黎明へ
目を開けると
まずはじめに薄暗く見える白い天井、次に白いカーテンが視界に入る
「(ここは……)」
目覚めたばかりでボ〜っとしながら首を横に向けると点滴を見つけ、繋がってる先を辿ると自分の左腕に刺さっていた
寝ている状態と点滴……そうなればここは病院だ
でも、なんで病院に?
「(そうだ……たしか私は……)」
ようやくここで動きが鈍かった頭も本格的に目覚め、そしてここに至るまでを思い出した
オリジンに願いを伝え、審判を無事に終えると、願いの代償として私の腹部に出来た傷が開いて出血して………
意識が遠退いたと思ったら元の世界みたいな所に居て、家族や友達たちと……
そこまで思い出しかけた時に胸が締め付けられそうだったけど、オリジンに言ったように私は自分らしく生きるためにこっちに居る事にしたんだから。これで良いんだ
私はすぐに身体を動かして無事に生還出来たか確認する
長く眠っていたせいか身体の節々が痛く、ベッドの軋む音が痛みの音そのものの様に思ってしまう
そうしてなんとか身体を起こしてみると、カーテンから僅かに見える外はもう黒に近い深い青色に染まっている
夜………だけど、どれくらい寝ていたのかがわからない
一人静かな病室。もしかしたら私は本当は死んでいて、この外の闇夜に押し潰されてしまうのではないか?そんな不安が芽生えてきた
と、その時
ノック無しでいきなり病室のドアが開く
そして、一人の人間が入ってきた
「あ………」
入ってきた人物はたしかにここに居て何もおかしくない人だけど、思わず声を出してしまう。何故なら
「(よかった……救うことが出来たんだ)」
私が何としても助けたかった人たち。その中でも特別に気にしていた人だから
そんな相手は言うと……赤と黒のストライプ柄のスーツで髪は黒の長髪で顔の左右横にある部分は白金のメッシュが入っている長身の男性は、私が声を出したと同時に驚いて立ち止まった
「な、ぉっ……!」
「え?何ですか?ふふふっ」
私を見て面食らったまま何か言ったみたいだから聞き返してみると、すぐにその場を取り繕うように頭を掻きながら眉間に皺を寄せ目線をあちこちに外した
あ〜出た出た。自分のミスがバレたり誤魔化そうとする時のバツが悪そうなあの顔
なんだかしばらくぶりに親しい人に会えた事で、どこかでホッと一安心して見慣れた不機嫌な顔で笑ってしまった
「何が可笑しいんだ!ったく……」
彼は私に軽く怒った後、病室の電気を点けベッドの側の椅子に座る
「え?何が可笑しいって?色々とですよ。特に最初のいきなり驚いた顔を見せれば誰だって……んふふっ!」
「暗い部屋ん中、黙ってベッドから起き上がってりゃ驚くだろ。一瞬幽霊かと見間違う程にな」
「なっ!幽霊って……あたしが死ぬって思ってたんですか!」
「冗談。目を覚ましてくれなきゃすごく困っていたさ………俺が医療ミスしたって思われるからな」
「はぁ〜!?何それ!自分の名誉の心配!?」
だぁぁ〜〜もう!久々にまたやられた!
彼をおちょくろうとして逆にイジリ返された!ま、よくやっちゃうんだけどね……
人を幽霊扱いしたり自分のミスばっかり心配してる発言に頬を膨らませながら彼を見ると、さっきとは打って変わってクスクスと人を馬鹿にした笑いをしていた
あ〜!もう!ムカつく!!
これ以上何か言って余計に馬鹿にされるのも嫌だから、しばらく黙っていようと口を少し尖らせてあからさまな「怒ってますよ」アピールをした
それを見て「なんだそりゃ」って笑っていた彼だったけど、やがて大人しくなり沈黙が流れる
…………え、あの、この間は一体??
急にしんとして気まずくなりそうな空気にどうしようかと悩んだけど、そう言えば聞きたい事があったな。とすぐに口を開いた
「あの……私、どのくらい寝ていたんですか?」
自分の感覚で言えば、倒れた時から今目覚めてそんなに時間が経ったとは思えない
1日の睡眠時間程度。もしくは意外性で言えば3日くらいだろうか
果たして真実は……
「1ヵ月ちょっとだ」
……………意外性を通り越して大仰天なものだった!!
「え…………ええええぇぇぇぇぇーーーー!?うそーーーーー!!!」
いやいやいやいや!ありえないでしょ!!
1ヵ月も……寝たままだった……だと!?
それは本当なのかよ!と彼の方を向いてオーバーに驚きを表す
「うっせぇな!嘘じゃねぇよ……だからようやく起きたかって俺も驚いたんだ」
まぁ予想はしていたけどすぐに静かにしろと怒られた。よくよく考えたら病室だもんねここ。その後に何やら小声で私が目を覚ました事について呟いたのが聞こえた
聞き返そうとしたけど、はぐらかされそうだし大体は聞き取れたからいいっか
それより、あの口振りだと……私はもっと眠ったままだったかもしれない
まぁそうだよな。あの危うく取り込まれそうになる居心地良い空間だと……
……………
「(そんなに時が経ってるとは気付かないで、まだあの空間に居ようとしたら浦島太郎状態に……!)」
うわ〜〜!そう考えるとゾッとする!!
これは私しか知らない体験だから誰かに聞いて真偽を確かめることは無理だろうから、この先ずっとこれは危機一髪エピソードとして自分の中で残るんだろうな……
「おい、何ぶつぶつ言ってんだ?」
「んぇ?」
自分の中で気付いた事とそれから予想される結果をまとめて完結させようとしたら、落としていた目線を一気に引き上げられる
彼が乱暴に私の顎を掴んで上げたためだ
「ちょっと〜病み上がりですから、もう少し労ってくださいよ〜〜!私はペットじゃないんですよ〜〜!」
「はぁ?ペットの方がまだ可愛げがあって賢いだろ。言う事聞かねぇ獰猛女のお前にはこれで十分な扱いだ」
「な、なんですとぉ!?」
私は手を離すよう両手で退けようとしたけど、びくともしない………くそぅ!やっぱ細い野郎でも男女の力の差が出てしまうか!
悔しくて「い〜〜だっ!」と力の無い子供じみた抵抗心を見せると、彼は私の顎を掴んだまま得意気に笑うだけだった
すると突然「ああ、そうだ」と彼は掴んでいた手を離して椅子に置いていたバインダーで挟んだ書類を出した
「色々バタバタしてて、まだ書いてなかったな」
「何がですか?」
「患者の身元確認」
あれ?私の事はだいたいわかるはずだから、カルテは作れるんじゃないか?
そう疑問に思って言おうとしたら、彼は続けてすぐに質問してきた
「じゃ、聞いておくが……職業は?エージェントか?」
それを聞いた時……
何故か出会ったあの時を思い出した
突然の異世界トリップ。そしてさらに分史世界に入りこんで怪我して……
その時に助けてくれて治療をして、借金背負わせられて………色々な事が始まったんだよね
たしかあの時は“元の居た世界”の人間の「篠宮莉瑠」として答えた
だけど、今は……
「はい……分史対策エージェント。一応、副室長です」
そう。この世界の人間として
「なら、何処に住んでるんだ?」
「トリグラフの――」
生きるって
「最後に……名前は?」
「私は……リルです!」
決めたんだから!
「………そうか」
なんだか彼の穏やかに頷く様子から患者の情報を確認するって言うよりも、改めてこの世界に生きる私の決意を見たかったんじゃないか。そう思えた
……私の勘違いかもしれないけど
「借りはこれで返したからな。リル」
「はい。きっちり受けとりました!ありがとうございますリドウさん」
ここでようやく互いの名前を呼び合った
2回目の………リルとして新しいスタートだとわくわくするような暖かさを感じ、余韻に浸ってると
書類を書いてたリドウの手が止まる
そして
「あ、けどな。もう分史対策室は無いぞ」
「……………は?」
またまた立て続けに衝撃的な事を言われてしまった