時代に翻弄された者・後編(リドウ視点)


マクスウェルは部下達に任せて、俺とイバルは別のルートで地下に降りて行く

さっきの事もあってかイバルはすっかり俺に対して反抗的な態度になってしまったが、ここで失敗したら巫子の時と何ら変わりないぞと言うと悔しそうに黙る

そうだ。もう少しこのままでいさせてもらうぞ

俺は別に社長の命令を全て素直に聞く性格ではない。だが、この任務が成功して運が良ければ…ルドガー君を社内に留めておけば社長はユリウスの命で橋をかけて、俺が助かるかもしれないんだからな…

そして、もし許されるなら……俺が助かった時にリルに直接会って全ての真実を話したい

なんて、まだ決まったわけではない未来を勝手に想像してすぐに止める。全ては決まってからだ……




俺達は外へ繋がる通路の前に待ち構えていると、ルドガー君達が見えた




「逃がさないって言ったろ、ルドガー君」

「しまった。先回りされていたか…!」




ルドガー君が戦いは避けられないと判断して剣を構えると、イバルがマティスの息子と言葉を交わす

俺の言った事が刺さったのか、エージェントとしてこの任務を成功させるため奴も戦闘体制にはいる




「たった二人では俺達をとめられんぞ」




まだ己の武器を構えず、腕を組み冷静な目で俺達を見るガイアス王

たしかにこっちは二人、向こうは四人。だが……




「そうとも限らないのさ、ガイアス王。俺のいくつかの内臓は黒匣なんだ。子どもの頃、難病を患ってね。マティスって医者が施術してくれたおかげで助かったんだが……」

「父さん!?」




マティスの息子はその事実を聞いて驚いた

ああ。そうだ…お前の父親のおかげで俺はこうしていられる




「俺はその黒匣をさらに改造したんだよ。身体能力を倍に引き上げるように」

「無茶だ!体がもつはずが!」

「もちろん、もたない。だが、もってる間にお前らをぶっ潰せばOKだろ」




ジュード・マティス。医者の息子だからなのか?お前だってニセ者のマクスウェルを生け贄にした時から俺に憎しみをぶつけてきたのにも関わらず、俺の体の心配か?

まるでリルみたいなお人好し………



ドクンッ!



その時、俺の心臓が大きく鼓動した

抑える薬は飲んだはずだ。まだ動ける

俺はこの軽い発作を抑え、体勢を立て直した




「なぜ、そこまで自分を追いつめる!」

「教える義理はないね…!」




ああ。教えない。教えてもこの運命は誰にも変えられない。無意味だからな…!


俺は骸殻になり最大の力を増幅させ、ルドガー君達の行く手を阻止する


微かな奇跡を望む心を隠しながら






















結果はあっけなく、すぐについた


奴らの力に負けた俺達は地に倒れる




「くっ……失敗巫子の次は、失敗エージェントか……」




また重役を遂行出来なかったと自分と相手の力の差に悔しさを隠しきれないイバル

そこにマティスの息子が失敗だと思っても、そうさせないように頑張るしかないと励ましと渇の両方を言う

それを聞いて失敗を感じているのは自分だけではないと気付いたイバルは、もうこれ以上マティスの息子と戦う必要ないと判断し、少しばかり和解したように見えた




「くくく、ひどい茶番だ…」




俺は二人のやり取りを見て、思った事を口に出した

そんな事で簡単に互いを許すなんて…甘いものだと




「なにがおかしい。敵同士でもわかり合えないとは限らないはずだ」




俺の言った言葉に最初に反応したのはガイアス王。なんであんたが…って思ったが、そう言えば王も断界殻を解放するか否かでマティスの息子と戦って……今の世界にしたんだっけな

だが…




「ぬるいなぁ、ガイアス王……敵は殺せ。これは普遍の真実さ」




真っ向に否定した。それぞれ背負ってるものが違っていれば、わかり合えるはずはない

それに今の俺達みたいに自分の行く手の邪魔になるリスクだってある

そうなる前に…殺すのは当然だ




「真実に従うと、こうなるが?」




俺が言い終ると、それを聞いたガイアス王が持っていた刀を俺の首筋に当てる




「あとは動けない俺を突くだけ。簡単だろ?」




この王は簡単に人を殺せないのを見越しての挑発をした

実際にやったとしても俺はそれでもいいと思った。俺が死んだら橋を架けるのはユリウスを使うだろうし、こいつらも俺と同類になるだけだ…




「待ってくれ。こんな奴でも命の恩人なんだ」




ガイアス王が俺に手を下すかどうか…と様子を見ていると、その横からルドガー君が止めに入る

命の恩人だと?ああ。列車テロの時か…




「あははは!甘すぎだよルドガー君!お前達を治療したのも、社長の命令だったのにさ」

「ビズリーの命令で…?」

「借金返すの大変だったろ?ご苦労さん」




あれは俺の意思で治療して借金を作らせたんじゃない。全ては社長の自身の目論見のために命令されてやった事

それを理解したルドガー君は驚いて今まで俺に感じていた恩に後悔したようだ

そして、次に睨みつけながらも恐る恐る俺にある事を聞く




「……なら、リルもか?リルもビズリーの命令でエージェントに……お前の側に置いたのか?」




何を聞くかと思ったら、またリルの事かよ

まぁ気になるのは無理もないか。リルが自分の意思でエージェントになったのか、そうでないか




「ああ。リルも社長の命令でエージェントになった。社長も俺もリルを利用するために近くに置いたんだが……右も左もわからないような状態から助けてやったようなもんだから、逆に感謝してもらいたいな」




たしかに最初はルドガー君と同様にリルを利用するために置いてたから、リルに対して気持ちは無かったな

あくまで…最初だけ。な




「散々利用して……最後にあっさり捨てたくせに何が感謝しろだと!?」




俺が言ったリルに対する言葉を聞いて顔をしかめるルドガー君達。その中で怒りの声を上げるイバルが右手に持った剣で俺を突き刺そうとした

こうなるのは仕方ないか。俺は黙って奴らの怒りを受けようとしたが…




「落ち着けイバル。皆も気にするな」




イバルの手を掴み、静止させたガイアス王が俺に近付いてきたと思ったら




倒れた状態のままの俺の顔目掛けて、拳を振り下ろしてきた!




「がはっ!」

「……負け犬の遠吠えにすぎん」




まさか、こう来るなんてな…

ガイアス王が俺を殴り終わり離れると、そんな俺の様子を見て少しは気が晴れたのかイバルが剣をしまう




「これ以上あんたに従えない……今日限りでここを辞めさせてもらう!」

「あっそ………勝手にしろ」




だが、奴の気は完全に晴れたわけでない。だからそのモヤモヤした気持ちをぶつけるように俺に退職の意思を言って、その場から立ち去った

さっきの戦いで傷ついた足を引きずるように行くイバルを見送ったルドガー君達は本来の目的を思い出し、外に通じる道に進む




「予言してやるよルドガー」




俺はここで奴に…

ユリウスと同じ目をする愚かな弟のルドガーに予言と言う名の最後の忠告をした




「お前はここで止まらなかったことを、死ぬほど後悔するぜ!」




だが、それを聞いたルドガー達は何の事を言ってるのか知らずか……それともまだ負け惜しみを言ってるのかと思ったのか、気に止める様子も無く外へ行った



その何にも動じない冷血さを感じさせる瞳と態度……やっぱりあいつの弟だな


そう思うと腹立たしいが、まぁその目を向けたのは俺の言葉を真に受けて、リルを酷い扱いした事に対しての軽蔑の目。かもな

だが、その兄譲りの目は……これから後悔で一色になるのがわかる


どうなるんだろうな。と他人事のように嘲笑ってると分史対策のエージェントが二人、俺に近づいてきた




「手を貸せ、お前たち!」




俺の支援に来た部下だと思い、傷ついた体じゃ上手く動けないから手を貸すように言う




「我々はビズリー社長から別の指示を受けています」

「リドウ室長を連れてくるように、と」




だが、この部下達は俺を支えようとする事なく、更には冷静に淡々と社長の方の命令を遂行する姿勢を見せた

こいつらのこの言い様は…




「やっぱりか…」




社長は……俺を“橋”にするんだな




「貴方の内臓黒匣の制御コードはわかっています」

「抵抗しても無駄ですので、おとなしくご同行願います」

「…はいはい」




ったく、徹底してやがるな社長

もうこうなれば、完全にこっちは白旗を上げなければならない


大人しく抵抗する意思はない事を表すと、部下達は黙って俺の両腕を掴み、支えると言うよりは引きずるように無理矢理歩かせた


あーあ。結局こうなるのか



だが、俺が行かなきゃ……リルが……




俺は黙って社長の元へ連れて行かれた



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