道標の正体








「ぐぅっ……体が……!」




しばらく続いた戦いは…ルドガーの引けを取らない攻撃で、ついにヴィクトルさんの力は限界に来て骸殻の変身は解け、膝をつくと懐中時計が地面に落ちた




「パパ……」




もう、攻撃しかけてこない。そう判断してエルから離れると、エルはおそるおそるヴィクトルさんに近付いて心配そうに呼ぶ

そんな娘を見たヴィクトルさんは何故か目を見開いて、絶望したような表情をする




「っ!?……くそ……間に合わなかった…!がふっ、ごほっ…!」




血を吐きながら言った事は……「間に合わなかった?」どういう事だろう?

それも疑問に思うけど、私は何より聞きたい事がある。ヴィクトルさんが……この世界のルドガーが消える前に




「ねぇ…聞いてもいい?この世界の私はどこにいるの?」

「そ、それは……」

「……貴方が殺した?」

「違う……君は……」




なかなか答えてくれない彼に私は……あの事を話す




「私見ちゃったの。貴方の奥さんの部屋に飾られていた写真の中で………貴方の奥さんと私が映っていたのを」

「えっ!?」

「リルと……ラルさんが…!?」




私も今も驚いているけど、あの部屋にあった写真に写っていたのはラルさんと……間違いなく私だった

そして、ラルさんの隣りに写る私は……少し太っているように見た。その体に大きめのワンピースを着て、薬指に指輪をした左手でお腹を撫でながら幸せそうに笑っている様子から……

あれは……誰かと結婚して妊娠していたってのがわかる

ラルさんと親しい仲ってのにも驚いたけど、一番に驚いたのはそれだ。それで、そんな幸せそうにしていたこの世界の私も……ビズリー社長側に付いたから殺されたのか?

そう思い聞いてみると、苦しそうにしているヴィクトルさんは、まるで仲間として心配している時のルドガーの眼差しと同じ目になって私を見た




「すまない、リル…。仲間として…友人として、君を助けられなかった……」

「つまり、私は……貴方に殺されたんじゃなく、何か別の不幸事で死んだんだね」




その表情からだと、そう判断する。それに対してヴィクトルさんは申し訳なさそうに頷く




「今思えば、君の死が…始まりだったかもな…」

「え?」




ヴィクトルさんがこんな風になる前に……この世界の私が死んだのが始まり?

また意味深な言葉を言う彼にもっと詳しく聞きたかったけど、彼は次にルドガーに向いて訴えた




「聞け、ルドガー!一族の力を……使える限度は…決まっている」

「力の限度?」

「まさか、その代償が――」

「時歪の因子化!」




まさか骸殻を使うにあたって限度があったなんて……じゃあ度々使っていたルドガーもあんな風になるのか?




「力には代償が付きまとう…逃れる方法は……ない」

「それでお前は、生まれ変わりを選んだのだな」

「ふっ…」

「ルドガー!」




もう起き上がってこないと思っていた私達は、すっかり油断していた!

最後の力なのか、すぐに起き上がったヴィクトルさんは落ちた懐中時計を拾ってまた骸殻に変身して槍を持ってすごい速さでルドガーに向かってきた!




「お前はどう選択する!」




そう聞きながら突き刺そうとするヴィクトルさんにルドガーは……






すぐに骸殻に変身して槍を構えて……自分が刺される前にヴィクトルさんを突き刺す





その場で時が止まったように止まる二人。そしてヴィクトルさんの骸殻は解け、まるで“それでいいんだ”って言うように微かに笑った




「エルを……頼む……カナンの地を……開け…オリジンの……審判を…超え……」




最後まで言えないまま地面に倒れ込む。もう、これで……




「あああ……パパッ!やだよ、パパァッ!」




たしかに恐怖を感じて彼の企みを拒絶したけど、エルにとってヴィクトルさんは大切な父親であるのには変わりない

当然ながらその父親に対して……消えないでほしいと願うもの


エルは目に涙を溜めながらヴィクトルさんに近付くと、彼は娘の頭を撫でようと腕をゆっくり伸ばして……証の歌を歌った

この歌はユリウスさんが歌っていたもので、前に聴いた事があったから覚えていた

歌詞は無いけど、優しいくて愛おしい気持ちが込められているような歌を……ヴィクトルさんは慰めるように、子守唄のようにエルに捧げる




そして、ルドガーの槍先に残っていた黒く禍々しい塊が……光輝く最後のカナンの道標になった瞬間




周りの空間にひびが入り





「パパァ〜〜〜〜〜〜ッ!!」





エルが泣き出したと同時に世界の全てが砕けて散って、虚空へと消えていった……














――――――――――






気付いた時には、干上がった地形に小雨と遠くで雷が降る悪天候の中……正史世界のウプサーラ湖にいた




「ルドガー…」

「大丈夫?」

「ああ。なんとか…」




最後まで気を抜かずに体力を使ったルドガーは疲れのせいよろけると、ジュードが支えてくれてなんとか立った




「エルさんは?」

「ナァ〜」




その質問に答えるように鳴いたルルの方を見ると、ルルの近くで座り込んだまま動かないエルがいた

いつもなら雷を怖がけどそれ以上の怖くて…大きなショックがあったから、あんな風にならない方がおかしい

ローエンもどう声をかければいいかわからないけど、とにかくディールに戻ろうとエルに言おうと近付く




すると




「これは!?」

「どうしたの?ローエン」




何かを見つけて驚くローエンに、何があったか聞きながら私達も近付いて見ると……


座り込んでいるエルの首の後ろに、大きな傷痕みたいな黒い物があった!あれは…!!




「時歪の因子化!」

「なんでエルが時歪の因子化を!?もしかして、ルドガーの力はエルの…!」

「エルを…エルを通して使っていたのか…!?」




そう。あれは先程のヴィクトルさんと同じ物だから、時歪の因子化の兆しだ…!

何故エルにそんなのが現れたのか考えると、あの時……列車テロの時にエルの持っていた時計とルドガーの持っていた時計が一つになった事と、そして次に分史世界のものは正史世界のものと対面したら……分史の方が消える事を思い出す。まるで正史のものに吸収されるみたいに

そうなれば時計もこの原理と同じことが起きて……時計がルドガーの物でもありエルの物でもあるとしたら、骸殻変身の影響がエルに出てもおかしくない

そんな予想を立てると、ルドガーはそれに早く気づけなかったのに対して悔しく思って拳を握りしめる




「ここではどうしようもない。ディールで宿を取ろう」

「……そうだね」




たしかに。いつまでもここにいても仕方ない

私達は沈んだ気持ちのままディールに戻った




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