時代に翻弄された者・後編(リドウ視点)



連れてこられた所は、あの嫌に黒い障気を纏ったカナンの地がよく見える場所。マクスバードの近くだろう




「来たな」




そこに待ち構えていた社長は時歪の因子化が更に進んだエルを…ルドガー達が大事にしていたガキを傍らに置いて、俺が抵抗する事なく来たのを確認した




「話は聞いた……残念だったな。リルの結晶が残っていれば、お前はこうならなかったが」

「ま、仕方ないですよ……」




前まで一族の運命に縛られてたまるかって必死に生きようとした俺が、こうなってしまっては仕方ないとあっさりと諦めを現す

その態度に少し間を置いて「そうか…」と言った社長に不審に思われたか?と警戒したが、どうやらあまり気にせず実行するらしい


これでいいんだ


これで…




「………なら、お前に最後の仕事をやろう。リドウ」

「光栄です……」




これで




終る











「社長待ってください!それは間違っています!!」




突如、そんな場違いとも言われそうな元気な声が周りに響く



嘘だろ…!この声は―――――



今この場で聞いてはいけない声は幻聴であってほしいと願ったが、声がした方に目をやると



リルが息を切らしながらこっちに向かってきた



いつかに言ったような台詞を言いながら近づく彼女に驚きのあまりに言葉が詰まる

社長は俺と話してた時と変わらない様子でリルの登場に驚かなかったが、失った道具が現れて内心ではチャンスだと思ってるだろうな…

リルは社長の後ろにいたエルを見つけると、駆け寄って抱き寄せる

おそらく助けに来たとか励ましの言葉を言ってるだろう…そう思ってると次に社長の方に向き直った




「私はこの通り元気です。彼は……リドウは嘘の報告と私に理不尽な悪態をついて私の任務を奪おうとしていま……」

「黙れっ!!」




リルが社長に自分は陥れられた事を訴えている中、俺は武器を投げつけリルを社長から離そうとしたが…

俺を連れてきた部下達に取り押さえられてしまい、武器は上手く飛ばずに手前の距離で落ちた




「フッ……どうやらその通りだな」




俺の様子を見て、何故嘘の報告書を作りリルを遠ざけたのかを理解した社長はフッと小さく笑い頷いた

リルは社長に真実の状況を信じてもらえたのを確認すると、これからやる任務について聞き出す




「ああ。今から行う重要任務は初めから任せていた君にやってもらうよ」

「やめろおおおおお!!!」




俺は柄にもなく、取り押さえられているのを無理矢理抵抗しながら叫ぶ

やめろ…!その任務を受けるな…!




「………随分、必死ですね」




そう言ったリルの目は見下すような冷たいものだった




「どうですか?自分の都合良いように利用して捨てた女に仕返しされる気分は?……自業自得、因果応報だって自分を呪ってくださいねっ!!」




そこまで言い切ったリルだったが追い討ちをかけたかったのか、高く笑い声を上げる

お前がそこまで俺を恨むのはわかるが、よりによってその仕返し方法は元々自分に任されていた任務を奪い返しに来る…なんて




「(なんて…馬鹿な奴なんだ…!)」




今まで教えなかった俺が悪いかもしれないが、その任務の内容がどんなものかわからないで来たであろうリルに怒りを覚える

だが、その一方でショックで大人しくなるかと思っていたが意外と恨みやすく復讐しにすぐ行動をする奴だったなんてな………と彼女の行動を甘く考えていた自分に後悔した

俺は……嘘だと思われる覚悟でリルにその任務の内容を告げようとしたが、それに気づいた部下達に更に押さえ込まれてしまう




「クソッ!離せ!…俺の話を聞けっ!!」




だが、この俺の様子はまさにリルの仕返しに見事にやられてしまったも同然

それを見たリルは満足そうな表情を浮かべて必死になってる俺に「負け惜しみ感が半端なくてキモいわ〜」と小馬鹿にするように小さく笑って社長の前に行った

…おい、待て!




「もう話は済んだか?」

「はい。あんな奴とはもう何も話す事はありません」

「そうか?仮にもリドウは…」

「やめてください。私はもう彼とは何も関係ありません。だって彼にとって私は用無しですし私も彼を追いかける気はありません」




リルのそんな言葉を聞いた社長は俺の方を軽く向いて「きっぱり振られたな」と哀れむように苦笑してる

……だが、あの笑みには「この女はお前の企み通り、お前を守ってくれる存在になったな」と皮肉を言うようにも見えた




「そうか………なら、結晶をこちらに渡しなさい」

「はい」




リルに向き直った社長は彼女に結晶を出すよう命じる

言われた通りに出したそれは、あの分史世界のマクスウェルを助けようとした為、前に見た時より小さくなっていた




「随分使ったみたいだが、まぁいいだろう……」




あんな大きさじゃ使い物にはならない。と取り止めるではないか?と期待も虚しく、社長は……リルから結晶を受け取った




「クソッ…クソオオオオオオオオ!!!」




制御コードがかかってるため骸殻にも変身出来ない俺は…どうする事も出来ないとわかっていても、何かが一変してほしいと愚かで小さな願いをかけて抵抗しながら叫んだ

リルは……もうそんな俺には見向きもしなかった

前までの関係だったら驚いて「こんな風になるなんて何かあるはずじゃ…」って心配してくれそうなのにな

リル……お前はそこまで俺が憎いか



社長は結晶のブレスレットを持った手を強めに握り……振り上げるように構えた



やめろ……!

やめろっ!!





「では、リル。お前の任務は……」








リル!!逃げろ!!!







俺がそう叫んだのが声として届いたかは…わからない





ただ、次に俺の目に映ったのは





社長の拳がリルの腹部を貫いた光景





「―――――――っ!!」




俺は目の前で…貫かれた腹部を見て口から大量の血を吐き出すリルの姿を硬直したまま見ることしか出来なかった

今、動けば助けられるだの、声を荒げるだの…何かしらの言動が思い付かない

それほどこの目の前で起こってる悲惨な状況が飲み込めず、認めたくないと脳で無意識に出る拒否反応をするので精一杯だった




その時、リルが俺の方を向いた




「どうだ。仕返しされた気分は?」と言いたげに笑う口元から流れる血は止まらない

その様子を見続けると次に目から涙が流れ、さっきまで上がっていた口角が下がり、まるで………悲しみで泣いてるようだった

今ごろになってから痛みで泣いてるのか?と思ったが……




リルの唇が微かに動くのを見て、ある言葉を読み取った





ごめん……?






なんだ、ごめんって……





今更、復讐した事に対する後悔をしたのか?

いや、そんなはずはない……




まさか、リルは自分がこうなるのがわかってて来たのか?



だとしたら、あいつは俺に復讐しに来たわけじゃ………!





リルの目がゆっくり閉じられ、やがて力が抜かれたように前のめりになった体が腹部を貫いてる社長の腕に倒れた






「いやああああああああああ!!リルーーーーーーーー!!!」

「この結晶に命を注ぎ、無垢なる生け贄となれ!!」



リルの死を目の当たりにして泣き叫ぶエル




社長は結晶がリルの血を浴びて魂を吸い取ったのを確認すると、動かなくなったリルから腕を引き抜き彼女を乱暴に地面に捨てた




「リル…!」




ようやくここで声を出せた

それを自覚できると、次に弾かれたように走ってリルの元に向かう

取り押さえていた部下は社長の目的が果たされたせいか、拘束を解き俺の妨害はしなかった




「リル……リルっ!!」




既に呼吸すらしていない彼女に向かって俺は名前を呼ぶ


俺は……俺は……愚かだ……


彼女を守ろうとしてやってきた行動がこんな結末になるなんて…!

これじゃあ彼女が傷ついてばっかで…

文字通り生け贄として生きて死んだも同然じゃないか……!




「素晴らしい……これが“無垢なる鍵”か」




俺は…目の奥から込み上げる痛みを必死に抑えてると、社長が持つリルの結晶が青白く光る剣に徐々に変わっていく、そして…

リルの身体が同じく青白く光り出したと思ったら、粒子状になり剣に吸い込まれていく!




「リルっ!」




あの剣は所有者の魂だけじゃなく、肉体まで取り込むのか…!

死してなお、肉体が残らないなんて……リルは俺達のようにクルスニク一族じゃない。ただの人だ!こんな死に方はむごすぎる


結晶が完全に剣に変わったのを見て素晴らしいと感激を表す社長に怒りが沸いて来る

そんな俺に気にする様子もなく、早速剣を手に取った社長は何も無い空間に刺すように突き出した

突いた剣先に光る球体が出現し、そのまま剣を横に……まるで鍵で開けるように倒すと



カチャリ。と何かが開くような音がした

そしたら剣先の光が突如輝きを強くし、空間に絵を描くように線を走らせる

それが……凄まじく大きな扉の形になると、白銀色に染まり実体化した




「これが………命の橋は無くともカナンの地へ行ける“無の扉”だ」




社長は俺を向いてそう説明した




「ああ……んな事は、わかりますよ…!」

「どうした?あれだけ、この瞬間を待ちわびていたのではなかったのか?」

「俺は……!!」




俺が社長に詰め寄ろうとすると、部下はまた動き出し俺を取り押さえる

そして社長はそれに対して特に何も言わずに、こう切り出した




「私と一緒に審判を越えに行かないか」

「俺を……連れて行くだなんて、何を考えてるのです……?」




俺を連れて行く理由は…おそらくクロノスの攻撃からの盾にでもするんだろうなと考えると、社長は続けた




「こんな事になってしまったのは…全てはオリジンの審判という避けられぬ宿命のせいだ」




だから何なんだ!俺は取り押さえられながらも反論するように睨む




「この審判を越え、私の願いである“精霊を人間の道具にする”のが実現すれば、精霊達を使ってリルを蘇らせる事も可能かもしれん」

「は……!?」




この状態でそんな事を信じろと?不可能ではないかもしれないが社長の事だ。お得意の嘘でも本当でもない希望を言って俺を利用する気だ

だが、何でも一つ願いを叶えるオリジンに道具になる願いを聞き入れてくれたら…?

その力だったら人間を蘇らせる事だって……



もはや、冷静なようで冷静ではない俺の頭は悔しいが社長の言葉を聞いてしまいそうだ……




「断ってもいいが、そうなれば…」




社長の指示なのか取り押さえていた部下の一人が離れて、俺に銃を向けた

…おいおい。利用しそうな雰囲気出して実はそんな価値が無く、口封じのために消してもいいってか?

それとも、俺が黙って従うのを信じて冗談として消すような素振りを見せてるのか?

つくづく、この男は目的のためなら手段を選ばない良い性格してるな……と皮肉を思ったが



ここで俺が死んだら、リルはどう思う?

もしかしたら俺が橋にされるのを阻止したとしたら、社長に従わずに消されたらリルの行動が無駄になる……





…………





「……そうなるんでしたら、俺はついて行きますよ」




俺はしばらく考えた後、悔しさを押し殺しながら社長の誘いに同意した




「ならば、行くぞ。こんな理不尽に押し付けられた悲劇を終わらせるために」




偉そうに正義ぶった事を……


そう心の中で毒を吐き捨てると、社長は部下から俺の黒匣の制御コードが入ったリモコンを受け取り、部下はその場から立ち去る

次は社長直々が俺の命を握るってやつか。元々握られていたようなものだったが、クロノスとの闘いになるまで骸殻を封じるのは反逆を防ぐためだろう

反逆させまいとするのは、やっぱあの言葉は真実性のないものなんだな……

だが、俺は今ある命を無駄にはしたくないが……ここまできて、もしかしたら社長は俺がリルの命を無駄にしないと考えてるだろうと気付き、より不本意な気持ちが込み上げる



そう考えてると、社長が実体化した無の扉に両手を付き、重々しい音を立てながら開ける



開けられた空間からは青白い光に包まれた階段が見えた

社長は迷わずその光の先を進んでいく

戦闘やら何やらで体力消耗していたが、なんとか歩けた俺にエルが近づいてくる




「リドウ……リルは……リルは戻ってくるよね?」




社長の話を信じたのか、そう不安気に見つめながら尋ねてくる

このガキは……リルやルドガーと言い、他人ばかりを気にしてやがる

それとも、ペリューンの時みたいに奇跡的に生還するんじゃないか。と淡い希望を持ってるのか?




「……お前は自分の身の心配だけしていろ」




俺は突き放すようにそう言うとエルは下を向いて黙り、俺と共に社長の後を追う



…俺が言った言葉はクルスニクの鍵の時歪の因子化やエル自身の体力などを本気で気にしてるわけではない

本当にリルを蘇らせる事が出来るのか…

この先にどんな結末が待ってるのかわからなかった自分自身に言うべきの誤魔化しだからだ


望みが叶うなんて0ではないが、0に限りなく近いもの


だが、全てが終わった時、今度は俺の命を代わりに出来たなら……


願わくば……






俺達は扉から溢れ出す光に包まれて、カナンの地に向かった



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