黎明へ



は……?え……?ん……?

分史対策室が……無い?




「え。あの、何で……?」

「なんでも何も………お前らが審判で願って分史世界を消滅させたんだろ。なら無くなったモノの対策なんざ必要ない」

「あ。ああ………ソ、ソウデシタネ」




ああ。う、うう……そうだった……!

分史世界が無くなったから、もう侵入して破壊なんてしなくていい……だから対策室やエージェントとかがいらなくなるのは当然だ

なら、私はどこの部門に行くことになるんだろ?

唖然としながら、これから自分はどうなるか考えてるところに……




「ちなみにお前に見せた退職処分状。それと自分でクビになってもいいとか言った事、覚えてるか?」

「あ…………





あああああ!!そうだったぁ〜〜〜!!」




その言葉を聞いて思い出した!

忘れてた!たしか私は変な言いがかりと理不尽な理由で処分状も出されたし、社長だったあの人……ビズリーの野望を妨害するためだったらクビになっても構いません!とか言ったね。はい。確実に自分の意思で

そうなれば借りてる家からもいずれ追い出されるから、いきなり何も無い状態からの再スタートと言う事になる

なんだか無人島にいきなり放り出されてそこで生活しろ!みたいに宣告された気分だ

自業自得だとは言え、もう分史対策という大きな問題が解決された世界になったから、やっぱこのままクランスピア社にいたい……前言撤回できないんですか?と、すがるようにリドウを見ると




「まぁあれは分史対策に関してのミスで退職処分だったからな。次に就く新しい社長が分史対策が無くなった今じゃ無関係だって考え直してくれたら……」

「わあああああ!そっそそそれ早く言ってくださいよ!!そ、そうなれば……社長室に急行だ〜!!」




私は慌ててベッドから下りて形振り構わず社長室に行こうとしたら、掛け布団に足が引っ掛かりそのまま床に落ちそうになる




「馬鹿!何してんだお前は……」

「わっぷ!」




そこにすかさずリドウが手を貸してくれて、間一髪で落ちる事なく元のベッドに戻れた




「そんな状態で社長室に行ってどうすんだ」

「え、いや、だって……今のうちにお願いしないと……」

「まぁそう慌てんな。必死すぎて顔もいつも以上に怖い上に病院服で面会だなんてドン引きものだぜ?………それにその新しい社長は近い内にここに来るから待て」

「新しい社長がここに?なんで私のお見舞いを………」




そこで私は自分の事で必死だったから、新しい社長についてよく考えてなかったのに気付く

一般社員……いや、今はクビかもしれない人間な私に対してお見舞いだなんて優しい人なのか?と思った時に、あのビズリー前社長の座に次に就くとしたら……で、馴染みのある仲間と上司を思い出した




「もしかして、新しい社長ってルドガーかユリウスさん?」

「まぁそれは自分で確かめろ。すぐにわかると思う」




肯定も否定もせずそう言い終わると、リドウは書類をまとめて立ち上がった




「じゃ、診察は明日にやるから今日はゆっくり寝とけよ」

「え〜?本当にこんなゆっくりしてて大丈夫かな……」

「医者の言う事は聞いた方がいいぜ?さっきみたいにいきなり動こうとして怪我なり何なりしたらその治療は別料金として請求するが……ま、俺としてはその方が得だな」

「うわ、出た。守銭奴医者の詐欺的治療……!」

「何か言ったか?あ?」

「いっふぇないれふ!いっふぇないれふ!!(言ってないです!言ってないです!!)」




自分が解雇されてるかどうかの不安がまだ拭いきれない状態に言ってきたリドウの別料金についての話

うわ出た〜!悪徳に金を沢山巻き上げるやり方!これも久々に聞いたなぁと、つい思ったままの事を言ってリドウに頬を引っ張られてしまう

ある程度引っ張られて離された頬が地味に痛むなぁ〜と擦っていると、リドウが続けて言う




「これでも借りを返すって事で手術料と退院までの診察料は免除してやってんだからな。ありがたく思え」

「へ〜いへ〜い。ありがとございま〜す」




あら、珍しい。そこまで免除してくれるの?って思ったけどもう頬を引っ張られたり痛い思いするのはたくさんだ。と言う事で次に思ったのは口にしないで心に留めた

そしてやる気の無い返事とお礼の言葉も一応添える




「……じゃ、もう行くからな」




色々話してて長居してしまった。とリドウは早々に病室から出ようとした




「あ、あの……!」

「なんだ?」




なんだかその姿を見て、もう少し居て欲しいみたいな変な寂しさを感じ、つい呼び止めてしまった

えっと……何を言おうか……

呼び止めたのに何て声をかけたらいいかわからない

どうしよう


“もう少し一緒に居て?”……いいや違う

“一緒に寝て?”……これも違う


だって真偽はどうであれ、形はどうであれ、私達は別れた。もう近い距離で仲良し出来ない

けど、不思議と別れた事に対してはもう悲しい気持ちはない

こうして恩の貸し借りで深まった仲。違うかもしれないけど言うなれば“心強い仲間”みたいな似た気持ちでいる

つまり、この言い表せない寂しさは………また病室で一人になるのがただ心細いからだ

明日ちゃんと目覚めてまたリドウや一緒に旅をした仲間と再会できたり、エルやユリウスさんは元気にしてるか自分の目で確かめる事が出来るか?の不安

その不安から誰でも良いから一人にしないで。って言いたかったかもしれない

だけど、リドウだって仕事があるから、こんな子供みたいなわがままは言えない……前の私だったら言ってたかもしれないけど


だから……私が今、言えるのは……





「……おやすみなさい。また明日っ!」




明日また会えるようにと願いを込めて約束する事だ

ちょっと引きつったかもしれない笑顔で手を振ると




「……ああ。明日な。リル」




そう言ってリドウも振り向いて手を振ってくれた

私の気持ちが伝わったのか、彼は「はぁ?いきなりなんだ?」みたいな事は何も言わず、私の言葉に対しておなじように言って返してくれた

その表情は………付き合っていた時、いつかに見た穏やかな笑顔だった


そうしてリドウは病室の電気を消してから出て行き、足音が遠ざかって行くのをただ聞いた

完全に聞こえなくなり、またシン……と静まり返る病室内になった中、ベッドの布団に潜る




「(そうだ。私も生きてるし、リドウも大丈夫そうだ。だから何も心配はない)」




リドウと言葉と約束を交わした時、不思議と感じていた寂しさが少し減った気がした

そして、改めて無事に生きているんだと実感が沸いて、何も怖がることは無いと自分を鼓舞する


だって……“また明日ね”って約束したから、楽しみにしてなきゃ勿体ない


今は静かな病室に一人だけど、すぐに皆に会える

私はそう信じて目を閉じた




「(早く明日になりますように)」




まるで遠足を楽しみにしてる子供みたいだな。って苦笑しながら眠りに就く



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