暖かな風と共に



40階に着いてエレベーターのドアが開くと、すぐに降りて社長室に向かう

すると、その階のフロアには




「やぁリル。今帰ってきたのか?」

「リル〜〜!」

「ユリウスさん!エル!」




ユリウスさんとエルがいた

私に気付いた2人はそれぞれ声をかけ、エルは速足で私に駆け寄って抱き締めてきた

それに対して私もお返しに抱き返すとエルは嬉しかったのか「んふふ〜」と笑う




「えんせーお疲れ様です」

「ありがとう。ところでどうしてここに?」

「ああ、今日はエルの入学準備で鞄やら机やらを買いに行くんだ。昼を少し過ぎた時間まで仕事をするからそれまで家で待っててもよかったんだが……」

「だって、一人で家で待っててもつまんないし、何より待ちきれないし!」

「……って、わけだ」

「なるほど〜」




エルもいよいよエリーゼみたいに学校に行くのか

旅をしてる中で子供らしく物事を捉えたり話しても、一つ一つ大事な事を学んで泣いたり怒ったり素直に頷いていたエルはこれからもっと成長していくんだろうなぁ。大人として負けてられない気持ちとエルだったらきっと立派になれるなぁって微笑ましく思った




「伯父さんとしても、これから姪っ子がどう成長するか楽しみですね」

「はは。まぁね」




伯父さんと姪っ子って単語に照れながら笑うユリウスさん


彼もまた……生まれた時から一族の宿命を背負って抗ってきた。その中で大切な人を見つけ一緒に生きていく尊さと、そして大切な人の守りたいものを理解して背中を押してくれた人だ

あれからユリウスさんは警察の方とかでテロについての説明したり弁護士を通したりして、なんとか無罪になり指名手配も誤解だったと言う事で消去された

そんなバタバタで首が回らないくらい大変だったみたいだけど、最近はようやく大事な家族達と平穏に暮らしてるから私も安心した




「じゃあ、そんなエルとユリウスさんの“大事な人”の仕事が早く終われるように、さっさと報告済ませてくるねっ!」




そう言ってユリウスさんとエルに手を振ると「ああ、リルも仕事頑張れよ」「リル、学校の準備出来たら見せてあげる!」ってそれぞれ応援と会う約束をして、社長室に向かった



ふぅ〜……駅からここまで来るのに色んな人に会ったり話したりしたな

長くかかったような気がするけど、やっぱり親しい人達と話すのは楽しいし、今日も元気だなって安心する

なんて思いながらドアをノックして社長室に入って行く



前だったら……と言うかそもそも社内で一番偉い人の部屋に入る時は礼儀を気にしたりして緊張で足取りが重く、ピリピリした空気を感じなきゃいけないのに

今、その席に座っている彼には




「只今、戻りました〜!」




ついフレンドリーに接してしまう




「ああ、リル。おかえり」




そして彼……クランスピア社・新社長のルドガー・ウィル・クルスニクもまた、一緒に旅をしていた時と変わらない態度で接してくれた


ルドガー……世界の命運と自分達の大切なものを守るための旅で、どう選択するか頭を悩ませたり困難に立ち向かって行った仲間。彼の相棒はあくまでエルだけど、私も一緒に同じように歩けてよかった

今は新社長として様々な仕事をユリウスさんやヴェルさんと一緒にこなしたり、家ではエルのトマト嫌いが克服出来るように料理の腕を更に上げて工夫を重ねているらしい。もう……凄すぎる主夫じゃないか!

色んな武器を装備出来たり、仲間達と協力奥義を派手にぶっ放したり……前から思ってたけど、ルドガーは本当に器用すぎる!




「遠征の成果はどうだった?」

「まぁまぁ収穫はあったよ」




そんな器用で色々こなす社長ことルドガーに報告書を提出しながら答えると、その報告書に目を通してサインをしてくれた




「よし、じゃあ今日もまた調べたり実験をしますか〜」

「最近そう言ってしばらく籠ってるみたいだが大丈夫か?」

「大丈夫だよ〜そんな偉い研究者じゃないからちゃんと帰宅はするし、遠征で外の空気吸ってきてるから!」

「そうか?あんまり無理するなよ」

「わかってるって!それよりルドガーも大事なお嬢さんとお兄様を待たせないよう、ほどほどにね」




私にそう言われ、逆に気を遣われたなって苦笑いをするルドガー

だって入学準備は大事な事だ。これから数年使っていくものは性質が良くてデザインが好みのものじゃないとね

だから一緒にゆっくり選んできてね!ってルドガーに言って社長室から出ると、自分が使わせてもらってる開発室に真っ直ぐ向かった















ここは医療部門室の近くにある空き部屋だった所。ここに新たな開発室として使うために様々な実験機を置いてるわけだが、私はそこの一角を使っている




「さて、今日の材料で………」




机の上に遠出してきた先で採ってきた物を並べる

様々な色の花や魔物の翼。そして鉱石類等々


私がこれらを使って作ろうとしてるのは……





「(肌に優しい化粧品………向こうの世界みたいに上手く出来るといいけど)」




そう。化学物質や酸化鉄を使ってない化粧品

自分に出来ることを探して色んな仕事を手伝ってる時、医療の方で化粧品が合わなくて肌が荒れた患者さんが来ていたのを見て気付いた

そう言えば医療は発達してるけど、アレルギーフリーのものって少ないんじゃないか?せめてあるとしたら大半を占めてるのが食品で、他に肌や粘膜に触れるものは……少なすぎる

そこで私はルドガーにお願いして肌に優しく新しい化粧品開発の計画を提出して、その許可をもらってこうして開発してるけど……




「(やっぱ、もう少し知識蓄えてからやった方がよかったかな?)」




ここで理数系の大学に進んでいたら、もっとすんなり開発できたんじゃないか?って自分の軽率さにも頭を抱えていると








「――――――おい、リル。居たんなら返事くらいしろ」

「うわ!」




考えてる事に夢中で、突然横からそう声をかけられたのを遅くに気付いて、慌ててそっちの方を向く

そこには……私に医療の手伝いをさせてこの開発のきっかけを作ってくれた医療エージェントの……




「戻ってたのか」

「はい、ついさっき戻ったばかりっすよ。エージェント・リドウ」




赤いスーツの目立つ彼、リドウがいた


あれやこれや小言をぐちぐち言いながらも、私の入院生活やら退院後の社会復帰にも助け船を出してくれた彼

今は一応、私の開発の協力者として一緒に知識を絞ってくれる

きっかけを作ってくれた恩って言うよりアレルギーフリーとなれば医療の知識も必要だから。と考えて

……別にあれから特別何か関係が変わったわけではない。ただのエージェントとしての上司と部下で仕事をしている。だって私は開発の事ばかり考えてるし、リドウだってもう誰かを利用する必要もなくなったからね

ふいに、イバルから心配されたのを思い出したけど………大丈夫だろう

気持ちを切り替えて開発を始める




「じゃあ、これで色素を抜いたら試作品を……」

「それをそのまま使うのか?」




素材から色素を取り出そうと機器を準備しようとしたら、リドウから止められた




「素材そのままはたしかに化学物質無しになるが、次に問題出るのは自然素材でアレルギーになる事だ」

「あ………」




うっかりしていた。そうだ自然素材だったら何でも良いわけない。植物のアレルギーだってあるはずだ………うわ〜!化学物質じゃなければって考えてて、そこまで考えてなかった

で、でも化粧品のほとんどの色合いは植物から抽出したものだから、それをそのままにするためには……




「……コーティング?」

「まぁそうだな」




リドウが止めてくれたおかげで気付けた。そうだ。たしか前にテレビで見たけど肌にいいものは美容液や保湿成分が多く含まれている

つまり、粒子状の色素に何らかのコーティングをすればいいはず




「あ、じゃあコラーゲンとかヒアルロン酸で……」

「それはもう別の化粧品会社がやってるぞ」

「あぅぅ……ど、どうしたら」




なかなか解決策が見つからない

うぅ……やっぱ素人が開発して新商品を作ろうとしたのは無謀だったのかな?

行き詰まっていると、リドウが立ち上がり私に一言




「少し休憩するぞ」

「休憩?」

「課題から離れれば意外な所で答えが見つかるぞ」




開発の開始してからまだそんな時間が経ってないけど、リドウの言う事にも一理ある

私は素直に頷いて休憩として一旦外に出た


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