選んだ道
「こいつが大精霊オリジン……」
私達の前に現れた者を見て、誰もが思った事をいち早くガイアスが呟くと
「そうだよ。こんにちは、ガイアス王」
オリジンと呼ばれた存在は、その見た目の背丈と同様に少年のような声でガイアスの言葉に頷くと、彼の名前を言って挨拶した
「俺のことを知っているのか?」
「もちろん。魂たちが、世界中の出来事を教えてくれるからね」
驚く私達にそう答えるオリジン
そうか……正史だけじゃなく存在する全ての世界の魂も浄化するのが、このカナンの地だもんね
「ずいぶん人に興味があるのだな」
「君ほどじゃないよ、新しいマクスウェル」
ミラに対しても知ってる様子で、同じく人間に対して好印象だと頷く
「初めましてだな、オリジン。さっそくだが頼みがある」
「分史世界の消去と、魂の浄化のことだね?」
「そうだ。お前が限界なら、私も力を貸そう」
「千年も瘴気の中で焼かれるんだよ?」
「承知の上だ」
分史世界の消去のため、ミラはただで頼みはしなかった。自分も人間と精霊を守る身としてオリジンの手伝いをしようと申し出る
「……君は、本当に人間が大好きなんだね」
「待って、ミラ――!」
ミラの覚悟をオリジンが認めると、ジュードは「そんな事をして本当にいいのか?」と問うように、慌てて2人の間に入って止めようとした
すると
「ふざけるな!」
更にその間に入ってきたのは……クロノスだ
クロノスはビズリーに貫かれて負った傷を押さえながら私達に訴えてきた
「まだオリジンに浄化を強要するのか!貴様らは、自分の不始末をオリジンに押しつけているだけではないか!」
クルスニクの鍵の力、そして私の持つ結晶の力が合わさった武器で貫かれた傷は自身の力でも治せない状態にありながら、クロノスは自分の命を省みず私達に反論を続ける
すると、オリジンはクロノスの方に手をかざし光を出すと、彼の深く刻まれた傷が一瞬で癒えた
「ありがとう、クロノス。ずっと僕を心配してくれてたんだね」
「わ、我のことはいい!それより、人間たちに己が罪業を思い知らさねば―――」
オリジンの大事な友人であるクロノスを助けたい気持ちはわかるが、このタイミングで回復させてしまえば……!
私の予想通り、回復したクロノスは私達に報復だ。と攻撃を仕掛けようとした!
しかし、そんな様子のクロノスを見たオリジンはくすくす笑うと、クロノスは何故笑ってるのかわからず怪訝そうな表情をした
「何を笑う?」
「だって、君のそういうところ、人間にそっくりじゃないか。僕の大好きな人間に、ね」
「なっ……」
まさかの言葉にクロノスは目を見開いて驚き、それに反論出来ず目線を下に向ける
たしかにクロノスは精霊として人間に冷酷さを出していたけど、オリジンを……大事な友人を助けたい一心で行動する姿は人間と同じだ
オリジンはそこを見抜いてクロノスにもう争いは不要な事を告げると、再び私達の方に向き直る
「そして、願いを叶える権利は、そんな人間たち代表……ルドガーとエル。試練を超えて扉を開いた君たちにあるんだよ」
「俺達が……」
「そう、それにもう一人、試練を超えた人がいるね………リル」
「あ、はい……!」
オリジンが次に私の名前を言ったから、思わず返事をしながら聞いた
「リル、こうしてきちんと会うのは初めてだから“はじめまして”って言うべきだと思うけど、何回か話してるから……“久しぶり”って言った方がいいかな?」
そうだ。このシルエットだ……
私がこの世界に連れてこられる前に見たもの
最初は幽霊だと思って大騒ぎしたなぁって過去の自分に苦笑した
「オリジン……そうだね。これは久しぶりって言うべきだね」
改めて挨拶すると、オリジンは微笑みながら頷く
たしかにこうして直接会って会話を交わすのは今が初めて。だけど
いつからか夢に出てきた時
この世界に招かれた時
そして、数少なかったけどアドバイスする為にメールで。だったり
だから、これは“久しぶり”と言うべきだ
「リル、よく頑張ったね。クルスニク一族と同様に異世界から招いた者も試練でなかなかたどり着けずにいた。そんな中で……君が初めての到達者だ」
「私も……クルスニク一族と同じ、初の到達者……」
私がそう小さく呟くと、オリジンは「うん。そうだよ」と頷く
そうだよね……よくよく考えたら審判に到達出来た事もだけど、結晶を持ってる異世界者はおそらく力を利用され無垢なる鍵にされたり様々な理由で命を落としてる人が多いと思うから、持っていながら生きてこの場に立ってる事自体がすごい奇跡なんだろうな
そう遅かれながらひしひしと実感してると
「リル、お前はやっぱり別の世界から……来たのか?」
その時、横からルドガーにそう問われ、私は頷いてゆっくり皆の方を向く
「今まで黙って“記憶喪失”と偽ってごめんなさい。もう聞いてると思うけど、私は……こことは何もかも違う他の世界から来たの」
仕事の上司であるユリウスさんには何度も助けられた恩があるのに
ルドガー達は一緒に旅をした仲間なのに
今まで騙すような事を言って本当の事を隠していたのを、改めてここで謝った
本当に申し訳ない……皆、私の記憶喪失を信じて思い出せるようにって色々手助けしてくれたのに、その善意を蔑ろにしてしまった
しばらくそう反省しながら頭を下げていると
「まぁ記憶喪失だと言う事にして口を塞いだのは、社長だからね……」
そうフォローしてきたのはリドウだ
「えっ、な、なんですか、珍しい……」
私は驚いて頭を上げると、思わず彼にそう言った
リドウが私を庇うような事言うなんて今までは私を利用するためにやった事だろうけど、利用しなくてもよくなった今にまさかそんな事を言うとは思わなかった。だから珍しいって言うと
「……事実を言ったまでだ」
私にそう言われてムッとしたのか照れ隠しなのか、なんだかバツが悪そうに顔を背けてそれ以上は何も言わなかった
「リル、いいよ……」
次に口を開いたのはエルだ
「エルは怒ってないよ……だって、リルだって、色々考えてたの……わかるよ」
「エルさんの言う通りです。貴女は何もわからず命令に従っていただけで、自分本意で私達を騙していない事を……わかっておりますよ」
エルに続いてローエンもそう微笑んで言うと、他の皆も仕方ないよって言うように頷いてくれた
それを見て、悪いのは私なのに責めない皆に「ありがとう…ごめんね…!」と涙を堪えながらお礼ともう一度謝った
「さぁリル、彼らを見守り続ける役目はこれで終わり。後は君を元の世界に送り返さないとね」
私が話し終わったタイミングを見計らってオリジンがそう言うと、私の方に手をかざした
すると私の足元が光り出し、それが魔法陣を描き始める
そう。私はクルスニク一族が……ルドガー達が審判を越えられるか見守るために呼ばれたんだったよね
これで私の……オリジンと結晶に託された試練は終わり、元の世界に戻れるんだ
これで……
全部……終わり………
「―――――待って!」
私はオリジンに向かって、一旦待ってもらうように言った