選んだ道



「リル……?」

「どうしたの?」




元の世界に返そうと術を発動させていたオリジンは一旦その手を止め、エルは私が何をしようとしてるのか見つめる

……後はみんなに任せて本来ならばこの場に居ない私がここで口出しするのは間違ってるかもしれない。いや、口を挟むのは駄目な所だ

だけど、そんな最中に声をかけてしまったのがきっかけで、話し出した口も


考えてる事を止める事が出来なかった




「あのさ……私を元の世界に帰すのって、かなりの力が必要なんじゃない?だから……」




オリジンはどう答えるかわからないけど、言うだけ……言ってやる!





「その力で……今起こっている時歪の因子化を停止させる事って出来ないかな?」

「っ!」

「リル……!」






私がそう言うと、その場にいた皆が口を開き、目を見開いて驚いた表情をした

……驚かれても無理はないな




「リル、それって……!」

「それは、元の世界に戻るチャンスが無くなってしまうんですよ……!?」




レイアとエリーゼに元の世界に戻れなくていいのか?とか、聞かれたけど




「……まぁ聞いて。これでも色々考えて言った案だから」




私は何を思ってそう提案したか訳を話そう




「聞かせてリル。君がどうしてそう言い出したのかを」




オリジンはまずは私の話を聞く姿勢にはいる

私は……ゆっくり話し出した




「たしかにこの世界に来たばかりの私は元の世界に戻りたかった。でも、この世界で色んな人と関わって、自分で自分のやる事なす事に責任を持って判断しながら生活していく内に元の世界での自分について考えたの」

「元の世界のリル?」

「……私は元の世界では人に意見を言うのが苦手で、いつも決められた言葉や道に従ってばかりだった」




そう。通ってる短大もこれから勤めようとしていた仕事先も、みんな両親や周りの人に決められたもの

私は口が悪い所もあるしふざける時もあるから、そう見られない事が多いけど、大事な話題になると周りの人の顔色伺ってばかり

相手が喜んでくれるのが何より。って思うのはいつもの事だけど、自分の将来や自分で決めたいものに関して不服に思っても“相手が喜んでくれるなら”って黙って頷いてばかり……いつも決めてからモヤモヤしていた




「両親や友達とか元の世界での親しい人達に対して恋しい気持ちもあるけど、こっちで育んだ皆との絆も大事だし……自身を見失いたくない」




恋しい気持ちと、突然いなくなる事にとても申し訳なく思う気持ちの隣に……成人した私はもう他人の言葉じゃなくて自分の意思で動きたい。という小さな反発心がいる

……自分勝手な理論だけど、それこそそれは親元を離れる自立って言っても良いような気がするからね

そもそも、なんでこの世界では自分の本音とかをある程度出しながら仕事してたのか?って聞かれれば

“所詮ここはいつか去らなければいけない世界。戻った後に何ら影響はない”

って考えていたからだ

最初はただ元の世界に帰りたい一心だったからね。そう割りきって考えていたら自然に“これくらい言っても大丈夫か”って大きい態度でいれた


だけど


一緒に仕事をしていくうちに

一緒に旅をしていくうちに

一緒に楽しさ、悲しさ、怒りを共有して、同じ方向を向いて一緒に歩いているうちに

“自分がいつか去らなければいけない世界の人達”から……“大切な人達”に変わった




「元の世界とこっちの世界。どっちも大切だけど………このまま戻ったら、また元の“人に決められた道しか行けない自分”に戻ってしまいそうなんだ」




自分で決めたわけじゃない未来を歩いて“満足できない自分”になるよりだったら

自分で選んだ未来で“生きてる自分”や“この世界での自分の役目”を実感したい




「そうすれば、ルドカー達は分史世界を消す願いを心置きなくできるでしょ」

「リル………」




ルドカーは安心しきれない様子で、私の案を頷いていいか悩んでいた

いいんだよ。って私は思うけど、問題はオリジンがその案を承諾してくれるかだよね




「……なるほど。そうした考えから元の世界に戻る選択はしない。と」

「うん………可能かな?」




話し終わると私が「ただ助けたいって気持ちから発案した事じゃない」ってのがわかったオリジンは




「出来ない事はないけど……」

「けど?」

「まだ力が足りないんだ」




歯切れの悪い言葉で、首を横に振った

そんな……

それだけの力じゃ足りないってなれば、どうすれば……




「リル……もう、大丈夫だよ……エル達のために、無理、しないで……」

「そうだ。帰りたいと思い直すのは仕方ないと思ってる。だから………」




側で見守るユリウスさんも苦しみ続けているエルも、帰る選択に変えてもいいと言う

嫌だよ……!

なんとか出来ないだろうか

力に変えられる何か

って、言っても結晶はもう無いし……



待てよ。結晶……




「だったら……今まで結晶で願った事を無かった事に!」

「だいぶ前に使われてしまったのは今更取り消し出来ないよ」

「それが駄目なら………今日願った事を取り消しにするのは!」




咄嗟に思い付いた事で自分でも「なんてめちゃめちゃな提案なんだろう」って思ってしまったけど、よくよく考えれば良いかもしれない

かなり前の願いは無理でも、今日願った事………これは自分自身にかけたモノだから、何とかなるかも




「………本気かい?」




私が新たに言った提案をオリジンは、その言葉は実行できる覚悟はあるか?と言うように聞いてきた

……本気だよ

大丈夫。咄嗟に思い付いた事でも、今、それに対して良い対策も思い付いたから

私がゆっくり頷いたのを見たオリジンが承諾してすぐ実行してくれれば……と願っていると




「今日願った事………まさか、この世に戻ってきたのを無かった事にするのか!?」

「ミラ……?」

「君がここに戻る少し前に、彼女が……もう一人の私とヴィクトルが結晶を渡し、君は蘇生を願った場面が脳裏を過った。それが事実だとしたら……!」

「………バレちゃったか」




ミラの慌てて止める言葉に皆は更に驚く

私は皆に知らせず成功してから話そうと思っていたから、バレてしまった事に少し残念な気持ちで苦笑いした




「そんな事をしたら、貴方はまたあの世行きよ」

「リル、駄目だ!」

「そうだよ……そんな事になったら……エル、悲しい、よ……」




ミュゼが冷静にまた死んでもいいのか?と問い、ルドカーとエルは必死で止める

たしかに死ぬのは怖いよ。何度も危ない目に遭ったし実際に一度死んだんだけど、やっぱ怖い

だけど、それより多くの大事な人達が犠牲になるのは自分の死よりも嫌な事で怖い事だ。それに……




「すぐには死なないと思うよ……私が死んだのって魂を結晶に取り込まれたからで、その結晶が無い今は塞がった傷がまた開くだけなんじゃないかな?って思ってさ」




これは今思い出した事だけど、ビズリーの拳が私の身体を貫いた時、あれは即死にはならなかった

私が死んだ原因は、時間が経って大量出血になったって言うよりは結晶を無垢なる鍵にするため魂を取り込んだからだと思う




「……ふざけんなよ」

「え……?」

「ふざけんなって言ってんだ!」




話してる最中に、突然リドウが激怒して私の肩を掴んだ




「お前はそこまで…どうしようもない馬鹿だったのか!?」

「はぁ?いきなり馬鹿ってなんですか!」

「馬鹿だろう!どこまで良い子ちゃんをやったら気が済むんだ!せっかく傷が癒えた状態でこの世に戻って来れたってのに、お前は……!」

「も〜頭ごなしに怒鳴らないでください!」




まだ話は続くから黙って聞いてほしいと落ち着かせようとしても、リドウの怒りの熱がますます上がる

全く……これからその結晶の願い事を取り消して、再び開いた傷の対策を話そうって思っていたのに

だけど、リドウがこんなに怒って止めるなんて……私がビズリーの前に現れて無垢なる鍵にされた時もだったな

リドウを含め周りの皆は、私がやろうとしてる事を止めようと緊張の糸が張り詰めてるのに………申し訳ないけど皆の優しさが伝わって暖かい気持ちになった

こうした気持ちだから、導き出した答えかもしれない




「……君はそれで本当にいいのかい?また生死をさ迷うかもしれないよ」




リドウの説教に似た怒りの言葉が一旦区切られると、オリジンが私に聞いてきた

オリジンには……なんだか私が何を考えてるのかお見通しみたいに思えた

ここまで聞くって事は……この願いを聞いてくれるかもしれない

なら、堂々と言ってやろう




「大丈夫だよ。だって私には………」




オリジンの問いに答えるために、私は肩を掴むリドウの手を振り払うと






「私には。超一流のお医者さまが居るんだもの!」





すぐにそのリドウの腕をとって、恋人の時みたいに腕を組んで見せ――――

大声で皆に自慢するように言った




「なっ!?リル……」

「ねぇお医者のリドウせんせ。貴方は私に返しても返しきれない“借り”がありますよね?その借りを返す要素の一つとして大怪我した人間を助ける事は出来きますよね〜?」




わざと甘えるように少しぶりっ子するような声で言ってやった

出来ますか?ではなく、出来るんでしょ?のニュアンスで

怪我人を放っておけないって性格じゃなく、自分の利益か不利益かで患者を治療する事が多い嫌な医者だけど……腕は確実だからそれは信じる


そんな私の言葉を聞いたリドウは、驚いたまま開いた口が塞がらない表情で私を見るばかり

彼から「よし、ならやってやる!」とかの了解の言葉や頷きは無かったけど………「無理だ」とかの否定する言葉は無いって事は出来る証拠だ

それにさっきも言ったけど、私に対して“借り”があるんだから拒否権はありませんよ?

なんて自分の中で話しを勝手に決める




「オリジン。私が返せるものは全て返す。捧げるものは捧げるから…………時歪の因子化を止めて」




私は誰の言葉も聞かず、オリジンにとにかく自分の考えた時歪の因子化を止める解決案を話して願う




「待って、リル!本当に……!」

「落ち着け、ジュード」




慌てて止めようとするジュードに、私の意思を尊重したミラが止める




「…………わかった。君の願い、聞き届けよう」




オリジンはそう頷いてくれた

これで、時歪の因子化は止まって、後はルドガー達が分史世界の消滅を願えば………もう誰もいなくならない




「マクスウェル、これが人間なんだね」

「………ああ。きっと人は、どんなこともなせる」




これでいい結果になってくれればと思っていると、オリジンはミラと人の意志は凄いものだと話していた




「信じられぬほど愚かなこともな」

「そうだね……でも、そんな魂の“負”こそ人間の力そのものなんだ」




そこにクロノスは棘を含んだ言葉を言うと、オリジンは頷きながら衝撃的な事実を話した




「うそ……“負”が人間の力……!?」

「そもそも“負”ってなんだい?」




驚く私達にオリジンは問いかける

“負”っていうのは………




「それは……欲望とか?」

「エゴとかだろ」

「我儘……かな?」




思いつく限りの人間が持つ嫌な部分をレイアとアルヴィンと私が言うと、ガイアスが「いや、」と首を振る




「欲望は言い換えれば夢。意志も見方も変えればエゴ。そして我儘も主張となる……単純に善悪に分けられるものではあるまい」

「その通り。だから僕は“負”を浄化なんてしないんだよ。循環の時に生じた瘴気を取り除いて封じていただけ」




そうか……“負”なんて呼び方をしてるけど、それはたしかに醜く嫌な部分であると同時に使い方によっては人間にとって大事な要素だ

そういえばエルも、好き嫌い言った時には「主張だ」なんて言っていたっけ

あの可愛らしい姿を思い出し、オリジンの本当に行っていた事を知れた私は自然と笑顔になり、話しを聞き続けた




「しかし、それでは際限なく瘴気が生まれるだけだろ?」

「だから試したのさ。“負”をもったまま魂の昇華できるかどうか―――人の“選択”をね」




この時私は審判は嫌な部分を持たない人間を選別するものではなく、“負”をもつ人間の成長を見るもの。だと理解した




「人の“選択”………」

「そう。僕は、これを確かめたかったんだ…………でも、示し続けなきゃ意味がない」

「はい。僕たちも、証明してみせます。ルドガー、エル、そしてリルのように――――」




ジュードは私達を見ながらそう言うと、それを聞いたオリジンは微笑む

ルドガーとエルならともかく、私はそんな尊敬されるような立派な事はしていないと思う。それにオリジンが「この人たちなら」って思わせたジュードの方が何倍も立派だ。ミラとの約束を果たすためでもあるし……




「………我の妨害より厳しい試練だ。それを超えられては是非もない」




私が色々考えていると、クロノスはそんな人の意志を続けるのは長く厳しいものになると変わらず冷たく言う




「瘴気は、今しばらく我らが封じよう」

「クロノス……」

「だが、再び人間が―――」

「心配はいらん。何千年かかろうと、辿り着いてみせる」

「私も信じたくなっちゃった。誰かさんたちのせいで」




クロノスの言葉を遮ってガイアスは人を導く王としてそう断言して、ミュゼも私達をチラ見しながら人の力を信じると言い切った




「……面白い。やってみせろ」




それでも曲げない意志はどこまでいくのか少しばかり気になったのか、クロノスはそう言いながらオリジンの横に行く




「世話をかけるね、クロノス」

「時間はある。小言は、あとでゆっくり言わせてもらう」




それより審判を越えし者達の願いを……とクロノスに促されると





「それじゃ、まずはリルの願いを叶えよう。君が捧げてくれた力で………時歪の因子化の消滅を―――!」



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