選択で未来を紡ぐ者(ルドガー視点)




青白い光から抜けた先で、俺達が次に見たものは―――――





巨大な歯車と所々途切れた道が複雑に絡み合った地形に、周りに黒くて煙のような何か嫌なものが漂っていた


この空間全体に広がる不気味な空気を肌で感じ取る中、黒い煙のようなものは何か話してるとミュゼが瘴気だと答える

ミラが言うに瘴気は魂が循環する時に排出される魂を侵蝕する毒素で、本来はオリジンが抑え込んでいるはずだらしいが……

これはどう見ても抑えきれなく、いずれ人間界にも溢れ出そうに見える

この中を進むのかと思うと足がすくむが、ビズリーがエルやリルの力を使ってもう進んだのを思い出し、俺も追いかける決意をする



しかし、冷静に地形を見ると、ただの一本続く道だと思われていたものは実は途中から途切れていて、クロノスが空間をねじ曲げて作った罠だとわかった

この術と瘴気をかわしながら先に進むのはミラとミュゼでも困難。進めたとしても先に待ち構える戦いに使う力は残らないだろう……

そこでミラが四大精霊の力を使って自分達に防御壁を張って進む提案をしてきた。たしかに良い案だが、そうなれば進めるのは四人だけ


俺は仲間の中からジュードとミラを。そして……兄さんを選ぶ




「ありがとう、ルドガー。さっきも言ったようにお前のために全力を尽くす」




兄さんの言葉に俺は頷く

残る仲間達はミュゼが守りながら他に道はないか探すそうだ


先に進むために組まれた仲間と……四大精霊達からサービスとして一緒に行くことになったルルを加え


俺達はオリジンの玉座に向かった





















オリジンの玉座……そこは外から見えた胎児のような物体の上に円状の床が敷かれ、99万9997の数字を示した大きな装置が置かれている

そして――――――そんな空間で目にも止まらぬ速さで二つの人影が激しい戦いを繰り広げていた!




「ビズリー!!」




兄さんはすぐに激戦してる中に向かって叫ぶと、二つの人影……ビズリーとクロノスは動きを止めてこちらを向く




「ユリウス……お前がここに来れたと言う事は……」




おそらくリルの力のお陰だと気付いたビズリーは納得した様子で兄さんを見る

すると、ビズリーの援護をするように戦っていた人物を発見する。それは……




「リドウ……!」

「ユリウス……なのか?……ハッ……お前も………生き残ったのか………!」




医療用黒匣に限界が来てもいいくらい、かなり体力を消耗しただろうリドウは息切れをしながらいつもの人を挑発するような喋り方で兄さんに言う

兄さんはそんな二人を睨むと、クロノスが俺達を見ながらビズリーに言った




「探索者とクルスニクの鍵……切り札のつもりか?」

「さてな」




クロノスはまだ俺をクルスニクの鍵と勘違いをし、遅れて現れた事にビズリーの協力者だと思ったらしい

俺はそれを弁解するよりもエルを探した

そして………ビズリーの隣でぐったりするようにうなだれるエルを見つける

エルはあれから時歪の因子化の進行が早かったのか顔の右側全体に漆黒が侵蝕し、その影響で緑の瞳は真っ赤になっていた




「エルっ!」

「ルド――――」




俺の呼ぶ声に答えようとしたエルだったが、僅か一瞬の隙をついてクロノスがビズリーとエルとリドウを術の檻に閉じ込め、そのまま空中に浮かべた




「エルに何をした!」




俺はクロノスにそう問いかけると、ここにいるクルスニク一族を早く時歪の因子にするために閉じ込めた。と審判の妨害だけを見据えた冷たい目をして言った




「なんてことを!」




エルを巻き込んだクロノスの非情さにジュードは怒りを表す




「オリジンに、己が魂が生んだ瘴気の始末をさせておいて、どの口でほざく!」




しかしクロノスも、そもそもは人間の責任だとジュードの言葉を振り払うように怒りをぶつける

オリジンは自身を犠牲にしながら魂の浄化を続け、人間に進化の猶予を与えてきたのに、不浄を顧みず、魂の昇華を想いもしない……こんな事なら浄化を止めオリジンを救いだすと言う




「それはオリジン本人の願いか?」

「………貴様には関係あるまい」




ミラがクロノスのやってる事はオリジン自身が望んでいるのかを問うが、クロノスにとっては今も瘴気に焼かれているオリジンを救うのが全て。人間はどうなろうと無関係だ。と




「オリジンが浄化をやめたら、世界中に瘴気があふれだすぞ」

「それこそ我が望み!人間は、瘴気で魂を侵蝕され、マナを生むだけの“物体”となるだろう」

「………!?」

「しかる後、我が力で瘴気を封じ込めば、世界は精霊だけのものとなる」




それがクロノスの理想の世界……人間達がオリジンに魂と瘴気の浄化を押し付けた因果応報だと俺達に言い放つ


だが、だからと言ってここで何もせず白旗を上げるわけにはいかない!


俺はすぐに骸殻になり、クロノスに挑んだ!

クロノスは冷静淡々とした様子で俺に近寄らせまいと、自分の周りに浮かべていたビットを飛ばす。ガイカクと共に変化した槍で弾いて交わせるが、なかなかクロノスにたどり着けない……!




「ルドガー!俺の時計を使え!」




その時、兄さんが自分の時計を俺に投げ渡す。これで俺にスリークォータータイプの骸殻になれって事か?たしかにパワーアップ出来るが……




「だけど、そしたら兄さんの時歪の因子化が進む…!」

「お前のために命を差し出すと言ったはずだ!それに、ルドガーなら俺より力を発揮出来るはずだと思ってるからな」




兄さんの時歪の因子化を気にしたが、続けて迷ってる暇はない!と叫んだ言葉に少し間を置いた後に頷き、自分の時計と合わせて二つの力でスリークォーター骸殻に変身してクロノスに再び挑む

次は飛んでくるビットを軽く弾き返し、クロノスの元に突き進めた!




「己がために、兄を踏み台にしようとは!実に人間らしい!」




今まで審判におけるクルスニク一族を見てきたクロノスは俺も例外ない人間だと言い捨てながら、俺が突き刺そうとした槍を片手で受け止め、風を受け流すように跳ね返す




「うおおおっ!」




俺は……そのまま怯む事なく仲間達とクロノスに挑んだ!

























仲間達の力を合わせ、今度こそクロノスに攻撃が通じた




「ぐっ……認めぬ……これ以上、オリジンを苦しませるなどっ!」




だが、マクスバードに現れた時と同様に時間を戻す力で傷を修復し出す

一体、どうしたらあの術を止められる…!?

俺の槍とミラの精霊術を合わせて妨害出来ないかと考えていると………








「見苦しいぞ、クロノス」




ビズリーの声が聞こえたと同時に空中に浮かんでいた檻が突如動きを止めた

次の瞬間、中で何かの力が爆発してその影響で術の檻が破壊される

その中から顔まで覆ったフル骸殻を纏ったビズリーが、青白い剣と黒い槍を合体させた長い武器を持って急降下してきた!




「っ!?」




そして、その長い武器は……エルをも巻き込むように貫いていた!

あれは……エルの力を利用して形成したものなのか……!?

俺達がその光景に絶句してると、急降下してきたビズリーは………長い武器をクロノスに突き刺した!




「ぐわあああ!!………がはっ!」

「無駄だ。これは時空を超えるオリジンの“無”の力が重なったものだ」




身体を貫かれたクロノスは、そのまま空中で固定され、動けなくなったところでビズリーは骸殻を解く




「あの女の持っていた力を使うとは………それに、まさか、その娘が………!」

「そう、本物のクルスニクの鍵だ」




ビズリーが本物のクルスニクの鍵はエルだと言い終わると同時に、エルは長い武器から抜け落ちる




「なんという……」




クロノスがビズリーの持つ武器がリルが持っていた力と……エルが本物のクルスニクの鍵だと知って信じられないと目を見開いていた




「人間の勝利だ」




ビズリーが更に槍を奥まで捩じ込むとクロノスは悲痛な叫びを上げ、動かなくなった

……死んではいないだろうが、このままだと消滅するかもしれない

クロノスとビズリーも気がかりだが、この隙に俺はエルの元に駆け寄った




「エル……!大丈夫か!?」




なんとかエルを抱き起こして、声をかける




「ルドガー……どうして……ここに?」

「約束したから……な」

「………ルドガー」




苦しそうにしながら俺に何故来たのか聞くエルに、俺はそう真剣に答える

そう、二人でカナンの地に行こうと約束した。だからエルを追いかけてここまで来たんだ

俺はエルに「もう大丈夫だ」と言うように伸ばしてきた小さな手を握る




「これで……俺の役目は……終わったものだな……」




ビズリーとエルと共に囚われていたリドウは解放され着地した所で自身の胸を抑えながら、そう言ったのが聞こえた

おそらく……ビズリーがクロノスの動きを完全に封じてるのを見て、彼の勝利を確信したからだろう




「リドウっ!!」




そしたら兄さんがリドウに向かって行ったと思ったら、すぐさま頬に思いっきり殴りかかった!

殴られたリドウはそのまま地に倒れ、痛みに耐えながら兄さんを睨む




「お前は……お前はそこまでして生きたかったのか!?リルは本気でお前を……!!」

「なんだ……なんの事かと思ったら、あいつの事かよ……過ぎた事を引きずっても仕方ないだろ?」

「っ!!」




リドウが言ったリルに対する投げやりに近い言葉。それを聞いた兄さんは再び怒りを燃え上がらせ、もう一発殴ろうと拳を固く握って構える




「待って、メガネのおじさん………」




その時、その間に入って止めたのはエルだ




「リドウは……リルを……助けようとしたんだよ………リドウだって……リルが居なくなって……悲しいんだよ………」

「まさか……」

「クソッ……余計な事を言うなガキ……!」




エルが嫌っているはずのリドウを庇うような事を口にするなんて……

おそらく、エルはリルが無垢なる鍵になるところを最初から見ていたから、その時のリドウの様子を見てそう判断しただろう

その証拠にリドウもエルに余計な事を言うなと、複雑そうな表情しながら弱々しく反論してる

少し信じられないが……



リドウとリルについては本人達しか知り得ない真実があって俺達は誤解してるかもしれないな………




「ビズリー!こんな事をしてまで……!!」




兄さんは次に怒りをビズリーに向ける

……そもそも、こんな事になったのはお前が原因だ!と向けた目は悲しみが混じった鋭いものに見えた




「クロノスを倒すには、これしかなかった。だが、この悲劇は無駄ではない。お陰で精霊から意思を奪い去り、人間だけの世界を築くことができるのだから」

「そんな願い、精霊のオリジンが承知するはずない!」

「オリジンの意思など関係ない」




しかし、ビズリーは兄さんやジュードの怒りの言葉を聞いてもなお、自分の行動を正当化する

オリジンの審判自体が自分達の先祖である始祖クルスニクと精霊オリジンが契約した一個の精霊術だから、条件が満たされればオリジンはその力を発動せざるを得ない。と




「ああ!くうう……っ!」




その時、武器として力を使われてるエルが苦しみ出す




「エル!しっかりしろ!」

「諦めろ。その娘はもう助からん。オリジンに願えば、話は別だがな」




ビズリーの言葉にそれしかエルを救う方法はないか?と思っていると




「ダメ……分史世界……消さないと……」




自分自身の存在が分史の人間だとわかっても、分史世界を破壊しなければならないと考えるエルが時歪の因子化の進行で苦しみながら俺に訴えた


エル……俺は………


ビズリーは続けて他に助けられる方法があるとすれば、“この場にいるクルスニク一族のうち三人が時歪の因子化する事”と言った




「そうすれば、時歪の因子は上限値に達し、他の進行中の時歪の因子化は解除されるだろう………だが、それでは審判は人間の失格で終了。すべては終わりだ」




この空間にある99万9997の数値を示した装置を指差すビズリー


たしかにこの審判は人間が失格になると、クロノスが望む精霊だけの世界になる

かと言ってビズリーに任せてしまえば、人間だけの世界になる

どっちも両極端でバランスが取れなくなりそうだ




「お願い……分史世界を消して……ルドガーが……消えないように」




エルの涙を溜めた目で、消えそうで悲痛に訴える言葉……



俺は……俺が願うのは………





「俺はエルを救いたい!」




その意思を言うと仲間達は驚き、ビズリーからは「娘など、この世界でまた生めばいい」と冷静に返された


また生めばいい……だと?


エルの存在は……

今、この世界でカナンの地に一緒に行こうと約束をしたエルは………

今、ここに生きてるエルは………

簡単に替えが効く存在じゃない!



ビズリーの言葉に俺が決意を固めてると、同じく聞いたエルは彼の言う通りだと思い、俺から手を離して自分には気を遣わないほしいと俯き「エルはニセ者だし…」と呟く




「エル。お前に本物もニセ者もない。ミラにも言っただろ?」




俺は離された手を再び握り返して、エルにペリューンでのミラに言った言葉を思い出させる




「……ハッ。この期に及んで……まだそんな事言うのかよ……お前だって見てきてわかるだろ?この世界はそう甘くはない」




殴られて地に膝を付くリドウにも俺の決意はそれでいいのか?と茶化すような口調でそう聞いてきた

あいつは……リルがいない今、ビズリーに従うしかないのだろう。だからあんな事しか言いようがない

それでも、否定され続ける言葉を聞いたエルはずっと俯いたままになってしまう

……俺は「何とかしてみせる」と目で訴え、握った手をそっと離して、その場から立ち上がると……ビズリーの後ろにある装置に近付こうとした




「ルドガー!」




俺を静止させようと前に立ちはだかるビズリー。だが、俺はそれに構わず横を通り抜けようとした

あそこに近付けば……審判を越えられる

だが、そう簡単には行けない




ドスッ!!と腹部に痛みが走る



通り抜けようとした俺の腹部にビズリーは一発拳を入れ、無理矢理阻止してきた

俺は突然の攻撃に情けなく声を上げ、地に崩れ膝を付く




「願いの権利は、私にある」

「ダメですよルドガー副社長………社長がいる場合は彼が一番優先ですから……」




何の根拠にそんな権利が……!ビズリーとリドウの言葉に納得がいかない

だから……力ずくでもその権利を奪ってやる!

立ち上がった俺はすぐにビズリーに向けて攻撃を仕掛ける

双剣を振りかざすがビズリーは軽々と避け、隙を付いて再び拳で俺に一撃を喰らわす




「ルドガー!力を温存しろ!俺が壁になる」




俺の姿を見た兄さんがすぐに俺とビズリーの間に立ち、剣を構える




「ユリウス……良い兄になりたいのはわかるが、こうした我が儘をすんなり聞いて甘やかすのは感心せんな」

「家族を顧みず、己の野望のために利用するような奴に言われる権利はない!」

「熱いねぇ……お兄ちゃんの弟思いは」




そう言いながら、ユリウスは自分が相手をしますよ。とリドウがなんとか歩ける身体を動かしながら近づく

だが、それをビズリーは右腕で歩みを止めるように出し、静止させる




「ちっ………所詮は、精霊につき従う犬どもか」




リドウを止めたビズリーは兄さんとの言い争いに、互いにもう何を話しても無駄だと判断した様子を見せると、空間にある装置を指差す




「私は、あれだけの屍を踏み越えてここに立っている」




あれだけの屍………99万9997の数字は今まで審判を越えられずに時歪の因子化して破壊されたクルスニク一族の数そのもの

たしかにこんな酷い運命に終止符を打ちたいのはわかるが、ビズリーの願いはまた新たな悲劇を生むだろう……



ビズリーは次に、クロノスに刺している長い武器に手を掛ける





「邪魔をするなら容赦はせん!」





そう俺達に言った直後、クロノスから武器を抜き………自分自身に突き刺した!

だが、あれはただ突き刺したわけではない。自身の中に力を吸収するためだ


全て身体に吸収し終えると、ビズリーは真っ赤な炎の様な光に包まれる




そして……



光から姿を現したビズリーは、クロノスの術を破壊した時と同様の顔まで覆ったフル骸殻になっていた

だが、エルとリルの力が込められた武器を吸収した影響か先ほどと違い、黒い翼の様なオーラを放つ




「ここは私だけで十分だ。お前はそこで待て……時歪の因子化が進むからな」

「……はい」




ビズリーは己の力に自身があるのか、時歪の因子化を本当に気にしてるのかリドウを下がらせ一人で俺達を阻止しようと前に立ちはだかる

有無を言わせないその只ならない力の波動を感じながら……俺達は怯まず武器を構える!




「ビズリーの骸殻!」

「心配するな!お前にならできる!」

「ルドガー………」




仲間達や兄さん、そしてエルから何も恐れる事はないと背中を押された俺は……



最強骸殻能力者・ビズリーに戦いを挑んだ!


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