ミラと、ミラ
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さっきいた所はもうあんなに小さい光になってしまった…そう思っている私は不思議と恐怖はなかった
「(ミラ…大丈夫かな?)」
ミラが私の言った通りに結晶に願ってミラ=マクスウェルとは違う存在になっていれば、今こうして私が代わりに生け贄になってミラ=マクスウェルが現れても、ミラは消えずに済む
「(そうだったら…いいな…)」
ミラの心配の次に今度は別の感情がきた
「(元の世界に帰られなかったな…)」
帰りたかったのにこんな結果になってしまい、悲しくはなかったけど両親や友人達に申し訳ない気持ち。けど、やった事には後悔していない
「(そもそも、こうなったのはリドウのせいだ……会社のためとは言え……あーあ、私は命令無視をしたから、自業自得って言われて悲しんではくれないだろうな……)」
自分のせいでミラ=マクスウェルが現れないって思っているミラに、このタイミングで生け贄にして召喚しようとしたリドウは、誰に何と言われようと間違っていようと許せない
一応恋人だから、私の頼みとして見逃してくれてたらなぁって甘い考えをしたけど、彼は私よりも仕事であり一族の使命を選んだ。当たり前か…リドウに対して冷たい、外道って言いたいけど、100%彼が悪ってわけではないな
なんだろう…恐怖はないって思っていたのに変な感じだ。家族や友達、仲間達には申し訳ないって一つしか思ってないのにリドウに対しては色々思ってしまってぐちゃぐちゃだ
とりあえず、言いたいのは
「(こんな勝手な私だけど…どんな形でもいいんで…貴方の心に私が居ますように)」
悲しまなくてもいい、今日だけ思ってほしい…
贅沢言えばこの先の…数ヵ月まで
もっともっと贅沢言えば……
ずっとがいいな
自分の最期だって思ったせいか、やっぱり何かしら思っていてほしいって思う私は、許せないって怒っていてもやっぱリドウが好きなんだなって、自分自身に苦笑してしまった
さっきから色々考えていても風穴の中は深く底は無い。マクスウェルを召喚するための術式だからかな。まぁ底があるにしろ無いにしろ、この先私に待っているのは自身の終わりのみ
だから…あとは何も考えずに目を閉じる
眠るように…
「――――――――駄目だ。君は死んではいけない。生きるんだ!」
「…………え?」
そんなどこかで聞いた事がある女性の声がした時
私の落ちて行っていた体が急に止まって、背中と足を抱えられた体勢になったような気がしてゆっくり目を開けてみると…
「ミ……ラ……?」
そこにはミラがいる
けど、このミラはさっきまで一緒にいたミラじゃない
青と黒と黄色のラインの入った白い衣装に……頭には髪全体の金色とは違う緑色の一束の髪が流れに逆らうように横に出ていて靡いてる
つまり…
「貴女は…ミラ=マクスウェル…!?」
そう聞くと、彼女は変わらず…“ミラ”と同じ顔なのに雰囲気がどこか違う凛々しく真剣な表情で頷く
私を抱えている彼女に対して「これがミラ=マクスウェル…!」って、いつもだったら感動していたけど、今は焦りが出た
「待って!今私が戻ったらミラが…!」
「君が犠牲になっても、何も解決しない……それに」
「?」
私じゃ何も変えられないって言ったミラ=マクスウェルは上を見上げる。それにつられて私も上を見ると…
何かが……いや、誰かがゆっくり落ちてきた
あれは……!
「ミラ!?なんで…!」
「リル…よかった……」
落ちてきたのは、私の鞭につかまっていたはずのミラ。彼女は私を見ると安心したように微笑む
なんで…助けるって言ったのに…!
「ミラ!なんで!?私言ったよね?ミラがいなくなるのは嫌って!エルだってミラを…!」
「………ごめん」
「ミラ…そんなの…」
「彼女も……君を失うのは嫌なんだ。わかってくれないか?」
そんなの許せないって涙を溜めて怒ろうとしたら、ミラ=マクスウェルが代わりにそう答える
「ふん……ミラ=マクスウェル……やっぱり………嫌な女」
辛口な言葉とは裏腹にミラの表情は穏やかで、まるで「後は任せた」って言うようにまた微笑む
それに気づいたのかミラ=マクスウェルは答えるように意思の強い眼差しを向けて頷く
そして、私達は上に上がっていき
ミラは下へ落ちていき、奥底の真っ暗な風穴に飲み込まれた
「ミラ…ミラーーーー!!」
どうする事もできない。ミラ自ら選んだ結果だけど、やるせなくて悲しくて……私は下を向いて彼女の名を叫んだ
ゆっくり上がって風穴から出る直前には勢いよく飛び出すと…
私達の周りが目映い青白い光の柱になり、その中で中央ホールの天井まで行くと光は消え、下に舞い降りる
風穴の空いていた所は元の床に戻っていて、そこにミラ=マクスウェルが着地した
「立てるか?」
「あ……はい…!」
私を抱えていたミラ=マクスウェルがそう聞いてきて、思わず敬語でそう返事をすると足からゆっくり下ろした
なんとか立てた私は、周りをよく見ると
泣いて剣を持っているエルも、戦っていたルドガーとリドウも、術式に拘束されていたけどようやく開放されてフラフラの足取りなジュードとアルヴィンも、その場にいた皆が驚いて私とミラ=マクスウェルを見ている。そして、その私達の後ろに現れたのは…
屈強な肉体をもつ鬼のような姿をした赤く燃える炎・イフリート
上半身は女性で下半身が魚の尾のような形した青く美しい水・ウンディーネ
小さい体にオシャレな服と眼鏡を身につけ緑色の光を纏う風・シルフ
地球儀のような球体に長い耳と全身を使ってバランスよく乗る愛らしい動物のような姿をした土・ノーム
…地水火風の四大精霊だ!
その時ジュードは、会いたかった愛しい人と再会して、嬉しくて言葉が出ないけど何か声をかけようと「ミ……ラ……」って言いながらミラ=マクスウェルに近づく
そんなジュードの唇にミラ=マクスウェルは自分の指を当て静止させ「何も言わなくても君の気持ちはわかる」と言わんばかりに見つめて微笑む
「やっとお出ましだね、ミラ=マクスウェル!」
リドウは望み通りになったと笑って軽く拍手をする。そんな挑発行為にミラ=マクスウェルはリドウと戦うのか…?そう思っていたら、彼には見向きもせずエルの方へ行った
「その剣を貸してもらえるか?」
エルはそう言われて、持っていたミラの剣を戸惑いながらゆっくり渡す
「ありがとう」
エルにお礼を言ったミラ=マクスウェルはリドウの方へ向いて剣を構えると、まるでミラの仇や私達を危険な目に合わせた事に対する怒りの表情を見せた
「相応の礼をさせてもらおう!!」
彼女の言葉を合図に四大精霊がリドウに攻撃を仕掛ける!
凄まじいスピードで目が追い付けない程の攻撃だろうと、リドウも負けない速さで次々とかわしていく
「あ、そう。大精霊って、寝起き悪いんだ」
そう言いながらミラ=マクスウェルを直接斬りかかろうと、彼女の前に現れメスを降り下ろそうとした
「させない!…ウィンドカッター!!」
だけど、ミラ=マクスウェルは剣に精霊術を纏わせた技でリドウの攻撃を防いで、そのまま反撃して彼にダメージを負わせる!
彼女の攻撃を食らったリドウは骸殻の変身が解け、その場に膝をつく
「強いなぁ〜、ミラ=マクスウェル……ファンになってしまいそうだよ。その勢いで道標集め、よろしく頼むよ」
体力はかなり消耗したから立つのがやっとの状態のリドウだけど、彼はそう言いながらミラ=マクスウェルや私達を見て、満足そうに悪い笑みを浮かべた
「こんな事して、なんて勝手な…!!」
「人の事言えるのかよ?」
「それは…」
たしかに彼から見れば、私は命令無視して勝手な事をしたのは事実……ここに来る前にミラに話したどちらが正しいのかわからないってのが、今まさに起こっている
私が言葉を詰まらせていると、リドウは目的は果たしたと言うように笑って背を向け、煙幕を出してここから逃げ去った
「ん……」
「首相…!」
その直後うめき声が聞こえて周りを見ると、気絶していたマルシア首相や彼女の秘書が何人か目を覚ましたようだ
「ありがとう、クランスピア社のエージェントね?」
他に外傷のないマルシア首相はすぐに立ち上がって私達の前に来ると、先頭にいたルドガーに握手を求める
「……」
「ルドガー…」
そのルドガーは一旦握手をしようと右手を出したけど、直ぐに戻してじっと手のひらを見ている
……ミラの手を繋いでいたのに、離してしまったから後悔しているんだね。ルドガーのせいじゃないのに
私もミラを救えなかった悲しみがあるけど、せっかく首相がお礼を言って握手を求めてきたから、ルドガーの代わりに私が応じる
そして、アルヴィンのGHSにマルコから救助の船がきたから早く戻ってこいとの連絡がきて、私達は中央ホールから出ようとした
「ね、ルドガー……ミラ……は?」
「それは……」
「リルが戻って来てるなら…ミラだって……」
「エル、ミラは……」
「もういない。どこにも」
「え………」
私もルドガーも答えられなくて何て言おうか考えていたら、ミラ=マクスウェルがそうはっきり答える
死んだ…とは言わなかったけど、その言葉でも十分ショックを受けるエル
たしかに、その場で見ていたから誤魔化しはきかないと思う。そう言ったのは間違いじゃないけど…
私達は複雑な心境の中、船内の入口まで戻った