道標の正体









「いい景色だろう」




外に出てみると、もう夕方で空には夕焼けが赤く輝き、来た時と違った姿の湖を見て……たしかに綺麗な景色だと正直に思った




「ここでは、源霊匣が完成しているんですか?」

「ああ。八年前に君が完成させた」

「そうか…」




改めてこの世界のマナの回復はジュードの頑張りの功績だ。と正史での源霊匣の研究に少し希望を持つ私達で、特にミラが一番喜んでいるようだ

そこにヴィクトルさんが衝撃の一言を言った




「だが、君は私が殺した」

「なっ……何故そのような!?」

「ジュードだけではない。この世界の貴方も殺した。アルヴィンも、レイアもエリーゼも、私が殺した」

「そんな…何の為に!?」

「ビズリーを殺す邪魔をしてきたんだ。ユリウスと一緒になって……。ビズリーは、私からエルを奪おうとしたのに……」




私達は戦慄してヴィクトルさんに何故そんな事をしたのかを聞くと…エルを奪おうとしたビズリー社長を殺そうとした?それをユリウスさんと一緒に邪魔をしたのはこの仲間達?

何が起こったのか完璧にはわからなかったけど、この世界の仲間達とそんな事が起きていたなんて…




「(まさか……この人は…!)」




ラルさんの部屋にあった写真を見て、この話振りを考えれば、ヴィクトルさんの正体は……!




「もう一度聞く。何を企んでいる」

「本物のエルとの暖かな暮らし――






だが、お前がいては、それができない!!」




ミラの問いにヴィクトルさんがそう答えた瞬間、彼は持っていた双剣を取り出し目にも見えない速さでルドガーに斬りつける!

だけど、ルドガーもすぐに双剣を持ってガードしたため、二人は激しい金属音を鳴らしながら攻撃と防御を繰り返す

あの攻撃の仕方……やっぱり……!!




「まさかヴィクトルさんは!」

「分史世界の…!」

「ルドガー…!?」

「お前は…俺なのか…!」




ここで皆も気付いた

仲間やビズリー社長、ユリウスさんを知っていて、ルドガーがいれば目的が果たせないって事は……彼は分史世界で生きるルドガーと同じ存在だと




「そう!俺は未来のお前だ!……そして今から本物のお前に!成り代わる!!」




ヴィクトルさんが高く空中を飛んでルドガーを蹴りつけると、ルドガーは当たり所が悪く地面に崩れる!

そこにトドメをもらった!と言わんばかりにヴィクトルさんは剣を高く持ち上げて一気にルドガーを突き刺そうとした!




「ルドガー!」




私達が助けに行こうとした時…!










「みんな、なにしてるの?」



後ろから聞こえた声に驚いて皆その方向を見ると、エルが眠そうに目を擦りながら来た

きっと目が覚めた時に私達がいなかったから探しに来たんだと思う。知らない間に一人にして悪いけど、今はそれどころの話じゃない!




「戻っていなさい。パパたちは大事な話が……ぐぅっ!」

「パパ!」




ヴィクトルさんはこの状況を娘に見せられないと、エルに家に戻るように言った途端、彼は急に目を押さえながら苦しみ出した!

それを見たエルが驚き、心配してヴィクトルさんの元へ行くが、彼は「来てはいけない!」と振り払う

その瞬間、仮面が外れ地面に落ち………その素顔は露になった




「あれは……時歪の因子化!?」




髪は黒いけど、その顔はまさしくルドガーで………覆われていた顔の右部分には目から頬にかけて黒く染まり………時歪の因子化していた!

素顔が露になったヴィクトルさんから時歪の因子の特徴である黒いオーラが出てくる




「(あれ?この現象。前にもどこかで……)」




たしか、これは一人で分史世界に行って因子リドウを倒した……あの時と一緒だ!

つまり、あの時も今も外からエージェントが来るのを知っていて、あらかじめ時歪の因子の反応が出ないような道具を用意していたんだ。今になってからその謎が解けた

だけど、今はそれについて考える暇はない…!エルに顔を見られて驚かれてしまったヴィクトルさんは静に笑いながらこう言った




「ふふ……怖いか?だが、カナンの地へ行けばこの姿もなかったことにできる。パパとエル、二人で幸せに暮らせるんだよ」

「ほ、んと、に……?」




その言葉に、ここまで来るまでに願っていた事がエルの中で蘇る

父親と自分がもう怖い人達に襲われる事なく幸せに暮らせる……それは本当なのか?と言葉を信じたエルはまたヴィクトルさんの元にゆっくり近付く




「来ちゃダメだ、エル!」

「貴様が命令するな!」

「ぐああっ…!」

「ルドガー!……貴方のそんな計画が本当に出来るって確信はあるの?」

「できるさ……いや、成し遂げてみせる!」




エルに来てはいけないって言ったルドガーの腕を踏みつけて黙らせ、何としてでもやってみせると言うヴィクトルさん

…同じルドガーなはずなのに、これは…!




「カナンの地で精霊オリジンに願い、私は人生をやり直す!」

「人生をやり直す…だと?」

「もちろん、エルも一緒にな。私の娘として、正史世界で生まれ変わるのだ」

「生まれ…変わる?」

「それは別の人間になるってことでしょう!?」

「“私達”に変わりはない!」




ミラとジュードの言葉にそう返すヴィクトルさんは、今のルドガーが言いそうにない事を言って私達の話を聞かない

私達には変わりはない……か。その言葉をそのまま受け取ると良い意味だけど、状況的にそれは今そこで使っちゃいけない言葉だ…!



「パパ……?」

「何も心配いらないよ。思い出なんて、またつくればいい」

「……え?」

「おいで。今度は、きっとママも一緒にいられる」




優しくこっちに来るように言う彼は、変わらず父親として娘に愛を持っているように見えるがそれは表面だけで、中身は“今いるエルや自分はいらない”って言っているのも同然に聞こえる

そう、この彼は……狂ってる!

近くに来たエルに手を伸ばそうともするヴィクトルさんを見て、ルドガーにもエルにも危険が迫っていて焦る。ここは思い切って私が助けに行こうか……!?






タイミングを見計らっているその時だった





「……だ。…そんなのやだっ!!」





父親の異様さに気付いたエルは嫌がって伸ばしてきた手を払い、ヴィクトルさんを突き飛ばす!

まさか拒絶されるなんて考えてなかったヴィクトルさんは完全に油断していて、そのまま地面に尻餅をついて倒れた




「くっ!……エル!」




その隙にルドガーが起き上がり、素早くエルを抱えてヴィクトルさんから離れる

よかった!ルドガーもエルも無事に私達の近くに来て安心した




………が




「……エル。エルは……私のものだっ!!」




エルに拒絶されたのを認められないヴィクトルさんは、勢いに任せてルドガーに双剣で斬りかかり、更にハンマーに持ち変えて次々に攻撃してきた!




「入れ替わるために、ルドガーをこの世界におびき寄せたのか!」

「エルを利用して!」




ミラとジュードも参戦してヴィクトルさんの動きを封じようとしたけど、その攻撃を彼に受け止められて反撃されてしまう!




「そう!エルは必ずルドガーと戻ってくる。なぜなら………私が最後の道標だからだ!」




その時にヴィクトルさんが、私達がここに来るのは必然的に決まってると断言して………更には自分が最後の道標だと名乗った!

たしかに………ヴィクトルさんが道標なら、この戦いは避けられない運命だけども………!

次にローエンと私とで精霊術を交えた攻撃を仕掛ける!




「娘の愛情をもてあそぶとは!」

「貴様らに何がわかる!」

「エルは…純粋に貴方を助けようとした!悪い人が来て危ないから助けてって言っておきながら他人の命を犠牲に生まれ変わる?そのために今の自分達は無くなってもいい?……酷い裏切りじゃないか!!」

「私達が助かるには、それしか方法はない!!」




思わず乱暴な口調になってしまったが、私は間違った事は言っていない

そうしている内にルドガーが骸殻に変身して槍で攻撃をしかける!

……が、ヴィクトルさんから双剣でガードをされてしまい、失敗して次にまた攻撃しようとした時

彼も時計を取り出して……骸殻に変身する!



そこに現れたのは……顔まで覆われたフル骸殻

だけど、右半分が損傷していて歪な形をしている。その黒い骸殻に走る光はまるで損傷で流れ出る血のように……恨みに燃え上がる炎のように赤く輝いていた




「これは…!?」

「…兄と父を殺して手に入れた力だ」




そう言ったヴィクトルさんは今度はルドガーと骸殻の姿同士で戦う!




「やだよ……やめてよ、パパ!ルドガー!」

「待っていなさい。すぐに終わる!」




二人を止めようとするエルだけど、戦いは激しさを増す!それに危機を感じた私達もルドガーに加勢すると




「やだ、やだ、やだ!エル、こんなのいやだよ!!お願い、お願いやめて……皆やめてよっ!!」




目に涙を溜めて必死に止めるエルを一人にしておくわけにはいかない…!そう考えた私は戦いから抜けてエルの元に行って、抱き締める




「リル!なんとかして!パパが…ルドガーがぁ!!」

「ごめんねエル!ごめんね…!」




エルの気持ちを考えれば、自分の大切で好きな人達同士が戦うなんて見ていられない。とても辛すぎる

私もこんな戦いを止めさせたいけど、彼は強すぎて戦いを止めるだけにしようと力を緩めたりしたら、こっちがやられる!

……手加減は出来ない状態だから全力で戦うルドガー達を止めずにエルを守る事しか出来なかった




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