暖かな風と共に



ニ・アケリアからトリグラフまでは相当距離がある

だからイラート海停の宿で1泊してから朝マクスバートへ行き列車で帰って来ると、もう昼過ぎになっていた



そこで……




「こんにちはリル。」

「リル〜!」

「あ、リルだ!やっほー!」




トリグラフ中央駅にエリーゼとティポとレイアがいた




「エリーゼ!ティポ!レイア!」

「今、列車から出てきたって事は昨日まで出張とかで街から出てたの?」

「ん〜まぁ出張と言うか、自分の仕事のための個人的遠征?みたいな感じ。レイアは取材で来てるの?」

「うん!列車の燃料や素材について見直されてるって聞いたから、すぐに走って来ちゃったよ」

「さっすが!未来のトップ記者〜!そしてエリーゼも何かメモとか取ってるみたいだけど、まさか一緒に取材を?」

「私は学校の課題で様々な仕事を見学しているんです」

「今度、学校内で発表会するんだ〜!」




挨拶を交わしながら何故この駅にいるのかを話して盛り上がる私達


レイア……彼女はあれから新聞記者として取材する時の心構えと、記事にするときに必要な公平な視点で書いて責任感を持つ事を学んで、今じゃ編集長から色々な取材を任されてる

私も難しい話しは苦手なとこもあるけど、リーゼ・マクシア人でエレンピオスの社会で働いていく中、人々の価値観のギャップに驚きながら受け入れて理解しようとしたり挫けそうになっても熱心に取材をし続ける姿は尊敬してしまう


そしてエリーゼ……エルに頼られるお姉さんになろうと奮闘しながら、優しいだけじゃなく辛い決断をしなければいけない事を学び、自分らしく素敵な大人になると決めた

優しい事は良いこと。だけどどんな事も優しさで解決できない。無理に包もうとすると破れるように悲しい結果にもなる。それをわかって反省できるエリーゼはもう素敵な大人の仲間だよ




「二人とも頑張ってね!それじゃ」

「ありがとう!」

「それでは、また」

「リルも仕事頑張ってね〜!」




そんな彼女達と別れて駅から出ると、チャージブル大通りが広がりそこに様々な店が開店し、人があちらこちらに居て買い出ししたり飲食店でゆっくりいている


私もクランスピア社に戻る前に何か買って行こうかな?ってある店舗に入ると




「よぉ。リルじゃないか」

「おおっ!アルヴィン!」




そこにはアルヴィンが居た。どうやら新しい商品についての交渉してるみたいだ


アルヴィン……リーゼ・マクシア人のユルゲンスさんと組んで仕事する上で色々な壁にぶち当たったり衝突もあったりしたけど、だんだん軌道に乗ってきて今はとても順調らしい

自分が生きていくためとは言え、人を騙したり裏切ったり自分を偽ったりした嫌な過去の自分と向き合いながら、本当にやりたい事やなりたい自分に近付くために苦しい思いをした。これは彼の本質が真面目で良い人だから出来る事だと思う




「リルもどうだ?新しく設立したメーカーの商品だ」

「どれどれ……」




そこでアルヴィンから見慣れないパッケージのお菓子を勧められ、一つ貰って食べてみた




「あ、面白い!これ弾けるキャンディー入り!しかも美味い!」

「だろ〜?……てなわけで、どうです?店長」

「そうですね………お試しとしていくつか置かせて下さい。売れ行きが良ければ正式に契約します」

「よし!決まりだな……リル、お前のお陰だ。サンキュー!」

「いやいや、それほどでも〜」




とは言いつつアルヴィンの助けになれたのは嬉しい

そしてアルヴィンからお礼として試食させてくれたお菓子を更に何個か貰い、店でも飲み物と軽食を買って出た




さぁクランスピア社に向かうかって歩いてると、GHSが鳴っているのに気付いて足を止める



そして画面を確認すると、見慣れない番号が

え、いたずらか間違いか?

恐る恐る出てみると




「はい……」

「……っ!……リルか?」

「んん?」




電話の相手は男性のようで、私の名前を知っててどこかで聞いたことある声だから顔見知り。しかも親しい人のはずだ


そして、記憶を巡らせて………一人の人物に思い当たった




「あの………ガイア……」

「うぉっほん!」




あああ!やっぱりだ!相手はガイアスだ!

色々驚きながら、公共の場で危うく王の名前を出そうとしたのを「しまった!」って慌て訂正する




「ガッ………♪ガイア〜ア〜ア〜〜!そして貴方は〜〜アーストォ〜〜!」




咄嗟に歌って誤魔化したけど、めっちゃ苦しいやり方で不自然だな

だけど電話の向こうの……ガイアスことアーストさんは「ああ。久しぶりだな」って話をはじめた

あ、あの誤魔化し方でよかったんだ




「どうしたの?急に電話で」

「新機種のGHSに買い換えたんだが……ちゃんと起動するか色々試したくてな。それで……」

「試しに私の番号にかけてみたってやつ?」

「そんなところだ」




へぇ〜機械類が大の苦手なガイアスが新機種に買い換えか

珍しいなって思ったけど、立場的にエレンピオスとの友好な関係を築く上で対談相手から勧められたり、機能も便利なのが増えてきてるからそうした理由なら納得できるかもなぁ


そんなガイアスは……王である事を隠してエレンピオスの青年達と触れ合い、リーゼ・マクシア人への偏見が薄れてきた所にある事件が起きてしまう。そこで辛くても王として決断して青年達とは離れてしまった

だけど、その後に一個人のアーストとして手助けした事により、離れてしまっても自分達と仲良くしてくれた彼らとの絆が戻ったような気がする。ガイアスは気難しいところもあるけど決して見捨てようとしない心もあるのを知っているから、私はいつかその青年達と再会できますように。と祈った




「む、なんだ………ん?ああ……」

「どうしたの?」

「ああ。ローエンもリルと話したいそうだ。変わってもいいか?」

「え、本当?いいよ!」




GHSの向こうで誰かと話してるなぁって思っていたらローエンで、ガイアスと代わって電話に出てきた




「お久しぶりです。リルさん」

「ローエン!久しぶり〜!」

「あれからお身体はどうですか?」

「元気にやってるよ〜!お見舞いに持ってきてくれたフルーツのおかげで治りが早かったかもね!」

「それはそれは」




私がお見舞いのお礼を言うと、ローエンは安心したようで穏やかに笑う


ローエン……普段は気さくでユーモラスセンス抜群の老紳士だけど王を支える宰相として、エレンピオスからは異界者と言われ、リーゼ・マクシアでは敵国に成り下がった犬と言われながら自分のなす事全てに命を懸ける人だ

そして、この命をかける覚悟は計り知れないものだった。両国和平への光が消えないように意志を貫くためだとは言え「彼方の喜びを此方の喜びとせよ、彼方の悲しみはまた此方の悲しみ」この言葉のように、ローエンが居なくなって悲しむ人が沢山いる事を忘れないでほしい




「あ、そうだ。あのフルーツの詰め合わせの中にあったパレンジにお見舞いメッセージ書いてあったけど、すごいね!店でそういうサービスあるなんて」

「パレンジ?はて……」




そう、あのフルーツの詰め合わせの中でパレンジにだけ“早く元気になってね”って書いてあった

わざわざそうしたメッセージを入れてくれるように店に頼んだのかな?って聞いたけど、ローエンは心当たりなさそうにGHSの向こうで首をかしげてるようだ

まさか、気付かず偶然に買ったもの?そういう事ってあるのかな……?




「まぁ何はともあれお元気そうで安心しました。ね、ガイアスさん」




パレンジのメッセージについては今考えても答えが見えてこないって事で話を戻すと、ローエンが近くにいるであろうガイアスにそう聞いた




「ガイアスさんもリルさんが退院した後もご心配しておりまして。それで様子を伺いに電話したんですよ」

「え!そうなの?」




新機種の練習ってのは口実?まぁガイアスの事だからそれも含まれてるだろうな。なんて一人でこっそり笑う

世界の王が私みたいな一個人のために……って恐れ多く思ったけど、なかなか会えない仲間としてそこまで思ってくれたのは純粋に嬉しいな

まさかの事を暴露されたガイアスが遠くから何か言ってるみたいで、ローエンはそれを「はいはい」言いながら宥める

なんだか王と宰相って言うより孫とお祖父さんみたいだ




「今度、ドロッセルお嬢様とエリーゼさんとお茶会する話をしておりますが、ご予定が空いておりましたらリルさんも是非来てください」

「わぁ行きたい!お誘いありがとう!」




そうしてローエンとの会話を終えると、持ち主のガイアスに戻った




「まぁ……その、何だ。突然すまないな」

「ううん。私も久しぶりに話せてよかったよ!心配もしてくれてありがとう」




なんだか気まずそうにしてるガイアスにその気遣いはすごく嬉しいから、良ければいつでもGHSに連絡してきていいよって言うと




「いずれ改めて行われるルドガーの社長就任式に顔を出すつもりだ。その時にまたゆっくり話そうか」




そう言って「ではな」と電話を切った

ちょっと不器用だけど優しい王とユーモラスに適切に支える宰相。きっと良い世界になるんだろうな………いや、上の人達だけには任せてはいけない。私達世界中の人が一人一人頑張らないとな……




「ナァ〜」




ガイアスとローエンとの会話で改めて頑張る決意を固めてると、何処から猫の鳴き声がした

あちこち見て探すと、道の奥の街灯下に白くて大きなシルエットで、灰色の顔に翡翠色の目をした猫……ルルがいた


旅の可愛いお供として常に私達と一緒にいて逞しくなったルルだけど、今はもう普通のペットとしてのんびりしてる

するとそこにいつかに見た真っ白な猫が現れ、ルルと「ニャ〜」「ナァ〜」と会話するように鳴くと、2匹仲良く並んで歩いて行った

可愛いなぁ猫のカップル〜こっちまでほんわかしてしまう



……と、いけない。いけない。そろそろクランスピア社に行かなければ

次は寄り道せずに真っ直ぐ向かった













クランスピア社の一階ホール

いつ見ても広くて綺麗なこの空間

色んな部門のエージェント達が行き交ったり、仕事の打ち合わせをしたりしてる

その中で社内ではあまり見かけない……けど、私にとっては見たことある親しい人物を発見した




「あれ、ジュード!」

「リル!」




それはジュードが大きな段ボールを受付から受け取っているところだった




「研究の方はどう?」

「うん。良い感じに進んでるよ。もう少しで実験を再開するんだ」




ジュード……源霊匣の実現に向けて様々な人達の期待や責任を背負って研究してきた。そんな中で大精霊セルシウスが語ってくれた思い出やある事件でかつてのマクスウェルを召喚した事によって大きく前進した

ミラとの願いは絶対叶う。その実現化は一歩一歩近づいてるのがわかる




「今ね、精霊のメッセージを読み取って文字にして表示する機械を開発してるんだ」




そう言いながらポケットから何やら小さい機械を出してきた

なんかポ○ベルみたいなものだな……




「ハオ博士が精霊とコミュニケーションを取る為に術式を発明したって前に話したよね?今の技術ならもっと鮮明に人間でもわかりやすい文に出来るんじゃないかって源霊匣の研究の一環として作ったんだけど……まだ上手くいかなくて」

「ふ〜ん。これで………あ!」




機械を見ていると画面に何か表示された




「これが精霊のメッセージ?」

「……のはずなんだけど、GHSやパソコンからの電波を間違って受け取ってるんだと思う」

「あ〜……無線を使う時に別の所と混線するみたいな?」

「そうそう」




その表示されたのは、たしかに文字化けしてて読めない

辛うじて読める所だけを拾っても……


って、あれ?読める所だけ拾ったら文になったぞ!

そうなれば、これは……




「(げんきか?……くだもの……たべた?)」




んん?何これ?

最初の「元気か?」は挨拶として言っててわかるけど「果物食べた?」ってどういう事だろう

やっぱり誰かの電子機器から漏れた電波を間違って受信したかもね

内容から風邪やら何やらで体調崩した人にお見舞いの果物を渡して、それが食べられるほど回復したかを聞いてるみたいで……





「(あれ………まさか!)」




そこで私はハッとした

さっきローエンと話したパレンジにあったメッセージ……

そして、ジュードの言ったように精霊からのメッセージを受け取る事が出来るとしたら、このタイミングで表示された機械の文章は……

偶然に起こった事じゃないとしたら




「(ミラとミュゼが……?)」




あの精霊の姉妹が思い浮かんだ


ミラ……ジュードと誓った“人と精霊の共存”のために自身もまたかつてのマクスウェルにミラ・クルスニクの話を聞いて、共存は決して夢じゃなく実現できるものだと更に固く信じた

……分史世界のミラも最初はエレンピオス全体や人と精霊の共存を否定していたけど、一緒に過ごしていく中でその気持ちに変化があった。だからどんな人でもやがては彼らの理想に頷いてくれる。私もそう信じたい


そしてミュゼもまた……与えられた使命でしか動けなかった悲しい生き方をミラの存在で助けられた事で、本来の好奇心旺盛で可愛らしい一面が出るようになった

それが大きなトラブルとかを起こしたりしたけど、ミラや私達ともっと仲良くなりたい気持ちからやった行動だから、なんだか嬉しくてすぐ許しちゃった


そんな2人がマナの消費を考えて人間界に降りれないけど、あの手この手でパレンジにメッセージを書いたり、こうして機械に送ってくれるなんて……なんだかクスッと笑ってしまうけど胸がじんわりと暖かくなった





「ジュード。それきっと早く完成出来るよ」

「え?」

「だって、源霊匣について研究を重ねた学者だもの!その精霊のメッセージを読み取れる機械だって改良したらすぐに完成するって!





なんて何も知らない素人が簡単な事を言って失礼かもしれないし、表示されたメッセージなんて私の思い違いかもしれない

それでも、人間界に来れなくなったミラとミュゼと話が出来るなら……そんな希望もあってジュードにはその機械の開発をもっと頑張ってほしいって思った




「リルがそう言うなら頑張ってみるよ。ありがとう!」




ジュードは私の言葉を応援として受け取ってくれて、開発を進めてみると言った




「あ、そうだ。出来たらでいいんだけどいつか……」

「ん?」

「ミラとミュゼにメッセージ送るとしたらさ“元気です。果物ありがとう”って私の伝言を送ってほしいな」

「ミラとミュゼに?」

「うん。まぁそれについての説明は……後でね」




機械が完成したら、まずはジュードが好きな言葉を送りたいはず。だから無理にとは言わないけど私の伝言もお願いした

それでもし私の言葉を肯定した返事が来たら、ジュードになんでそんな伝言をお願いしたか話そう

今はまだ何もかも可能性なだけだからね

ジュードはさっきから私が訳のわからない事を言ってると頭に「?」を浮かべてるけど、意味無く言ってるわけじゃないと理解してくれてるから「わかった」と頷いてくれた


そうしてジュードはクランスピア社から出てヘリオボーグへ向かった




さて、私も新社長に帰ってきた報告しないと


エレベーターに乗って40階のボタンを押した




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