story.11

「あら?あの子達……」
「ん?……寝てるな」

シンディが何かに気づき、シルヴィア達がいる方向を指さした。他の大人組がそちらに向くと、シルヴィアを真ん中に挟んで彼女の肩に頭を乗せて寝ている3人の姿があった。

「疲れちゃったのね…」
「そろそろお開きにするか」
「そうね、主役が寝ちゃってるしね」

こうして宴が終了し、ホーミング夫婦はロシナンテとドフラミンゴを抱き上げ、アランダインはシルヴィアを抱き上げ、家来達に後片付けを頼んでその場を後にした。



そして、こちらはドンキーホーテ一家が来る時に乗っていた船がある海岸である。ロシナンテとドフラミンゴは船に乗せ、シルヴィアはアランダインが抱っこしている。女子2人もこの場にいないので、この場にはアランダインとホーミングのみになっていた。

「起きたらシルヴィアちゃんがいなくてドフィとロシーが寂しがるだろうな……」
「シルヴィアもだろうな…身分を気にせず同い歳の子と仲良く出来る機会は滅多にないからな……」

アランダインは、すやすやと気持ちよさそうに寝ているシルヴィアの頭を優しく撫でてそう言った。それをホーミングはボーッと何かを考えるような顔で見ていたが、直ぐにハッとした。

「アランダインが良ければ、少しだけシルヴィアちゃんをうちに預けてはくれないだろうか?」
「は……」

ホーミングの突然の申し出に、アランダインは鳩が豆鉄砲を食った様な顔をした。普段表情を変えないアランダインが珍しく間抜けな顔をしている。

「そうだよな、やはり無理か……」
「……いや、いいだろう。しばらく預ける」
「は……」

今度はホーミングが鳩が豆鉄砲を食った様な顔をする番だった。無理を承知で言ったのに、まさか許可を貰えるとは思わなかった様だ。そんなホーミングにアランダインは続けた。父は娘を預ける決意をした様だ。

「なに、元々シルヴィアを海に出すつもりだったんだ…それが少し早くなっただけのこと。ホーミングの元なら安心して預けられるし、何より聖地マリージョアには海軍本部もあるしな」

そう言ってアランダインは優しく微笑んで、抱っこしていたシルヴィアをホーミングに手渡した。シルヴィアは変わらずホーミングの腕の中ですやすやと気持ちよさそうに寝ている。

「いいのかい…?」
「あァ、シルヴィアが海に興味を持つかもしれない良い機会じゃないか」
「そうか…君がそう言うなら遠慮なく連れて行かせてもらうよ」
「あァ、そうしてくれて構わない。よろしく頼んだ」
「わかった、任せてくれ!」

ホーミングはそう言ってアランダインを安心させる様に微笑んだ。それを見て、アランダインも安心した様に微笑んだ。

「さあ、早く行ってくれ。シルヴィアが海へ出ると知られると煩い奴がいるんだ」
「わかった!またなアランダイン!また会おう」
「またなホーミング」

そう言い、ホーミングは笑顔でシルヴィアを腕に優しく抱いたまま船へ向かい、アランダインは城の中へと向かった。









アランダインが城の中へと入ると、クラウディが駆け寄ってきた。それを見てアランダインは嫌そうに顔を歪めた。

「父上、おれの可愛いシルヴィアは!?もう部屋か!?」
「誰がお前のシルヴィアだ!…ハァッ…シルヴィアはホーミングに預けた」
「は……」

クラウディはアランダインの言葉を聞いて鳩が豆鉄砲を食った様な顔をしたが、直ぐに額に青筋を浮かべて眉間に皺を寄せた怒りの表情に変わった。

「なんだと…!?何でだよ父上!!今すぐ連れ戻せよ!!」
「シルヴィアには当主になる前に自由に過ごしてもらいたいんだ。当主になったら何もかも制限される…お前もシルヴィアが可愛いならわかってやれ。」

アランダインが力強く言うと、クラウディはハァッと怒りを沈める様に溜息を1つ漏らし、渋々ながらも納得したようだ。

「……いつ連れ戻すつもりだい?」
「一ヶ月後に迎えに行くつもりだ」
「その時はおれも行くから」

クラウディはアランダインを睨みつける様に見て言った。そんなクラウディをアランダインは特に気にする様子もなく、いつもの無表情を浮かべてわかったと頷いた。

「ランやレンはともかく、母上には何て説明するつもりだい?」
「相手がホーミングだしわかってくれるだろう。それに聖地マリージョアだから海軍本部があるんだ、そこらの国に行かすよりは安心するだろう」

アランダインがそう言うとクラウディは納得した様子で頷いた。確かに海軍本部が直ぐ側にあるというのは強みだ。それに、天竜人のホーミング達の側にいれば手は出されないだろう。手を出せば海軍本部から大将が出てくるのだから。

「クラウディはランとレンにこの事を伝えてくれ。私はシンディに伝えてくる」
「わかった」


こうして話はラン、レン、シンディに伝わった。ランとレンは問題なかったが、シンディは最初納得出来なくて反論されたものの、アランダインがなんとか説得してその場を収めた。



この時、誰も知らなかった。
シルヴィアとはもう会うことが出来なくなろうとは誰も知る事はなかった──…