story.13


「このガキっ!!大人しくしろ!!!」
『嫌だっ!!誰か助けて!!ドフィ助けて!!!』
「シルヴィア!!!!今助ける!!!!」

シルヴィアが複数の大人の男に囲まれて、どこかへ連れて行かれそうになっている。シルヴィアは必死に抵抗しているが、大人にはやはり勝てないのか抵抗も虚しく連れ去られて行こうとしている。ドフラミンゴも体当たりなどをするが、ビクともしない。

『いやーーっ!!!!ドフィーーっ!!!!』
「シルヴィア!!!!!」
「このクソガキっ!!!!邪魔だ!!!!」
「ぐっ…!!!!」

ドフラミンゴがシルヴィアを掴んでいる男の腕に必死に噛み付いてみるが、やはり子供の力で大人に勝てる訳もなく、簡単に男に投げ飛ばされてしまった。

「今だお前ら!!!!連れて行け!!!!」
『いやーーっ!!!ドフィっ!!!!』
「シルヴィア!!!!」

シルヴィアが泣き叫んで必死にドフラミンゴに手を伸ばしてくる。その手を取ろうとするが、ドフラミンゴの前に男が立ちはだかり簡単に拘束されてしまった。

「クソガキお前は大人しくしてろ!!!!あのガキはもう助からねェよ!!!!」
「くそっ!!!!お前離せよっ!!!!」
「このクソガキ!!!!いい加減もう諦めろ!!!!」

ドフラミンゴが諦めずに必死に男を振り払おうも、シルヴィアはもう遠いところでまで連れ去られていってしまっていた。

「行くなシルヴィア!!!!!!」





──ガバッ!!!!
「シルヴィア!!!!!!……ハァ…ハァ………」

最初に目に入った光景に驚愕した。あのシルヴィアが連れ去られる光景ではなく、見慣れた部屋の扉だった。ここはドフラミンゴと弟のロシナンテの寝室だった。

「ゆ、夢かえ……」

ドフラミンゴは安心してほっと溜息を吐き、額から垂れていた汗を拭った。それと同時にハッとした。確かドフラミンゴ達はシロノ国に行ってシルヴィアのお祝いをしていたんじゃなかっただろうか。

「…シルヴィア……」

呆然としながらぽつりとシルヴィアの名を呟いた。そしてサングラスを手に取って装着し、ベッドから勢いよく下りて寝室を走り去って後にした。



──ガッチャン!!!
「父上!!!シルヴィアはどこだえ!!?」

ドフラミンゴはそう叫びながら勢いよくリビングの扉を開け放った。すると、目に入った光景に呆然とした。

「は…?」
『へっ…?』

そこにはテーブルに座ってドフラミンゴを呆然と見てくる父と、同じくシルヴィアがテーブルに座って手にはソーセージが刺さったフォークを持って口に含んだままドフラミンゴをきょとんと見てくる光景だった。

──そんな顔もかわいいえ!!

そう思い胸がキュンとしたが、そんな場合じゃないとドフラミンゴは頭を振るい、食事中のシルヴィアへ駆け寄った。

『ド、ドフィ…?』
「シルヴィア!!なんでここにいるんだえ!?」

そうだ、ここはドンキーホーテ家であるなに何故シルヴィアがここにいるのだろうか。ドフラミンゴはまだ夢を見てるのだろうか。そう思い、シルヴィアに詰め寄った。

「シルヴィアちゃんは暫くうちが預かる事になったんだドフィ」
──ガバッ!!ぎゅーッ
『えっ…!?』

父のホーミングの話を聞いて、ドフラミンゴは無言でシルヴィアを思いっきり抱きしめた。その時、シルヴィアが手に持っていたフォークが落ちたが、ドフラミンゴにはどうでもよかった。ただシルヴィアを抱き締めて、彼女がここにいるという実感をしたかった。

『ど、どうしたの…?』
「…いなくなったと思ったんだえ……」

シルヴィアが突然の事に戸惑っているが、離してやれそうになく抱き締めている腕はそのままに、ぽつりと呟く様に言った。

『夢の中で…?』
「なんでそれを知ってるんだえ!?」

夢だけではないのだが、何故シルヴィアが夢で見たことを知ってるのか驚いた。サングラスの中で驚きで目を見開いた。

『うなされてたよ?…わたしに行くなって言ってた』
「!!」

シルヴィアを抱き締めているから表情は見えないが、声は相当心配してくれている様だった。どうやらドフラミンゴは相当魘されていた様だ。

「……シルヴィアが変な奴らに連れ去られる夢だったんだえ……」
『!!そっか……でも大丈夫!わたしはちゃんとここにいるからね!』

ぽつりと泣きそうな声で言ったドフラミンゴに、シルヴィアはドフラミンゴを安心させるかの様に優しい声でそう言って、背中に腕を回して優しく背中を摩ってくれた。その優しさに涙が出そうになり、かっこ悪いとこをシルヴィアに見せない様に、涙を抑えるように歯を食いしばり、ぎゅっとシルヴィアを抱き締める力を強めた。
すると苦しそうにしながらも、シルヴィアは変わらず優しく背中を摩り続けてくれている。

──シルヴィアどこにも行くなえ!!おれがお前を守るえ!!

夢の様な出来事が起こった時、シルヴィアを今度こそ守ると誓った。夢では助けられなかったが、現実では必ず守ってみせる。

──シルヴィア好きだえ…!!

あの夢を見て自覚したのだ。この好きは恋愛というものの"特別な好き"なのだと。
この日の出来事は、ドフラミンゴにとってこの先一生忘れられない日となった。

強くなってこの気持ちをシルヴィアに伝えたいと思った。そして誰にも負けないくらい強くなって一生守りたいと思う、このとても大切で愛おしいと思う可愛い女の子をずっと──…




だが、ドフラミンゴは知らなかった。
あの夢で見た最悪な出来事が、そう遠くない未来で現実になる事を。

そして、自分がいかに無力なのかを思い知らされる事になる事を──…