「よかったらどうぞ」
『あ、ありがとうございます。頂きます』
眼鏡の青年に飲み物を出され、千郷はお礼を言って飲み物を頂いた。喉が乾いていたからありがたい。
そして、眼鏡の青年はチャイナ服の少女と銀髪の男性にも飲み物を出すと、ご飯の支度をする様でお盆を持ってまたキッチンの方へ行ってしまった。
「で、このごっさ綺麗なお姉さんは誰アルカ銀ちゃん?」
「あー、依頼に来たみたいだがそういやァお互い自己紹介がまだだったな」
そういえば、確かに銀髪の男性の言う通り自己紹介を済ませていなかった事に気づいた。
「俺は坂田銀時だ。銀さんか銀ちゃんって呼んでくれ。いや、やっぱ天使ちゃんはダーリンでおね…「天パは黙れヨ!!」ぶふぉッ!!!」
『えええっ!!!?』
銀髪の男性──じゃなくて、銀さんと呼ばせてもらおう。銀さんは何かを言いかけた時、最後まで言い切る前にチャイナ服の少女によって殴り飛ばされてしまった。殴り飛ばされた銀さんは、奥の障子に頭からめり込んでいる。痛そうだ…。
それにしても、銀時って名前は聞き覚えがあるような……。どこで聞いたんだろうか…。
「けっ、天パはそこがお似合いネ」
『……。』
思い出そうと記憶を辿っていたその時、チャイナ服の少女のその言葉を聞いて思わず顔が引き攣ってしまった。このチャイナ服の少女は可愛らしい見た目とは裏腹に、随分とバイオレンスのようだ。
「私は神楽アル。歌舞伎町の女王とは私の事ネ」
『じょ、女王…!? 神楽さん凄いですねっ!!』
「神楽でいいアル。敬語もいらないネ」
『わかった、神楽ね! 私は白百合千郷っていうの。よろしくね!』
「よろしくアル千郷!」
「ちょっとちょっと!! 俺を差し置いて何で2人だけで仲良くなってんの!? 俺も混ぜろっ」
チャイナ服の少女──いや、神楽と千郷が親睦を深めていると、障子にめり込んでいた銀時が復活していて、元々座っていたソファに腰を下ろした。
「ってか、千郷ちゃんの名前って何か聞き覚えあるんだよなァ…どこで聞いたんだっけか」
『あら、奇遇ですね。私も銀さんのお名前に聞き覚えがあります』
「マヂでか! いやー、俺も有名になったもんだね〜」
「銀ちゃんニヤニヤして気持ち悪いヨ。私に近付かないで」
「ちょっとちょっと神楽ちゃん!? 銀さんだって傷つく時は傷つくんだぞ!?」
始まった神楽と銀時の言い合いを聞き流しながら、千郷は再び記憶を辿った。
銀時の名前は最近聞いたのではなく、もっと前に聞いた気がするのだ。もっと前──幼い頃に関わってた人物から聞いた気がする。幼い頃に関わってた中で思い当たる人物は、兄と松陽先生の2人だけだ。そこまで記憶を辿ってハッとした。そうだ、思い出した。
『銀さんの名前は楓兄さんと松陽先生に聞いたんだわ!!』
思った事が口から出てきた。そうだ、幼い頃に銀時の名は村下塾に通っていた兄と、その塾の講師である松陽先生に聞いたのだ。
「そうか、千郷ちゃんは楓の妹だったのか……通りで聞き覚えがあったんだな」
『はい、楓兄さんと松陽先生から銀さんのお話はよく聞いてました』
千郷の言葉を聞いて納得したようにそう言った銀時に、千郷は頷いて答えた。
「銀ちゃん千郷の兄貴と知り合いアルカ?」
「あァ、千郷の兄貴の楓は昔俺がお世話になってた塾の生徒だっんだ。楓とはその塾で知り合った」
「って事は、ヅラとかもそうアルカ?」
「あァ、俺とヅラと楓と高杉ってのがいるんだが、そいらとは幼馴染ってやつだ」
「千郷は幼馴染じゃないアルカ?」
『ええ、私は身体の弱い父が心配で家から離られなかったから、銀さん達とは面識ないの……本当は兄と一緒に行きたかったんだけどね…』
千郷は、苦笑いを浮かべてぽつりと呟く様に言った。
幼い頃、身体が弱く体調をよく崩していた父を、母と千郷が面倒を見てのだ。何度か松陽と兄には来ないかと誘われた事があったが、千郷は父が心配で離れられなかったのだ。
「千郷…」
『でも、松陽先生がたまに来てくれて私に稽古付けてくれてたり、楓兄さんや銀さん達の塾での話を沢山聞かせてもらってたから、不思議と全然寂しくなかったわ』
「なるほどなァ…。楓から千郷ちゃんの事は聞いてはいたが……なんというか、苦労してたんだな…」
銀時に同情する様に言われた言葉に、千郷は首を振って否定した。千郷自身、苦労してたなんて思った事は1度もないからだ。
『いえいえ、私は殆ど何もしてあげられませんでした…。今思えば、母と父の邪魔にしかなってなかったんじゃないかとすら思います…』
「そんな事ァねーだろ。少なくとも、千郷の父ちゃんは幸せだったはずだぜ? なんたってこーんな美人で可愛い娘が、ずっとてめェの面倒見てくれてたってンだからな」
『……そうだと良いんですが…』
銀時の言葉に、千郷は苦笑いを浮かべてそう返した。陰気臭い雰囲気になってしまっているが、1度沈んだ気持ちは中々上げられる事が出来なかった。
「そうだヨ!! 私のダメ親父にも聞かせてやりたい話アル!!」
『え…?』
「私のマミーも、私がまだ小さかった頃病気で寝込んでたアルヨ…。だけどパピーは、私と兄貴がいくら引き止めても、そんなマミーを放ったらかしにしてどこか行ってたアル……。だからマミーはいつも寂しそうにしてたネ」
『そ、それは……』
悲しげに俯いて自分の過去の話をした神楽の言葉を聞いて、千郷は何て言葉を掛けるべきか迷ってしまった。
「だから、そんな私のマミーとは違って、千郷のパピーは2人に傍にいてもらって幸せだった筈アルヨ!! 千郷のこと邪魔だと思ってた筈ないネ!! 」
『…神楽……』
「千郷ちゃん、神楽の言う通りだぜ。」
神楽は俯いていた顔を上げ、千郷を元気付ける様に明るい声と笑顔を浮かべてそう言った。
千郷と神楽の過去は似ている様で似ていない。神楽の方が千郷の何倍も苦労していたのだ。それなのに、千郷を元気づけようとしてくれているのだ。その健気な様子を見て、千郷は自分が陰気臭くなってるのが恥ずかしくなった。
『っそうですよね…!! 神楽に銀さん、ごめんなさい…! そしてありがとうございます…お陰で元気出ました!』
「酢昆布1年分で許すネ!」
「千郷ちゃんが銀さんのほっぺにチューしてくれたらゆる…「させるかァァ!!」ぶふぉッ!!?」
『ええええっ!!!?』
またしても銀時は、最後まで言い切る前に神楽によって殴り飛ばされてしまった。
何だか神楽も眼鏡の青年も銀時の扱いが雑な気がすると千郷は思い、先程とは別の意味で苦笑いを浮かべた。
TO BE CONTINUED