しかえし
あの後、ヴェルさんがビズリー社長に連絡してみたけど繋がらなかったから、結局ビズリー社長の行き先を聞いて私自ら行く事に
今までは面倒だのなんで私が…とかの文句も出ただろうけど、急に何の前降りも無く私が現れたら社長もリドウも驚くだろうという楽しみを思い付いたから文句は一切無し
「わかりました。ありがとうございますヴェルさん。では……」
「あの。リル副室長……」
「?、はい?」
「その……本当によろしいのですか?」
あれ。珍しいな。仕事第一で一切私情を挟まないヴェルさんが私の心配をする様子で最後に確認をするなんて…
まぁノヴァほどじゃないけど色々話した仲だからね。それを思って言ってくれると思うと嬉しい
………けど
「うん。私はもうやる気満々ですから、もう止められないですよ!」
そんな彼女の気遣いを私はすっ飛ばすように笑って宣言した
それを聞いたヴェルさんはため息じゃないけど一つ息をついて間を空けた後に「そうですか………わかりました」って返事をした
……本当に申し訳ない事言ってしまったな
やっぱりヴェルさんは仕事の大切さを尊重してるから、もうそれ以上は何も言わないだろう。そう彼女の事を知っててやってしまった事に罪悪感を感じながらも急いでいたからお礼を言ってさっさと電話を切る
「(さぁて………)」
私は急いで教えてもらった場所に向かった
リドウに先を越されてたまるか!という気持ちで
――――――――――――
カナンの地が出現してから暗く黒紫色の空になってしまったマクスバードとその近くの地域
おそらく社長達はカナンの地に近い所で重要任務をするんだろうって思い、その近辺を探しながら走る。その中で私は段々焦りを感じていた
もし擦れ違いになったら?とか、リドウが任務を終えてしまったら?とかの不安が過る度に焦りが増していく
それでも諦めずに予想が当たってほしいと思いながら探し続けていると……
「………なら、お前に最後の仕事をやろう。リドウ」
「光栄です……」
少し離れた所に彼らは居た!何やら話をしているビズリー社長とリドウを発見した事に私は間に合った嬉しさと、これからどうなる事だろうって期待が一気に込み上げ舞い上がってしまい…
何も考えないまま突っ走って行きビズリー社長達に大声で話しかる!
「社長待ってください!それは間違っています!!」
私のそんな場違いとも言われそうな元気な声が周りに響き、ビズリー社長とリドウが驚いて私の方を見た
ああ。この台詞いつかに言ったな…だけどあの時とは状況が違う。今は私の方が優性だ。もっとやってやろうと思いながら近づく
「む。……リルか?」
「なっ…!?なんでお前が……!?」
ビズリー社長の驚きは普通で“おお。来たのか”ぐらいの程度だけど、リドウの驚き方はすごい
まるで……いや、事実か。全ての企みが潰されて絶望した顔をしている!
その時、ビズリー社長に隠れて見えなかった小さな身体が一歩前へ出てきた
「リル……?」
それは……エルだった!
よかった。無事だったんだね…って言おうとしたけど私はエルの顔を見て驚いた
その小さな右手と右頬は少し黒く染まっていたからだ!
あれは首の後ろから出てきた時歪の因子化…マクスバードで別れてからもうあんなに進行しているなんて…
「エル!」
私はエルに駆け寄って肩をそっと抱いた
「一人で怖い思いをさせてごめんね」
「ダメだよリル……逃げて……」
「大丈夫だよ。ルドガー達ももうすぐ助けに来ると思うし、彼は……死なないから」
小さな身で大事な人を守るエルの意志と努力を尊重した私はそれ無下にすることは言わず、ルドガーは死なないしもうすぐ来てくれるとだけ言って安心させようとした
それを聞いたエルは驚いて不安を隠しきれない様子だけど、私の言った事を信じようと頷いてくれた
そう……ルドガーは…死なない。否、死なせない
私はエルから離れて本来の目的を果たすためにビズリー社長に向き直って言った
「私はこの通りです。彼は……リドウは嘘の報告と私に理不尽な悪態をついて私の任務を奪おうとしていま……」
「黙れっ!!」
私が言い切る前にリドウはそう怒鳴って私にメスを投げつけた!
だけど、その直前に脇に待機していたエージェント二人に押さえ込まれてしまい、メスは短い距離を飛んで虚しく地面に落ちる
「フッ……どうやらその通りだな」
リドウの様子を見て、そう何かを悟ったように小さく笑うビズリー社長
「では……!」
「ああ。今から行う重要任務は初めから任せていた君にやってもらうよ」
それを聞いたリドウは私が返事するのを邪魔するように「やめろおおおおお!!!」って叫ぶ
「………随分、必死ですね」
私はリドウの方を向いて見下すような目で見てやった
それこそ今まで彼からやられた“駄々をこねる子供を呆れたような目で見る”ってのを今度は私が
「どうですか?自分の都合良いように利用して捨てた女に仕返しされる気分は。自業自得。因果応報だって自分自身を呪ってくださいねっ!!」
そう言った後にこれでもか。と追い討ちをかけるように笑ってやった
リドウは部下に押さえ付けられながらも「やめろ!」とか「俺の話を聞け!」とかうるさく騒ぐ
「負け惜しみ感が半端なくてキモいわ〜」
両手を口元の所で合わせてぶりっ子みたいなポーズをわざとらしくやって、そう罵倒してやる
そして。いよいよ一番デカいダメージを与えられるであろうメインに……本来私に与えられた仕事を見事にこなす姿を見せつけてやろう
奪った仕事を奪い返されて、さぞ悔しいだろうな……
そう思いながらビズリー社長の前に立つ
「もう話は済んだか?」
「はい。あんな奴とはもう何も話す事はありません」
「そうか?仮にもリドウは…」
「やめてください。私はもう彼とは何も関係ありません。だって彼にとって私は用無しですし私も彼を追いかける気はありません」
きっぱりそう答えると、ビズリー社長はまるでリドウに対して哀れだなって言うように苦笑する
「そうか………なら、結晶をこちらに渡しなさい」
「はい」
腕に付けたり、側だけの懐中時計に入れてた結晶……
今まで色んな困難を乗り越えるのに手助けしてくれた不思議な力が込められた綺麗な物。そんな中で少なからず疑問に思うところがあったけど、それがわかった今、私にとっても最大の切り札になった
それをビズリー社長に渡すと、彼は花弁状にくっついていた結晶をまじまじとよく見始めた
「随分使ったみたいだが、まぁいいだろう……」
たしかに知らなかった間にとは言え、結構頼ってしまったからな……けど、大丈夫そうだから安心した
さぁこれで遂に……!!
「クソッ…クソオオオオオオオオ!!!」
押さえ付けられてるリドウは、どうやら何かの仕掛けのせいで部下2人を退かす事が出来ず叫んでいた
うわ。今まで聞いた事のない悲痛な叫びがリドウから出るなんて……怖いからそっちはもう向けない
ビズリー社長を真っ直ぐ見ていると
彼はあの結晶のブレスレットを持った手を握り、構えた
「では、リル。お前の任務は……」
その言葉を聞いた瞬間………
私の腹部に大きな衝撃が来た
次にそこから火が吹き出すような熱い感覚が来て……すぐに激痛となり全身に広がり言葉を失う
そう。ビズリー社長のブレスレットを持って構えた拳は……
私の腹部を貫いた
めり込んだ社長の腕を見ていたら、胃から逆流してきた血が口から出てしまう
次につい無意識にリドウの方を見ると………リドウは目を見開いて、叫んでいた口を開けたまま言葉を失い硬直していた
……彼はあんな顔もするんだ。そう思っていると自然と目尻に涙が溜まってきてた
なんで涙が出てしまうんだろう?今まで体験したことの無い痛みのせいだ……きっとそうだ
だけど私は私を散々利用して捨てたリドウに復讐出来たんだ……だから……
わ……笑って……“してやったぜ”って顔を……して……勝利を掴んだのを……見せ……つけ……ないと……
なの……に……
「(な……ん……で……涙が……止まら……な………)」
い…た…み…の……せい……?
………そ…れ………と……も…
…………
「いやああああああああああ!!リル−−−−−−−!!!」
「この結晶に命を注ぎ、無垢なる生け贄となれ!!」
今、一人の人間がいなくなった世界で………悲しむ少女の悲痛な叫びが響き
自分達の勝利を確信した男は
血にまみれた儚く光る結晶を、長年待ち望んでいた兵器に変えた