時代に翻弄された者・後編(リドウ視点)



リル、そしてルドガー君達が最後の道標を手に入れ、遂に遥か昔から一族が目指すものとして契約された忌々しき運命の地……カナンの地が出現した

部下からの連絡で知った俺は空に浮かぶ黒く禍々しい球体を見て穏やかにいられなかった




リルを……どうするか




俺は知ってしまった



リルの言葉や気持ちが素直に嬉しく思ってしまう事

リルが側にいて俺と他愛もない話をするのが楽しくて心の中で安心する事

リルが命の危機に直面した時には、最初は利用出来なくなるなって思っていたのが、やがて居なくなるのを恐れる気持ちに変わった事

リルが……利用するためとしてではなく、心から大事にしたいって思ってしまった事



俺は……リルを利用するのを止めようと思った

だが、止めてどうする?リルに本当の事を話すか?

いや、本当の事を話したら他人を思いやるリルの事だ。どうしようもならないってわかったら俺を庇いに行こうとするはずだ

じゃあ、二人で逃げるか?それは……あまりに無謀な事だ

それにそのまま逃げて、もし審判が失敗したら俺は時歪の因子に変わり果てリルを一人にしてしまう

もしかしたらその時歪の因子になった俺をリルが破壊しなければならない状況になるかもしれない


……審判の前に面倒な気持ちに気付いてしまったな


だが、それでも結果的に俺は満ち足りた気分になった。元々何も無かった人生に一時だけ光を感じる事が出来たから

ルドガー君を大事にしてるユリウスも……少なからずこんな気持ちでいるだろう



だから、リルを審判に巻き込ませない



社長の事だから俺がやっぱり橋になると言っても貴重な力を持ったリルを何としても利用するのは目に見えている

どうすれば社長からリルを隠せるんだ…?





そう考えていると、ある女が俺に近付いて来た


どうやらその女は俺のファンのようで、良ければデートをしないか?との誘いだ

残念だが俺は暇じゃない。これから大事な女の命に危機が迫ってるんだ……と追い返そうとした時にある案が浮かぶ


リルを捨てて、この女と付き合うって言ったら……どうなる?


あいつの事だから持ち前の優しさで包んで許そうとするだろうけど、俺との関係を完全に切る宣言をしたらどうだ?

そうだ。クランスピア社に偽の報告書を作ってクビに仕向けるのも……


良い考えだ。俺は早速この女の誘いに応じて付き合ってくれないかと口説いた。女が俺に彼女がいるのではないか?と聞いてきたが、あんな奴は捨てると答える。そしたら女はそれを信じて頷いた

これであとはクランスピア社だけだな……まぁとりあえず、今はこの女を更にその気にさせるため一日中楽しませようか

……その一々の反応がリルとは違うと心の中で比べながら














次の日、俺はリルの退職処分状を作成した。内容は…マクスウェルの件に関してだ


道標のために俺が行った行動を邪魔した名目で

だが、それだけでは不十分。だからこれは表状の内容で本当の内容は……結晶を使いきって利用価値が無くなった。と報告をする

あとは、俺の部下に頼んで社内に置いてあるリルの私物を自宅まで運ばせる……これで準備は整った


最後にリルを探して新しい女の事と、クビを告げるだけだ

GHSで呼び出そうとしたら、あの女からの着信が入る

ったく、昨日会ったばかりなのにベタベタ付きまとって…と鬱陶しく思ったがリルと会わせるから丁度良い


俺は女を呼び出して通話を切ると留守電にリルの名前が表示されていた。それに対してこっちから連絡しようとしたら………リルが俺の前に現れた


今までの俺なら「狙い通りに話が進んでる。だからこのチャンスを逃さない」って思うが、何だかこのタイミングだけは起こってほしくなかったと気が引ける

だが、やるしかない。俺はリルに話を切り出そうとしたら、リルは慌てた様子でカナンの地に入る方法を知ってしまったから二人で逃げないか。と言ってきた


こいつは……


俺も最初は二人で逃げようかとも考えていたから、変なところで似ているなと笑いそうになる

だが、俺はその内側の気持ちを隠し、リルの案を否定した




その時だ。丁度あの女が来た


この時だけに利用するために口説いた一時的の新しい“彼女”

俺はリルにこの女が新しい彼女だと告げると、リルは一瞬何を言ってるのか唖然として、すぐに何かの悪ふざけじゃないか?と色々聞いてきた

だが、これは悪ふざけじゃない本気だ。と言うのがわかるとリルはあまり表に出さないようにショックを受ける

そこに俺がこんな男でも助けたいと思うか?と問う

ここでリルが考えを改め俺に怒りを表して別れる事が出来たら……と思ったが、リルはショックを受けつつ助けたいと答えた



……まだ希望はあると思ったのか?こんな俺のために


………


俺は大袈裟にリルの返事を笑ってやり、今まで個人的な目的で好意を利用させてもらったのを話した

目的の内容までは詳しく言わないが…その目的のために利用したのを途中で止めたとは言え事実だ

こんなのを話したらリルは泣き出すのでは?とも思い、少し心を痛めたがそうなった方がいい…

更に畳み掛けるようにクランスピア社からクビにしたのを話して退職処分状を見せる……リルは絶望した表情をした

俺はリルの優しさを馬鹿にしてると、リルは目尻に涙を溜めて俺を睨む

そして今まで言った言葉から俺が心から自分を想ってない事を感じたリルは……


誕生日にあげたペアのペンダントを首から引きちぎり、俺に恨み言を吐いて投げつけた


リルはそのまま走り去り、俺と女は笑って姿が見えなくなるまで笑う





これで良いんだ。これで……リルは助かる

まともな別れではないがリルの幸せを考えたら、このやり方でよかったんだ…

こうすれば最低最悪な俺を忘れて、次に良い奴を見つけて新しい道を歩く事ができる


女はリルが投げつけて地面に落ちたペンダントを拾い上げ、俺に“子どもっぽいデザイン”とか“あの子が買ってってねだったの?”とか言って姿が見えなくなった後でも馬鹿にした


………もう、ここまでだな


俺は女にそれは俺自身がリルに内緒で選んで買ったものだと言うと、女は話すのを止める

俺の表情が怒りを帯びてるのに気付いた女は慌てて弁解しようとしたが……俺はそのまま別れを告げた

リルより良い女かと思ったら違ったとかありきたりな理由を並べ、最後に子どもっぽいデザインを選ぶセンスの男は嫌だろ?って相手の失言を取って嫌味っぽく言う

女は信じられない!と焦って俺を引き止めようとしたが、その手を払ってクランスピア社に向かった

後ろから“私まで遊びだったの!?”と泣き叫ぶ声がする。……まぁあんな風になっても無理はないか。前の女を振ったと思ったらすぐに自分まで。だからな

だが、これは遊びじゃない………本気で想った女の命のための利用だ。悪いな







クランスピア社に戻ってみると、連絡を寄越した本人である社長はいない

代わりにヴェルが詳しい内容を話してくれたんだが……随分とんだ話だ


簡単に言うと、ルドガー君を副社長に任命してクランスピア社の全てを任せるから借金で縛る必要性は無くなる。そしてカナンの地に近づけるな……か

しかも街中だけじゃなく社内から出させるなって相当だな

……社長。やっぱあんたも何だかんだ言いつつ身内が大事なんですね


俺は結局、その社長一族の踏み台になるのかとため息混じりの笑いが出たが、ただの踏み台じゃないってのを思い出し、奴らがクランスピア社に来るのを待つ







ルドガー君達が来たのは数分後だった


奴もまた社長に呼ばれて来たらしいが、呼んだのはルドガー君だけだ

それを伝えるがルドガー君は仲間も連れてきたいと言い、副社長命令だから仕方ないと渋々了承する


すると、当たり前だが副社長に昇格だなんて今初めて伝えた事だから本人もお仲間も驚いた


そんな奴らに社長室に案内して社長からの映像メッセージを見せると、カナンの地への行き方について聞けると思ってきたとヴェルに聞く

…映像メッセージからわからなかったのか?社長は自身で全てを終わらせに行くからお前らはもう用済みなんだって事を


いまいちその事について何も気付いてない奴らは、エルはどうしたかも聞いてきた

ヴェルは何も知らないから答えられないだろうと思った俺は、ビズリー社長はエルを利用してクロノスを殺すつもりじゃないかと予想していた事を話すとルドガー君は驚く


…だが、他の奴らが邪魔だな。続きはルドガー君が一人になった時に話すか


待機させていた部下を使ってマティスの息子とマクスウェルを一階まで追い出した







社長室で話すのもあれだから場所を移動して、人がいないフロアでルドガー君と話す


真実を知りたそうだったからある程度の事を教えた。クルスニクの鍵は対クロノス戦には必要な事、そして……力を使えば間違いなく時歪の因子になる事を

それをどうして教えなかったか!と言わんばかりにルドガー君は俺を睨む

俺に怒ったってしょうがないだろ。お前だって散々あの娘を利用してきたじゃないか

そう言うとルドガー君は言い返せず悔しそうに黙る

そうだ。知らなくて力を使っていても……知って利用するのと同じ罪だ



ルドガー君はGHSを取り出すと社長に連絡をした。おいおい…話をしたところで社長の気持ちが変わると思ってんのか?

呆れながら様子を見ると、社長は案の定クルスニクの鍵の力を使う事と精霊を人間の道具にすると言い切った

その言葉にルドガー君が驚いてると、エルが社長と変わってルドガー君と話始めた。エルがルドガー君の心配してる旨を話し自分のやった事を謝ったところで通話が切れる

かけ直してももう繋がらないGHSを見て焦るルドガー君にこうなった以上は社長に任せるしかないと言い、下手して邪魔したらエルのように利用されるぞと念を押して俺はその場を去った




けど……あの脅しは効いてないようだったな。それよりもエルの心配ばかり



………面倒な事になりそうだと思ったら、その予感は的中した



ルドガー君は一階で待機してた仲間と共にカナンの地に向かおうとクランスピア社を出ようとしてる


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