最後の道標を求めて


戻り方はわかるね?って事で洗面所のちょっと手前まで来たエルはリビングに戻っていき、私は一人洗面所に行って言ったように泥を落とす

食事の前だから綺麗に…って気持ちもあるけど、リビングを抜けたのはそれだけが理由じゃない




「(何もかも疑問だらけで異様だから、ちょっと何か見つければ何かわかるんじゃないかな…?)」




まるで探偵モノの漫画みたいに、ちょっと危険だけど何かがわかるんじゃないか?と、この家を調べる事だ

私は早速音を立てないように二階をよく見て、吹き抜けから一階も見る

すると、家の中のあちこちに穴が開いた所が数ヵ所と修正された場所がある




「(これは…ローエン達を殺した時に出来たもの?それともエルが言っていた怖い人達が襲ってきた時に?)」




どっちにしろ、ここで只ならない事が起きたのは確実

一階の洗面所が使えないのは……まさか血を洗ったりした所だからか?なんて思いながら、そっちを確認しようとゆっくり一階に降りようとした

その時、ある部屋に目が止まる

そこは穴の開いた所をまだ修正していない部屋。それはどこも一緒だけど、この洗面所の近くにあった部屋が何故か気になり、穴から中を覗く事にした

こんな事は失礼にあたるのはわかってるけど……少しでも見落とししないように一つ一つを見ていく

そんな探偵の心得みたいなのを気にしながら覗くと、そこは最近あまり使用されていない様子の女性が使っていたと思われる部屋だった




「(……って、事はここはエルの母親……ラルさんの部屋か)」




そう言えばエルの母親はエルが小さい時に亡くなったって言ったな

だから使用された感じは無く、ある程度片付けられているけど、そのまま残してあるのか……


そう思いながら、その部屋にあった机に飾られている写真をふと見る。リビングと同じくエルのもっと小さい時の写真もあり…





考えもしていなかった人物の写真を見つけて、心臓が止まりかけた





「(えっ!?な、なんで…!?)」




思わず尻餅つきそうになった所をスロープの手すりに捕まって体勢を立て直す

……なんで?なんで?って頭の中で問いかけをしていると、エルが階段を上がってきた音がして、すぐにさっきと変わらない平静を装った




「リル!パパが料理出来たって!」

「あ、うん……今から行くところだったよ!」

「早く早く〜!冷めないうちに!」




楽しそうに私の手を引いて誘導するエル

……見つけなきゃよかったかも。エルには悪いけど、ヴィクトルさんに対する恐怖心や不安感が一層強くなった事を隠しながら私はリビングに戻った





























料理を食べ終えた私達はヴィクトルさんに「お口にあったかな?」って感想を聞かれた




「ごちそうさま。結構なご馳走だったよ」

「おいしかったでしょ。リル、ルドガー?」

「うん。家庭でこんなに美味しいのが作れるなんて、すごいよ!」

「…俺の負けだな」




嬉しそうにエルも聞いてきたから、私もルドガーもミラに続いて感想を言う

本当に美味しいよ。エルが一番って言うのがわかるな




「君も、これくらいはできるようになる。そう…十年も経てば」

「え?」

「…?」




何故そこで、具体的な例を言うんだろ?

……私がさっき見た写真を思い出して、考えたくない想像を押し殺していると、エルはルドガーの料理の事についても言う




「でもねパパ、ルドガーのスープもすっごく美味しいんだよ。あと、エル用のマーボーカレーも!」

「そ、そうだよね…たしかにヴィクトルさんよりはって思われるけど、ルドガーのも美味しいよ!だからルドガー…落ち込むなって!」

「あ、ああ……」




少し不自然な言い方だけど、私はそう言って会話を楽しくするように変な頑張りをする

すると、エルはいたずらっ子な無邪気な笑顔でこう続けて言った




「リルは上から目線でそう言える立場かな〜?」

「ええっ?……あ。いや、これでも腕は上がったよ!?」

「ああ。前よりは本当に美味いぞ」

「ミラ〜!」

「だが、ヴィクトルやルドガーにはまだまだ及ばないな」

「うぐぅ…わたくしに100のダメージが…!」

「たった100か?この前の何故かサンドイッチを焦がした話をしたらどうなる?」

「ぐふぅっ!ルドガー!……せ、1000ダメージ…!」

「じゃあ、ピザカッターで魚を…」

「わ〜〜ん!それ以上言わないでよぉ〜!!」




何故か私の料理失敗話をする合戦になってしまい、それ以上言わせないようにすると、皆は笑い少し和やかな空気になる




「ふふふ、こんな楽しい食事は十年ぶりだ」




私のそんな話を聞いたヴィクトルさんも笑って楽しそうにする

そうしていたら、座っていたエルが頭をカクカク動かして眠たそうにしていた




「食べすぎ……ちゃった………。パパがエルの好きなのばっか……作るから……」

「頑張ったご褒美だよ」




お腹も心も満たされて安心したエルに忘れてた疲れが戻ってきたのかな?

子どもらしくヴィクトルさんに抱っこしてと甘えるエルは希望通り抱えてもらい、近くのソファに寝かせてもらえてすやすやと眠り始める





「…さて、ヴィクトル。聞きたい事がある」




少し和やかな空気になってまた忘れそうになったけど、今すべき事は最後の道標を探す事で……ヴィクトルさんの事について色々聞かなければならない

エルが眠ったのを見計らって、好都合だと思ったミラがヴィクトルさんにそう聞く




「仮面の無礼は許して欲しい。ある戦いで、顔に傷を負ってしまってね」

「そうではない」

「では、何を知りたい?」




はぐらかそうとしたヴィクトルさんにミラはきっぱり違うと言うと、逆に何が聞きたいのか聞いてきた




「貴方は…一体…」

「“何者か?”……この子の父親だよ」

「けど、貴方は――」

「知っているよ」




エルを見ながらヴィクトルさんは私とジュードの問いに、主語を言わずにそう答える




「……何を知っている」

「分史世界の人間。という事を」

「なっ…!?」




前にオーディーンが自分は分史世界の存在だってわかっていたのを思い出す

この世界も私達より早くに進入していたエージェントがいたのか?って思い、じゃあ私達と一緒に来たエルを自分の娘とは違うと分かっていながら話を合わせていたのか?

色々考えながらヴィクトルさんを見ると、彼は寝ているエルの頭を優しく撫でながら言い続けた




「だが、私は正真正銘、このエルの父親だ」

「何…!?」

「本当に…今ここにいるエルが貴方の娘だとしたら…」

「それではエルさんも……?」




この分史世界の住人

私達はその事を知って驚くが、ある疑問が……

それは正史から分史には行けるけど、逆に分史から正史には行けないシステムがあったはずだ

エルが分史世界の存在だとしたら正史世界に行けないのでは…?そう思っていると




「この子は、クルスニク一族でも、選ばれた者だけに受け継がれる力を持っている。正史世界では失われた時空を制する“鍵”なのだ」




ヴィクトルさんがその疑問の答えを話して、私達は更に驚く




「クルスニクの鍵!」

「それは、ルドガーさんではないのですか?」

「本人が一番よくわかっているはずだろう?」




ずっとルドガーがクルスニクの鍵だと思っていたジュード達の驚きは大きかったけど、ルドガー本人は心当たりあるような表情をする

そうか……たしかに、あのミラと手を繋いでいたのも、変な鳴き声のルルの近くにいたのは……エル

私も前から本当にルドガーの力か?って少し思った時があったから、自分の中でもどこかでそう納得していた




「ルドガー…」

「たしかに…俺の力じゃないかもって違和感があった」

「だとしても、その力で何を企んでいる」

「ただ、“鍵”の力も万能じゃなくてね…」




その言葉を聞いた……次の瞬間

目の前にいたヴィクトルさんが消えて驚いていると、彼はなんとルドガーの後ろにいつの間にか立っていた!




「っ!」

「君が邪魔なんだよ。ルドガー」

「…っ!?」




手で銃の形を作ってルドガーの頭に突き立てる姿と、その後に言った言葉で最初に見たヴィクトルさんの殺意に満ちた目を思い出し、ゾクッと背筋が凍る

やっぱりヴィクトルさんは…ただならない企みを持っている…!




「私達は貴方の目的を聞いているんです!回りくどい言い方しないでさっさと…!」




恐怖ですくみそうになったが、私はここにエルがいるのに武器を出してきたりしないだろうって判断して、そう強く出ようとしたら

ヴィクトルさんは銃の形にしていた手を口の近くに持っていき、“静かにしてくれ”と言うような手振りをした




「娘が起きてしまう、外へ出よう」




…そうだね。エルに聞かせたくないような内容が言われるかもしれない

私達は黙ってヴィクトルさんに付いて行き、外に出た


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