わたしの王子さま


※人魚パロ




『人魚の涙は宝石になる。
 人魚の肉を食せば不老長寿を得られる。』


そんな噂を信じて人間は人魚を乱獲し始めた。現在は表向き禁止令が出ているそうだが、現状は今でも裏で乱獲、取引などが行われている。欲する理由が昔と違うだけ。噂が偽りだと知った人間は今では愛玩用に人魚を求めている。人魚は人間と違い、誰もが見た目が美しい。故に一度捕まってしまえば一生飼い殺しだ。当然、精神が不安定な個体だと心が死ぬ事もあるが人間には関係ないらしい。ただ愛でれればいいのだから。
だが生憎長義の精神は弱くない。だからこうやって捕まって一週間経とうが正気を保っていた。無論、平気という訳でもない。自由自在に動き回れる海の中ではなく、こんな狭い水槽の中に閉じ込められていてはストレスが溜まる。
「……くそっ」
何で庇ってしまったのだろうか。見捨てれば良かったのに。
オークションが始まるまで、長義は他の捕まった幻獣達と共に部屋に押し込められていた。どれも先程まで暴れていたが、頑丈な檻に抵抗が無駄だと理解したのか皆大人しい。らしくないが、長義も既に諦めている。
それでも故郷の海に還りたくて、長義は目を閉ざした。ちらつく金髪を振り払いながら。


***


響き渡る人間の声によって長義は目を覚ました。水槽越しに突き刺さる下卑た視線に思わず顔を顰める。だが歪む長義の顔を見ても人間達は興奮を収めようとはしなかった。相も変わらず、人は醜いなと彼らを蔑む。
だが長義にはどうすることも出来ない。長義には頑丈なガラスを割れる力はないのだ。仮に割れたとしても、人魚である長義に地上での移動は非常に困難だ。不愉快であるが、ただ自分が競り落とされるのを眺めるしかなかった。
段々と人間共の欲望が肥大化する中。突如として会場の扉の向こう側で怒声が上がった。何だ?と会場がどよめき、しん、と静かになったと思った直後、扉が荒々しく開かれた。そこから現れた人物に長義は目を見開く。……何で、お前が。
「     」
長義が不覚にも庇って逃がした同胞が、そこに立っていた。長義に気づいて口を開く。が、それは声にならず音には出ない。何故なら人魚である筈の彼には尾びれがなく、人間と同じ様に脚があったのだ。人魚と同じく海に棲む魔女と取引をしたのだろう。海に棲むものなら誰もが知っている存在、一つの代償と引き換えに願いを叶えてくれる魔女。その魔女から陸に上がる手段を得るのと引き換えに同胞――国広は声を手放したらしい。だからあいつが何と云ったのか不明だ。けれど、それでも、長義には解った、解ってしまった。
「……助けに来いなんて、一言も云っていない」
何処で手に入れたのかは知らないが人間が作り出したであろう得物を振り回し次々と人間共を斬り捨てて会場が紅く染まっていくのを水槽から眺めつつ、長義はぽつりと呟いた。
尾びれを失ってはもう、海には還れないのに。
折角助けてやったというのになんて莫迦なのだろう。助け出せたとしても、お前はもう海に戻れず陸で暮らすしかないのに。愚かだな、と思いつつもそれが嬉しかったなんて。絶対に認めるものか、