#2 抱きしめる

「苗字?」
「…あれ、轟くん?」
「……何してんだ、こんな時間に。1人ぼーっと。もう12時回ってんだろ」
「そういう君だって」
「俺は喉が渇いたから、水飲みに降りてきた」
「へぇ、奇遇だね。私も同じだよ」
「………」
「ン?どうした?」
「……嘘つくな」
「ついてないよ?」
「お前、嘘つけないタイプだって言っただろ、前」
「そうだっけ」
「ああ。ンな手付かずのコップ掲げて笑われても、信憑性ねぇぞ」
「……轟くん、ホームズみたいだなぁ」
「茶化してるだろ」
「してないよ。……ごめんね、気遣わせるかなぁと思って…本当は眠れなくって気分変えたら落ち着くかなぁと思ったんだけど」
「眠れねぇのか…?」
「んー、なんか考え事してたら頭冴えちゃって…あ、でも、もう落ち着いてきたし、これ飲んだら多分寝れるから!」
「……」
「私の事気にしないで轟くんは早く寝てね」
「苗字」
「ん?」
「横、座るぞ」
「え? い、いいけど、…轟くん?」
「ほら」
「……え、え???」
「ハグしてやる」
「は、ハグゥゥ????」
「おう」
「いや、待て、待て待て」
「いいから」
「いや、いやいやいや、そんな文化どこで習ってきたの???!」
「葉隠が抱き枕?とかなんか抱きしめたらよく寝れるって」
「透ちゃんか!いや、でも、何故に君に?!」
「俺も…昔、寝れねぇ時、母さんに抱きしめてもらったの思いだしたから」
「ンンンんん、優しさ100ぱーだ!」
「ほら、遠慮すんな」
「いや、遠慮すんなって、普通に君は言うけどさ。……轟くん、男の子だし、顔がいいから照れるんだよ」
「………」
「ドキドキして逆に寝れなくなっちゃうから」
「………」
「…轟くん?」
「………お前な、それはないだろ」
「え??」
「……はぁ」
「た、ため息…」
「意識してくれるのは有難てぇが、あんまこの状況で煽ったら、」
「わっ、?!」
「苗字が困るんだぞ」
「…………」
「で、どうだ? 落ち着いたか?」
「………落ち着くも、なにも……ふぁ……なんてことだ…クラス一のイケメンの腕の中に……イルダト」
「余裕か?」
「君はどこに目をつけてるの??視力検査行っておいで?」
「冗談。苗字の赤い顔、ちゃんと見えてんだから悪くねぇよ」
「…………」
「…にしても…柔けぇな、どこもかしこも」
「…ま、待って、心臓に悪すぎ…」
「あぁ。どくどく言ってる、苗字の音」
「〜〜!轟くんもう喋んないで、お願いだから!」
「そうだな。可愛いけど、あんま、お前照れさしたら逆効果だもんな」
「 」
「お、今度はバクバク言ってる」
「……も、もう、御容赦ください…」