その狭間で
大声に驚いた私は起床するように勢いよく上半身を起こすと、そのまま立ち上がり慌てて周りを見る
なんか母親に叩き起こされた気分だ……いや、実際に叩き起こされたんだな。ぼーっとする頭をなんとか動かして今の状況を把握しよう
さっきと変わらず真っ暗な空間だけど、なんか雰囲気が最初と違うように感じた
って、それじゃないや!私に声をかけた人を探さないと………
声をかけた人はこの空間の奥にいるんじゃないかと思って、目の前に広がる暗闇の中を目を凝らしながら見た
すると
「リル。こっちよ」
声は後ろから聞こえた
すぐに後ろを振り向くと、そこには―――――――
「なんとか意識は戻ったみたいね」
「間に合ってよかった……」
「ミ……ラ………?ヴィクトル……さん……?」
そこにいたのは旅客船ペリューン号でミラ=マクスウェルと入れ代わりで消えてしまったあの………分史世界のミラ
その隣には、最後の座標を持つ最強骸殻能力者でエルの父親でもあり、分史世界でのルドガーである………ヴィクトルさん
そして、この空間で初めて出した声は驚きのせいか言葉が詰まってうまく言えなかったが、二人は私の状態を理解してか何も言わずに微笑みを向けている
「なんで……なんで………貴方達がここに?」
「貴女を助けに決まってるでしょ」
「た、助けに………?」
消えてしまったはずの二人が何故ここにいるのか?そもそもここは何処なのか?とか色々疑問に思う事だらけで、いつも通り頭が混乱してる私
そんな中で、まず私を助けるとはどういう事か聞いた。だって私は………
「その……私、死んじゃってるんだけど………多分」
「そうね。じゃなきゃここに居ないもの」
「えっと、ここは……何処なの?」
「ここは人の魂が浄化されて新しい生命に循環される手前の場所」
ミラから死んでないと来れない場所と聞いて、どういう事か訊ねるとヴィクトルさんが説明してくれた
この世界では魂の洗浄は早々に進められてしまう。と思っていたから少し驚く
あ、でも、もしかしたら……前作エクシリアでミラが一度死んで四大精霊達に魂を救われて精霊界に行ったあの現象と似ているかもしれない
そうなれば、私がこの空間居るのはこの二人のお陰だ……自分の中でそう判断し納得してると、ミラが握った右手を私に差し出してきた
その手を開けると………キラキラ輝く少し歪な形をした透明の物が2個あった
あれは………
「ブレスレットの……結晶の欠片」
間違いない。あれはミラが術の風穴に飲み込まれる前に急いでブレスレットから一部を取って渡したもの
「貴女に返すわね」
「それがあれば、生きていた時の世界に戻れる」
「ま、待って!それってつまり、生き返られるの?」
二人の言い様から生き返られる事を知った私は、この結晶でそこまで出来るのか疑ってしまった
「君は完全に無垢なる鍵に魂を吸収されず、間一髪意識を取り戻した。つまり、まだ君はその結晶の所有者………今この空間にある結晶と、生きていた時の世界にある無垢なる鍵となってしまった結晶を共鳴させれば、君は還れる」
「そ、そんな事が……?」
「私がいた世界での君が亡くなった後に、一族について調べて知った事だけどね」
クルスニク一族でもあり、そこでの最強骸殻能力者として一族の頂点に立っていたヴィクトルさんだから、そうした話を知っていても不思議じゃない。これは間違い無さそうだ……って思った
にしても、すごい。この結晶はそこまで出来るなんて…!
私は素直にそう喜ぼうとした時、ある事を思い出してその感情を抑えてしまう
「さぁリル。ゆっくりしてる暇はないわ。すぐに戻らないと……」
「でも、それはミラにあげたやつだから、ミラが生き返ってもいいんじゃ……」
そう、それは私がミラを助けたくてあげたものだ。だから私を気にしないでミラが戻って行ってほしいと思った
すると、ミラはちょっと申し訳なさそうに「あー、それはね……」って話し始めた
「あれは分史世界の人間には効かないものらしいの」
「え……」
その言葉を聞いてそうだったのかって驚いたけど、よくよく考えると思い当たる節がある
エルだ。私は何度かピンチのエルを助けようとしたけど、たしかに結晶の力を交えた術が発動しなかった
エルが海曝幻魔の呪霊術にかかった時とか、オーディーンに身体をデータ化されそうになった時とか………どういう理屈で分史世界の人間に効かないのかはわからないが、そう言われればそうだ
「向こうにはマクスウェルのミラが居るから戻れないってのもあるけど、これはやっぱ本来の所有者が使うべきよ」
ミラはそう言って結晶の欠片を差し出す手を更に私に近付ける
私は…………素直に受け取れなかった
「リル……?」
「私が………戻ってもいいのかな?」
「何言ってんのよ。戻らないとダメでしょ」
「だけど、なんと言うか………」
「……あいつの事、気にしてんの?」
「えっ?」
「リドウだっけ。あいつとの事を気にしてんの?」
「ええっ!?」
私はまさか!と思って二人を見ると、ミラもヴィクトルさんも黙って頷いた
つまり………私の事情は把握されてるって事!?
「な、な、なん、なっ………えっ……!?」
「なんで知ってるかって?見ていたからよ。あの時、消えてから時々」
そうか……ミラが人間界に戻る前にもう一人のミラの目から世界を見ることが出来たって言うから、その逆も有り得る
その中で、私がされた事とか、やった事が見えたんだ…
驚いてた気持ちが、だんだん失態を晒してしまった恥ずかしさになってきた
私が苦笑いしてると、ミラが聞いてくる
「あいつが貴女にやった事は私も許さないって思ってるわ。でも、貴女が犠牲になってこんな結果になって……それでいいの?」
「いいの。もう。せっかく、勝ち逃げしてきたんだし………」
今更、戻ったってどうしようもならない。だって、リドウにあんな事をしたし、リドウだってもう私なんて必要ない。だから戻ったらお互いにスッキリしないだろう
ミラの問いにそう答えると
「勝ち逃げ?何言ってんの?貴女がやったのはただの逃げよ!」
「えっ!?」
私の言葉を聞いたミラがため息を一つ吐いて、きっぱりそれは違うと否定した
「に、逃げって何よ!あたしは……!」
ミラもある程度、気持ちをわかってくれると思っていたから勝ち逃げって言ったのを否定されるなんて………少しムキになって言い返そうとしたら、それを静止させられこう言われた
「いい?勝ち逃げってのは、された攻撃と同じ事をして相手に降参させ、やり直しの要求されても無視する事よ。貴女はどう?相手と同じ仕返しした?相手からやり直しの言葉を言われた?」
「それは………」
彼女の言葉は「たしかにそうだ」と納得してしまう程、心に響くものだった
ムキになろうとした気持ちを冷静にして思い返す
やり直し……ミラが言ってるのは“勝負”の事だろうけど。私の場合は交際に関してのやり直し…とかになるな。たしかに私は仕返しはしてもそれでリドウに何か言わせたわけじゃない。ただ、後味の悪い思いをさせて……去ってしまっただけ
「たしかに“貴女が本来やるべきだった任務を奪い返した”って点なら上出来よ。けど、それで貴女が居なくなったら勝ちにはならないわ………この先なんとしてでも生きて、憎いあいつの前で幸せにしてるところを見せつける。これが勝つって事じゃない?」
本当にその通りだ。私は何を勘違いしてたんだろう……
この空間に居るせいか、死ぬ直前まで考えていた事すら忘れていってしまう……だけど、ミラのおかけで少し思い出してきた
私は……まだ、あの世界に……
「それに、あいつは貴女が犠牲になった事に少しは辛くなったみたいだけど、今までのを考えるとすぐにその事を忘れて、また別の女と適当に過ごすと思う」
「!」
「だって、あいつは今まで色んな人を騙して踏み台にしてきたらしいじゃないの」
色々思い返していると、ミラが突然リドウについて話してきた
彼女もまたリドウの行動を見ていたし、彼によって殺されたも同然な立場だから恨んでる気持ちもあるはずだ
だから、激励から次に言われた話にも……なんだか頷いてしまう
「そう考えると………だんだん腹が立ってきた……!」
私もよくよく考える。たしかに人を踏み台にしてのし上がってきたリドウだ……だから、それが当たり前だと思っているのが変わらなかったら私の犠牲なんてすぐに忘れそうだ。と
だとしたら、なんて浅はかな事をしてしまったんだろう!もっとよく考えていれば……と後悔しそうになる
「まぁ、ミラ。その辺でいいんじゃないか?」
今まで私と一緒にミラの話を聞いていたヴィクトルさんが、この辺で……って話を止めようとした
「なによ、ルドガー。貴方はあんな奴の肩を持つわけ?」
「ん〜……私がいた世界では、そうした勘違いから悲しい事が起きたからな……」
ミラはあくまでヴィクトルさんをルドガーって呼ぶんだな……って、変なところに注目してしまったけど、すぐに彼の言った言葉について考える
勘違いから悲しい事が起きた……自分の事だろうか?それとも、その世界で死んだ私の事だろうか?
いや、どっちにも触れたものかもしれない……とも考えてると、ヴィクトルさんは私に言った
「リル。裏切られて辛い気持ちはわかるが、どうか大切だと思った人を……守りたいと願った気持ちを思い出して。自分を信じるんだ」
「守りたい…気持ち…」
「それに、君には悲しんでくれる仲間や………しなければならない“選択”があるんじゃないか?」
その言葉でハッとした
そうだ。忘れてた……私は……しなければ……
中途半端にしたまま終わるなんて嫌だ!
そう思い直した時に、私達の身体が足元からだんだん透けてきたのがわかった!
そんな!意識はハッキリしてるのに……長い時間ここに居たら強制的に魂の循環で洗浄されるのか……!?
「さぁもう時間がない。早く行くんだ!」
「リル!貴女には良い力を持ってるわ。自信持って幸せになるのよ!」
焦りを顔に出していると、二人が早く行くように促した
「………わかった!」
私は、その言葉にようやく頷いて、ミラから結晶の欠片を受け取った
すると、欠片が光り出し、だんだん大きくなると私を包み込んだ
これで………生きていたあの世界に戻りたいって願えば……!
「ありがとう…!ミラ!ルドガー!」
光で何も見えなくなってしまう前に……私は背中を押してくれた二人にお礼を言った
つい、ヴィクトルさんを本名で呼んでしまったけど、彼は微笑んで頷いてくれる
ミラもウィンクさて右手を軽く握る動作を見せて「頑張れ!」と言うようにエールを送ってくれた
私がここを出れば……彼らとの本当にお別れになる。それはすごく寂しい事だけど私を助けてくれた気持ちを無駄にしたくない
それを確認した直後、全身が光に包まれて何も見えなくなる……ここで、願うんだ!
「(私も………カナンの地まで………ルドガーやエル、仲間達やユリウスさん、そして………リドウがいる場所に戻りたい!!)」
そう願うと、身体がふわりと浮いて
一気に上昇した!