ひとときの夜間領域






そして仕事をしながら準備して……

遂に出張へ行く日になった




待ち合わせ場所はトリグラフ中央駅

そこで一緒に行くメンバーと集合して数十分かけて列車で移動

そして列車を降りて、駅を出ると…


海の上にトンネルみたいなアーチ状の屋根のある港が広がっていた


こんな所……前作であったっけ?と、どう思い返してもエクシリアで見た事無い所だと思って辺りを見回してトンネルになった所に入ると、その長い通路に沿うように店がたくさん並んでいた

そこでここはマクスバードって言うリーゼ・マクシアとエレンピオスを繋げる最近出来た街だって知った

建物の中央に来ると、展望台のようにガラス張りになっている所から真っ直ぐに海の間に立つ透明な欠片が光るもの……断界殻を見た

これがジュードとミラ=マクスウェルの未来を信じてやった事…そう思ってリーゼ・マクシア側に移動した






マクスバードのリーゼ・マクシア側に着くとすぐに船に乗って、ファイザバート湿地が近いイル・ファンに向かう

ここからイル・ファンまでの距離は長く、着いた頃には夜の7時になるらしい

すごい長いな……移動だけで普通に仕事して終わる時間になるなんて


私は長い船旅なのに船内に籠もってばかりじゃ勿体ない。そう思って出港からずっと外に出て海を眺めていた


風が強いけど心地い…

そう思っていると、私の後ろから誰か来た




「あ、いたいた!リルさん!昼食はどうしますか?」




と、イバルが昼食は船内のレストランにするか売店の弁当にするか聞いてきた




「そうだね……後で決めるよ。今はお腹はあまり減ってないし、まだこうして風を受けていたい」




再び風を感じていた私の様子を見てイバルが聞いてきた




「リルさんって船は初めてですか?」

「ううん。前に一回だけ…」




あ、ここまで言って慌てて話すのをやめたけど、イバルはばっちり聞いてしまっていた




「前に?……も、もしかして記憶が全部戻ったんですか!?」




イバルはそう私に嬉しそうに聞いてきた

あぅ…その設定忘れてたよ……

リドウかビズリー社長、そしてヴェルさん相手だったら元の世界での事を話したりするから、その感覚でついやってしまった




「えっと……ほんの一部分ね」




そう笑顔で答えるけど、引きつっているかも…

しかしそんな事には気付かないイバルはちょっと残念そうな顔をして「す、すみません…勝手にそうだと判断してしまって」って謝った

うぅ…イバルは悪くないよ!

悪いのは記憶喪失って言って貴方を騙している私だから!って罪悪感に襲われた




「大丈夫だよ!これからまた少しずつ思い出せそうだし!……で、思い出した事は船に乗って修学旅行に行く記憶なんだ!」




私の事を思ってくれてるイバルに大丈夫と安心させて、船との思い出を話した




「しゅ、しゅうがくりょこー?」

「あ、それは……学校で行われるイベントの事だよ」

「学校?リルさんって頭良いんですね!」

「えぇ!?」




イバルのその発言にかなり驚いたが、よくよく考えればこの世界は皆学校へ行けるってわけではない

ましてや、ニ・アケリアに住んでいたってなれば、学校よりもマクスウェルを守らなければならないのだから…




「俺は学校に行った事無いんで憧れます!」

「そ、そう?けど私は頭悪い方だよ?」




って、笑って話すと


急にぶわっと風がすごく強くなった!




「わわっ!!」




着ていた長いスカートが風に攫われて、転びそうになった!




「あ、危ない!」




その時、イバルが転びそうになった私を後ろから抱き締めるように支えてくれた!




「あ、ありがとう!あのっ風が収まるまでそのままでお願いしますっ」

「は、はい!」




強すぎる風が結構長く続いてる。今また離されれば完全に風に持っていかれる

私もそう言いつつイバルに甘えないで、手すりに掴まった

まだ風がゴォォ…と吹いている中、ふと、ある事を思った



風が収まるまでとはいえ…



船の上で女性の後ろに男性が抱くように支えるシチュエーションと言えば…




「(タ、タイ○ニック!?)」




あの超有名で名作映画を思い出してしまった

やがて風が収まって穏やかになると、イバルが「もう大丈夫ですね」って言ったのに対して




「あ、ちょっと待って!」

「?」

「もう少し……このままでいたいな」

「えっ!?」

「ダメ…?」

「な、なら、このまま支えさせてもらいます…!」

「(やったー!またタイ○ニックごっこ出来る!)」




そう、その修学旅行で友達とやったタイ○ニックごっこが懐かしくなり、やりたくなったのだ!

そんな事を知らずに真面目に支えてくれるイバルに申し訳ないけど

しばらく、懐かしさに浸る





「(あの時も映画みたいに船の先端には行けないから、近いところで友達とこうやったなぁ)」

「(リルさん…なんで俺にこんな…)」

「(あー、主題歌を歌いたくなった!)」

「(気になる…!)」

「♪イュオオオーーヒィエエァァーーーゼアーズナァァァスィング…」

「はぁっ!?ど、どうしたんですか!?」




いきなり歌い出した私にすごく驚いたイバル

内心、ごめんねって謝りつつ気分に酔ってお構い無く歌い続けた

歌うと言っても聞いただけのうろ覚えな歌詞と歌い方だ。でも、この世界の人たちがこれを聞いても変な歌を歌ってるってしか思わないだろう


そう余裕でいたら……




「何やってんだ。この馬鹿共」




って、呆れた様子の声が聞こえてきたと思ったら、頭にバシッと軽い衝撃がきた




「痛っ!」

「うわっ!」




私だけじゃなく、イバルにも衝撃が来たみたい


う……なんだかデジャヴを感じる

そう嫌な予感をさせながら声のした方を見ると


予感通り不機嫌そうな顔をしたリドウが資料の束をバサバサさせながらそこにいた

……それと同時にあの長い黒髪が風に靡いてて思わず綺麗だと思ってしまったのは悔しい




「上司に仕事をやらせて自分達は浮かれて旅行気分か?」

「あ、いえっその……」

「ごめんなさい!これは私が悪いんです!」




今度こそ完璧に私が招いた事だから、イバルより早々にリドウに謝った




「…で、仕事とはなんですか?私もやります」




謝った後、すかさず仕事を聞いて取り組む姿勢を見せればこれ以上怒らないだろうって思った




「…この資料に目を通して、こっちの間違いを訂正しろ」




思ったとおりに、リドウはやり場の無い怒りが込み上げるのを我慢しながら、私に先ほど頭を叩いた正体であろう資料を渡した




「やるんだったら、最初からやれよな」




リドウはそう吐き捨てるように言って船内に戻って行った




「ごめんなさいイバル。また私のせいで貴方まで…」

「いえ、俺も原因があると思います……あ、その仕事を手伝います!」

「ありがとう」




そうなれば私が使っている船室でやろうと、イバルと中に戻った


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