時代に翻弄された者・前編(リドウ視点)



道標は残り一つになった時、また問題が起こった


その最後の道標のある分史世界への侵入が出来ないらしい。どうやらこっちの世界での正式なマクスウェルが次元の狭間で障害になってるとのこと

どういう事なんだ?どうにか出来ないのか?と誰もが思った時にニセ者のマクスウェルとリルが青い顔をして出ていきやがった



これは何かあるなと目を付けた俺は誰も居なくなってから二人を尾行した。そしたらビンゴだ

マクスウェルが次元の狭間からこちらに来れないのは、この世界にニセ者がいるから


それを知ったリルは今更自分達のやった事がどれだけ残酷なのかを知ったみたいだな。中途半端な気持ちと下手な同情で分史世界の偽者に余計傷付けた事を

俺はニセ者にどう言葉をかけたらいいか悩み俯くリルに鼻で笑うと、何を思ったのかリル自分の正体を明かしやがった

いくらこの先生きる道の無いニセ者相手でも、なんて事しやがるんだって俺は唖然とした。リルは自分もまた自身の意思とは関係なくこの世界に来たから気持ちはわかるって事を言いたかったらしい


傷の舐め合いしてるのはそんな理由からか?って思っていたら、本当にそうだったなんてな……ったく、あの女。余計な事言いやがって……


他人に気を使う優しすぎる奴だとはわかっていたが、まさかここまで甘すぎるとは……これ以上必要ない事まで話されれば不都合だと判断した俺は、リルが目を離した隙にニセ者マクスウェルを消してやろうと得物を構える


その時に別行動をしていたリルの仲間が次々と来て、アルクノアがリーゼ・マクシアとエレンピオスの和平条約調印式を妨害するためテロを起こす情報を掴んだと話してきた

アルクノアと聞いて黙っちゃいられないリル達はマクスウェルの問題を一先ず置いて、すぐにテロを阻止するために動き出す



…これは好都合だな。実は前から個人的な取引相手にアルクノアの一員がいるんだが、その一員は俺を使ってクランスピア社からテロに使えそうな物を横流ししてもらおうと目論んでる奴……逆に利用させてもらう

俺は別にアルクノアの肩を持つわけじゃない。全ては最後の道標のため

すぐに俺はアルクノアの一員に連絡を取った














俺が最新の兵器を持って加勢すると聞いたアルクノアの一員はすぐに迎えを寄越した

それに乗ってペリューンの中に行くと、これはまたいつも以上に派手にやってるなって無残な状態になった船内を見渡す

……途中、通路に横たわるいくつもの死体を見つけては正史世界で医者をする俺は複雑に思ったが、今は俺自身に関わるものに繋がる事をしなければならない。当初の目的を思い出し“儀式”に使えそうな場所を探す


ニセ者を消して本物のマクスウェルを召喚させるための儀式をな


やがて展望の中央ホールにたどり着き、その場にいたアルクノア達をすぐに抹殺。生き残っていたマルシア首相とその付き人達にはしばらく眠ってもらう……



その時、リル達がここまで辿り着いて、俺を見て心底驚いていた




考えてなかっただろ?




“恋人”である俺がこんなところにいて、首相に危害を加えてるんだからな




骸殻に変身し、その場に立ち尽くしてる奴らを使って儀式の準備をした


リルは……生体回路には相応しくねぇから邪魔にならない所で大人しくしてもらう


……悪く思うなよ?最後の道標のためが第一だが、お前らがニセ者に情を持ったのと、余計な事を話すから尚更ニセ者には消えてもらう事になったんだからな


叫ぶ事しかできないリルを無視して、ニセ者にトドメを刺しに行く


ニセ者はルドガー君に助けてもらって宙ぶらりん状態。こんな時普段の俺ならルドガー君ごと落ちてもらうように攻撃をするが、社長の命令があるから下手にルドガー君は巻き込めない。つくづく運が良いのか悪いのかわからない男だな


そうなればあの唯一繋がれてる手をどうにか……そう考えた時にあいつらが連れているエルとかいうガキが必死に剣を持って俺の妨害をしようとした

全く……ニセ者はこれほど大人気だったとは。まぁ俺には関係ないからさっさと終わらせたい

俺はエルを黙らせてからニセ者にトドメを刺す事にした。こうすればルドガー君はニセ者を取るかエルを取るかで悩む

元々こんなガキを殺すつもりは無いが、殺されると勘違いしたルドガー君がニセ者の手を離してこっちに来てもいいし、悩んでる間に繋いでいる手に限界が来て自滅するのもいい

どっちにしろ、ニセ者が消える運命は変えられない

さぁどっちを選ぶんだルドガー君…?




そう思っていたら、遠くに離していたリルが自力で術を解いてルドガー君達の元に飛ぶ

そして同じように自分の武器を支えにニセ者の手を繋いで助けようとしやがる!

おい……何してんだよ!あの馬鹿女!!

その術に飲み込まれたら二度と戻って来れねぇんだぞ!!



俺はリルにこれは分史対策エージェントとしての任務の妨害になると言ったが、聞く耳持たず

更に結晶の一部を砕いて渡す始末



そこまで……その中途半端な友達ごっこをしたいのか!



この時ばかりはリルの他人に対する優しさに本気でキレた俺はエルの命と引き換えだと脅すと悔しそうに黙ったが、何を考えてか諦めずにニセ者を助けようとする

クソッ…お前の気持ちは変わらないんだな…!?

仕方ねぇな。ガキよりもニセ者を選んだ結果を見せてやろうとエルに刃を振り下ろそうとした



だが、ここで予想外の事が起こった





俺が持っていた得物に突然衝撃がきたと思ったら、それは吹き飛んだ

それは何かがぶつかって飛んだのはわかったが、一体何が…

飛んできた方向を見ると




ニセ者を飲み込むために開けた術

そこの入口でニセ者を助けようとしていたリルが投げた物だった




つまり、あいつは自分の支えであった武器を投げたわけだ






……そして、リルは何も言わずに術に飲み込まれるように落ちて行く





周りはリルが落ちた事でショックを受け、唖然とする者もいれば叫ぶ者もいる




そして俺は……



すぐに術を止めようとした



まさか自分の命を差し出してまでの気持ちだったとはな…だが、お前が死んでどうするんだ!代わりに犠牲になっても分史世界のモノは救えるわけがない…!

この時俺は焦ったが、これは俺の身代わりが失われるって思ったからだ

だが……何とも言い表せない感情がある

それは自覚しつつも今は深く考えず、リルを連れ戻そうと術を解除しようとしたら……



ニセ者はリルを救うべく、自らルドガー君の手を振りほどいて後を追うように落ちて行った



なんで今落ちて行くんだニセ者…!


せっかく落ちてもらったからにはそのままにして正史のマクスウェルを呼びたい。だが、そうすればリルも一緒に消滅する…かと言って術を解除すればリルだけじゃなくニセ者も戻ってくる

どうする…!?

考えていると、手の空いたルドガー君がガキを助けに俺に槍を振り下ろしてきた

ったく…こっちの気も知らないで突っ込んで来やがって…!

俺はどうしようもない苛立ちをルドガー君にぶつけるように応戦した









すると……術からいきなり光の柱が現れ、それが消えると空中から


正史のマクスウェルとリルがゆっくり降りてきた




周りは驚いてマクスウェルの登場とリルの奇跡の生還を見ていると、マクスウェルはエルから剣を受け取り俺に向ける

俺は……何事もなかったように当初からの狙いだったマクスウェルの召喚の成功を喜んでみせた

さすが本物のマクスウェルだけあって精霊術の威力は半端なく、一撃でやられてしまったがまぁいいだろう。俺は目的を果たした

首相とかはこいつらに任せて引かせてもらう

リルの…ニセ者を犠牲にした事に対する怒りの声を聞きながら煙に紛れて船を去った
















後は…残ったアルクノアで俺の情報が行き渡ってるところを消すか

今クランスピア社に行ってもマスコミに追われて面倒な事になるだけだからな

にしても、リルの奴。ヒヤヒヤさせやがって

だが、いい……これで奴は自分よりも他人を助けたい気持ちがわかった

いずれ俺の時も…





と、思ったが………何故か俺が橋になる時にリルが身代わりになるって想像が出来ない




……ったく、予想外の事が起きすぎて頭が上手く働かねぇのか?

自問自答しながらも俺は世間である程度アルクノアのテロについての騒動が収まるのを待った

これで良い。これで良いんだ。橋にならなくていいのは俺の望みでもある


だからこのままで良いんだ…




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