと頷く。

「シルヴィアちゃんがロシーかドフィの嫁になってくれたら嬉しいな!」
「……」

笑顔で言うホーミングに、シンディとホーミングは揃って無言で神妙な面持ちをした。何か問題がありそうだ。

「どうかしたの…?」
「何か問題があるのか…?」
「これはあまり世間には知られていないのだが──…」

そこでアランダインは言葉を区切ってホーミング夫婦を真剣な眼差しで見つめた。そのアランダインの様子にただならぬ物を感じて、ホーミング夫婦も自然と真剣な眼差しで聞く姿勢になった。

「遥か昔に白狐一族の血が絶える事を恐れた奴がいて、そいつが一族の者に白狐同士以外での子を成さない様に一族の者に呪いを掛けたんだ……」
「呪いだと!?」
「しかもその呪いは強力で、長年産まれてくる子供達にも受け継がれてしまっていて、シルヴィアにもその呪いは受け継がれてるんだ……」
「そんなっ…!!」

衝撃的な事実に、ホーミング夫婦は驚愕する様子を隠せないでいた。それもそのはずだ、呪いと聞けば誰しもそうなるだろう。

「今でも純血の白狐の者しかいないのも、その呪いがあるからなんだ」
「呪いを解く方法はないのか…?」
「呪いを掛けられて以来、人間と契を交わそうとする者がいなかったから、解く方法があるかわからないんだ…」
「けど、わたしは呪いをかける事が出来たのなら逆もあると思うの」

シンディの言葉にホーミング夫婦は少し顔を輝かせた。少しだけ希望が持てた様だ。

「確かにそうよね!呪いをかける事が出来たのなら解く方法も必ずあるはず!」
「もしシルヴィアがドフラミンゴくんかロシナンテくんに恋をしたなら、呪いを解く方法をこちらで調べてみよう」

アランダインの言葉を聞いて、ホーミング夫婦はパアっと顔を嬉しそうに輝かせた。

「本当か!?」
「あァ、私は別に人間と契を交わす事を悪いとは思っていないからな」
「逆に天竜人(そちら)としては大丈夫なのかしら?」
「あァ、私達も息子達が幸せになれるのならいいと思っているからな!あの様子を見るに、シルヴィアちゃんを取り上げたら恨まれかねない!」
「確かにな!」

ホーミングの言葉に、大人組はシルヴィア達を見て笑い声を上げた。
シルヴィア達は今ではすっかり3人で仲良くやっていて、シルヴィアを真ん中に挟んで料理などを食べながら時折会話をして楽しんでいた。シルヴィアが笑顔を見せる度に頬を赤く染めて見惚れているドフラミンゴとロシナンテは、完全にシルヴィアにベタ惚れって感じだ。この様子を見るに、確かにホーミングが言っていた通り、2人にシルヴィア以外とくっ付け様ものなら恨まれかねないだろう。

「そういえばクラウディが大人しいわね…いつもならうざったいくらいシルヴィアを構い倒しているのに……」

怪訝に思ったシンディがそう言った。確かにそうだ、あのシルヴィア大好き男が大人しいのだ。これは何かあるだろう。

「クラウディ…?あァ、あのやけに大人びた子供か?」
「そうか、ホーミング達はシルヴィアが産まれる前にしか会った事ないから知らないかもしれないが……」
「シルヴィアが産まれてからというもの、あの子のシスコン振りは凄まじくて……」

そう言ってアランダインとシンディは揃って遠い目をした。そんなアランダイン夫婦の様子に、ホーミング夫婦は苦笑いを浮かべた。

「あんなに可愛い子だったらシスコンになるのも仕方ないわよ!」
「あいつのシスコンぶりはそう簡単に済ませられるレベルではないんだ……」
「苦労してるのね……」
「シンディ、あいつはシルヴィア達の邪魔をするだろうと踏んで、前もって手を打ってある」
「あらそうなの!さすがね!」

アランダイン夫婦は満足気に頷いている。その様子を見てホーミング夫婦はまた苦笑いを浮かべた。それもそうだろう、何か手を打たないといけない程までなのだから。

「シルヴィアの特殊アルバム集で意図も簡単に引いてくれたから助かった」
「…その特殊アルバム集とは一体…?」
「シルヴィアの現在までの成長過程を収めた物と、入浴中の写真集だ」
「……」

どこか得意気のアランダインには悪いが、入浴中の写真集というワードにホーミング夫婦は沈黙した。隠し撮りもいいとこである。