暖かな風と共に
暖かい風が髪と頬を撫で、柔らかい日差しが身体を包み込む
季節で言えば春だろうか。いや、こっちの世界は向こうみたいに四季は無いから春とかってはっきり言えないけど、この時期になると咲く花や緑があるからもしかしたら気付かないだけで四季はあるかもしれない
そんな中私は、あれからどのくらい経ったのか思い返してみた
入院生活は退屈なものだったけど、私が目を覚ました次の日に連絡を受けた仲間達が全員お見舞いに来てくれて驚いたし嬉しかったなぁ
ガイアスとローエンは国を背負う立場にあるから、お見舞いは初日の1回だけだったけど、持ってきてくれた高級フルーツの詰め合わせは美味しく頂きました!ありがとうございます……!
それからは、ほぼ毎日エリーゼやレイア。そしてたまにアルヴィンやジュードが来てくれて内緒でお菓子を買ってきてくれたり、今日は何があったかを話してくれた
そして……エル、ユリウスさん、ルドガー。クルスニク一族の彼らが元気に顔を出してくれた事が本当に安心した
リドウも何ともないってわかったけど、こうして複数のクルスニク一族が無事でいる事を見て改めて分史世界が無くなったんだと実感できた
あれから時歪の因子化はまるで最初から無かったかのように面影は消え、元の日常に戻れたのを改めて感謝されたけど、感謝するのはむしろ私の方。私に出来る事をさせてくれてありがとう。って
そんなこんなで目が覚めてから感じていた寂しさもすっかり消え、金と説教でうるさい赤いお医者さんの言う事聞きながら入院生活を無事に終え……
退院してからが大変だった
クランスピア社・新社長であるルドガーには入院中に退職処分状が無効なんじゃないか?で相談したから、なんとかエージェントの役職と住む場所を取り戻せたけど
分史対策のエージェントしかやってなかった私に出来る他の仕事がなかなか見つからなくて、長い間迷走してた
リドウの医療部門の事務を手伝ったり、開発部門の部品運びだったり、魔物退治、食堂の新メニューの試食等々……
あ、食堂の仕事に関しては何故か調理の手伝いはさせてくれなかった。誰か言ったんだろうね「リルに作り慣れない料理を作らせるな」って。誰なのか検討つくけど
まぁとりあえず……
「そんなわけで、色々やってきたんだよ〜」
「大変だったっすね!お疲れ様です。リルさん」
私は腕を上に上げて上半身を伸ばしながら今まで色々あった事を話し終わると、近くで聞いていたイバルがお茶を渡してくれた
そう。ここはニ・アケリア
仕事で来たんだけど、休憩中に久しぶりにイバルと再会してこうして色々話していたんだ
そして私に気を遣ってお茶を持ってきてくれて、ちょうど喉が乾いたとこだったからお言葉に甘えて頂く
「ふー……ありがと」
「いえいえ。にしても退院してすぐエージェントに復帰って、無理が身体に響きませんか?」
「大丈夫だよ!ご心配なくっ」
心配してくれる彼に元気だと断言してニッと笑ってみせた
「流石リルさんですね。俺とは違って……」
「そうかな?イバルだってマルチエージェントとして色々頑張っていたでしょ?それに今はイバルなりに頑張ってるし目標もあるから、そういうのは人と比べなくても良いんじゃないかな?」
ジュードから聞いたけど、イバルはクランスピア社を辞め故郷であるニ・アケリアに戻って自分のやれる事を探しながら、ミラを支える家族として村を守る事にしたそうだ
無理にやりたくない事はやらなくていい。そして自分に出来ることを探す大変さもわかってるし、事実イバルは何もしていないわけではなく、ちゃんと恩のある村に貢献しているじゃないか。と言った
「そうだった。俺はもう卑屈にならないって決めたんだ……すみません。なかなか変われずカッコ悪いところばかり」
「カッコ悪いなんて思ってないよ。一生懸命で素敵だよ」
人はすぐには変われないけど、変わろうとする努力は伝わるからね
だから気にする事ないよってそう褒めるとイバルは「そんな勿体ない言葉を……!」って少し頬を赤くさせて、手をぶんぶん振りながら照れ出した
本当にイバルは優しくて真っ直ぐで応援したくなるなぁと微笑ましく見てた時、そう言えば私はイバルに何か言わなきゃいけなかったはず……って鞄の中を探り、出てきた物で思い出す
「あー!そうだ!あのさ、イバルから前に貰ったこれ……」
それは前に貰った紫色の宝石が付いたストラップ。ルドガーの新しい武器と一緒に持ってきてて私にくれた物だ
だが……とても綺麗に輝いていた宝石はヒビが入り所々砕け、紐も千切れていた
いつからこんな状態になったのは定かではないけど、大事にしていたはずなのにショックだし何よりせっかくくれた物なのに早々に壊して申し訳ない。って謝った
すると、イバルは怒らず笑顔で「ああ。大丈夫っす!」って答えた
「それ、直しておきますんで預かってもいいっすか?」
「本当に?」
いいの?うわ〜!そんな至れり尽くせりで本当に申し訳ないな!
壊したんだから怒ってもいいんだよ?ってお守りを渡しながら様子を伺っていると、イバルが続けて話した
「……実はこれ、持ち主を助けてくれると壊れるって言われるお守りなんですよ。ですからこれが壊れたって事はリルさんを守ってくれた証だと思うんで、俺は嬉しいんです」
「え。そうだったんだ!」
流石、精霊信仰の村でその住人だから素直にすごい!と納得してしまう
「と、いう事は……私がこうしているのもイバルのおかげってわけだね!」
「いえいえ、そんな……!」
何度か死に直面して、その度に仲間達が助けてくれたって自覚していたけど、遠くからイバルも力を貸してくれていたんだね
私も助けられてばかりでまだまだ半人前だけど、いつかはこの恩返しが出来るよう頑張るよって気持ちを込めてお礼を言う
そして、ふとGHSを見ると、そろそろ休憩を切り上げて帰らないといけない時間だった
「あ、そろそろ時間だな……」
それじゃあ。ここで……って立ち上がって行こうとしたら
「あの、リルさん!」
「ん?」
イバルが呼び止める
どうしたんだろうな?って振り返ってみると、なんだか言おうかどうしようか悩んでるように見えた
「リルさんは……その……クランスピア社に……エレンピオスの方に居て辛く感じる時ありますか?」
「え?」
そして、歯切れが悪く出た言葉は私を気遣うものだけどそれはどう言う意味なのかわからず、拳を握ってどこか怒りを堪えてるイバルをじっと見た
「そ、そりゃあ経済的な理由もありますし、色々な事情はあるかと思いますけど……俺、心配なんですよ。あいつとの事を思うと」
ああ。なるほど。そう言う事か
これもジュードから聞いたけど、イバルが私とリドウとの事を聞いて激怒したんだった
その後、私を助けるための嘘だったって聞いても「嘘でもやった事は酷いものじゃないか!」ってあくまで許さない気持ちでいるみたいで……
今も気にしてくれてるんだね
「イバル。大丈夫だよ」
彼の怒りで堅く握った拳を両手で包む
「私自身はもう気にしてないし、何より自分で出来る事を掴むために日々動いてるから、もう自分の事と未来の事しか頭にないよ」
思えばここに来た頃の私は、前までの目標であった向こうの世界に戻れるか?の不安から、人に寄り掛かっていたかもしれない
つまり、悪い言い方をすれば……リドウに依存していたところもあったって思う
別れを言われた時は酷く落ち込んで何も手が付けられなかったし、もしかしたら危うく全てを放り出してたかも
それは何も相手だけが悪いんじゃなく、自分自身も弱かった。って今は反省してる
だから……人と程よい距離の仲を大事にしながら、色んな分野に興味を持って自分の世界を広げようって考えるようになった
「それにね。離れてせいせいするよりも、近くに居て様子見てる方が楽しいよ?ほら、あいつ言うほど完璧ってわけじゃないし詰めが甘いとこもあるからさ……」
「たしかに!前に足跡が顔面に付いていた事もありましたね!」
具体的にどの位気にしてないのかを話すと、イバルはププッと笑いながら頷いてくれた
そう。だから私はあくまであの場所で………全てが始まったエレンピオスで暮らそうって改めて決心したの
「なら、いいんすけど……なんか要らない気遣いでしたね」
私の決心に理解してくれたイバルは堅く握った拳を解いて、なんだか申し訳なさそうに自分の言った事に関して苦笑いしながら「すみません」と一言
「ううん。私を思ってくれて言ってくれたから嬉しいよ。本当にありがとう!」
彼はからかって言ったわけじゃない。純粋に私を心配して出た言葉だから全然不快には思わない
……イバルも大丈夫だよ。不器用なとこもあるけど、そんな風に人に対して優しい気持ちで接してくれる根は良い人だから、きっと頑張りが良い結果になる
「お互い、頑張ろうね」
「……リルさん」
少し間を開けてからイバルはこう言った
「……はい!一緒に頑張りましょう!」
眩しい笑顔を見せ、手を差し出す
「うん!」
それに応じて握手と目標に向けて頑張る約束を交わし
私はニ・アケリアから出てイラート海停を目指して歩いた
「(リルさん。貴女の気持ちはわかりました………だから、俺は俺なりにリルさんを見守って応援します!)」