時代に翻弄された者・前編(リドウ視点)



思えば一体何のために生きてるのか

今までの人生は何なのか

ふと思ってしまうが、このまま周りや運命とやらに振り回されて、ただで死んでたまるかって気持ちにすぐ切り替える。答えを出せないまま

元々両親からハズレを引いたような顔をされ捨てられた身だ。他人を思いやる気持ちどころか自分すらどうしたらいいのか、わからなかった



そんな時だったな。お前に出会ったのは



クランスピア社に拾われた時から変わらない分史世界を消す仕事。いつもと同じように分史世界に行ってそこの世界を作り出してる時歪の因子を破壊する

その日もそうしたいつも通りの順序を辿ると思っていたが、そうじゃなかった


女一人。無残に転がる死体や暴れ動く機械に顔を青くしてその場に硬直していた


誰だあいつは。社内でも街でも見かけない小柄の女だ

つまり分史世界の産物で時歪の因子かと思ったが、俺が近付いても反応無し。で、その後に因子が機械だったのに気がついてすぐ破壊

難なく任務完了になり正史世界に戻って来ると、あの女も居やがった

分史世界に来れて正史世界に戻って来れる………こいつはクルスニク一族で新人エージェントなのか?

色々疑問に思ったが、女をよく見ると腕と足から出血をしていた。恐らく因子だったあの機械にやられたんだろう

俺は……クルスニク一族だったら利用出来る価値があるんじゃないか?と軽く思って治療と言う名の恩を押し付けた







治療はなんとか終わり治療代の借金の書類を制作すると、女が目覚めたらしく様子を見に行ってみりゃ……この世界じゃ聞かない地名を言って俺の言葉には首を傾げて聞く

何なんだこいつは……新人エージェントにしては出来が悪すぎるレベルじゃないだろ。分史世界の破壊で面倒なものを拾ってしてしまったな。って頭を抱える

しかも自分は学生と名乗る始末。普通の学生があんなところに居るわけがないだろ。こいつは頭の治療をしてやろうか、利用価値が無さそうだからさっさと帰ったらもらおうか……など色々考えていると



女がオリジンに選ばれた証を持っていた



クルスニクの鍵よりもっと貴重な能力を与えられた証である花の形の結晶をしたブレスレット。あんなものは単なる伝説にしかすぎないものだと思っていたが、実在していたなんてな…


俺はすぐに女を連れて社長に会わせると、彼も結晶を見て間違いないと言う。それを聞いた俺はしめたと思った

何故なら古くから伝わる一族の話ではこう記されている



“無の精霊に力を与えられし者が現れた時、一族の糧となり審判への道に大いなる前進をもたらす”



つまり、オリジンの結晶を持った奴は…



その結晶に命を捧げると、審判の妨害をするクロノスに対抗できる武器になり、カナンの地への道を開く事ができる



クルスニク一族ではない人間が選ばれるから、時歪の因子にならないし一族の歴史も知らない。だから詳しいところを教えずにカナンの地が出現するまで利用出来る……まさに一族からすれば最高の生贄だ



ただ、その結晶には他にもいくつかの能力とやっかいな仕組みがあった。精霊術が使えるようになる事、力の増幅、そして…危機迫る命を助けられること

この危機迫る命を助ける力ってのが俺にとって…生贄になるのを待ち望んでいる者には不都合な能力だ

自身や他者が絶体絶命に直面したり命が尽きそうになった時に結晶の力を最大限まで使って危機から守ったり回復できる。が、それと引き換えに結晶はだんだんと壊れていく。花の形だから花弁一枚一枚

そうして完全に結晶がなくなると、与えられた者は能力が無くなる

能力が無くなるからって命も奪われるってのは無い。だから生贄にしたければ所有者にその最大の力を使わせない事だ



俺は社長と“カナンの地が出現するまで女は俺が監視する。見事に成し遂げたらその女を代わりにして俺が魂の橋になるのは免除”という契約をする

これでようやく……俺は今から生き延びた時の先を考えられる楽しみを見出したような気がした











それからは色々面倒な事とかあったな。女…リルと名乗った奴は異世界人で、まずは文字の書き方や歴史やらありとあらゆる知識を覚えさせなければならなかった

まぁ俺と社長そしてヴェルにしかリルが異世界から来た選ばれた者だと知らない。それ以外には記憶喪失として生活してもらっているから他にも奴の為に必要最低限の知識は教えてくれる人間はいた

さて、どうやってこの女を監視しようか…?とりあえず今はただの上司と部下の関係にしておこう。どうやらこいつは仕事面ではそこそこ使えるから慣れてきたころに面倒事を押し付けようか


そう考えていた時に当然ながら色んな奴らがリルに関わる。その中でもユリウスが近づきすぎだ


このままだとあいつが結晶を所持してるのがユリウスにいつかバレて俺の契約が消える……

そんな事にはさせないと思った矢先に今度はリーゼ・マクシア人でミラ=マクスウェルの巫子をしていた男…イバルとか言う奴が新人としてクランスピア社に来た

リルはイバルを可愛がり、イバルもまたリルを慕っていた。その一方で俺との関係は悪くなるばかり。俺と奴の性格から考えると衝突が多いのは当然だし今更訂正したくもない

だけどリルは女だ。子供っぽい所があるがもうすぐ成人する。この先ユリウス以外にも関わる者が増えるかもしれない。そうなればやがて意気投合した者が現れ、恋に落ちて新な生活を始めようと俺から離れて行くかもしれない。それだけはなんとしても阻止しなければ


……これだけの文だと、まるで俺はリルに恋をしてて周りの男達に嫉妬してるみたいだな


そりゃあり得ないと笑ったが、案外それはいい考えだと思った


つまり………リルを俺に惚れさせて身も心も逃がさない策だ


今まで色んな女を落としてきた俺には容易い事だった。周りに俺とリルは良い雰囲気になってる事を噂で流す。社員には味方になってもらい、ファンには敵となって攻撃してもらう。ここで俺が近付いて様々なアクションを起こす

そんな時にひょんな事から俺の身の上を知ったらしく、そこで同情するような目で心配してきた。はっきり言ってお節介でムカついたが、ここで俺は奴の優しさに感謝する事を言うと、そこから思うように事が進んきた

ろくに恋愛を経験してなさそうな女だなって思っていたら、正しくそうだった

不本意だが敵の攻撃から庇って怪我をするとリルは完全に俺に心を奪われたようだ。これはリルを物にできるチャンスだと、調べておいた誕生日にサプライズの祝いとプレゼントを渡して告白……「恋人」と言う利用するために縛る名目のための上っ面な申し込みをした

リルは感動しながらそれにOKしてくれた。よし、やったぞ…!これで俺から離れず俺のために動いてくれるはずだ…!

リルは他人に優しすぎる性格だし俺に心底惚れてるようだから俺の命が危うくなったら、なりふり構わず自分の命を差し出してくれるだろう。俺はこのときから結構期待した

あとは……その気持ちが失せないように、カナンの地が出現するまでこの“恋人ごっこ”で機嫌取りをしないとな

維持はそう難しくない。男を知らない奴だからむしろ教えておくと喜ぶだろう


そう。俺はリルに対して恋愛感情なんてこれっぽちも持っていない。俺が橋にならないように利用してるだけの存在


せいぜい俺の……退屈しのぎと未来のために働いてくれよ?



何も知らない哀れなリル……


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