謎も夜も深く





「(列車の時より強い感じがする……あれはルドガー相手だったからかな?)」




リドウとイバルのサポートしながらユリウスさんの様子見ていると、前に侵入した分史世界の彼と違うって思った

まぁ、分史世界全て同じってわけじゃないから、もしかしたらルドガーがいても変わらない可能性だってある

そう言えば、彼が分史世界の人ならさっき私に言った意味って……


色々考えていると、イバルがユリウスさんに押されていた!まずい!助けないと




「スプラッシュ!」

「くっ…!」




私の精霊術がユリウスさんの腕に当たると、その腕で持っていた剣を落とした

そこにすぐリドウとイバルがもう1つの剣を落とそうと斬りかかる




「(すごい!流石リドウだ!イバルも前より強くなってて……)」




いつぞやの遠征の時よりも強くなっている気がするイバル。そしてユリウスさんとの交戦経験のあるリドウの相手をよく見て素早くやる攻撃やガード

まだまだ半人前の私には追いつけないが、精霊術で気を抜かずにサポートしよう…

そう思って詠唱していると、リドウとイバルはユリウスさんのもう片方の剣を落とし、剣先で時歪の因子に突き刺そうとした




「まだだ…まだ…俺には…!」




その時突然、ユリウスさんは自身のコートの下から何かを取り出すと、それが光り出し周りが眩しくて見えなくなった!




「っ!?」

「何だ、あれは!?」




同じく眩しさで目を凝らしながら攻撃しようとしたリドウとイバルだったが




「ぐっ…!」

「うわっ!!」




眩しい光りは強風のような波動を出し2人を吹き飛ばした!

やがて、光りが収まるとユリウスさんは私に向かって走ってくる!


あの手に持っているのは…短剣?


少し長い刃渡りの短剣だ!さっきの光りはあの短剣と関係があるのか?

だとしたら、かなりの強力な力がある!

急いで回避しよう…と思ったが、私の左右に横たわるリドウとイバルが危ない

…こうなったら




「させない!」




ダメ元で詠唱なしで結晶の力でガードしたら、吹き飛ばされずに成功した!




「これは…何故効かないっ!」




びくとも動かないユリウスさん。今ならカウンターをして反撃が出来るかも!

そう考えて実行しようとしたら…



右腕のリストバンドの光が強くなる

そして




「(あ、結晶と短剣が…?)」

「それは…!!」




何故かユリウスさんの持っていた短剣も結晶と共に光り出す

これは…何が起こっているの?よくわからないが、考えた通りにカウンターをして反撃するとユリウスさんは後ろに倒れた

今だ!今のうちにイバルとリドウに回復を…まず最初にリドウからヒールをする





「つまり、この世界も単なる枝分かれした偽物だったって事か……ならば」





ユリウスさんはゆっくり立ち上がると、何か言いながらさっき落とされた双剣を拾う





「お前が本物なら…」





そして、再び狙いを定めて剣を構えると…





「次こそ…望みをかけるまでだ!!」





私の方に再び襲ってきた!




「なっ……何を!?」

「リルさん危ない!」




自力で回復したイバルが急いで立ち上がろうとするが、まだ完治していないためユリウスさんのスピードに追いつけない!

私も慌ててヒールからバリアーに唱え直そうとしたけど……間に合わない!

もう駄目だ…!!











そう思った時に、何かが突き刺さる音がしてユリウスさんを見ると


脇腹に細長い物が突き刺さっていて、その場に止まっていた




「ぐっ……は……」

「……好き勝手にやりやがって」




細長い物を辿って見ると、そこには私の隣でヒールを受けていたリドウが間一髪で骸殼に変身して、一緒に変化したメスを伸ばしてユリウスさんの脇腹に刺した

リドウは体力があまり残ってないのか、すぐに骸殼を解く。そしてメスを抜かれたユリウスさんはその場に倒れる

…今度こそ、もう襲ってこないよね?

そう思いながら恐る恐る近づく




「これが…正史世界の…」




命絶え絶えな様子。もう襲ってはこないって思ったけど、まだ油断は出来ない

まだ警戒しながら私はこのユリウスさんに聞いた




「あの、教えて下さい。さっきの貴方の口振りだと私はいなくなったみたいな言い方ですけど、ここの私はもういないのですか?」




そう、途中で気づいたけど、このユリウスさんは“私だけ”なんでここにいるんだ?って言った

つまり、元々いたけれども、何らかの理由でこのトリグラフにはもういない……いや、もしかしたらトリグラフ以前にこの世界にはもういない。その可能性が浮かんだ

そして、この世界と自分自身が分史の存在だと自覚したこのユリウスさんの答えは…




「ああ…俺が…殺したからな」

「っ!?」

「こいつ…なんて事を!」




後者の方だったのか……それは少しだけ予想していたけど、まさか殺されていた……しかも、この目の前にいる正史では優しくて頼れる上司であるユリウスさんの分史に

私も静かにショック受けたけど、イバルはショックを受けたと同時に怒りが込み上げてきたらしい。私を守るように前に立ってくれたけど、私は次にまた聞いた




「ここの私は貴方に恨まれていたんですか?」

「恨みは無い…ただ、貴重な…ぉ…ぅ…だ…った…」

「え?何ですか?」

「クル…スニクの……ぃ…ぅ……」





掠れた声で何かを言うユリウスさんだったけど、よく聞き取れない

けど、リドウはすぐにユリウスさんの言った事を理解して「まさか…!」と、ユリウスさんに更に近づいて耳元で何か言う

何だろう?小声だからあまり聞こえない…




「じゃあ…正史の…俺が…知ら…ない?」

「ああ」

「なるほど…お前…ら…」




リドウの言った事に対して全てを悟り、驚きと何かを諦めた様子のユリウスさん

そして、彼は私の方に顔を向けると




「ふ…リル。逃げる…なら…今のうちだぞ?」




まるで同情するような笑みを浮かべた彼は私にそう言った

逃げるなら今のうち?




「逃げる……?いや、ここで逃げたら故郷に戻れないし、だいたいここまで来たなら最後までクランスピア社にいますよ?」




そう、最大の目的である元の世界に帰る方法は、この結晶と共にオリジンの所へ行かなければならない……ビズリー社長と考えた予想だけど、他に思いつかないためこの方法を信じるしかない

それに対して逃げろ?どんな思いでそんな事言ったのだろう?このユリウスさんは謎の発言ばかりだと思っていると




「こんな…俺が言うのも…あれだが…お前は…哀れだ…」

「え?」

「オリジンに…選ばれて…しまっ…た…」

「オリジンに選ばれてしまったのが哀れ?どういう……」

「逃げたく…なった…ら…た、大切に…し…ている…もの…を…欲望に…染めろ!」

「あのっ!さっきから一体何を…」

「じ…自分の…い…のち…が…大事なら…せい…ぜい…な…が…生き出来る…ように…努力…するんだ…な」

「だから!」




回りくどく言わないで率直に単刀直入に言ってほしい!




そう言おうとしたが…





「うるせぇユリウス。いくら分史のお前でも俺のリルを惑わそうとするのは許さねぇぞ?」





リドウがメスでさっさとトドメを刺してしまい、ユリウスさんからこれ以上何も聞けないまま…




今いる分史世界を破壊し、正史世界へと戻った

















――――――――――――








戻ってきた場所は、クランスピア社の1階ホールだった

夜の7時を回っていたため人も少ない

丁度受付と話をしていたヴェルさんが私達に気づいて「お疲れ様です」って声をかけてくる

それに対してリドウがある程度報告をして後は資料にまとめると言うと、ヴェルさんは了解して社長室に向かった


そして、残った私達は…




「あの…正史世界のユリウスさんは…」

「どうやら誤報だったみたいだな」




そう、最初に言われていたユリウスさん…正史世界で今、指名手配中にされているユリウスさんを捕まえるのが目的だったのにあんな事になるなんて…

リドウに聞くと、彼はため息付きながらそう言った

誤報?別の分史世界と間違えたのかな?けど、今までそんな事ってなかったような…


何か腑に落ちない誤報発言もだけど…





「じ…自分の…い…のち…が…大事なら…せい…ぜい…な…が…生き出来る…ように…努力…するんだ…な」





あのユリウスさんの謎の発言もかなり気になる

その事も聞こうとしたら、リドウはイバルと話していた




「どうだった?初の分史世界は?」

「あいつ…さっきの世界でリルさんを…!」

「イバル…」

「許せないです!あんな世界があるなんて!」




イバルは私が殺されていた事にまだ怒っていた。初めての分史世界って何が何だかわからない上に、今回はショックな事実があったもんね

何だか私のせいで嫌な思いをさせてしまったな…って思っていると




「はぁ…初めての分史世界ならもっと驚くところあるだろ?面白味の無ぇやつだ」

「なっ…!」

「一々騒ぐなよ。消えちまった偽物にいつまで同情するんだ?」

「消えた偽物って…!あんたは恋人であるリルさんがユリウスに殺されててショック受けなかったんですか!?」




リドウの分史世界は消えてしまったならもう関係ないって発言と態度に更に怒りを爆発させたイバルは、今にもリドウに掴みかかって殴りそうだった!

まずい!ここで部下が上司をボコったなんて問題を起こしたらイバルは間違いなくクビ。しかもそれより相手がリドウだからどんな報復が来るか…!

慌ててイバルを止める




「大丈夫よイバル!リドウさんの言う通りここではあんな事にはならないから、さっきの世界は忘れて!」

「そんな冷静でいいんですか!?あの世界の貴女はユリウスに殺されていたんですよ!怖くないんですか!?」

「たしかにショックだったし怖かったけど……ここでのユリウスさんは多分そんな事はしないだろうし、何よりリドウさんやイバル、ルドガーや皆が一緒に戦ってくれるから平気だよ……私の事を心配して怒ったりしてくれてありがとう。その気持ちだけで十分だよ」

「リルさん…」




何とかイバルを宥めて落ち着かせる

イバルは何も悪くないけど、ここでリドウを殴っては駄目。せっかくここまで頑張ってきたし故郷のニ・アケリアに帰りたくないなら、ここは自身の感情を抑えて上司の言葉に頷かないと…

ああ、なんか本当にどこの世界も社会の中って一緒なんだな〜

はい、篠宮莉瑠。短期大学の同級生より先に社畜していま〜す

……って、それよりも改めてリドウに聞いてみないと




「あの……さっきのユリウスさんは私の能力を知っていたんですか?」

「……さぁな」

「私はオリジンに選ばれた哀れな奴とか…逃げたくなったら大切にしているものを欲望に染めろとか……」

「ただの口から出たデタラメだろ?」

「けど、あの時ユリウスさんの持っていた短剣と私のこれが共鳴していたような…」

「……何だ?」

「………?」




私の質問に対して曖昧な返事をしていたリドウだったが、次の瞬間



いきなり襟ごと私の首を掴んで壁にドンッ!と押し付けた!




「痛っ…!?」

「お前は俺よりあいつの言葉を信じるのか?」

「そ、そんなわけ……」

「じゃあ、あいつの言葉を忘れろ。そしてその事は他に聞くな」

「な…何故…」

「上司命令だ」




首を掴まれた苦しさと背中に残る鈍い痛みの中、その様子と私を睨む瞳と上司命令って言った言葉でかなり怒っているって理解する

けど、何で…?ただ聞いただけなのに…

身長差もあるため、少し浮いてて足がブラブラする。そのお陰で余計に苦しい…

いや、息はある程度できるけど、首を掴まれてるから苦しいって言うより、目の前で殺しにかかろうとしているんじゃないか?って思えるような瞳で私を見るリドウの様子に恐怖した


もう、これ以上は聞けない…そこまで怒るのは何があったのか気になるけど、今は早く謝ろう




「何乱暴しているんだ!離せ!」




必死に謝ろうとした時、見ていられない!って思ったイバルは私からリドウを離そうと間に入るが




「お前も上司の話しに首を突っ込むな!」

「うわっ!!」




呆気なく、リドウに蹴り飛ばされてホールの床に尻餅をつく




「痛っ…」

「イバ…ル…!」




蹴られたイバルを見て、そこまでしなくてもいいじゃん!私に対して怒っているなら、私だけに怒りを向けてイバルは巻き込むなよ!って、いつもみたいに私も睨み返したかった

けど、今は息苦しさと恐怖で上手く言えないし、目も恐怖のせいか出てきた涙を止めるしか出来ない

本当に何の癪に触ったの?



……そう思っていたら、浮いていた足が地面に付いた

あ、ようやく開放してくれた。そう思って息を整えようとしたら…



首を掴んでいた手はそのまま私の顔に来ると、リドウは顔を近づけ


私の唇を塞いだ




「んっ…!」




何!?なんでいきなり…!!

抵抗しながら頭の中を整理しようとしたら、彼は舌を入れてきて絡みついた




「ぁっ……んっ!…っ……!」




止めてもらうように言おうとしたが、絡み付いてくる舌で上手く言えない




「お…おいっ!」




蹴られたイバルはこの行為には間に入ってこれなく、ただその場に固まって力なく「何をしているんだ!」って言う事しか出来ないでいた

嫌だ…イバルが見ているのに!リドウは何を考えているの!?

2人きりではない上に甘いムードの無いこのキスは、恐怖と嫌悪感しかない

お願い…謝るからもう止めて…


涙を1つ流しながら、心の中でそう願うしかできないでいると、そこでようやく離してくれた




「嫌っ…なんで…」

「さっきの分史世界で出来なかった続き」




そう言ったリドウは、さっきの怒りに満ちた表情と打って変わって意地悪に笑っていた

…はぁ?意味がわからない!てっきり“上司(もとい恋人)を怒らせた罰だ!”って言うかと思ったら




「…悪かった。互いに腹減っていてまともな判断が出来ないのかもな」




次に落ち着いた声で、そう私に謝ってきた

…おいおい、あんなに暴れておいてそんなんで済まされるとでも思ってんのか?って今度は私に段々怒りが湧いてきた




「(……明日セクハラ・パワハラで訴えてやろうか?)」




私は今度こそリドウを睨みつけてそう思っていると、そんなリドウは私の肩に手を置いて突拍子のない事を言う




「リル、今晩は俺の家に来い」

「ええっ!」

「いっ今からですか!?」




突然のお誘いに私だけでなくイバルも驚く




「な、なななな何!?それは…つまり御飯のおさそ」

「泊まりに。だ」




晩御飯のお誘いって済ませようとしたら、泊まれ宣言

う……うわーー!!ここでいらない事を言ってしまって逃げ場を自分で壊しちゃったーー!!




「えええー!いや、だって、着替えとか寝間着とか……」

「俺の方で用意する」

「あ、あと、布団とか!寝るところ…」

「それは心配いらねぇ。俺とリルと1つのベッドに寝ればOKだろ?」

「あぁっ…あとは!」

「…いい加減にしろ。お前に拒否権は無い!」




私の往生際の悪さにリドウは舌打ちをして、無理矢理私を脇に抱えた!




「う、うわっーーー!」

「じゃっ、また明日な雑務」




上機嫌にイバルに言うと、そのまま自宅に向かう


こ………

これは拉致だーーー!!!

食われるーーーー!!!!




「えっと!だから、あとはスピーカーとオタオタのぬいぐるみとカレンダーとラップとじゃがいもとニンジン、たまねぎ、小麦粉片栗粉ーー!!」




とりあえず、何でもいいから頭に浮かんだ単語を言うけど、もうぐだぐだ

当たり前ながらリドウも「そんなもんいらねぇだろ?」って言いながら笑う


うぅっ……


明日ちゃんと会社行けるかな?

私は半分諦めながら、ぐったりしてまだ「サラダ油ごま油……」って単語を言い続けた




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