無知なる者を誘う






「お待ちしておりました、ルドガー様」




クランスピア社に入ると、受付の近くにヴェルさんが待っていて、渡されたデータはビズリー社長に直接渡すように言われる




「すっごー!」

「広ーい!きれー!」

「声大きいよ」




ルドガーの後ろでレイアとエルは初めてクランスピア社に入った感動ではしゃいでいて、ジュードに注意されていた

それを見たヴェルさんは「この方々は?」って、聞く




「俺の仲間だ」

「お呼びしたのは、ルドガー様だけなのですが」

「ひいきはダメだよ」




おおぅ…すごいな…子供っていざと言う時に大人よりも柔軟に頭を働かせて、驚くような発言するもんね

って、エルの発言に少し驚いていると…




「僕は、ルドガーの友人として同行します」

「俺は、未成年どもの保護者」

「保護者その2!」

「エルは……ルルの保護者!」




って、みんなそれぞれ無理矢理な役割を名乗り出た

何っ!?そんな事なら……




「あの!あたしは…………皆の保護者!!」




そう言うと、皆は「はぁ?」と言わんばかりの表情で私を見た




「リルはせめて、未成年者の保護者じゃないかな?」

「そしたら、アルヴィンと被るよ!」

「なら、俺と夫婦ってことで、子供達の付き添いで良くないか?」

「夫婦ぅ〜〜!?ええ〜〜!!?」

「そこまで否定されると、悲しいねぇ」

「エリーゼにナンパしときながら、私と夫婦っておかしいでしょ!」

「フラれちまったから、いいだろ?」

「何それー!」




なんで、わーわー騒いでいると




「あの……リル様は元々我が社のエージェントですので、堂々とお入りになれますけど……?」

「あっ」




ヴェルさんの言葉で、その事実を思い出した




「そう言えば、そうだったな……アルヴィンと夫婦になれなくて残念だな」

「なんでそうなるの!?ルドガーのアホー!」

「ここのエージェントって忘れて保護者発言した奴に言われたくないな」

「なんだとー!たしかにそうだけど…」




……なんて、ルトガーのからかいに言い返してまた雑談タイムになりそうだったけど、すぐにヴェルさんの困惑した視線に気づいてここで切り上げた

そして、私がヴェルさんに「本当に、彼らは仲間です“例の事”にも巻き込まれていますし……」って、さり気なく分史世界に関わった事を言うと…




「……少々お待ちを」




って、自分のGHSで社長と話しはじめた




「レイアが保護者とはねぇ」

「人の事言える?」

「言えるさ。だって俺はこの中で年上だし、ちゃんと妻も…」

「誰が誰の妻だって…!?」

「うわっ!冗談だよ…!」




レイアに保護者っぽくない事を言うアルヴィンは次にまた私との夫婦設定を話し始めたから、今度はグーで横っ腹を軽く殴った

全く!内緒ですけど、私には彼氏がいるんですよー!

あ、どうかアルヴィンの発言を、リドウが聞いていませんように…!


そうしていると、ヴェルさんが通話をやめて私達に言った




「皆さんご一緒にどうぞ。社長が感心されていました。ルドガー様は、なかなか人望があると」




…とりあえず、納得してもらったのかな?

なんとか、皆の同行が認められて、ヴェルさんに社長室まで案内された





















「待っていたよ、ルドガー君」




社長室に入るとビズリー社長は机近くに立っていて、私達が入ってくると、ルドガーの前に来る

そして、ルドガーからデータを渡され、それを確認するとビズリー社長は懐にしまい「ユリウスの手掛かりは見つかったかね?」と聞くけど、ルドガーは勿論わからないから首を横に振る

その様子を見た社長が話を切り出す





「さて……君に、いい知らせと悪い知らせがある。どちらから聞きたい?」




突然ビズリー社長はそう言ってルドガーに聞いてきた

まさか、ユリウスさんに何かあったのか…!?

私と同じ事を思ったのか、ルドガーも驚いて…




「悪い知らせって…なんだ…?」




と、悪い知らせの方を先に聞いた


すると、社長の横にいたヴェルさんが答える




「警察が、ルドガー様を公開手配するようです」

「……!」




ユリウスさんに関する悪い知らせではなくて良かった……

って、言いたいけど、決して穏やかな状況ではない

警察がついに最終手段として、身内のルドガーも共犯の容疑で捕まえるのか……!




「警察も、なかなか強硬でな」

「ルドガー、捕まっちゃうの……?」




不安に見つめるエルにどう答えたら良いかわからなくて、悔しそうにするルドガー。「いい知らせもあるんですよね?」ってレイアが聞くと


驚く答えが返ってきた








「君を、我が社のエージェントとして迎えたい」

「えっ…!?」

「俺を…エージェントに…!?」




なんで…?

だって、ルドガーは前に入社試験で落とされたはず、それなのに何故今更…!

ルトガー本人も私も思わず驚いてどういう事か聞いた





「驚くことはない。君の行動を観察させてもらった結果だ。君には現状に立ち向かう意思、そして、なにより力がある」

「観察って……あなたがそう仕向けたんでしょう?」

「ルドガーを試したんだな」

「筆記試験や面接では、器は測れないからな…」




ビズリー社長の言葉にジュードやアルヴィンも、何が目的なのか…って警戒している




「けど、どうやって観察していたの?」




レイアの質問に、私はビクッと震えた


そう、観察…


…いや、監視していたのは私


警察からの追跡等をされないように、目を欺いたり…

ユリウスさんと連絡取っていないか、見て報告するのが内容…


けど、もし…ユリウスさんとルドガーとの間で何かあって、社長に伝えたらまずい事があれば、どうしようか考えていたけど…

特に怪しく連絡している姿は無かったから、異常なしって報告した

それを聞いたら…皆、私も疑うだろうな…

って、思っていたら




「ああ、手の空いているエージェントを派遣させたからな」





ビズリー社長は、そう答えた


…悪い事だけど、よかったー!

曖昧に答えてくれて、私の心は重荷が取れて軽くなった


そう思っていると、ビズリー社長は続けた




「どうだ。君がエージェントになるなら、警察は無理にでも押さえ込む」




なんて、提案をすると「ルドガーに選択の余地はないじゃないですか!?」って、ジュードは理不尽な選択に腹を立てた




「一石二鳥と考えてはどうかね。エージェントには十分な報酬を出す。逮捕を免れ、結果を出せば莫大な借金もすぐに返せる」

「それは……っ!」

「何をさせる気ですか…?」




とりあえず、内容だけでも聞く

そう単純に考えた皆に対して、社長は…





「分史世界の破壊」





と、一言




「(社長…!)」

「ブンシ……セカイ」




何のエージェントだろうと思ったら、やっぱり……!

まぁ、骸殻能力者は必然的に分史対策エージェントになるけど……

ついに機密を話すのかって私は少しドキドキしている

その隣でエルをはじめとする皆は、分史世界って何のことだろうって首を傾げている




「心当たりがあるだろう」




そう言われて、アルヴィンが思い出した




「あの奇妙な世界か!」




すると、皆も思い出す。あの同じ事を繰り返して……自分達の知っている人物が凶暴化したり、無いはずのものがあったり……

それを聞いたビズリー社長が頷いて、社長室に飾られている植木の花を分史世界に例えて話し始めた


今、私達がここにいる世界……本来の歴史が流れる正史世界からできるパラレルワールド。それが分史世界

と、言いながら正史世界の例えとして、一番大きく花弁を咲かせている花を指す

そして分史世界の例えとして、その大きな花のすぐに下に伸びている枝分かれした先に付いている蕾を指す




「分史世界が生まれると、正史世界に存在すべき魂のエネルギーが拡散していきいます」

「拡散って…まずくない?」

「放置すると、どうなるんですか?」

「この正史世界から魂が消滅するだろう……当然、人間も死に絶える」




ビズリー社長は大きな花……正史世界に例えた花を、まるで、このようになる…と言うように握り潰した




「おいおい」

「そんな話、いきなりされても……」




アルヴィンとレイアの反応は、最初にここに来た私と同じ

いや、誰でもこんな聞いた事も無い壮大な話を聞かされれば、そう戸惑うだろう…




「エレンピオスの荒廃、源霊匣の実用化の失敗。それが、魂のエネルギーが消失している影響だとしたら?」

「まさか!」

「実際におこっているだろう」




そうなの…?

正史世界と分史世界についての説明と、放置したらどうなるか?は聞いたけど、エレンピオスの荒廃、源霊匣の実用化の失敗も関係しているの?

私はどういう理屈でそうなるのかは、わからないから少し半信半疑

ジュードは、そう言われて、可能性は0ではないって思うと何も言い返せなかった




「クランスピア社は、世界を守るため、秘かに分史世界を消し続けてきたのだ」

「世界を消すなんて、どうやって……」

「……ひょっとして!」




レイアが疑問に思うと、ルドガーは気づく




「そう、ルドガーはすでになしている。ルドガーの変身――骸殻こそ分史世界に侵入し、破壊する力なのだ」

「世界を壊す力……」




まさか、あの力がそんなものだったなんて…

そう皆は思っている…


かと、思いきや




「もー、子どもにもわかるように言ってよー!」




1人だけ……エルには理解できなくて、ビズリー社長にわかりやすく説明して!と訴える

私は後で……今度こそわかりやすく説明するよってエルに言った


そして、社長はルドガーの前に来ると






「ルドガー、世界のため、君の力を貸して欲しい」





って、私の時みたいに手を差し出して、ルドガーと誓いの意味の握手を求めた


そんなルドガーは自分の手を見ながら、社長に聞く




「……兄さんも関わっているのか?」




この分史対策に兄も関わっていたのか、恐る恐る聞くと




「最強のエージェントだった。ユリウスが消した分史世界は百以上になるだろう」

「……」




それを今まで隠してきたなんて……って言うようにルドガーは、更に兄に対する疑問が深まったような表情をした




「ユリウス前室長が、分史世界に逃げ込んでいる可能性も高いと思われます」

「奴を見つければ、一石三鳥だ」




やるしかない…!

ルドガーはそう意を決して



ビズリー社長と握手を…契約を交わした




「そうこなくてはな」




満足そうにルドガーと握手をして言うと、ジュードは「ひとつ教えて下さい。なぜ分史世界は、生まれるんですか?」って聞く




「ある者が糸を引いているのです」

「カナンの地に住む大精霊――クロノス」

「!」

「カナンの地にすむ!」

「大精霊クロノス!?」




皆は驚いたが…

エルにとっては、こんな場所でカナンの地という言葉が出てきた事に

ジュード達は四大精霊やセルシウス、ヴォルト、そしてマクスウェルしか知らなかったため、それ以外に精霊がいることに驚いていた




「恐れることはない。我々には、奴に対抗する力がある……地下訓練場に来い。骸殻の使い方を教えてやろう」




別に恐れているわけではない

ルドガーは突然の突きつけられた道と、いきなりの早い展開に少し戸惑っているみたい


ビズリー社長は何を考えて、こんな事を…

私に対しても、自分に従えば元の世界に帰れるってしか言ってくれないし…


もしかして、私やルドガーを利用して何か企んでいるのでは…?

けど、ユリウスさんの行動もやっぱり意味不明だ

ルドガーを隠したりして…


そう思っていると、レイアはルドガーに聞く




「クランスピア者のエージェントって超一流の職業だけど……ほんとによかったの、ルドガー?」




レイアの問いにルトガーは言いづらそうに「よくはないけど…」と言う

そうだよね…こんな形でクランスピア社に入社することになるなんて…ね




「だよね……けど、ビズリーさんに認められたの、すごいと思うよ!わたしなんか、全然編集長に認められなくて…だから、チャンスって考えたらいいのかもって……」

「……」

「ああ〜!記者なのに、上手く言えなくてゴメン」




何か元気付ける事を言いたかったレイアだけど、上手く言えなくて頭を押さえるように、悔しがったけど、次に顔を上げた時、表情は「とにかく頑張れ」って言うように笑っていた


ルドガーは彼女の気を遣った気持ちを受け取ったけど、まだ困惑が振り切れていない様子

しばらく、黙って考えていたかったけど、社長に地下訓練場に呼ばれているのを思い出して、社長室から出て行く

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