story.20

──翌日の朝

朝になりシルヴィア含むドンキーホーテ家の全員で朝食を取っていると、父のホーミングの突然の一言により、母以外の全員の食べる手が止まった。

「突然なんだが、ドンキーホーテ一家は"天竜人"の地位を放棄する事にした」
「「!!!」」
『え……!!?』

ロシナンテとドフラミンゴとシルヴィアは、驚愕のあまりスープを飲むために持っていたスプーンを落としてしまい、目を見開いて父を見つめた。その真剣な眼差しを見れば、決して冗談でないという事がわかる。

「ど、どういう事だえ!!?父上!!」
「一般の"人間"になって、聖地マリージョアじゃなく"世界政府非加盟国"で人間達と一緒に暮らそうと思う。──これは妻とも話し合って決めた事なんだ」
『え……』

父のその言葉にシルヴィアが驚いて母を見ると、そこにはいつもの様に父の隣で静かに微笑んでいる母がいた。どうやら本当の様だ。

「な、んでだえ!?おれは嫌だえ!!何が不満なんだえ!?」
『ドフィ…』

ドフラミンゴは天竜人という地位をとても良く思っているのを、2年という時を掛けてシルヴィアは良く知った。それは外へ出た時の地に頭を伏せている街人を見て満足気にしている反応と、奴隷への接し方を見ればわかっていた。それは天竜人という世界貴族の地位があってこそ出来た事なのだ。
それをいきなり放棄すると言われ、ドフラミンゴは納得出来るわけもなく、父に詰め寄っていた。

「私は2年前に白狐一族の者達を見て決めてたんだ」
『え……!?』
「どうゆう事だえ!?なんでそこでシルヴィアの一族が出てくるんだえ!?」

そうだ、何故そこでシルヴィアの一族が出てくるのだろうか。シルヴィアはドフラミンゴ同様に驚き半分、怪訝半分で父を見つめた。ロシナンテも黙って聞いているが、父の突然の発言に戸惑っている様だった。

「白狐一族の者達は奴隷を取る事もなければ、地位に興味がある訳でもなく、天竜人と違って人間に優しくして慕われている一族だろう?」
『う、うん……』

父に同意を求められる様に見られ、シルヴィアは戸惑いつつも頷いた。一体それが何だというのだろうか。

「私はずっと白狐一族の者達の様になりたいと思っていたんだ」
「「『え……』」」

その言葉にロシナンテとドフラミンゴとシルヴィアは揃って絶句した。そんなシルヴィア達を見て、父は更に続けた。

「シルヴィアはどう思う?」
『え……ど、どう思うって聞かれても……上手くいくかな…?』

シルヴィアは思う、白狐一族の者達は先祖から初めから人間に対してそういう一族だったからまだしも、人間に嫌われている天竜人が突然人間達と一緒に暮らす事になっても、白狐一族の者達の様に上手くいくのだろうか…。それが不安だった。

「大丈夫だ、私達が天竜人の地位を放棄したと言えばきっとわかってくれるさ!私達は元より人間なのだから!」

にこやかに自信満々にそう言った父に、シルヴィアはもう何も言えなくなった。
ロシナンテとドフラミンゴの反応が気になり見ると、最初から黙って聞いていたロシナンテはともかく、抗議していたドフラミンゴもシルヴィアと同じ様な感じで、渋々ながらも納得した様だ。









「突然ですが、私達ドンキーホーテ一家は天竜人の地位を放棄し、一般の人間になって世界政府非加盟国で人間達と一緒に暮らす事にしました」

早速という感じで、シルヴィア含むドンキーホーテ家の者達は朝食を済ませた後、地位を放棄するために他の天竜人達を呼び寄せ、放棄宣言をしていた。この場には沢山の天竜人達が集まっていた。

「正気か!!?ホーミング聖っ!!」
「あなたともあろう者が!!」
「神の地位を捨て人間に成り下がろうというのか!!」

父の発言に同じ3人の天竜人の者達が抗議している。他の天竜人達も、この3人の天竜人と同じ気持ちの様だ。

「人間ですよ、昔から」

抗議してくる天竜人達をものともせず、父はそう言い放った。
すると抗議していた3人の天竜人達と、他の天竜人達の表情がみるみる怒りに染まっていく。

「我々もそうだと言いたいのかえ!!?」
「冒涜だ!!天竜人を何と心得る!!!」
「裏切り者め!!!お前は昔から異端だった!!」

天竜人達の剣幕にシルヴィアはビクッとし、すぐ側にいた父と手を繋いでいるドフラミンゴの背後に隠れた。その後ろで同じく天竜人の剣幕に怯えたロシナンテが、母にしがみついていた。

「大体、そこの子供は白狐一族の生き残りの子だろう!!?今までお前の所にいる事を黙っていたのか!!!」
『っ!!?』

シルヴィアは突然ビシッと1人の天竜人に指を指され、その事により他の天竜人達の視線が怒りの表情のまま一気にシルヴィアに集まり、ビクッとしてドフラミンゴの背中の服をぎゅっと掴んだ。

──な、なに!?怖いっ!!

ドフラミンゴの背後でビクビクしながら、様子を見守った。

「言う必要もないと思ったので」
「必要大ありだっ!!!しかも、あの子はただの白狐一族の子じゃなく、次期当主になる筈だった子供だろう!!?」

その言葉を聞いた天竜人達がザワザワと騒ぎ出した。その事にシルヴィアはドフラミンゴの背後で困惑するしか出来ないでいた。

「なんと!!それは本当ですかホーミング聖っ!!?」
「はい、本当ですよ」
「なら何故2年もの間も黙っていたんです!!?」
「私の友人の子供だからですよ」
「友人の子供だからっていう理由だけで2年もの間もか!!?我々には保護する義務があるんだぞ!!!」
「普通の白狐一族の者でもその義務があるのに、次期当主とは価値が違いますぞ!!!それをわかっているんですかホーミング聖っ!!?」

益々威力の増す天竜人達の剣幕に、シルヴィアは半泣き状態だった。そんなシルヴィアの様子を見兼ねてか、ドフラミンゴは父と繋いでいた手を離し、身体を反転させ、シルヴィアを正面から抱き締め、背中を宥める様に摩ってくれた。そんなドフラミンゴの優しさに甘えてこの場を凌ぐ様に彼の胸に顔を埋め、胸元の服をぎゅっと掴んで耐えた。そうでもしないとシルヴィアはどうにかなってしまいそうだった。
そしてシルヴィアは思う、自分の事でここまで言い争ってほしくなかったと。

「価値が違うというのは十二分に承知済みですよ」
「なら何故だ!!?シロノ国の襲撃以来、我々はずっと世界政府を使って白狐一族の生き残った者を探していたというのに!!!」
「この子──シルヴィアは白狐一族とか関係なく、一族が襲撃されて一族の者を失ってしまった時から、私達ドンキーホーテ家の家族となったんです」

シルヴィアは父のその言葉に驚いてドフラミンゴの胸に顔を埋めていた顔を上げ、父を見上げると、父は優しく微笑んでシルヴィアを見ていた。それを見てシルヴィアは嬉しさが込み上げてきた。この剣幕の中でも、そう言って受け入れてくれたのが嬉しかったのだ。
父から視線を外してチラリと天竜人達を見ると、天竜人達は父の言葉に絶句していた。

やがて、父に何を言っても聞かないとわかったのか、天竜人達は諦めた様に溜息を吐いて額に手を当てて父に言い放ったのだ、もう好きにしろと──…