予定調和
玄関を開けると、既に兄の靴があった。もう帰って来てるんだ、と尻目に自分も靴を脱いでスリッパに履き替える。恐らくリビングに居るだろう双子の兄に向ってただいま、とリビングの扉を開けながらそう云えば何時ものなら返って来る返事がなかった。
「?お兄ちゃん……?」
「うーん……」
不思議に思って部屋を覗けば双子の兄はソファに寝転んでスマホを弄っていた。なんだ、と心配して損したと思いつつ
「どうしたのお兄ちゃん。スマホ片手に固まって」
「うわっ、蛍! 帰って来たんだ、お帰り。いや、実はさフリンズ先輩のお誘いをなんて云って断ろうかなって。もうレパートリー尽きちゃってさ」
「なんで?乗ればいいのに」
ちらりと画面を覗き込めばRINEの画面が見えた。……RINE、交換してるんだと思った事は秘めておく。
キリル・チュードミロヴィッチ・フリンズは端整な顔立ちで全学年女子から人気のある先輩だ。当の
「いやいや、無理だよ。そんなことしたら全学年女子から恨まれるから!先輩から聞いたんだよ、ファルカ先輩以外がフリンズ先輩と親しげにしてると睨んでくるって」
「あぁ……イケメンとイケメンの絡みが好きな人たちの」
全学年女子から人気のある先輩ではあるが、それが全員恋愛感情があるとは限らない。その
……でも。
「……でも、お兄ちゃん。何時までも逃げ切れるとは思わない方がいいよ?その内教室に乗り込んできて迫ってくるだろうから」
「え?そんなの有り得ないって。たかが後輩の男にそんな……」
ないない、と首を振って笑う兄に溜め息を吐いた。何を云うのだろうこの愚兄は。そんな事も分からないのだろうか、先輩が兄を見る眼を見れば一発で解るというのに。ああ見えてかなり策士なのだ、あの美しい人は。
「もうお兄ちゃんってば。ちゃんと忠告したからね、何が起こっても私は知らないから」
お兄ちゃんが私の言う事を真面目に聞いたならちゃんと協力するけど。そうじゃないから後はもう知らない。呆れながらそう呟いて、自分の部屋に戻るべくリビングを後にした。
……と、云うのが昨日の話。
玄関を開けると、既に兄の靴があった。やっぱりもう帰って来てるんだ、と尻目に自分も靴を脱いでスリッパに履き替える。恐らくリビングに居るだろう双子の兄に向ってただいま、とリビングの扉を開けながらそう云えば返って来る返事がなかった。予想通り、昨日と同じだ。ならきっと、今日も兄はスマホを手にしているんだろう。
「……今度はどうしたのお兄ちゃん」
「うわっ、蛍!?」
矢張り、双子の兄はソファに寝転んでスマホを弄っていた。空は己の存在に今気づいたようで驚いて起き上がる。それを無視して、やっぱり昨日と同じようにソファの傍に寄って上から覗き込んだ。
「浮かない顔してるけどどうしたの。明後日の日曜、遂に先輩とデートなんでしょ?」
「え!?何云ってるの蛍、デートじゃないから!男同士でデートって可笑しいでしょ。いやそもそも何でそれを蛍が……」
「もう噂になってるよ、だから云ったじゃない面倒なことになるよって。断る方が女子達から睨まれる感じだったんでしょ?」
はい……、と意気消沈して頷く様子から察するに完全に先輩に言い包められたらしい。兄が押し切られて断り切れなかった所まで容易に想像出来た。まあ断ったところで聞き耳を立ててただろう周囲の女子達から糾弾されて結局行く羽目になってただろうけど。先輩はそれを解って教室に乗り込んだんだろうなあ、と思いながら目の前の情けない顔を見つめる。
「……それで、今度は何で悩んでるの?」
「あの……風邪引いたとかでドタキャン出来るかなって……」
「本当にそれが上手くいくと思ってる?云っておくけど、面倒だからもし先輩が様子見に来たら仮病ですって云うから」
「御免なさい。」
どうせバレるに決まってるんだから最初から諦めたらいいのに。ばっさり切り捨てれば直ぐ様しゅんとした声で謝られた。ちょっとつまらないな、と思ったのは内緒だ。どうだったか教えてね、と告げると自分の部屋に戻るべくリビングを後にした。
――どうせ付き合うことになるんだろうなぁ。