ひとときの夜間領域
あれから、数日が経ってリドウが会社に来た
その時にイバルの教育係をバトンタッチしたけど……
当然ながら、あのリドウ相手だからイバルがなんか大変みたい
私も私で別の仕事があるけど、たまに教育に同行したり昼休みに会ったりして話を聞いている
話ってのは、だいたいイバルのやり過ぎた雑用とちょっとしたミスをリドウが怒るって内容
まぁ……イバルのやり過ぎと張り切り過ぎてのミスについてはもう少し落ち着いた方がいいと私も思うけど、悪気の無いイバルに対してリドウもリドウでなんだか厳しいような……気のせいかな?
まぁ、そんな事を思いつつ私も私で今大変です
何故なら……
「社長待ってください!それは間違っています!!」
そんな声が多分社長室に大きく響いただろう…
けど、そんなのを気にしている場合ではない
「なぁにを言ってんだ。これで合っているだろ?」
「違います!魔物のトドメを刺したのは私です!」
「トドメを刺す事が出来たのは俺の攻撃のお陰で出来たことだろ?それに時歪の因子も俺が破壊したんだ」
「破壊したって…それは私から横取りしたからでしょう!だからその報告書は間違ってます!」
そう、私は今リドウが書いた報告書の内容と分史世界の事で揉めている
私のやった事を自分の事にして評価していることに気づいて、申し訳ないながら報告書を提出する直前にストップをかけて今こうして社長の前で言い争いをしている
「上司を立てない部下は出世出来ないぞ?」
「部下の手柄を強奪する上司はクビにされますよ?」
「2人共いい加減にしろ!」
ここで社長に一喝されて黙る
…ま、当たり前ですよねー
で、話し合いの結果は……
結局、時歪の因子を破壊したのは事実だから今日はとりあえずリドウの手柄になった。けど今後は不公平な内容は書くなって注意したけど…
「(あーあ。報酬たくさん欲しかったなぁ…)」
最初に言われたように働きによっては給料が上がるから、いっぱい頑張ったのになぁ〜…早く借金返せるって思っていたのに…
リドウは正に悪魔だ!借金背負わせた挙句に、返済の邪魔もするなんて
余裕そうに笑うリドウを隣で睨んでいると
「そうだ……すまないがリル。イバル君を呼んで来てくれないか?少し君達に話がある」
「はい、わかりました」
そう返事して、言われたようにイバルを探しに行く
社長室のある階から1階ずつ下に降りて探すけど…
「(んん〜?イバルいないなぁ…)」
会社内を探してもいない…外にいるのかな?と思って会社を出て街中を探す
――――――――
あちこち見て回っていると、住宅街の公園のベンチにイバルがいた!
ようやく見つけたーって近づくと、そんな彼は…
なんだか疲れているのか首だけ下に向いて座っていた
「イバル?」
「あ、リルさん!お疲れ様です!」
私の声に一瞬驚いて顔を上げると、笑顔で返事してきた
「大丈夫?疲れているの?」
「はぁ…いえ、大丈夫です…」
体調は大丈夫だと言ったけど、元気が無いのは他に理由があるみたい
「…何かあった?」
私がそう聞くと、イバルは下を向いて話しだした
「お使いで頼まれていた物と違う物を買ってきてしまって…買い直しに行ったら頼まれていたのはもう売り切れていて…俺に頼んでくれた人からもういいって言われて…」
「なるほど、悪気は無いけど悪い事してしまった罪悪感と、もういいって言われたショックが大きいんだね」
「…はい」
なんだかわかるなー自分にも似たような事したことあるから
「けど大丈夫だよ。一回わかったことだから、また同じような頼まれ事をされた時は無かった時の場合も聞いて焦らず行けばいいんだよ」
そうアドバイスすると、イバルは
「……流石です。リルさんは何でも出来るからそう言えるんですね」
「それは違うよ。私だってまだまだな所いっぱいあるから!」
「そうですか?リルさんはたくさんの仕事をこなしているのに、俺は…」
「?」
「いつまでも失敗ばかりでこの前、リドウ副室長に厳しい事を言われましたし…」
「え?なんでそこでリドウ副室長が出てくるの?」
話を聞くと、どうやらリドウはある日ミスをしたイバルに対して「いつまでそんな失敗ばかりしているんだ?ここはお前の好きなマクスウェル様はいないから、慈悲で会社に置いてやる事は出来ないんだ」って言ったらしい
「なにそれ!直接リドウ副室長に対して失敗をやらかした訳じゃないのに、なんでそこまで言うんだろ!?」
私はそれを聞いて、我が身に起こった事のように腹が立った
たしかにイバルのミスも悪いけど、そのミラ=マクスウェルが居ないから泣いても何もならないって発言がすごく嫌な言い方!
「あたし、さり気なく言ってやろうか?イバルに対しての事…」
「いえ!良いんです。俺がやった事がそもそもの原因で……」
「イバル…」
「俺は昔から変わらない。それだけです…」
え?なんか気になる事を言ったから、どう言う事か聞く
「昔からって…クラン社に来る前に何かあったの?」
「それは…」
イバルはズボンを握って話した
「知っていると思いますが、俺は故郷でミラ=マクスウェル様の巫子をしていました……だけど、俺は何の意味の無い努力をして失敗して……その役目を与えて下さったミラ様を1度傷つけてしまったんです」
「っ!」
それって…
意味の無い努力って…ジュードをライバル視してた事?
失敗は、騙されたとは言えクルスニクの槍を起動させて異懐炉計画を企てたエレンピオス軍を招き入れてしまうきっかけになった……
そして、ミラ=マクスウェルを傷つけたってのは……あのクルスニクの槍の暴走で1度だけミラ=マクスウェルを犠牲にしてしまった事?
そう考えればつじつまの合う話だ
「これではもう俺は用済みだと思って、何も考えずに故郷を飛び出したんです……そしてここの社長に出会って今に至ります」
そんな事があったなんて…
私はなんだか辛い事を話すように言ってしまったって後悔した
「け、けど大丈夫だよ。それに失敗は成功の素って言うから!」
うつむいたままのイバルを励まそうと色々言ったけど、イバルは「…そうでしょうか?」って不安気に返事するだけ
「(イバル…)」
今の彼を見ると背負いこんだ責任で押し潰されるのではないか?と思ってなんだか切なくなった
その事だけを考えていると
「なっ、リルさん…!?」
「え…!?」
イバルの声でハッと我に返ると…
私は思わずイバルの前に行って、座っている彼を抱きしめていた!
わわわっ!自分でも無意識にやってしまった!
…ええっと、これは
「なっなんだか、イバルがこのまま不安で押し潰されそうな気がして…」
さっき思った事を正直に話した
「イバルは私と似ているかもね」
「えっ…?」
「責任感が強いのは良い事だけどあんまり気にしていると、いらない事まで自分の責任って思い込ところ」
「……」
「大丈夫。私はわかるよイバルが一生懸命な事……辛かったら泣いてもいいよ?私は笑わないし、泣き止むまで一緒にいてあげる」
「リルさん…」
イバルは泣かなかったけど、私の言葉を聞いて胸に顔を埋めた
…素直で正義感が強い天真爛漫かと思いきや、こんな風に繊細になる
たまに守ってあげたくなる彼はなんだか弟みたい
彼の気が済むまでこうしていよう…
しかし、その時
後ろから誰かにドガッ!と強くベンチを蹴られた
「うわっ!!」
「わっ!?」
ベンチ越しに衝撃が来て驚いたイバル、そしてイバル抱きしめていた私も少し驚いて振り向くと
「リ…リドウ副室長…」
そう、そこにはリドウがものすごい不機嫌な表情で、座っているイバルを見下ろした後私を見た
「昼間から会社を抜け出して何イチャイチャしてんだぁ?」
「な、イチャイチャって…」
「すみません!俺がちょっと甘えていて…」
と、私からやった事なのにイバルは自分からしたと言って謝罪した
「ちょっ、違う!さっきのは…」
私からやったんです。って慌てて言おうとしたら、リドウはイバルの髪を掴んで無理矢理立たせた
「痛っ」
「いいか?お前はまだ正式に社員になったわけじゃない。嫌なら今すぐにでも故郷に帰れ」
「そ、そんな言い方…!」
「事実だろ?それにリルもリルだ。こいつに甘やかし過ぎる」
そ、そんなつもりは無いのに。むしろリドウがキツく当たりすぎじゃない!
「お前が間違った教育したら社長に怒られるのは俺だからなぁ」
何それ!そんなの初耳だよ!って思っているとイバルが私を庇うように会話に入ってきた
「リルさんは何も悪くないです!叱るなら俺だけにして下さい!そして俺は会社を辞めるつもりはありません!」
そう言って負けないようにリドウを強い視線で見るイバル
それを見たリドウは舌打ちして言った
「あっそ…それより社長が呼んでいる。結構待たせているから早く来い」
わっ!いけない!そう言えば私は社長に頼まれてイバルを連れてこなきゃいけないんだった!
「ご、ごめんなさい……リドウ副室長」
リドウの態度は気に食わないけど、社長から頼まれていたのが遅くなってしまったからそこは私が悪い
慌ててリドウに謝ると「…いいから早く来い」って先に会社に戻って行った
その後、イバルに「庇ってくれてありがとう、けどわかったでしょ?私もミスはあるよって」って言うとちょっと驚いた顔をしてすぐに納得してくれた
「大丈夫だよ」そう言って遅れないように2人でリドウの後を追った