1人任務
「ハァ…ハァ…」
あまりに突然だったため、力を使いすぎたみたい…
すごく疲労感が来て、呼吸が乱れる
「すごい…今のすごいよ!」
幼いリドウは私のバリアーに感激している
そして私の息切れした様子を見て「大丈夫ですか?」と心配して近づこうとした
すると
「リドウ駄目っ!」
母親が幼いリドウを後ろからぐっと抱き寄せ、私を睨んできた
「母さん?」
「あの人に近づいたら駄目よ!何なのあれは!」
「(しまった!街中で精霊術を使ってしまった…!)」
幼いリドウの母親が騒いだ事で、周りで様子を見ていた人達がこちらを何事かと見る
「あの、今のは…」
「近付かないで!」
「っ!」
なんとか、説明をしようとしたら
母親にそう吠えられて、思わずその場で黙ってしまう
「誰か!警察を呼んで!変な術を使う人がいるって」
彼女は周りにそう訴えると
「やめてよ、母さん!」
幼いリドウが悲しそうな顔をしながら母親にそう反論した
「この人は僕達を助けてくれた人なんだよ!警察に突き出すなんて、酷いよ!」
「リドウ、あなたはわかってないわ!あんな変な術を使う人は人間ではないわ!もしかしたら、リドウを殺すかもしれないのよ!?」
「殺さないよ!あの人は良い人だよ!」
「リドウ……あなたって子はっ!!」
次の瞬間、母親は黒い光に包まれて
体が黒く、目は赤く光った恐ろしい姿……時歪の因子としての本性になってしまった!
「か、母さん…?」
「私の言う事を……聞きなさいっ!!!」
突然母親が変貌してしまって恐怖で動かなかった幼いリドウに、彼女は怒りに任せた力で掴みかかった
「うわああああっ!!!」
「やめて!その子を離して!!」
親子の間に入って、私は母親から幼いリドウを剥がした
そしたら、母親のターゲットは私になり
「殺してやる……リドウに災いをもたらす者は殺してやる!」
「うっ!」
私の首を締めてきた!
一般の女性とは思えないあり得ない力で……この人が時歪の因子だからか?
必死に暴れても、びくともしない
段々意識がなくなってきた…
あぁ…このまま殺される…
苦しくて、足掻けば足掻く程、余計に苦しい…
抵抗する力も無くなり
もう目を閉じるしかない
そう、思った時に
急に息ができるようになった
「――――ハッ!…ゲッホ!!ゲッホッ!!」
驚いて危うく嘔吐するような勢いで、咳き込みながら空気を吸って呼吸を整える
あれ?よく見たら私の首を絞めていたあの幼いリドウの母親は……?
そう思って頭を上げて前を見ると
「ったく、面倒かけさせやがって…」
「あ…」
そこには、リドウが……
紛れもなく正史世界のリドウがいて、骸殻と一緒に変わった長いメスを
母親に突き刺していた
「リドウ副室長…」
フラフラと立ち上がってリドウの近くに行くと、彼は呆れた表情で私を見た
「あんなに勢いよく飛び出した結果がこれか?無様だな」
そう鼻で笑う彼だったが、今は何かを言う気力は起こらない
首を締められて命の危機に晒されて酸素が足りないせいで、ボーっとしているかもしれないけど何より…
「母さん!母さんっ!」
正史世界のリドウに刺された母親に、泣きながら呼ぶ幼いリドウがいた
この光景は悲惨だ…
普通の意味にも当てはまるが、正史世界から来た私にとって、リドウが自分の親を刺して過去の自分が泣く姿を見ることになるなんて……こんなひどい光景は無いと思う
「この…人殺し!!」
幼いリドウが涙を流す目で正史世界のリドウを睨み、そう怒りをぶつける
その人は自分自身の未来の姿とは知らずに
「あっそ」
リドウはそう軽く言ってメスを引き抜くと、その先には時歪の因子がカチカチ…と音を立てて回っていた
これが壊れれば、この分史世界は消える…
そう思っていると
「リドウ…」
刺された母親は地面に這いつくばりながら、幼いリドウに優しく話し掛けた
「よかった……怪我は無いみたいね……よかった…本当によかった…」
「母さん…」
「私は…リドウが生きていて…くれれば……そ、れで………い、い……の」
その言葉を言い終わったと、同時に時歪の因子がパキンと割れて
世界も割れて消えた―――……
――――――
気付いた時には、クラン社の分史対策室前にいた
外はすでに暗くなっていたから、GHSで時間を確認すると8時と表示された
「ちっ…お前のせいで遅くなったな」
「…すみません」
「報告書、忘れずに書いて提出しろよ」
「……はい」
淡々と仕事の話をして今日は解散になった
私は……何か言いたかったが、言葉が見つからない
何を話せばいいのかわからない
でも、言いたい……
そんなわけのわからない矛盾した思考循環で
ただ帰っていくリドウの後ろ姿を見つめる事しか出来なかった