最初の苦悩



クラン社に入社してから数ヶ月

なんとか、エレンピオス文字が読めるようになった私は、ある程度の買い物ができるようになった


初日に案内された住む所は、大通り近くのちょっといい感じのマンション

部屋は私1人で丁度いい広さで間取りも悪くなかった。ただ、初めての1人暮らしの不安と、家事は普段していなかったため手順がおかしかったり……等の不器用ながらもなんとかこなした


そして、今自分はどの時期にトリップしたのか把握する

どうやら断界殻は私が来た時にはまだあって、先日消えてリーゼ・マクシアと繋がったって新聞やテレビで大きくニュースになった

クラン社はあの異懐炉計画を支持していたが、やがてリーゼ・マクシアと友好関係を希望するマルシア首相を支持するために色々内輪でゴタゴタした


つまり……




「(これってエクシリアの終わりで、そのまま行けば2のストーリーが始まるのかな?)」




そう、断界殻を解放して終わったエクシリア

その続編エクシリア2が11月に発売されるって聞いたけど

今がまさにそんな時と同じだった




「(参ったなぁ……こんな事になるなんて思っていなかったから、2に関する情報を全く見てなかったや)」




2で知っていることは、たしか主人公は青い服を着てて……ヒロインは幼い女の子だったような……

……曖昧な記憶だ




「(今のところはそんな人は見かけていないし、もしかしたらあのパーティメンバーとは会わないで、ずっとここに暮らすかもな……)」




なんて思ってた私はふと時計を見て、そろそろ行かなきゃと出勤した





















新人の仕事としてとりあえずお茶出しとかの雑務が中心で、やる事が無くなったら地下訓練場で戦いの練習をする毎日

そして今は分史対策室で戦闘記録を見ている


戦闘記録だけでわからない事だらけだけど、1つわかった事がある

“分史世界”ってのは、この現在いる正史世界と似ているけど何処か違う世界

後にトリップして最初に会ったあの男女の2人組みに再会して「新人エージェントで記憶喪失とは気付かず失礼しました」と謝られた時

彼らに機械に撃たれた形跡が無い事と分史世界の説明を聞いて、私が“タイム・リープ”と勘違いしたあの空間が捩れるような感覚が分史世界に侵入する事で、正史世界とはたしかに色々違うと理解した




「ん、リルはまだ分史世界には行かないのか?」




……なんて、そんなハチャメチャな初・分史世界の侵入を思い返している時に話しかけてきたのは

眼鏡をかけて金に近い明るい茶色の髪を持ち、白い上着のスーツを着た分史対策室の室長ユリウスさん

開発部とも掛け持ちしているすごいエージェントだ


普段はあまりいないのに、今日は珍しく、分史対策室で書類を書いていた




「はい。いつか分史世界での戦闘を教えるって聞きましたけど……まだ雑務です」




そう言うと、ユリウス室長は「まぁ頑張れよ」と野菜ジュースを私にくれた




「あ、ありがとうございます」

「最近昼ご飯はパンしか食べていないだろ?バランスを考えて体調を整えないと、練習前に保たないぞ?」

「あっ、はい」




私自身はユリウス室長とちゃんと話したのは今日が初めてかもしれない

けど、ユリウス室長は私の事を見てたんだ……

私が頼りない新人だからかもしれないけど、優しくて面倒見がいいような気がする……彼はまるでお兄さんみたいだ

1人っ子な私には兄弟と暮らす感覚ってあんまりピンとこないけど、上に兄姉がいればこんな感じかな?

もらった野菜ジュースを飲んでみる




「野菜だけのジュースですか?」

「フルーツが入ってた方が良かったか?」

「いえ、野菜だけでも美味しいです。トマトが主役で飲みやすい」

「お、トマト好きなのか?」

「好きですよーパスタとかサンドイッチとかはトマト入ってるの選ぶ事が多いですね』」

「奇遇だな。俺もトマトが好きだ」

「そうなんですか!美味しいですよね」

「あぁ。ここで同志に会えるなんて嬉しいよ。今度美味いトマト料理分けてやろうか?」

「わぁ、ありがとうございます!でも料理を分けるって……もしかして、作ってくれる彼女がいるんですか〜?」

「いや、彼女じゃなくてな……」




ユリウス室長はなんか照れたように笑った

まさかここでユリウス室長がトマト好きってのがわかったのと、何やら照れ笑いしたくなる大切な人がいるのを知る事ができて私もついニヤついた笑顔になった

いいなぁ、その大切にされている人

いや、室長を恋愛対象として見てるわけじゃないけど、こんなに優しい人なら大切にされている人は幸せだろうなぁって思っただけ

その後、ペットがいるって可愛い猫の画像を見せて紹介してくれたりして楽しく会話を続けていると……





「おい、リル」




後ろから私を呼ぶ声がした


うっ…この声は……


そう思って振り返ると


そこには不機嫌そうなリドウが、腕を組みながら指をトントンとイラつかせた動きをしていた




「はい……何ですか?」




なるべく、明らかに嫌そうな顔をせず、自然な感じに微笑んで聞く




「なんですか?。じゃねぇだろ。こっちは忙しいのにユリウス室長と雑談だなんて、お気楽な奴だ」

「はぁ……」




なんだよ。いきなりそんな事言って八つ当たりですか?

新人だから言われる前に仕事しろって言うのか?あぁマジうぜぇ〜〜〜

ユリウス室長は「そんな言い方無いだろ?」って私を庇うように言えば、はいはいって軽い返事で流すし……何なの?




「あの……用件は?」

「地下訓練場にこい」

「え?」

「言っただろ?分史世界での戦闘のやり方を教えるって社長がお呼びだ」




え!!?そんな急に!?




「今日だなんて聞いてないですよ!」

「分史世界ってのは突然探知されてすぐに出動になる。そんな文句言うなら仕事はこなせねぇぞ?」




いや、そんなこと言われても…

とりあえず、彼の言葉に一々に言い返していたらキリが無いから「わかりました」と返事してユリウス室長に一礼してからリドウと地下訓練場に行った




















「もー、そういう事は早く連絡してほしいっすよ……」




地下訓練場に行くエレベーターの中で私はリドウに言った

どうやら、リドウと一緒に行った数人の部下の1人が大怪我をしてしまって、次の分史世界に行けないでいたらしい

そこで、数ヶ月経ったから早く私に分史世界での戦闘のやり方を教えて、代わりに連れていきたいという訳だが……

まぁ、苛立つのはわかりますけど、八つ当たりは本当に勘弁だ

私の言葉に「あぁ」としか言わない。こりゃまだまだ不機嫌が直らないだろうな


嫌だなぁー逃げたいーって思っても、こいつは医療と分史対策を掛け持ちしている分史対策室の副室長で残念ながらあたしの直接の上司。だから逃げたら殺される


初日からこんな調子だもんね

ようやく名前で呼んでくれたって思ったら……

馬鹿にするか、小言の多いネチネチした説教。更に今みたいに八つ当たり

金と名誉が命で性格はこんなのだから、普通だったら最悪ステータスで人が寄り付かないと思うけど、実績がある事や見た目はイケメンで変なところで社交的だから、ファンクラブがいる程モテる憎い奴

ユリウス室長にもファンクラブいるらしいけど、どっちが多いのかな?

まぁどっちが多いだろうと別にどうでもいいけど、部下になると疲れるよ〜ってリドウのファン達に教えてやりたい



何も話さないから、そんな事をずっと考えていると

エレベーターは止まり、扉が開いた


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