この想いは報われない




「好きだよ、黒子」
何時からかはもう、忘れたが。赤司君は僕にそう呟くのが当たり前になっていた。
だけど、僕はそれを信じない。赤司君はからかっているだけ。だから、僕も日課となりつつある言葉を紡いだ。
「そうですか」
「……相変わらずだな、お前は」
本から顔を上げてふ、と笑う赤司君をじとりと睨む。赤司君は笑ったままだった。
「――赤司君も相変わらずですよ」
そろそろ本気にする前に、早く、終わってくれればいいのに。
再び本に視線を落とした僕は気づかない。赤司君がどんな顔をしていたかなんて。


***


「好きだ、黒子。だから――今日でさようならだ」
「嗚呼、そうです……、え?」
視線を合わせる。赤司君は綺麗に、何処か寂しそうに笑っていた。
「もう、いいんだ。」
それだけ云って、赤司君は僕に背を向けた。え、ちょっと待ってください。どう云うことですか?何で、急に。
僕が困惑する中、赤司君は僕のいる図書室から出ていく。僕は呆然とそれを見送るしかなかった。
…………。
……嗚呼、何と云うことでしょう。
信じてなかったのに、信じていなかった筈なのに。どうして、胸が痛いのですか。何で涙が止まらない。
気づいた、いや、或いは気づかないフリをしていただけなのかもしれない。彼が、好きなのだと。
本を棚に戻して図書室を飛び足す。まだ、間に合うかもしれない。
今更、ですけれど。それでも、ちゃんと伝えたい、赤司君に。
「赤司君ッ!」
夕日が差し込む廊下を、彼は歩いていた。彼は僕の呼び声に足を止めて、振り向いた。
「やぁ、テツヤ。僕に何か用かい?」
「……え、」
そこにあるのは赤と金の双眸。……金?それに、呼び方だって可笑しい。
「僕は俺とは違う。僕は僕。俺が消えて、僕が現れた。だから、残念だったね」
「嘘……ですよね?」
僕はやっと、君が、


「可哀想なテツヤ。君が好きなあいつはもういないよ。全てが遅すぎた。哀れなテツヤ」


チェシャ猫の様ににんまりと笑う赤司君を僕はただ見つめるしかなかった。軈て彼は姿を消していて、僕だけが廊下に取り残されたのだ。