ミラと、ミラ



救助の船とはクランスピア社の派遣の物で、私達と首相そしてマルコや生存者を安全にマクスバードまで運んでくれた

これは、ビズリー社長の言っていた援軍なのはたしかだけど……リドウにあんな事をさせて一体何を考えてるのかって思いながら、援軍で来ていたエージェント一人一人にリドウについて聞いたけど、誰一人彼の行動は把握していない事がわかった




「(この事は………ビズリー社長とリドウだけが知っている?)」




色々考えていると、船はマクスバードに着いて私達は下りた

そしたら、街の方を任せていた仲間達が出迎えにきてくれてミラ=マクスウェルを見ると驚きながら喜んだ




「ミラ!」

「現れたか」

「ああ、ミラ!探したのよずっと」

「すまない、心配をかけたようだな」




ミュゼがすぐに飛んでミラ=マクスウェルに嬉しそうに抱きつく姿は、どっちが姉なのかわからないなって微笑ましく思えたけど……すぐに悲しい気持ちが甦る

ミラ=マクスウェルはミュゼに返事をした後、他の仲間達を見ながら「皆にも」って言う




「全然だよ」

「信じてたから」

「またお会いできてよかった」




一年振りで…しかも行方不明になっていた彼女だから、皆心配していたけど、再会出来るのを信じていた様子がわかる

だけど……そのミラ=マクスウェルの代わりにいなくなった人がいる

悲しくてそう言いそうになった時




「心配なんかしてない!エルが心配なのは、違うミラだし!」




ぺリューンに乗り込んだ仲間達は同じ事を思って悲しみから下を向いて黙っていると、まだミラの死を認めていないエルがそう泣きそうになりながら大声で言った

ルドガーはそんなエルを抱き寄せて、何も言わずに…だけど表情は悲しい気持ちがわかると言った様子でエルの背中を軽く叩く




「ミラ…スープつくってくれるっていったのに……」

「何があったのだ」

「それが……」




エルの言葉に驚いて、その様子からただ事では無いのが起こったって思った皆に、私達は俯きながらペリューンで何があったか説明した





















「そんなことが……」

「……事情はわかりました」

「マルシア首相」

「彼女――ミラさんのおかげで、無事に条約の調印が行えるのですね」




分史世界とかの事はわからないけど、ミラが…私達の大切な仲間がいなくなったのを理解したマルシア首相がそう言うと…

ガイアスとローエンにお礼を言ってこの場でエレンピオスとリーゼ・マクシアの友好条約調印をお願いしてきた




「今、ここで?」

「エレンピオスの政府高官には反対はも多いと聞いていますが……」

「ご心配なく。この事件を機に、反対派に攻勢をかけます。アルクノアと繋がる者も多いでしょうし、証拠がなければでっちあげてでも」

「…今のは聞かなかったことに」

「もちろんオフレコのつもりですけど、この発言を“どう使う”かは、お任せしますわ」




マルシア首相は穏健なやり方をする人だと聞いていたけど、今回のテロで沢山の一般市民や私達の仲間が一人犠牲になったのが許せなかったのか、反対派が聞いたらデモが起きそうなくらい結構危なく強い発言をしたのを聞いてその場に居た皆驚く

ローエンがそれでいいのか確認すると、マルシア首相は借りをつくるのは嫌いだし綺麗事ばかりの相手じゃ信じられないって変わらず強気なことを言う。それを聞いたガイアスは「これは一本取られました」って笑って首相と握手をして、用意された紙…調印の書類にサインした




「二国代表の署名、確かに」




立派な会場でもないし記者や取材カメラもないただの港

だけど、テロがついさっきあってお互いに疲労してるのに、それを感じさせない凜とした態度で……今、歴史的に二つの国の安全な未来に向けて一歩踏んだ




「やっと壁をひとつ越えました」

「紙一枚分の壁ですけれど」

「やっかいなのは人の壁です。断界殻よりはるかに」

「目指す道は、まだ遠い……」




こらから二国の未来の道は険しくなるだろうって話をしていると




「それでも歩き出さなきゃ始まらないさ」

「歩いてみなきゃわからないってね」




ルドガーがそう言ったのに対して私もそう思うって似たような事を言うと、首相達に聞かれてしまい、ガイアスから「手垢のついた言葉だ」って言われる

私とルドガーは「あ、その発言はまずかったかな?」と焦って申し訳なく思って黙っていると…

ガイアスは「だが、真実だと信じたいもの」って言い、ローエンは「歩き続ければ、きっと地の果てにだって辿り着けます」って、私達の言葉に対してその通りのところもあるって肯定してくれた

よ、よかった〜いらない口を挟んだって思ったけど、失言にならなくて本当によかった…


こうして即席の調印式が終わると、マルシア首相が再度私達にお礼を言って次の仕事のためにマクスバードを出た




「ミラ、早速だが」

「わかった。事態を説明しよう」




それを見送った私達は、カナンの地の異変を見に行ったって聞いていたミラ=マクスウェルから、その事について話そうとしたら……




「ミラって言わないでよ!!エル、聞きたくない!」




自分の知っているミラじゃない彼女がミラって呼ばれているのを聞いたエルは、悲しい気持ちに耐えきれなくなり目に涙を溜めながらそう怒鳴って、何処かへ走って行ってしまう




「エル!」

「エル…!」




私とルドガーはすぐにエルの後を追いかけた































リーゼ・マクシア側の港の海辺にエルはルルと座って下を向いていた

私とルドガーでエルを間にして座ってなんて声をかけようか考えていると、エルは口を開く




「ルドガー、リル……なんでミラは……いなくなったの?」

「………」

「…ミラは、皆を助けるためだったと思う」

「え…皆って、エルも?」

「ああ」

「エルのせいでミラが…そんなの嫌だよ…」

「違うよエル。たしかに私達を助けるためにこうなってしまったけど、エルは何も悪くない」




自分を責めようとしているエルに、それは違うってのを話して説得しようとしたら…

後ろから「その通りだ」と言う声がして振り向くと、ミラ=マクスウェルを先頭にして仲間達が心配した様子でエルを見ている。皆も追いかけて来てくれたんだって思っていると彼女は続けて言う




「ミラはお前やリル……皆を守りたかったのだ」

「なんでそんなの!」

「わかるのだ。違うミラだが、同じミラ=マクスウェルだから」




ミラ=マクスウェルは剣を鞘から出したと思ったら、それを逆にして刃の部分を持って剣先を自分の胸に付き当ててエルに話し続けた




「彼女を犠牲にしたことは言い訳しない…エル、私はお前に誓う。もうひとりのミラの生を無駄にしないと」

「子どもに、難しいこと言わないでよ……」

「では、少し言い方を変えよう。私は、お前と一緒にカナンの地へ行く。私のなすことを見届けて欲しい」

「……」




そのミラ=マクスウェルの嘘偽りの無い態度、そして覚悟をしているのを少しわかったエルは、彼女を認めず怒りをぶつけていた気持ちを戸惑いながら落ち着かせる




「ただごとではないな。カナンの地で何が起こっている?」




彼女がカナンの地に行かなければならないことを聞いたガイアスがそう質問すると、ミラ=マクスウェルは自分が時空の狭間で見てきたのを説明した

それは…分史世界が増えすぎで魂の浄化に限界がきている事だ




「カナンの地は、全時空で唯一、魂を循環させている場所。増殖した分史世界の魂――浄化すべき“負”が全部カナンの地に流れ込んでいるのね」

「そうか…カナンの地は正史世界にしか存在しないからか…!」




私がそれに気付いてそう言うと、ミラ=マクスウェルは頷いて話を続ける




「すべての分史世界を消さねば、遠からず浄化は破綻するだろう」

「分史世界のせいで魂のエネルギーは拡散し、負は濃縮されている……ということですか」

「やれやれ、どっちか一方でも世界の破滅っぽいのに」

「浄化が破綻すると、どうなっちゃうの?」

「負から発生する猛毒――瘴気が、あふれだすだろう」




なるほど…前に予想していた分史世界の影響でカナンの地に悪影響が出てるって思っていたのが当たったな

たしかに分史世界全てを負担していたら沢山の負が集まる

けど、それにはある疑問が浮かぶ




「大精霊オリジンは、なんとかしてくれないんですか?」

「私も思ったけど、そんなところにいるオリジンは大丈夫なの?瘴気は精霊にも毒なんじゃ…」

「多分、その価値が人間にあるかどうか試すのがオリジンの審判なのでしょうね」

「……つまり、カナンの地にたどり着き、審判に合格してみせるしかないわけだな」

「そして、大精霊オリジンに願うのだ」

「“すべての分史世界を消滅させてくれ”って」




この話からだと、オリジンは高みの見物って感じにわざと最終到着地点に時限爆弾を置いて私達が制限内に来れるか試しているのか…そう思うと、オリジンって嫌な趣味持ってる性格悪い精霊なのかな?

じゃあ、私は一体何のためにこの世界に?自分が何故ここに来たのか考えながら、ミラに欠片を渡して更に小さくなった結晶を握り、前には度々話しかけてきた…もしかしたらオリジンかもしれない少年の声を思い出す

その時、ルドガーのGHSが鳴り出して出てみるとヴェルさんからだ




「障害となっていたマクスウェルの壁の消滅を確認しました」

「クランスピア社は、リドウに何を命じたんですか!」




相手がクランスピア社の人間だって知ったジュードは、リドウに対して怒りが爆発して、なんでこんな事をしたのか聞く

ジュード…やっぱり違うミラって言っても仲間だと思ってたし大事だったんだな。私もリドウに対する怒りが込み上げて泣きそうになる




「え、リドウ室長が何か?」

「……っ」

「ヴェルさん。私は彼の部下ですから聞く権利があります。なので教えてください、リドウ室長にテロについて何か命令されたとか聞いてないですか?」

「いえ…テロについてリル副室長から報告を頂き援軍を出しましたけど…リドウ室長は皆様がクランスピア社を出て行った後に、どこかへ出かけられました」

「そう…ですか…」




これ以上聞いてもヴェルさんからリドウについて詳しく聞けない……本当に知らないかもしれないし、知っていてはぐらかしているかもしれない

そう思った私とジュードは納得できなくて拳を強く握って、やるせない気持ちで黙る

その後ヴェルさんが連絡してきた本題にはいると、最後の道標がある分史世界へ行けるようになったけど、現在時空の狭間がかなり不安定になっていて進入可能なレベルに追い付くまで少し時間がかかる。だから準備ができたらまた連絡するとの事

そう言って電話を終わると「勝手なことばかり…」ってジュードは静かに怒りをぶつける

私も同じ気持ちだよ…そう思っていると、ミラ=マクスウェルは時空の狭間が不安定になっている原因について、切り出した




「恐らく私のせいだ。私が、解放した断界殻のマナを使って、強引に実体化した影響だろう」

「世精ノ途がないから、そうするしかなかったのよね」

「これは外法。貴重な猶予のマナを消費して実体化を維持しているのだ」

「じゃあ……」

「そう長く、この世界に留まるわけにはいかない」




そうか……次元の行き来が出来るミュゼと違って、マナを使ったりしないと人間界にいられないミラ=マクスウェルは長くいればいるほどマナを消費する

……ジュードにとってはせっかく再会したのに、すぐ別れが来てしまうのかと寂しそうに彼女を見る

その時またルドガーのGHSが鳴って出てみると…




「やほー!恒例の、とりたてコールだよー!ルドガー君、最近調子どう金ー?金だけに“まぁマぁネー”…なんつって♪」




ノヴァからの借金取り立ての電話だった

…いつもならノヴァのノリに乗ったり苦笑いくらいはできたけど、今はそれすらできる気力は残っていない。ルドガーは重い溜息をつくとノヴァは慌てて何かあったか聞いてくる




「なんでもないよ。借金は借金だもんな」

「そ、それなら、いいけど。催促指示がきてるから、よろしくね」




ルドガーはタイミングの悪い能天気な発言に怒ることなく、落ち着いてそう話して電話を終える

たしかにノヴァには悪気は無いけど……辛いのによく平常心を保って話すことが出来たな。もし自分がその電話を取っていたらルドガーのようにはできなかったかもって、彼を心配しつつすごいなって思った




「いい機会です。連絡を待つ間に、最後の探索の準備をしっかりと整えましょう」




空間の狭間の調子が整うってのはそう安易なものではないから連絡はしばらく経ってからだろうし、その間に借金返済やら自分達の準備をしようってローエンは提案して、それに皆賛成する

では連絡来るまで各自自由に。となった時、ルドガーと一緒に行くエルは「マクスウェルの……ミラ…」って、今いる“ミラ”を見て自分の心の整理をしていた





「(エル……)」





私も…今いるミラ=マクスウェルを認めてないってわけじゃないけど、助けられなかったミラのため、まだ自分の中で何かが解決していないって思って…

徹底的にクランスピア社で情報を集めて、リドウとアルクノアについて真実をつきとめようって決意する

この時まだ自覚していなかったけど、これがきっかけかな…






クランスピア社への疑いが大きくなり始めたのは



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