後悔先に立たず





くそくそっ、と悪態を吐きつつ山姥切長義は廊下を歩いていた。まさか吹っ掛けた自分が罰ゲームを受けるとは。屈辱だ、あの時の南泉一文字の顔も苛立つ。
然し自分から持ち出した以上引くわけにもいかない。ずんずんと、だが重い足取りで長義はとある一室に向かった。
「……今いいかな、偽物くん」
部屋の前に辿り着くと、一拍置いて障子を叩く。中から訝しそうに山姥切?と声が上がった。どうかしたのか、と障子が開き、中から写し――山姥切国広が顔を覗かせる。入っても?と視線で促せば国広は困惑した様子で頷いた。なので遠慮なく部屋に入り込む。誰かに見られて騒ぎになるのは面倒だ、たかが罰ゲームに誤解を解く労力を使いたくはない。
「山姥切がやってくるなんて珍しいな。悪いがお茶はないぞ。丁度茶葉が、」
「偽物くん。」
国広がこちらに背を向けた隙を狙って、長義は背後からその腕を掴むとその躯を床に押し付ける。は?と驚く目の前の男を、ふっと鼻で笑ってやった。練度差など不意を付けば関係ない。現に、練度差以前に極の写しに対して長義は優位を取れているのだから。
「悪いな偽物くん。極のお前をこうするには不意打ちしかなくてね」
「……おい、山姥切。何のつも――」
さて、ここからが本番だ。抗議の声を上げる国広を遮り、長義は彼の耳元で囁いた。
「――好きだよ、偽物君。」
「…………は?」
ぽかんと驚いた様子で静止する写しを見て溜飲が下がる。はは、いい気味だ偽物くん。普段のその澄ました顔が崩れただけでもやった甲斐はあった。後はネタ晴らしをして罰ゲームは終わりだ。
「っ山姥切!」
なんて、冗談に決まってるだろう?と続ける予定だった言葉は掻き消えた。長義がそれを口にする前に、国広に力強く抱きしめられたのだ。
「……は?おい、偽物君!?離せ……ッ!」
「――そうか。お前も同じだったんだな」
何がだ!と声を上げる。その顔を睨もうとして視界に捉えた瞬間、長義は酷く後悔した。もしかして、俺は。とんでもない過ちを、
「好きだ。俺もお前が、好きだ。」
「え、は?おい、ま、待て……!」
違う、と否定の言葉を紡ぐ前に唇を奪われる。まるで恋人同士のようなそれに思わず身を捩って逃れようとするものの、それより先に畳へと押し倒され上から覆い被される。抵抗しようにも力が入らない。何故だ、どうしてこうなった。
……そもそも偽物くん、お前、俺が好きだったのか。
長義は呆然と、国広を見つめるしか出来なかった。



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