出現。そして…
翌朝、宿から出るとそこには既に皆が集合していた
「ナァ……」
「エル……大丈夫?」
昨日から様子の変わらないエルに、ルルとジュードは心配して声をかける。それに対してエルは黙って頷くだけで、体の調子は大丈夫なのはわかったけど…
すぐには立ち直るのは無理。そうわかっているんだけど、私とルドガーも何か言おうとしたその時、ルドガーのGHSの着信音が鳴り、出てみるとノヴァからだった
「ルドガー、今いい?いつもの催促なんだけど…」
「……ああ、わかってるよ」
「いつもごめん。けど私、これが仕事で……」
申し訳なさそうに取り立ての話をするノヴァにルドガーは静かに了解して、電話を切る
終わった後に深いため息をして俯くルドガーを見て、彼は本当はこんな時にそんな話を聞きたくなかったのがわかった
「ルドガーさん、どんな時でも現実はついてまわるものですよ」
そこでローエンがそう言うとルドガーは「わかっているよ」って返事をする
そうだよね。この世界の危機とか、ルドガーとエルや皆がショックを受けるような事があっても、それは私達とか一部の人間にしか知らない世界。周りはそれを知らずに自分の持つ世界で必死なのは当然だ
「現実を考えれば、エルをこれ以上危険にさらすべきではないだろう。ローエン、エルが安全に過ごせる場所を確保してもらえないか?」
「それはかまいませんが…」
現実を…って言葉にミラは、心身共に優れないエルをこのまま一緒に連れて行くと、余計に辛くなるのでは?って考えて、そうローエンと話していると…
「エルがニセ物だからおいてくの!?」
それを聞いたエルは悲しそうに皆にそう言った
「そんなはずないだろ」
「そんなはずある!パパが……そうだし。パパが一緒にいたかったのは……本物のエルなんでしょ?」
「どうだろう?だってヴィクトルさんが本当に今ここにいるエルをいらないって思うなら、最後までああして優しくなかったんじゃないかな」
そう、最初はヴィクトルさんの言動に「娘を利用して助かろうとした狂った父親」な印象を受けたけど……
最後のあのエルに対する優しさや、ルドガーに託したところから考えると、彼はただ純粋に愛する娘を助けたかっただけかもしれない
今となっては確かめようの無い事で、ただの予想でしかないけど……
「だけど、今確実に言える事があるよ。それは……ルドガーは今ここにいるエルをどうでもいいなんて思ってないよ」
「でも、ルドガーは、ちがうエルのパパなんだよね?………エルじゃない本物のエルの……」
「それは……」
私とルドガーとでエルを励ますけど、エルは知ってしまった辛い現実を言うばかり
…私達は言葉を詰まらせた。口と気持ちは違うよって言いたいんだけど、知ってしまったのを今さら変えられる根拠は何処にもない
まだ幼い少女の自分が生きていてはいけない存在だと思ってしまった心に、何も出来ない自分が情けなくて悔しく思った
皆が何も言わない中、エルは自分の口から言うのが辛い事を言い終わると、だから最後まで連れて行ってほしいって目で訴える
「わかった。一緒に行こう」
エルを心配して提案した事が逆にエルを悲しませると気付いたミラは、訴える目にそう答えた
それを聞いて安心したエルだけど…すぐに俯いて誰とも話さなかった
「(エル……)」
私は本当に情けない…こんな時に、消えてしまったもう一人のミラなら、なんて声をかけるんだろうって思ってしまうなんて
―――――――――――
ルドガーの借金返済を済ませ、マクスバードに行ってクランスピア社からの指示を待っていると、他に行っていた仲間達が来て合流する
そして事情を聞いたであろうエリーゼとレイアが港の端でルルと一緒にいるエルに声をかけていた
「元気出して」とか励ます声が聞こえるって思っていると、ガイアスが「事情はローエンから聞いた」って話を切り出す
「元気出せ……って言っても、無理かもだけどさ」
「うん……」
アルヴィンも何も出来なくて心配そうにエルを見る事しか出来ない。私はそれに頷いた
一緒に行った仲間だけじゃなく皆も思う事は同じだ。こんな悲しい事実がわかってしまって自分自身も驚きを隠せないけど、エルとルドガーを考えると……声をかけたいのに、かけられない
その時、ルドガーのGHSが鳴って確認するとそれはクランスピア社からでメールで指示が来た。それを横から覗き込んだミュゼが読み上げる
「――到着を確認。カナンの道標を五芒星形に並べよ――。動きが筒抜けで、嫌な感じね」
ミュゼは読み上げた後にそう言って横目で何かを見る。それに合わせて私達もそっちの方を見ると、港にある柱の影にクランスピア社のエージェントが隠れて私達を監視するように見ていたのに気付く
何これ……そんな事しなくても私達は逃げないのに。それとも、逃げ出すような事が起きるのか?やっぱカナンの地ではなく別の何かが現れるのでは?
そうクランスピア社の動きを怪しく思っていると、エルが「ゴボーセー…?」って聞きながらこっちに来た
「道標を並べてどうするんだろう?」
「カナンの道標への地図でも表示されるのでしょうか」
エルの後ろからエリーゼと一緒に来たレイアとローエンが、何が起こるのか予想をしたけど私もルドガーもそれはわからない。
とにかく、やってみるか……そう思った時に、クランスピア社の異様性を考えて嫌な予感しか出来ない私は本当にその通りにしていいのか悩んでいると…
「大丈夫だ。何があっても私が皆を守る。だから何も恐れる事はない」
「ミラ……ありがとう」
ミラが私の近くに来てそう話して微笑んでくれたから、少し安心して指示通りにする事にした
そうだよね……ミラだけじゃなく皆いるから、今まで色んな事を乗り越えてきた仲間がいるから大丈夫だ
「エル……やってみるといい。それは、エルとルドガーが集めたものだろう」
「う、うん……」
ミラに言われたように道標を並べようとしたエルは、五芒星はどんな形かわからないせいか、立ち止まったまま考えていた
「五芒星は星の形のことだ」
「星の形…?」
ルドガーがそう助言して試しに道標を四つ置いてみると、あと一つで五つの先端を持つ星なる形になった
それを見たエルは理解して、その最後の一つを足りない部分に置くと……五つの道標が光り出して、本当に星の様に輝き始める
「ルドガー、星!」
言われた通りに星になったのを見て喜んだエルはルドガーを見ると、ルドガーは微笑んで「ああ。星の形になったな」って言う
少し元気が戻ったかな?って思ったけど、ルドガーと話したエルは、すぐにまた現実を思い出して悲しそうに俯いた
「ルドガー……ルドガーはパパと同じ人なんだよね……?パパと一緒で……ニセ物のエルは、いらないと思う?」
「……っ」
星の形だったカナンの道標が空中に浮いて一つの光の球体になった時に、エルがそうルドガーに静かに聞いた
…一緒に来たのはいいんだけど、やっぱりルドガーは自分をどう思っているのか気になるよね
それに対してルドガーは「そんな事ない」って言おうとした
その時
「ルドガー、あれ!」
「っ!」
カナンの道標を見ていた私達はジュードの声を聞いて、彼の指差す方を見ると……
いつの間にか空が曇った夜空みたいに嫌な暗さになって、そこに浮かぶ大きな月が見え
たと思ったら………その月にまるでカナンの道標に導かれるように小さな月が現れて近づく
やがて小さな月が大きな月に重なった瞬間に小さい月は溶け始め、それが黒い光で出来た大きな瞼から覗く眼になる!
今度はその眼も涙を流すように溶け出して下に溜まり始めた
何なの……あれは……!?
カナンの地に通じるゲート?それとも、予想していた最悪な……呼び出してはいけないこの世の終わりを告げる物が現れるんじゃないか?って不安になっていると
「ミラ!」
「オリジンめ、あんなところに隠していたとは…!」
ミュゼとミラのそう話している声が聞こえて、二人は何を知っているのか聞こうとしたら
溶けた眼が溜まったものは黒くて大きな球体になり、やがて変形が止まると……
まるで時歪の因子みたいな黒くて禍々しく輝く球体の中心に、母体で眠る胎児のような物が現れた!
まさか、あれが……!?