ミラと、ミラ






中央ホールに行くために階段を上った私達が見たのは…



通路に倒れている大勢の人。生存者か?って思ってよく見ると……なんとそこに倒れているのは全員アルクノアだった!




「なんだ!?」

「まさか、仲間割れ?」




皆鋭い刃物で数ヶ所斬られていて、息の無い者や微かに息している者がいる




「何があった!」




アルヴィンが微かに息しているアルクノアにそう聞くと「あか……やろ…」とか「……ば…化け物……だ」って言って息を引き取った

赤?化け物?まさか突如何かの魔物にでも奇襲されたか!?


そう思った私達は急いで中央ホールの扉を開けた





すると
















「近づいてはいけません!」




そんな女性の声がしたのが聞こえて…




「え……」




私は一瞬何を見てるのか、自分の目を疑った












「余計な発言はお控えを」









そこには、マクスバードに行く前に連絡しようとしたけど通話中で出てくれなかった……リドウがいた


なんでリドウが…?ビズリー社長の言っていた援軍?


そう思いたかったけど、そこにいたリドウはさっき「近づいてはいけません!」って言ったであろう女性の頭をテーブルに押さえつけている

しかも、その女性をよく見たらテレビや新聞で見た事がある……マルシア首相だ

その頭を押さえつけていたリドウは一回持ち上げたと思ったら、次はテーブルに強くぶつけてマルシア首相を気絶させた




「リドウさん…!?なんで首相にそんな事を…?」




もう予想外過ぎて何が何なのか混乱しながら、辛うじて今聞ける事を聞く

そんなリドウは何かを企む嫌な笑みを浮かべながら、マルシア首相の秘書を蹴り飛ばして話す




「マクスウェルの召還を手伝ってやろうっていうのに、そんな顔するなよ」




そう話し終わると同時にリドウは骸殻に変身して……



一瞬で私達の後ろに回り込む!




「っ!?」

「なっ!?」




気付いた時にはリドウは長いメスを振り回し、私達に攻撃してきた!


リドウさん、なんで?私達はテロを止めに来たのに……それじゃあ、まるで……




「(まさか、リドウはアルクノアと手を組んでいた…!?)」




そんな馬鹿な事が…!ビズリー社長にはテロの事を話してあるけど、もし裏でリドウに単アルクノアと手を組むように言われていたら…もし、そうだったら……!

そう嫌な方へ考えていると、リドウはミラの攻撃をかわして吹き飛ばし、ジュードとアルヴィンと戦う




「はんっ!マクスウェルの召喚?」




ミラは吹き飛ばされて倒れた体勢を立て直しながら、リドウに吐き捨てるようにそう言うと彼は戦ったまま話す




「我が社には、その術式があるんだよ」

「ハッタリにしちゃ、三流だな」




それを聞いたアルヴィンが大剣で斬りかかろうとしたが、ジュードを押さえつけているリドウに腕一本で止められてしまい、その腕を捻られると宙返りをして地面に叩き付けられる

そして、リドウはアルヴィンの銃を持っている腕を踏みながら私達の方を向いて続きを言う




「クランスピア社が、マクスウェルを最初に召還した人間、クルスニクが興した組織でも?」

「!」

「そんな…じゃあ、本当に…!?」




クランスピア社は分史対策のために建てられた組織ってしか聞いた事なかったため、クルスニクとマクスウェルの関係性は知らなかった




「条件はやかましいんだが、まず必要なのは、生体回路――」




リドウはそう言ってジュードとアルヴィンを奥の壁に吹き飛ばすと、その壁に赤い魔法陣のような術式を発動させて二人を拘束する




「しまっ……!」

「ちぃっ!」




それを見たミラは二人を助けようとリドウに斬りかかるけど、リドウは素早く高くバク転をしてその足で剣を弾き飛ばしまう



そして…




「悪いが、お前は邪魔だ」

「えっ……?」




リドウが私に向かってそう言ったと思ったら

私の目の前にジュードとアルヴィンを拘束した魔法陣とは違う形式の魔法陣が出てきて…

それが光のロープの様になって手足にまとわりついき、後ろに勢いよく吹き飛ばされる!




「きゃああああ!」

「そこで大人しく見てろ」




後ろの壁に叩きつけられると、紐状の術が私を後ろの壁に結び付けて拘束した

しまった…完全に油断していた…!




「リル!」

「うぅ……」




叩きつけられた様なものだったから背中が痛かったけど、他はなんともなかった

痛みが引いて顔を上げると、そこは丁度高さも位置的にも全体を見渡せる場所で、拘束されているアルヴィンとジュード。そして中央にいるルドガー達がよく見える




「(何これ……リドウは何を?)」

「で、隠し味は――









生け贄だ」




私の疑問に思っていた事をリドウが実行したと思ったら…

ミラの立っている場所が光り始め、そこから大きな風穴に変わりミラを飲み込もうとした!




「あああっ!」

「ミラ!!」




拘束されていてどうする事も出来ないけど、ミラが落ちてしまう!

そう叫ぶと、ルドガーが瞬時に骸殻に変身して、槍で風穴の側面を刺して自分を支えながらミラの手を掴んだ




「ぐううっ!」

「ルドガー!ミラ!」




ルドガーに繋がれた手のみで宙ぶらりんになっているミラ。今は大丈夫だろうけど、他に手伝う人がいなければ体力の問題で2人とも落ちる可能性がある


誰か…誰か…そう思って周りを見ると、何もしないでルドガー達を見ているリドウに目が行く




「なんで…なんでこんな事を!!」




色々な術が発動していて凄まじい力が蔓延る空間の中、私はリドウにそう言うとジュードも私と同じくミラが危ないのに何も出来ない悔しさが募ったのか、「リドウーっ!」って怒鳴るように叫ぶ




「素直になれよ……ジュード・マティス。会いたいだろ、愛しのマクスウェル様にさ」

「(…?)」




その言葉で私は気づいた

そう言えば何でリドウはミラを生け贄にしてミラ=マクスウェルを召喚しようとしているの?ただの生け贄なら、他の人でもいいって思うはず…まさか




「(リドウは…分史世界と正史世界の同じ存在のメカニズムを知っていた…!?)」




嫌な考えが浮かんだけど、あの時ミラが自分とマクスウェルについて話した時にはたしかに私達しかいなかったはず……じゃあ前から知ってて私達を泳がせた?

わからない事だらけで、あくまで予想しか出来ないでいると…




「このっ!このっ!」

「エル!?」




またリドウの方に目をやると、リドウの足元でエルが飛ばされたミラの剣を持って精一杯斬りかかって「これ、とめてよっ!」って必死に訴える

だけど、リドウは骸殻のため剣が全く通用していない




「大人気だねぇニセ者」

「ニセ者じゃないし!ミラは……ミラだよ!」




エルの言葉を聞いてミラは驚きつつ嬉しかったのか泣きそうな顔でエルを見ていた

エル、よく言った!その言葉通りだよ!

そんなリドウは、ミラを見て「あっそ」って鼻で笑ってエルの言葉を聞き流すと、そのままエルを蹴り上げた

リドウはそんなに力は入れていないようだけど、小さい子どものエルには軽く飛ばされる威力だ




「きゃあっ!」

「エル……!」

「エル!……!?」




蹴り飛ばされて倒れているエルを見ていると…なんと、そんなエルにリドウがメスを構えて近づき始める!




「何しようとしてるんですか!?やめて!!やめてくださいリドウさんっ!!」




私は必死に叫んでリドウを止めた。しかし彼は私の言葉を無視してその動きを止めない

リドウ…あんたは、何で…!?そんなに最後の道標の方が優先?たしかにクランスピア社はオリジンの審判を越えなければならないし、悲しいけど本来は分史世界と共に消えるはずのミラだけど…




「ミラが……ミラが生け贄になるなんておかしい!それに、こんな事あってたまるかあああ!!」




必死に怒鳴っても誰もその声に反応しない。それどころか、嘲笑うように事態は酷くなるばかり…もうリドウの思うがまま

悔しくて涙を一粒流すと、ミラとルドガーもエルの危機を見て焦っていた




「は、離して!このままじゃ……」

「だけど…!」




ミラはルドガーなら助に行けるって思って、自分の手を離せって言ったけどルドガーは離さない




「あきらめちゃダメ、ミラー!」




リドウに腕を踏まれて身動きの取れないエルは、自分の事よりもミラを気にしていてそう大声で言うと「お前は諦めろ!」ってリドウはそのままメスをエルに降り下ろそうとした!




「くっ……!」

「皆…!お願い!!やめてリドウさん!!!」




ルドガーがミラの手を離そうかどうしようか必死に考えている時、私は叫びながらある事を思い付いた




「(そうだ……これなら)」




オリジンの結晶を使えば、このピンチを抜けられる……ただし、クランスピア社の命令に背く事と自分の命を投げ出す事になるだろう

けど、やるしかない!




「こんな……術なんて……!」




手足に意識を集中させ、壁と結びつけている術から離れようと力を込める


すると、オリジンの結晶の力でその術はガラスが飛び散る様に粉々に砕けた!




「ファイアーボール!」




次に火の属性の精霊術を背後の壁にぶつけて、当たった衝撃で起こった爆風に乗って…ミラとルドガー達のところを目指す




「リル!」

「っ!?」

「何!?」




皆が私の行動に驚く中、爆風に乗ってミラ達の近くまで行くとすぐに風穴の側面に短剣を突き刺す

それで支えながら空いている方の手で鞭を降って近くの柱に引っかけて、自分の体に結びつける




「リル!貴女なんでここに…!」

「ミラ…大丈夫…!?」




風穴の吸い込む力が凄すぎてかなり危なくて怖くなったけど、今はそれどころじゃない。ミラを……助けないと!

私は鞭のみの結びで落ちる心配はないって判断して、短剣を持っていた手を一旦離し、オリジンの結晶を両手で持って力を込めた

花の形をしているから、その花弁を取るように力を込めると、パキッ!と音が立ち確認する

そこには2枚の花弁が離れていた




「ミラ!これを!」

「それは…?」

「これを持って…“ミラ=マクスウェルとは違う存在になりたい”って願って!!」

「えっ!?」

「なっ……!?」




そう、もしかしたらこの結晶の力で大きな願い事が叶うかもしれないって思った私は…

例えクランスピア社の命令に背く事になるだろうが、自分が元の世界に帰る確率が低くなろうがミラを救えるならその可能性にすがる

だから、割って離した2枚の花弁、もとい結晶の欠片をミラに渡そうとした

すると、それを見て聞いていたリドウがエルへ攻撃しようとした手を止め、私の行動を制止させようと怒鳴った




「おい!リルお前!それを勝手に扱うなって命令されたばかりだろ!?」

「はい確かにそうですね!だけど私の大切な仲間を殺そうとするなら、そんなの聞けません!!」

「お前……自分で何言ってるのか、わかってんのか!?それはクランスピア社に対する反逆と自分の居場所と帰る場所を消すようなものだぞ!!」

「うっさい!!もう黙ってて下さい!!」




私も負けずにそう怒鳴る。後でクランスピア社をクビにされるかもしれない、もしかしたら始末されるかもしれないとか色々後先が只じゃ済まされないだろうって思うけど……ミラは……




「ミラはここにいるんだから、他の人がミラの命をどうにかしようとする権利なんて無い!!……さぁミラ、受け取って!」

「だ、だけど…」

「リル!それをそんな偽物に渡すな!!」

「だから!偽物じゃないって言ってるじゃん!!ミラは私の大切な仲間で友達なんだからっ!!助けて何が悪いんだ!!」




喉がはち切れそうになるくらい叫んでそうリドウに訴えると、彼は舌打ちをしてまたメスを構えるとエルの頭上に持ってくる




「最終警告だ……今すぐそんな馬鹿な真似を止めないと、このガキの命は無い!」

「うぅ…ミラ…リル…」

「(クソ…やっぱ卑怯だな)」




何も考えずにとにかく早くミラを助けたいって思いだけで行動して、自分も身動きがとれない状態になってエルを助けられなくなったのが計画不足だ

自分の行動に後悔していると隣のミラがルドガーの手から少し落ちそうになっている。ルドガーも必死に掴んでいるけど2人に力の限界がきたかも…!




「ミラ!早く!」

「それを受け取ったら、エルも貴女も…!」

「じゃあ、この鞭を持って!そしてルドガーは手が空くから、その隙にエルを!」

「待て!短剣だけじゃ支えきれないだろ!?」

「それでもいい!」




ルドガーの心配を振り払いながら「早く結晶の欠片を取って鞭につかまって!」って言うと、ミラは戸惑いながら結晶の欠片を受け取ってくれた

あとはこの鞭につかまってもらおうって自分の体に結んでいたのを解いてミラに渡そうとした…そして




「それがお前の答えなんだな!?」




リドウのメスがエルに降り下ろされる!

その時、ミラは私の鞭に掴まり、なんとか持ちこたえているのを確認したルドガーがすぐに風穴から出てエルを助けに向かったけど…


数秒遅れて行動に移ったから、間に合わない!!


そう判断した私は……










短剣を引き抜いてリドウのメス目掛けて投げつける



すると、短剣は耳に響く金属音を立て、メスに直撃してエルに降り下ろされる前に後ろに飛ばす事ができた!




「っ!?」

「え………?」




その後に遅れてルドガーが駆けつけ、エルの無事を確認した私は…








唯一の支えを失って…










「リル!?」

「っ!!」

「なっ……!?」

「リルーーーーー!!」






エルとミラの悲しむ顔と声、ルドガーとリドウの驚く顔を見ながら…






「ごめんね…」






私は暗く渦巻く風穴に落ちていった


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