朝月夜から目覚め









私の部屋で旅行先での宿泊場所やら何処から回って行こうかだの、色々話し合い盛り上がる




「……で、そうなれば、ここ通った方がいいと思うんだ」

「おぉー美央、その案いいね!」

「この前、大学で莉瑠と事前に話し合って決めたルートだもん。ねー?莉瑠」




そう美央に話を振られたけど、何の事かピンとこなかった




「えっと……この前っていつだっけ?」

「はぁ〜?もう忘れたの?」




この前って言ったら……そう考えると、何故か今日より過去の事がぽっかり抜けたように思い出せない

………何かに押さえ付けられているから、思い出せないのか?

また見えない何かが居るような違和感がじわじわと蘇り、何がおかしいのか考えようとすると、呆れて聞いてた美央が「ああ、そうだ」って何かを思い出して口にする




「そう言えば、莉瑠はその後に熱出して大学休んだっけ。そのせいであんまり覚えて無いのかもな」

「!、え、……ああ、うん。そうだった!」




美央のその言葉でふいに、前の記憶が思い出された

そうだよ。たしか美央と旅行の計画を立てた後、私は急に熱やら風邪を拗らせてたんだった

なんだ。よかった。普通に前の事思い出せたじゃん。そうなれば違和感は私の思い違い……





「で、莉瑠が登校してきた日の放課後に……“また話し合いしようとしたら、場所がカラオケ店だったから話し合いよりも歌に熱中しちゃったね!”」




……………あれ?




「あれ、あの、美央………その日、カラオケ店に行く前に……何かなかったっけ?」

「ん?何か?」




私はすぐに聞き返した。なんでだか………あの日の放課後たしかに美央と一緒だったけど、カラオケ店に行く前に何かあったはず

いや、そもそもカラオケした記憶なんて無いような……!




「あ〜迎えに行った時に、莉瑠ったら寝ててダルメシアンみたいになってたってやつ?」

「ちょっ!ダルメシアンとかナイス表現!」

「あははは!」




カラオケに行く前と言ったら…で美央が思い出したのは、私が風邪っ気がまだ少し残ってたせいでうっかり寝てしまっていた所を放課後に起こされた事

たしかに、それはあった。それは覚えている

だけど、その後に何かあった。美央と一緒に大学を出た後に……

いや、寝てる間にもたしか……


友達たちはふざけて話しながら私をおちょくって笑う。私はイジられキャラな所もあるから普段なら「それはないだろ〜!」みたいな感じで私も笑いながら言い返すけど、今はそれどころじゃない

欠けてる何かを必死に思い出そうとした



するとそんな中、花鈴の携帯が鳴る




「あー、ごめんごめん。メールだ」




着信音量を調節してないため大音量で鳴った事に申し訳なさそうにしながら、彼女はメールを確認してすぐに返事を打って終わらせた




「もしかして、静馬さんから?」

「おーおー熱いですな〜!」

「そうだけど、くだらない内容だよ。味噌汁食いたいとか洗濯機の操作ミスったとか……」




静馬さんという人は花鈴の3つ年上の彼氏。仕事で海外に行ってるらしく、それで慣れない一人暮らしの悩みとか日本食が恋しくなってる事をメールで話したみたい

やっぱ自分一人だけの生活には色々慣れないし、毎日当たり前だと思って食べてるものが離れるとその美味しさとか好きだったんだなって気持ちに気付くよね


あれ?なんで私はそんな状況を理解して頷いてるんだろ?一人暮らしした事なんて無いはずだし、離れてしまった味なんて………あったっけ?

そういえば、この家も母が作ってくれた料理も………

なんで………思えば懐かしく……久々に食べたって感じるんだ……?




「あの……静馬さんって……仕事何してたっけ?」




家の中と母の料理が久しぶりと感じてしまった事に、急に恐怖に似た不安にかられてしまい、それを取り払うように何気なく静馬さんについて聞いて会話で気を紛らわそうとした




「医療関係だよ。新薬技術を学ぶとか何とかで海外に行ったみたいだけど、こんな様子じゃ大丈夫かな?」

「医療……?」




本当に何の気無しに聞いた事だから、花鈴の口から医療と言う言葉を聞いた時に、不意討ちを喰らった心臓がドクンッと跳ね上がった

医療……医療関係……

なんだろう。何でだ?医療に関する事で私は忘れている何か大事なものを思い出しかけた

欠けてる何かは……医療に関係してるの?




「けど、花鈴は専門校卒業したら静馬さん追いかけて行くんでしょ?」

「まぁーね。あいつ家事全般がちゃらんぼらんで今住んでるアパートをぶっ壊さないか心配だし」

「とか言いつつ、同じく医療を専攻してるんだから仕事面でもサポートする気満々じゃ〜ん!」




皆の会話の内容の所々が、私の奥底に閉ざされてる記憶を呼び起こす




「医療の……彼……追う……一緒……」




重要だと思われるキーワードを口に出してみる

本当に無意識にだ




その瞬間、頭の中に電流のような衝撃と共に今までの……





“今まで、こことは違う世界で生きていた記憶”が映画のように再生されていく!





そうだ。そうだよ……

どうして今まで忘れていたんだろう……

こんな、こんなにも大切な……!!






「………っ、う……」




今まで忘れていた申し訳なさのせいなのか、思い出す事が出来た安心感のせいなのか、涙が溢れてきた

もう忘れない。忘れたくない

その気持ちから、さっきみたいに口に出そうと立ち上がる




「莉瑠?」

「わ、………わ、たし………!」




涙目でフラフラと立ち上がった私を見た友達たちは驚いて楽しく会話していたのを一旦やめ「何があったか?」と心配そうに駆け寄ってきた




「どうした?具合でも悪いのか?」

「私ね………私、大事なものが……」

「お、落ち着いて。何があったの?」

「私は………!」




こんな事言ったら友達たちが困惑するとか、そんな事を考える余裕など無く私はありったけの気持ちを吐こうとした


私は………まだ“あの世界”に居なければいけない……!





その時




私達の耳に響いたのは玄関のチャイム

普通なら一回で鳴り終わるそれは、何回も何回も鳴り響く




「な、なんだろう……?」




異様に鳴り続けるチャイムを不気味に思いながら沈黙する

私は熱く込み上げる気持ちを吐けなかったが、大事な事を思い出した今なら、この違和感に思えた空間の中で軽く動ける気がした



そして何故か…………その玄関に



外に行かなければいけない気がした




「ちょっと………玄関の様子見てくるね」

「え、だ、大丈夫?」




さっきまでの私の様子を思った友達たちが、まだ心配そうに見ていたけど

溢れそうだった涙を引っ込めて「大丈夫だ」と気丈に振る舞い、一階に降りた


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