動揺隠せぬ監視者
「これは……!」
その新聞の最初面の大きな見出しに、こう書かれていた
“白昼堂々の列車テロ。主犯はクランスピア社のエージェントか…!?”
そして内容は…
“テロに乗っ取られた特別列車が暴走、そして脱線して完成したばかりのアスコルドに突っ込み工場と共に大破、全焼。
列車の乗客、工場の人員合わせて2000名以上が死傷
確認されている生還者はクランスピア社社長ビズリー・カルシ・バグー一行、計3名
被害額は今のところ100億ガルドだが、最終的には500億ガルドを超えると予想されている
現在、行方不明中のテロ主犯容疑のユリウス・ウィル・クルスニクを全国に指名手配”
「そんな……!これって!ユリウス室長はテロじゃないと思います!あの場にたまたまいて……」
「俺、さっき社長から聞いたんだが……じゃあ、なんでユリウスは社長に斬りかかったんだろうな?」
「それは…」
たしかに、あの時ユリウス室長はビズリー社長を…
それが気がかりだけど、私はユリウス室長がテロを計画していたなんて思えない
「けど!あの時、一時的に分史世界に侵入したんですが、その時の時歪の因子がユリウス室長だったので……!」
そう、分史世界の時歪の因子は正史世界と最も異なるモノならば…
やはりテロの主犯ではないって言えるのではないか?ってちょっと希望を持ってリドウに言うと
彼は、何か深刻な表情をしたまま私に言った
「リル、あいつはテロの主犯でなくても危険な奴だ」
「なんで…?テロの主犯ではなくてもってどう言う事ですか…!?」
「なぁ、列車であいつの弟と会ったんだよな?家族構成とか聞いたか?」
「いえ……」
「俺達は、ユリウスがただ他人を養子にして兄弟として暮らしてるって思っていたんだ。ところが…」
「弟は…異母兄弟だった…?」
そう、私もあの場で初めて知ったけど、ユリウス室長とルドガーはただの兄弟じゃなくて異母兄弟
でも……会社では他人を養子にして兄弟になったって話してた?
どうして、そんな事を…
なんだか、謎が謎を呼んでいて話が見えてこない
「それが今回のと何か関係があるんですか?」
「……ユリウスの今の苗字って、弟のルドガー君から取ったものらしいが、前に名乗っていた本名はわかるか?」
「いえ…」
私の質問には答えず、リドウはユリウス室長の本名について聞いてきた
何故ここでユリウス室長の本名を教えるんだろう?
今の状況と何も関係無いのではないか?って私は思った
が、リドウが口にしたのは
「あいつの本名は…ユリウス・ウィ・バグーだ」
ユリウス室長の本名は、正に予想もしていないものだった!
「っ!?その苗字ってまさか…!!」
バグーと言えば、ビズリー社長の苗字もそうだ…!
つまり…
「そうだ。ユリウスはビズリー社長の実の息子だ」
「っ!!!」
なんと言う事実!
ただの社長と部下だと思っていた2人が親子だったなんて…
…だから、あんな特徴ある眉毛か!納得!そう言えばあの2人はどこか似ているような気がするし
あ、じゃあ、社長はユリウス室長と異母兄弟のルドガーの父親って事にも…!だからあの時社長がルドガーに言った家族とも同然ってのはその事だったのか!
……って、こんなことを考えている暇はないね
それよりもまず、なんでユリウス室長が斬りかかったかってのを考えないと…
「…俺はユリウスの目的をこう推測している」
リドウは右手を顎に軽く当て、何かを考えるように話し始めた
「ユリウスは……自分が誰よりも早くカナンの地、オリジンの元へ行くためビズリー社長を殺そうと目論んでいたんだと思うんだ」
「そんな…!なんで…」
「クルスニク一族の歴史にはこう書かれている…“審判の為なら肉親すら犠牲にした”って」
「…!!」
普段の室長からはそんな様子や態度は感じられなかったから信じがたいけど、彼と社長の関係を知ってしまってからは、リドウの推測はつじつまが合うような…
けど、オリジンの審判……願いを1つ叶えてもらえるってだけに、クルスニク一族は家族すら犠牲にするのは今でも行われているのか?って思っていると、リドウは続けた
「まぁ、あくまで俺の推測だからな……だからテロの主犯であってもなくても、どっちにしろ社長の命を狙っているのは確実。そこで弟のルドガー君も何らかの関わりがあったんじゃないか?って思った社長は、ルドガー君がユリウスと同じくどこかへ逃げないように、多額の借金を背負わせて移動を制限させたんだ」
そうか。多額の借金は確かに移動を制限される
疑いのある人間を逃がさないためにはいい作戦だと思う
そう言えば、私も最初はトリグラフから出られなかったなぁ〜
…って、また考えがおかしい方向に行きそうになった!
そうじゃなくて…
「けど、ルドガーは何も知らないと思います」
「証拠は?」
「証拠になるか、わからないですけど……ルドガーは骸殻や分史世界の事を知らない様ですから……」
それを聞いたリドウは、一瞬驚いたがすぐに何かを考えて「それとこれは違う」って言った
たしかに、分史世界に関するのは知らなくても……テロの共犯って可能性は無いとは言えない
けど、ルドガーは……そう言おうとしたら、リドウは話を変えた
「その結晶を秘密にしたのも、審判に有利な力だからだ……それが知られてしまえば、あいつはお前を殺してまで奪うだろうから」
「えぇっ!?ユ、ユリウス室長が私を殺すなんて……」
「それがやっちゃうんだよなぁ〜。俺は幼い時からユリウスと分史世界を破壊してきたが、あいつは時歪の因子を探すのが面倒だからって表情変えずに街一つ破壊したんだ。ま、俺もだけどな」
「ユリウス室長は、前に私に分史世界を破壊するのは躊躇いもあるって言いましたけど……」
「それが本当だって証拠は?」
「…無いです」
「だったら、安易に信じるのは危険だな」
そう言ったリドウは、私の後ろに周って軽く私を抱きしめた
「その結晶が無くなったら、お前は元の世界には戻れなくなるんだぞ?」
「わかっています」
「あいつの目的はまだはっきりしていないが多かれ少なかれ、このクランスピア社にもオリジンの審判にも悪影響を及ぼそうとしているかもしれない」
なんだか腑に落ちないけど……リドウの言うとおり、ユリウスさんに関して今ははっきりしないからな〜……
「心配するな。リルは俺や社長の言うことを聞いていれば安全に暮らせる」
「……だと、いいですけど」
「なんだ?恋人に守られるのが気に食わないのか?」
「あ、いえ!そんなわけでは……」
「だったら、命令以外の事は俺に任せろ…いいな?」
「…はい」
「O,K。いい子だ」
私の返事に満足したリドウは、まるで子供を宥めるように抱きながら私の頭を撫でた
…恋人扱いなのか、子供扱いなのか
いや、今はそれどころじゃない
ユリウス室長に、ルドガー
彼らが本当にテロと関わっているかどうか…
関わっていなくても、ユリウス室長は本当に審判のためにビズリー社長を…
そう思っていると、リドウが私から離れた
「もう立てられるか?」
彼の言葉で、そう言えば大丈夫だなって気づいた私は「はい、大丈夫です」って答えると
「本当か?体調が良くなったら社長の元に来るようにって命令があるんだが…」
社長の元に?それってつまり新たな任務……今の状況から考えると、テロについてだと思った私は、ユリウス室長達について何か知れる!って期待した
「はい、本当に大丈夫です!」
私はそう言って、リドウに礼して社長室に向かおうとしたら…
「うわっ…!?」
何も無い所で、転びそうになった!
転ぶ…!そう思ったとき
「ったく、何が大丈夫だ…」
リドウが私の左腕を掴んで助けてくれた
「はは……あ、ありがとうございます」
苦笑しか出来ないでいると
「あんまり心配させるなよ?けど、怪我したらその度に治してやるからな……御代はリルの身体で」
って、リドウは私の額にキスをした
「っ!?はぁ!?」
最初は心配してくれて嬉しいって思ったのに、後の言葉で気持ちが変わった
身体ってお前…!!やっぱりそれが目的で付き合ったのか!?
そう思ってリドウを睨んでいると
「冗談だ。俺は最初から無闇に食い散らかす狼じゃねぇよ……けど、それ以外は本気だ」
リドウは意地悪そうな笑みをしていたが、やがてちょっと優しそうな表情になり
「あまり切羽詰まらせるな」
って、頭をポンポン軽く叩いて私より先に医務室を出て行った
「本当に…何がなんだか」
この言葉はルドガーとユリウス室長に対してだけでなく、多分リドウに対してもだと思う
。色んな意味で
色々頭を悩ませるけど、まずはわかる事からやろう
私は社長室に向かった