1人任務
あれから、リドウに同行して分史世界に行く事が多くなった
偶然なのか、意図的なのか……私が行く分史世界の時歪の因子って魔物か物だけ
人にも憑依しているって聞いたけど、それにはまだ遭遇していない
いや、遭遇しない方が絶対いい
正史世界を救うためとはいえ時歪の因子を破壊するって事は……その人間を殺す事
それは気が引けるし、やれる度胸が……無いから
で、どうでもいい事だが最近疑問に思う事がある
それは……
リドウの武器について
あれはただのナイフだと思っていたら医療用のメスで、骸殻に変身するとメスも変化して何故か伸びるらしいんだけど……どうなってんだろう?なんの原理で伸びるようになるんだろ?
気付いた時から度々そう疑問に思う私は今、丁度クラン社に来ていたヴェランド銀行のスタッフに今月分の給料から数万ほどを抜いて借金返済に宛てた
「はい、今月分」
「お疲れ様。でもこんなに振り込んで生活費とか大丈夫?」
私の担当をしているピンクのスカートスーツを着た銀行の女性スタッフのノヴァは、私と同い年のためか、すごくフレンドリーでたまにガールズトークもする仲良しになった
……最初、取り立て人が来ると聞いて“ドラマや映画に出てくるような顔の怖いゴツいおっさんが来る”って思ってたから、ノヴァを見て予想外でなんだか拍子抜けしてしまったのは本人には内緒だけど
「大丈夫。最近ちょっと食欲無いから食費があんり掛からないよ」
「えぇー!?リル貴女これ以上痩せたら死んじゃうよ!!」
私の腕を掴んで自分の腕と比べ出すノヴァ
そんなに変わらないと思うんだけどなぁーって苦笑したら
「よし、こうなったら……はいっ!」
ノヴァは自分の持ってた鞄の中から小さい白い包みを私に渡した
「何これ?」
「シュークリーム!あたしが作ったんだ」
「いいの?」
私はさっそく開けて見ると、そこにはシュガーパウダーのかかった可愛らしいシュークリームがあった
頂きます!と食べると、甘いクリームの中にほのかな酸味を感じた
この酸味はイチゴ?オレンジ?さくらんぼ?思いつく限りの酸味のある果物を思い浮かべたけど、なんか風味的にどれにも該当しない
「どう?どう?」って味の感想を聞くノヴァに逆に聞いてみる事にした
「美味しいよ!けど、これ何の食材を使ったの?」
「え、トマトだよ」
「トマト!?」
驚きだ。まさか果物ではなく野菜だったとは……盲点だった!
トマトってスイーツにも合うんだ〜って思っていると、ある人物を思い出した
「トマトと言ったら、ユリウス室長はトマト好きだったなぁ〜こんなスイーツ食べたら絶賛するね」
と、何気なく言ったつもりだったが…
「そ、そんな事無いよっ!第一ユリウスさんには、もっと美味しい物作ってくれる弟いるし……」
なんて言って顔を赤くして、私の言葉に対して照れながらぶんぶんと首を振る
……あれ?
待って待って待って……!!
今なんか2つの初耳な情報が現れたぞ!?
まずは1つ目を聞く
「ノヴァ?もしかして、ユリウス室長の事がす…」
「うわーーー!!」
びっくりした!!
好きなの?って聞こうとしたら、ノヴァは突然そんな大声出して私の話をかき消した
「こんな人がいる所で、そんな事聞いたらダメだよ……!」
顔を赤くしたままなノヴァは、それこそトマトみたいでなんだか可愛い
もう、これは答えを言っているようなものだね
「はいはい、わかりました♪ノヴァの言いたい事はわかったよ」
なるほど〜……前から話していたノヴァの好きな人ってユリウス室長なのか
「応援してるよっ!」
「本当?あ、ありがとう!」
これ以上聞かずに察して応援すると言ったら、ノヴァはパッと笑顔になって私に抱きついてお礼を言った
ヤバい…ノヴァすごく可愛いすぎる……!!
…おっと、いけない。いけない
もう1つの情報について聞かないと
「あの〜……ノヴァ?さっきユリウス室長に弟さんがいるって聞こえたけど?」
抱きつくのをやめ、一旦離れたノヴァはそう聞いた私にキョトンとした
「あれ?知らなかったの?」
「うん。初耳」
「そうだったんだ…うん、ユリウスさんに弟いるよ」
そうしてノヴァはユリウスさんの弟さんについて話してくれた
弟さんは私達と同い年で、料理の腕はかなりのもの。戦闘経験もそれなりにあって、いつかクラン社の入社試験を受けるらしい
「へぇ〜そんな弟さんが…」
つまりユリウス室長がこの前話してくれた料理を作ってくれる大切な人って、その弟さんの事だったのか
そう納得していると、私達にある人が近づいて来た
「ノヴァ?なんでこんな所に…」
それはヴェルさんだった
「やっほー、ヴェル。今ちょっとリルと立ち話をね」
「仕事はいいの?」
ヴェルさんの問いにノヴァはさっき私が渡した今月分の取り立て費の入った封筒を見せて頷いた
「仕事もちゃんとしているよー。ね?」
「はい、ノヴァは私の取り立て人ですから」
なんて苦笑いしながら答えて、ふと気付いた
なんでノヴァとヴェルさんはタメ口で話しているんだろう?
仕事は違うけど、同級生かな?
なんて思いながら、2人を交互に見る
あれ?なんかどこか似ているような……
たしかノヴァに双子のお姉さんがいるみたいで、たまに話を聞くけど、まさか……
そんな私の様子に気付いたノヴァは
「ん?あ、そうだよ。双子の姉妹ってヴェルの事だよ」
と話してくれた
「おぉ!やっぱり?」
どおりで似ているわけだーと、また2人をまじまじと見た
………あれ?待てよ
「ノヴァ。前に話してくれた“仕事は完璧なのに、家事や男性と話すのがが苦手なの”って……」
「うわーーー!!リル、ストーーーップ!!!」
また話をかき消したノヴァ
しかし、ユリウス室長の話の時と違って今度は青ざめた表情で、それを見た私はこれは話すのはマズかった内容だって思った
「……ノヴァ?貴女」
「ヒィィッ!?」
ヴェルさんは無表情だが、まるで後ろに鬼が憑いているみたいに怖くて冷たい眼差しをノヴァに向けた
「じゃ、じゃあこれで!リル、返済とシュークリーム美味しいって言ってくれてありがとう!!」
そう早口で言ったノヴァはさっさとクランスピア社から出て行ってヴェランド銀行へ帰った
「全く……リル様」
ヴェルさんはノヴァが去った後を見ながら呆れて眼鏡を掛け直すと、私にこう言った
「申し訳ございませんが、ノヴァから聞いた話は内密にしてもらえませんか?」
「い、いいですけど…」
ノヴァはいないけどまだ怒りの収まらないヴェルさんは、変わらない声調で私にお願いしてきた
そうお願いされると、もう何も考えずにOKするしかない
私の返事を聞いたヴェルさんはホッと安心して無表情だが、いつもの仕事熱心の雰囲気ある表情になった
「ありがとうございます。そして、本当に申し訳ございません……こんなみっともない所をお見せして…」
「あ、あ、あの………ヴェルさん!」
「?」
「私も、片付けはちょっと苦手で部屋は散らかってるよ?それに好きな男性の前で緊張して何も話せなくなるし」
「!」
実はヴェルさんの話は私自身もそうだなぁって共感していた
恥ずかしながら…と話すとヴェルさんが驚いて私を見た
「それに実は人見知りでね。初対面の人には必ず緊張しちゃって上手く話せないんだー」
「…意外です。リル様は社内ではどちらかと言えば人と話す社交的な方だと思っていましたが」
「いやいや、普段は1人でいる事が多いですよ?……にしても驚いたなぁ〜ヴェルさんとノヴァが双子の姉妹だなんて!あ、今度ノヴァとご飯食べに行こうって話していますけど、良ければヴェルさんもどうですか?」
「そうですね…考えておきます」
ヴェルさんはそう言って微笑むと、途中にしている仕事があるので失礼します。と私に軽く礼して社内に戻った
「(同じ会社内にいるけど、ヴェルさんとはなかなか話した事無いんだよなー。ノヴァと一緒に仲良くなれたらいいな)」
そう思いながら、分史対策室に行って新たに分史世界が発見されていないか聞きに行った