選んだ道
ビズリーはもう立ち上がらないだろうと判断した時、戦いに勝ったのを確信したエルは安心したせいか力が抜けるように倒れる
「エル!」
「エルっ!」
私はすぐにエルの元へ駆け寄り、その後に続いてルドガーも骸殻を解いて走り寄ると、ゆっくりエルを抱き起こして様子を見た
「ルド……ガー……リル……」
「エル、よく頑張ったな」
「私達が勝てたのは、エルのおかげだからね……」
苦しそうなのを堪えて私とルドガーの名前を呼ぶエルに、恐怖に屈する事なく大きな助けをしてくれた行動を称賛する
けど、エルの右頬に広がる時歪の因子化が更に進行してるのを確認した私は焦りが増す
早く……早く審判を……
オリジンに会わなければ……!
その時、目の前の空間が裂け、他の仲間達が次々入ってきた事に気付いた私は、全員と合流が出来た安心で手を振った
「リル!」
「よかった……無事だったんですね……!」
私にかける声に「皆心配かけてごめん!」と
そう言おうとした時だった―――――――
「ルドガー、お前はっ!」
「っ!?」
いつの間にかビズリーはふらつく足で私達の背後に立ち、拳を振り上げてルドガーに攻撃しようとした!
「ルドガー!まだ終わっていない!」
もう終わったと油断していたため、ユリウスさんの声も私が気づいて防御術をしようとしても、それはもう遅く、拳はルドガーの近くまで迫る!
こうなったらルドガーを突き飛ばして……!
「っ!」
そう咄嗟に行動しようとしたら、突然ビズリーの動きが止まる
ギリギリに迫った拳よりも早く
ルドガーはエルを抱えたまま骸殻になり、後ろを振り向かず槍をビズリーの喉元に突き付けていた!
すごい……ビズリーが近付いてる事に気付いてただけじゃなく、一瞬でフル骸殼になるなんて
すぐに思った事はそんな単純なものだけど、よく考えたらそれは……
「……その骸殻は、もう使うな。直接契約した今、お前も時歪の因子化のリスクを負ったということ。それ程の力……すぐに時歪の因子化してしまうぞ」
今のルドガーにはもう太刀打ち出来ないと判断したビズリーが拳を下ろし、ふらりと一歩離れてそう話した
そう、ビズリーの言う通りそんな一瞬で気配を悟られずにフル骸殼に変身できるのは、とてつもなく強力な力。つまり時歪の因子化の進行が早まる事だ
「……」
ビズリーの言うことは嘘ではない。今まで様々な時歪の因子を見てきたのとヴィクトルさん―――――未来のルドガー自身から警告された事実だ
ルドガーはそのビズリーの言葉に対しては何も言わず頷きもしなかったが、黙って骸殼を解いて見せた
「ふふ……まさかお前に超えられるとは……」
自分の忠告を聞いたルドガーに対して、そう笑って話すビズリーは“敗北をして諦めた”って言うよりは純粋に“期待以上に成長した我が子の姿に喜ぶ親”のように見えた
そうしたら、ビズリーの身体から黒いオーラのようなものが滲み出てきて「ぐうううっ!」と呻き苦しみはじめた!
「時歪の因子化…!?」
ルドガーと私は驚いてその様子を見た。あれは……時歪の因子化だ!
激しく溢れ出る黒い光がビズリーを飲み込もうとしてる様子から………もうビズリーは今ここで時歪の因子化する運命にあるのだと、闘った相手だとしても見ていられないくらい辛く感じた
その証拠にギギッ……と鈍く軋む音を鳴らしながらカウンターが傾きかける
しかし、ビズリーはそれに抗うように、再び拳を構えると
「だが!思い通りにならないからこそ人間はっ!」
そう苦しみを堪えながら言った瞬間
拳を自分の胸部を目掛けて振り下ろし
「なっ…!」
「っ!?」
辺りに血を飛び散らせた!
そう、あれは……時歪の因子化を止めるために、自分を自分の拳で貫いたんだ!
突然の出来事に私達は更に驚き、時歪の因子化の黒い光が溢れる変わりに血が滴り落ちる姿を見て、思わず短く悲鳴を上げる
あの拳は多分、心臓まで到達してるはずだ
そんな……こんなやり方で時歪の因子化を止めたとしても、戦いで消耗した体力と私達から受けた攻撃の影響で立つのがやっとな状態に、自らトドメを刺す事と一緒だ。なのに何故……
「……面白い」
そう言ったビズリーは時歪の因子化の進行が無くなったのを確認すると、息も絶え絶えな身体を無理に動かし、血の足跡を残しながら傾きかけたカウンターの前に行く
「オリジンよ……俺“個人”の願いを教えてやる。あの数だけ……この拳で、お前達をっ!!」
最後の力を振り絞るように勢いよく突き出した拳は、カウンターを殴り付けると大きな衝撃音を響かせる
……彼の言葉通り、今まで犠牲になった一族を思い、原因である審判を造り出した精霊達に憎しみを示すために自分の姿を見せつけたのだろう
最後の足掻きをしたビズリーは全ての感情や力を出しきり、カウンターに殴り付けた証である血の跡を残しながらゆっくり倒れていき
力尽きて動かなくなった
「ビズリー・カルシ・バグー。この男も――――」
「己のなすべきことに殉じた者だったな」
「ビズリー……」
「……最後まで貫いたその意志、見届けさせてもらいました」
ミラとガイアスがビズリーについてそう話すと、ユリウスさんとリドウは彼の最期を静かに見届けた
ビズリー……貴方は一族が精霊に課せられた試練の理不尽さや、犠牲にさせてしまった哀しみと自分の不甲斐なさを
かつての一族のやり方として……
審判を越えるためだとして……
一族の代表として背負って戦ってきたんだな
けど、だからと言ってビズリーの願いは同意できない。精霊に対する憎しみから彼らを人間の道具にするなんて、オリジンの望む魂の昇格にはならないし、世界のバランスがおかしくなってしまう……あってはならない事だ
それに、今を懸命に生きてる人を犠牲には……させられない
そう思って、リドウの方を向くと、彼はユリウスさんと共に時歪の因子化の影響で少し苦しそうな足取りを見せながらも「なんとか大丈夫だ」と言うように、戦いが本当に終わった事に安心した様子で私達の近くに来てくれた
「ルドガー、リル……よくやったな」
「エルや皆のお陰ですよ」
「ああ。そうだ」
「ハッ……ったく、こんな時まで人に花を持たせるのか?」
ユリウスさんからの言葉に私とルドガーは「自分だけの力じゃなく人の助けがあったからこそだ」と言うとリドウはそんな私達に鼻で笑いつつ、変わらない様子に穏やかな眼差しで見てきた
すると、他の仲間達もエルを心配して近付いてくる
「ルドガー、リル…… みんな、来てくれてうれしかったよ……」
改めて私達にそうお礼を言ったエルは次にミラを見つめて
「……ミラも」
と彼女の名前を言った
……突然現れたミラ=マクスウェルを受け入れず“自分にとってのミラは分史のミラだ”って名前すら呼べなかったエルに、ミラは友達になりたくて色々努力して接していた
その気持ちが通じたのかエルはミラ=マクスウェルを“ミラ”と呼び、自分を助けに来てくれたお礼を言う
「ああ」
ミラは名前を呼ばれた事に少し驚きながらも、すぐに自分の気持ちがエルに届いた事を嬉しそうに笑顔で頷いて見せた
「エル、立てるか?」
「うん……」
そして、ルドガーがエルをゆっくり立ち上がらせ、二人でカウンターを目指して一歩一歩と歩く
あのカウンターが審判の最終地……障気を封印してるオリジンの玉座
そこに到着した二人は互いの顔を見て頷き
同時にカウンターに手を付ける
するとカウンターが光輝き、それが収まると次は中心から二つ分かれ、門のようにゆっくりと開かれる!
奥にいるであろうオリジンはどんな精霊なのだろうか?
そう不安に思いながら、門の先に見える障気が漂う空間を見つめていると
「恐れるな。いざとなれば私がなんとかする」
私達の不安を感じ取ったミラが、そう言ってオリジンが出てくるのを待った
ジュードはそんな彼女に対して「ミラ……」と名前を呟きながら、その言葉に頷く
私もミラを信じて……ルドガーとエルを信じて見守った
すると、障気の漂う空間にボォッと一つの火が浮かび上がると
それがすぐに淡い光を纏う白い人間のような形になり、私達の目の前に立った!
これが……