思い出すのは…
帰された私はそのままふて寝するようにベッドに倒れると、体がだるくて重い感じがした。そのくらい疲れていたと思ったから、どうせ3日間休みを貰ったから寝て過ごしても良いよね…
寝ていれば色んな事を忘れられるし。そう考えながら目を閉じて数秒後、お腹からくぅぅって間抜けな音と共に忘れていた空腹感が甦る
「(いっけない…そう言えばあまり食べてなかったんだった…)」
この前からテロだのマクスウェルだの調印式だの…整理がつかないくらい大きな事が畳み掛けるようにきたから食事どころじゃなかったからなぁ
流石にこれは寝て忘れるのは出来なかったから、仕方なく起きて何か作る事にした
「えっと、適当でいいか」
冷蔵庫にあった野菜で作ろうとしている料理に合いそうなのを選んで切ってフライパンで炒める
「(料理したの……いつ振りだろう)」
ミラに教えてもらって、一緒に練習した日々を思い出す。最後に彼女と料理したのはカン・バルクでクマの手スープを作ったんだったな
失敗した時の呆れた顔、一生懸命教えてくれた真剣な顔、そして…腕が上がった時の喜んでくれた顔。その度に一つ一つ言葉もかけてくれたなぁって思い出した時、目の奥が痛くなり始める
「(今は料理に集中しないと……)」
私は完成するまで今作っている料理の事ばかり考えて、手を動かした
「出来た…!」
作ったのはオムライス。見た目はちょっと焦げてて自分で言うのもあれだけど、本当に前より腕を上げて綺麗な仕上がりになったなって満足感が高い
「食べる前にGHSで撮影して…」
そう言いながら撮影した時に、自分は何してんだろうって後悔した
料理の写メってのは後にミラに見てもらうためのもの。でも、もうミラは……
その時に我慢していた涙が溢れてくる
「(ミラ……本当にごめん…)」
料理上達が遅かった事、助けられなかった事などの色々な面でミラに迷惑をかけたなって直接本人に言いたいのに、もうミラはいなくてそれは出来ないって思うと涙が止まらない…
エルには元気を出してもらいたいって思っていたのに、これじゃあ説得力無くなるな…
色々思っていると、玄関のインターホンが鳴る。宅急便とか何かの勧誘だったら無視しようと思いそっと覗き穴を見ると…
「(え……!?)」
それは予想してなかった驚きの来客で、すぐに涙を拭いてドアを開ける
「やぁ。いきなり、すまないな…やはり此処が君の家だったか」
そこには……ミラ=マクスウェルが立っていた
―――――――――――
とりあえず家に上げるとミラ=マクスウェルは私の部屋を見渡しながら「久しい感じだな…」って呟く。え?久しぶり?
「あの…えっと、それはどういう…」
「ああ、私は時空の狭間にいた時、君達を見ていたんだ」
「え!?見ていたって、どうやって?」
「もう一人の…ミラを通して」
「!」
驚いた…単なる同じ存在同士だっただけじゃなかった二人の間にそんな事が出来ていたなんて
「さっきイバルと会って話したんだが、君が元気ない様子だと聞いて、もう一人の彼女の目を通して見た家を思い出し記憶を辿ってここに来てみたんだ」
「そうだったんだ、イバルが…」
イバルは優しくて気にかけてくれるいい人だから、やっぱ私が不自然に笑っていたのが気になったのかな……
彼にもミラ=マクスウェルにも嬉しいけど、気を遣わせちゃって悪いなって思っていると、彼女が話を続ける
「だが、少しタイミングが悪かったな」
「え?なんでそう思うの?」
「君が元気ないのは悲しみからか…すまない。私が来ても辛い思いが大きくなるばかりだな」
「あ……」
しまった……でも、涙で腫れて赤くなった目でバレるか
けど、これは決してミラ=マクスウェルのせいだなんて思っていない。せっかく私の為に来てくれた彼女に貴女のせいじゃないよって言おうとした時に良い理由を見つけた
「えっと……違うの!」
「?」
「これ……玉ねぎのせい!」
「玉ねぎ?料理をしていたのか?」
「そ、そうなの!」
「なるほど…」
さっき作っていた料理で涙が出る食材を切っていたせいだって言うと、彼女は納得してくれた
よかった〜なんとか誤魔化せた!って思っていたら、ミラ=マクスウェルは鼻を利かせて「たしかにいい匂いだ」って言って涎が垂れそうになっている
「あ、良ければ食べる?」
「いいのか?」
「うん。まだ味見していないけど」
そんな私の言った事に対してすぐに「ご馳走になろう」って食べる気満々のミラ=マクスウェルに笑いながら、台所に置きっぱなしのオムライスを出す
「ちょっと見た目いまいちで、冷めているけど…」
「いや、なかなか前よりも綺麗な出来ではないか。頂こう」
「(前よりも…?)」
そうか、さっきミラを通して私達を見ていたって言っていた。じゃあ…!
少し期待してオムライスを食べるミラ=マクスウェルを見ていると、彼女はよく味わった後、私に一言
「……美味いよ。たしかオムライスは前によく油を使いすぎたりしていたと思っていたが、調節して良い感じになったな」
「っ!!それは……!」
間違いない。その言葉は前から私の練習を手伝ってくれていたミラしか知らなくて言えるもの…!
ミラ…違うミラって思っていても、“貴女”はここにいるんだね…!
「……ありがとう!」
私は我慢していた涙を流すと、彼女は私の頭を慣れない手つきで撫でる。結局私がミラに対して泣いていたのがバレてしまった
「私も申し訳ないと思っているよ。エルにも君にも」
「ううん…貴女も何も悪くない」
「そうか?そう思ってくれて嬉しいよ……改めて言うが、助けられなかった彼女の分まで君達と共に歩む事を誓う……ただ」
「?」
「私は料理はあまり得意ではないから、彼女と同じスープを作るのは至難の技になるが、リルの料理を食べるのは喜んで受けるよ」
「あははっ……うん、本当にありがとう……ミラ」
この時、私は彼女の事をミラ=マクスウェルから“ミラ”って呼ぶようになった
ミラは…ここにいる。違う貴女だけど、私も“彼女”を忘れず一緒にカナンの地に行くのを心に決める