エンドロールは流れない


※モブが人外まほうつかい
※嫌われ




これで何度目何だろう。目の前の少年を無感動に見つめた。


そもそもの始まり。気まぐれにひっそりと蹲る水色の少年の記憶を覗いたのが始まりだった。彼は大好きな球技の部活動をやっていて、中学で決別した部活仲間を高校で出逢った仲間と共に倒していく。王道的なストーリーだな、とそう思う。
でも、ここまでだった。
そこから記憶の欠片は色を変えていく。それからして、水色の少年達の元に新しい子が来た。その少女は水色の少年を侮蔑していて、少年にとって見に覚えのない事を吹聴して更には部活の仲間の前で罵った。何の事か解らない、と水色の少年が否定すれば少女はあざけ笑う。
お姫さま気取りもいい加減にしなよ、それが少女の主張だった。
ここまで読んで、俺は眉を顰めた。だって、彼から読み取った記憶の中に、そう思える所なんてなかったのだから。――狂言。そうとしか思えなかった。
そして更に記憶は進む。少女の発言は思いの外響き渡り、あっという間に他校にも行き届いたらしい。信じる人なんているのか。そう思っていたのだから、予想外だった。――面白いことに、少年の中学時代の部活仲間はその言葉を信じたらしい。
あぁ、何てことだろう!
その仲間が信じてしまったお陰で、他の人達も少女の発言は正しかったと信用してしまった。狂言だった筈の事実が、真だとして認識された。そして、水色の少年は全員から侮蔑の視線を向けられる。今まで愛されていた水色の少年が受けていたモノは、少女が好意を抱いていた水色の少年の相棒に全て向けられた。まるで、そうなる様に仕向けられた様な、そんな感じに。少女は満足そうに笑っていた。
……全ての記憶を読み終えて、流石に同情した。だから、俺は水色の少年に問い掛けたのだ。
一度だけ、願いを叶える。そう告げれば、水色の少年は曖昧な表情を浮かべた。信じてないんだろうなぁ、とは思った。それはそうだよね。解り切っていた。もし俺が彼の立場であったら、同じ様に信じはしないから。
けれど、水色の少年はぽつりと呟いた。
――あの頃に、戻りたい。
それはきっと、少女が来る前の、あの頃に。
そう、解ったよ。
そう答えて、だから、時間を戻してあげた。あの頃の、彼が楽しかったあの時へ。……でも、ひとつだけ問題があるのだけれど。
彼は、記憶を引き継げない。
だって、俺は時を戻しただけ。今の彼を過去に連れていくわけではない。だから、何をどうすれば未来が変わるかなんて知らないし、変えようとも思わない。
何故なら、その頃にはまだ少女はいないのだから。
そして時間は再び進んで、一回目と同じ道を辿る。
仕方ないなぁ、と前回と同じ様に蹲る水色の少年にまた声を掛けた。訝しげな顔。また、同じ答えだった。だから俺のやることも同じ。
戻して、進んで、戻して、進んで。その繰り返し。ねぇ、これで何回目だろうね?
今回もまた。同じ答えを、君は云うのだろう?


「――君の願いを、一つだけ叶えて上げる」


この物語は永遠に終わらない。