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ルーク!と背後から声を掛けられる。幾ら経っても(つっても三日しか経ってないんだけど)名前に慣れんね。ゲームの世界だし主人公だし。
「ほいほい。何の用っすか?」
「……あ、いや、今日はナタリア姫が来る日だろ?そろそろ時間だぞ」
「え、もうそんな時間か」
複雑そうな表情を浮かべるガイ。こういう反応はみていて面白い。まぁ突っ慳貪な奴がフレンドリーに接してきたらそうなるわな。
ガイと共に、来た道を戻る。そういやファブレ家恨んでるんだったよな。だからルークを殺害したい。けど主人公が一言で止める……んだったんだっけ。妹によると。つまり何が言いたいのかって、今は未だ殺意抱いてるってことだよな?
面白そうだし、ちょっと触れてみよーかな。
「な、ガイってさー」
「ん?どうかしたか」
「……憎い奴の領域で暮らすって、どんな気持ちなんだ?」
「――…!」
明らかに動揺するガイを横目にこの渡り廊下と玄関を繋げる扉を開く。それと同時に、王女サマの姿を捉えた。丁度いいタイミング。
「お、丁度姫サン来たみたいだぜー」
隙なんて与えるわけない。ただ動揺させてみたかっただけだから。だから俺はガイが何かを云う前に声を掛けた。丁度王女サマが来て良かった。まぁ来てなくても何か云うつもりだったけど。
「あ、嗚呼……」
何か言いたげな表情を浮かべながらも王女サマを出迎える。お菓子を持ってきましたの、と無邪気に笑う姫サンに相槌を打った。
「へぇ。あ、なら天気もいいし中庭で食べません?」
「まぁ、それは良いですわね!ガイも宜しくって?」
「……ええ、構いませんよ」
……そう言えばガイって女性恐怖症だったような。




ナタリアの話を聞きながらおやつを食べる。記憶を失う前(つまりアッシュのだな)の思い出を語る。正直煩わしくなってくる。ルークが序盤ナタリアを辟易してたのが納得いくわ。こう逢う度に約束やら昔の話を語られたら嫌にもなるわな。
適当に相槌を打ちながらぐるりと周囲を見回す。原作の始まりは此処にヒロインが侵入してくるんだっけ。殺したいなら夜中狙えばいいのにな。まぁ寝てようが隙なんてなさそうだけど。
「……」
ふと、視線を感じた。突き刺すような視線。もしかして、と辿っていけば其処には赤毛の少年がいた。遠くから見ても掠り傷がちらほらとあると解る。けど、何だっていい。だってやって来たんだからな、本物が!
「ちょ、待てって!」
くるりと此方に背を向け逃げ出そうとするアッシュに俺は慌てて声を掛ける。此処で逃げられたら原作の設定通りこのまま軟禁生活だ。冗談じゃない。
突如声を上げた俺に訝しげな表情を浮かべる二人は一先ず放っておいて、俺はアッシュが隠れるように立つ木の元へ走り出す。その後我に返ったガイがルーク!?と声を上げ追ってくる。……あ。今ガイとアッシュって引き合わせたら不味いんじゃね?殺意的な意味で。
まぁいいか。薄情かもしんねーけど、俺には関係ないし。どうしたって、此処はゲームの世界としか思えない。だから愛着なんてわかねーんだよ。
「……」
アッシュは戸惑う様に、だけど苛立ちも交えた視線を向ける。ちょ、呼び止めただけなのにひどくねぇ?
「ンで逃げんだよ此処お前の家だろ」
「――ルークが二人……!?」
「……ガイ」
アッシュが口を開く瞬間。追い付いたガイが驚愕の声を上げた。其れに対し、アッシュが小さく呟いた。何かしおらしくてすっげー違和感。俺はあの17歳のアッシュしか知らねーからな。このゲームって漫画とか小説も出てるらしいからそっちには出てるかもしれないけど(外伝に)見てないし。
「ルーク……?ガイも……どうしたんですか?」
「……!」
「あ、だから逃げんなって!」
ナタリアがこっちに来ると解ると、アッシュは再び逃げ出そうとした。そんなの許すわけないだろと云うことで、俺はアッシュの腕を掴んだ。何で逃げようとすんのかね。そりゃ偽物レプリカを自分の名前で呼ばれたら何とも云えないだろうけど。記憶があんだから言えばいいのに。自分がルークだってな。
「ルー……え?」
「ナ、ナタリア……」
「ナタリア、こっちが本物のルークね」
乙女か、と突っ込みたいぐらいに大人しいアッシュに苛ついて紹介する(因みに呼び捨てになったのは彼女からの希望があって。でもこれで俺が偽者って解ったから、呼び捨てにされるのは嫌がるか)。横でアッシュから睨まれたが、気にしない!