別世界の精霊の主
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送られた座標に合わせて分史世界に侵入してみると、たどり着いたのはオレンジ色の木々や山に囲まれた場所だった
ここは…どこだっけ?見たことあるような…
そう思いながら歩いていくと、丸い屋根の木で出来た建物が見えてきた!あれは…
「(ニ・アケリア?)」
間違いない。ここはニ・アケリアだ
あの独特な形の建物と、大きな川、平野に広がる秋のような草原。そんなニ・アケリアの中に入ってみると何だか村が静か
おかしいな。近くにも遠くにもちゃんと村人がいるのに
そう思って村人をよく見ると、皆なんだか何かに恐怖しているような表情をしている
どうしたんだろう?この分史世界では何が…
あ、それも気になるけど、今はルドガー達と合流しないと
ここの村にいるのかな?って探すために奥に行こうとしたら
近くにいた村人達が一斉に祈るように跪いた!
「(ええっ!?何?何があったの!?)」
驚いて周りを見ると誰かがこっちに向かってくる
よく見ると2人の女性で見覚えがあった!あの2人は…!
「(ミュゼと……ミラ…!?)」
間違いない!あれはミュゼとミラ!
この分史世界では2人でニ・アケリアに住んでいるのかぁ〜!
そう言えば前作ではミラを先頭にしてこの村に行くと、村人がみんな跪くんだよな〜すっかり忘れていた!
やっぱ、分史世界でもあの2人はマクスウェルの化身として崇められているのは共通か!
……ん、あれ?あのミラは服装が違うし、何よりチャームポイントであるシルフに編んでもらったアホ毛みたいなのが無い
わぁ〜見た目まで違う人が出てくるなんて!今までの分史世界は見た目は正史世界と変わらないけど、性格とかの中身が違っているのが多かったから、分史世界は面白いなぁってちょっと楽観的に見ていた
が、そんな考えはすぐに無くなる
「(ん?そう言えば、あのミュゼはなんで目を瞑ったままなんだろう?)」
だんだん近づいてくる2人の正史世界と違う所は無いのか探していて、ミラの次にミュゼを見たら……何か異様な感じがした
そう気付いた時に、ミュゼは私の横を通り過ぎようとして…
立ち止まって私の方を向く
「(え…何?)」
「ここに何かいる?」
目を瞑ったまま、私を向いているミュゼはミラにそう聞いた
「(まさか、このミュゼは目が見えないのかな?)」
そう思ってよくミュゼを見ると、彼女の閉ざされた瞼にうっすら傷後がある
戦いか何かで損傷して失明した……のかな?
けど、目は見えていないのに私の方を見るなんて……まさか村人じゃない気配がした!?
って言うか、ここって正史と違って村人以外入っちゃ駄目!?だからミュゼは私に気付いた!?
どうしよう……ずっとこっちを向くミュゼに何か言ったほうが……!
そう思って口を開こうとしたら
側にいたミラが私を見て、首を横に振った
「(え?喋るなって事?)」
「……いいえ、何も無いわ姉さん」
「そう。なら、行くわよ」
とりあえず黙っていたら、2人はそう話して村の奥に続く……霊山のある方向へ行った
そして、ふと、振り返って見てみるとミュゼから黒い光が見えた!
「(あのミュゼが時歪の因子か…)」
危なかった……あそこで話しかけていたら、時歪の因子化して村がパニックになっていたかも
ここからいなくなれば、なんとか村は巻き込まずに破壊できるな……って考えたけど、まずはルドガー達を探さないと!
何か知らないかな?って思って、再び動き出した村人に聞こうとしたら…
「リル!」
「あっ…エル!ルドガー!」
村の奥からエルとルルが走ってきて……その後ろからルドガー、アルヴィン、レイアが来た!
「リル!来てくれたんだ!」
「何やら妨害に巻き込まれたとかって聞いたから心配して」
「それより、この世界のミラとミュゼに会わなかったか?」
「うん、さっきそこで見たけど…」
アルヴィンやレイアから、この世界のミラとミュゼについて聞いてみると
あの2人は仲良し姉妹だったけど、アルクノアを全滅させる際にミュゼが失明してしまいそれ以来ミュゼが度々ミラに冷たい言葉を言ったり暴力を振るっているらしい
この世界のアルクノアが全滅したのも驚きだけど、ミュゼがミラを…
ミラは精霊の力を還して人間になったからなのか、まだ精霊であるミュゼには逆らえず暴力に耐えていて、村人も神と同等に崇拝している2人の間に入れず暴力は見ないフリや知らないようにしている
「まぁ出しゃばらなくても、あのミュゼの気に障るような事をしたら消されるらしい。その証拠にこの世界の……マクスウェルの巫子様がいない」
「マクスウェルの巫子って……まさか!」
アルヴィンの言葉で私は耳を疑ってしまった
マクスウェルの巫子って言ったら……イバル
この世界のイバルがミュゼに殺されていたなんて…!
昨日の分史世界で、そこの世界の私が殺されていたのを知って怒ったイバル
今日は逆になるなんてね……って、私はこの世界にいないイバルにショックを受けつつ正史のイバルに向けて早々に同じ気持ちになってしまったよって言いたくなる
そして、次にルドガー達はミュゼを……時歪の因子を破壊するため2人を追いかけようとしていると話を聞いているところで、私に近づく白いコートを着た人が目の端に留まり、そちらを向いて驚いた
「あっ!」
「久しぶりだな……リル」
それは…ユリウスさんだった!
ここはエレンピオスとは繋がっていないリーゼ・マクシア。分史世界のユリウスさんは考えられない
つまりこの人は……正史のユリウスさん。けど何故ここにルドガー達といるの?
私と同じくこのニ・アケリアで偶然出会ったのか?
それとも…
「まさか…貴方がルドガー達を…!」
ルドガー達がここに来たのは何者かの妨害があったからって聞いたのを思い出し、もしかしてユリウスさんが妨害したのか?そう思って私はユリウスさんに疑いの目を向けると
「待ってくれリル!兄さんが原因じゃないんだ!」
ルドガーとレイアが私に妨害が何なのか話してくれた
「そう!クロノスっていう精霊に遭遇して…」
「クロノス!?」
レイアが言っている最中に思わず声を上げて驚いてしまった
クロノス……もしかして、ビズリー社長から聞いた私が出会ってはいけない時の精霊の?
詳しく聞いてみると、最初はエレンピオスのアスコルドがある世界に侵入したけどそこでは時歪の因子はなかった
じゃあどこにあるんだろう?ってなった時に別行動をしていたジュードとレイアが街で聞いた髪の長い女の様な精霊を探しに次元の丘まで行ってみたら……クロノスと遭遇したらしい
クロノスの力はあまりにも強大で、ルドガーがピンチになった時にユリウスさんが助けて、偶然に空いた次元の裂け目に逃げ込んだらミラの社にいて今に至るそう
ん〜ざっくり聞いてみて……ルドガー達も次々に色々遭遇してて大変だな
いや、そんな呑気に考えてられないな
私も危なくクロノスと遭遇してたかと思うと
「(数秒で殺されていたかもね)」
話を聞く限りじゃ皆で力を合わせてやっと傷をつけられたけど、回復が異常に早かったって聞いて背筋が凍った
……まあ、今はいないみたいだし、まずやる事をしなければ
改めてメンバーを見ると、どうやら分史世界だけれどもミラが消えるのをジュードに見せたくないって思ったレイアが二手に分けたみたい
じゃあ、この6人と1匹で霊山に行くのか…
そう思って私はもう一度ユリウスさんを見て様子を窺う。さっきのような疑いはなくなったけど……不安が残る
「大丈夫だ。今は君とは戦いたくない」
私の視線から思ってる事を察したユリウスさんはいつもの優しい表情でそう言った
ああ、私の知っているユリウスさんだ
少しばかり安心したけど、私は忘れてはいけない義務がある
「戦いたくないって言いましたけど、その……」
「わかっている。君もクランスピア社の人間だから俺を生け捕りにしろって命令があるのは。だが、今はここを破壊する事が優先だ」
「すみません…」
「謝らなくていいよ」
そう…だよね。変な話だけど、捕まえなければいけない人にあらかじめ話しておいて謝るなんて…どうかしている
けど、お世話になった元上司を捕まえるのは嫌な気持ちだ
その気持ちを知ってもらいたいって訳じゃないけど、申し訳なく思う
「リルー!メガネのおじさんも!早く行くよー!」
エルに呼ばれた声を聞いて、私とユリウスさんはルドガー達と一緒に霊山に向かった
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霊山に続く社の長い階段を登っていくと、長い金髪が靡く後ろ姿が見えた。その人物を見たエルが「ミラいた!」って言うと、その呼ばれたミラ―――分史世界のミラがこちらを向いた
「出て行けって言ったでしょ」
ミラは私達に冷たい視線を送り、突き放すようにそう話す
ここのミラは…見た目だけじゃなくて中身も違うな
少し冷たい感じだけど、人間の普通の女性みたいなミラが見れるなんて……ちょっとレアかも!
って、私は考えていると…
いきなり何処かから、元気ハツラツ!な効果音のような音が鳴る
「えっ!何!?」って、びっくりして周りを見ると、すぐに音源はわかった
「やっばー、全然会社に連絡してなかったぁ!」
それはレイアのGHSの着信音だった
私とルドガーとアルヴィンは、慌てメールに返信しようとするレイアを見て「なぁんだ、もうレイアったら」って笑う
けど、その時気づかなかった
GHSを見たミラの豹変を…
「ミラ!?」
エルの驚いた声でミラの方を向くと、ミラは精霊術を唱えてレイアのGHSに放った!
レイア危ない!!
私はレイアを押し倒して守ろうとしたけど、それよりも早くユリウスさんがガードをして守ってくれた!
「ユリウスさん!」
「兄さん!」
弾けた光を払いながらユリウスさんは立っていたけど、クロノスとの戦いで体力があまり無いはず…
私とルドガーはユリウスさんの側に行くと「大丈夫だ」って言ってミラに向き直る
「それより……なんのマネだ!」
「それは黒匣でしょう!黒匣とそれにまつわる存在を消去するのが私と姉さんの使命!」
いきなり攻撃してきたミラに聞くと、彼女は剣を構えたまま私達に敵意を向ける様に言った
そうか、ここはエレンピオスと繋がっていないだけじゃなくて、入ってきたアルクノアは全て抹殺された……共存していない世界
ましてや、正史のミラみたいにジュード達と一緒にいたわけじゃないから、生活は精霊として人間とは隔離され崇められてきたもの。使命を大切にして黒匣は絶対の悪の存在と思っている
「どうする?まともに相手してくれそうにねぇぞ」
アルヴィンが言うように、ミラはもう私達をアルクノアと同様の…黒匣を持ち込んだ消去しなければならない存在だと思っているため、話は聞いてくれそうにないかも
「だったら、力づくでしかないか……」
「ルドガー?相手は元だけど大精霊だよ!」
力で応戦しようとしたルドガーに私は止める
「そうだよ!勝てるの?違うミラだけどミラだよ」
「そもそもやれるのかい?仲間なんだろ」
「そ、それは…」
ユリウスさんに言われて、そもそもミラとは戦えないって気持ちを思い出すレイアとアルヴィン
力づくじゃ駄目だから、他の方法は…
「だったら、なんとか説得しよう……」
私はまだこのミラについて何も知らないけど、なんとかしよう
その勢いだけで、ミラに話しかけた
「お願い!聞いてほしい事があるの!貴女のお姉さんは普通の状態じゃないから、そこを通して!」
「何それ…でたらめ言わないで!」
次に何を言おうか考えていると、ルドガーも私と同じように説得しようと思ったのかミラに聞く
「嘘じゃない。ミュゼは以前と変わっただろう?」
「そ、それは……私のせいで目が見えなくなったから……」
その言葉で、ミュゼの変化は自分のせいだと悲しそうに言うミラ
けど次に「何かがミュゼを操ってると思わないか?」って言われると強く否定する
「姉さんは大精霊!操るなんて無理よ!」
「そうかな?ミュゼは、時々、見えない何かに話しかけてないか?まるで操られてるように」
「なぜ、それを!?」
自分達しか知らないはずの情報をアルヴィンが知ってるのに驚いて、やがて本当に何かに操られているのか?……ってミラも考え直しているみたい
「あんたも見ただろう?ミュゼの体に取り憑いている“アレ”を」
「あれは、なんなの?」
「あれは時歪の因子。人に取り憑いて世界を歪めてるの」
「壊さなきゃいけない悪いものなんだって」
「世界を歪める…黒匣と同じ…」
レイアとエルの言う世界を歪めるものと聞いて、黒匣と同じものなら…と考えていると、アルヴィンは昔のミュゼについて聞いた
「昔は、仲のいい姉妹だったんだろ?あいつは妹に、あんな憎しみぶつける奴なのか」
「違う!姉さんは、優しかった!目だって、私をかばってああなったのよ!昔の姉さんは――…あんなじゃなかった」
また強く否定しながら最後に弱々しく言ったのは、なかなか出せなかった本音のように聞こえた
そっか、ミュゼの暴力に耐えているのは人間と精霊の力の差をわかっていただけじゃなくて、ミュゼを……ミラにとってはたった一人の家族である姉が好きだからやり返して傷付けたくないんだね
そう思うと、俯いているミラは何だか涙しているようにも見えて、私も悲しい気持ちになる
「ルドガーなら、時歪の因子をあぶり出して破壊できる」
アルヴィンがそう言い終わると、ルドガーは骸殻に変身してみせた
「それは…精霊の力…!?」
驚いてルドガーを見たミラは、しばらく考えて私達に聞く
「……時歪の因子を壊せば、昔の姉さんに戻るのね?」
「…信じるか信じないかは自由だ」
ミラの質問にそう返事して様子を伺うルドガー
……こんなやり方…ミラを騙す形だ
けど、今はこうするしか……ミラと戦うっていう最悪なパターンを避けて時歪の因子を破壊するために
「……姉さんも、私のスープを美味しいって言ってくれるかしら」
「?」
「え…?」
ミラが何か言ったように見えたけど聞き取れなく、近くにいたエルと顔を見合わせて首を傾げる
もう一度聞こうとしたら、ミラは顔を上げて私達に言った
「いいわ。時歪の因子を壊すまでは協力する。今の姉さんは、音と匂いで周りを視てる。そこを突けば動きを抑えこめるわ」
「精霊術を仕掛けるの…!?」
私の予想は当たったのか、ミラはゆっくりと頷く
そのミラは……大切な姉のためとは言え傷つけてしまう悲しみを背負いつつ、やるしかないと決意を固めている表情をしていた
「行きましょう。姉さんはニ・アケリア霊山の山頂よ」
ミラは霊山の入口を開けるために先に社に入っていくと、後を追うようにエルとルルも行く
その後に私達も行こうとしたら…
「これでいいのか?」
「……」
「……」
社に入ったミラ達に聞こえないように、ユリウスさんはルドガーにそう強く問いかける
聞かれたルドガーも他に方法が無かったとは言え騙す形になってしまい罪悪感から黙って下を向き、レイアも自分がミラと戦いたくないって言ったから自分も悪いって思っているみたい…
その時、アルヴィンが「まぁまぁ」って宥めるように、ルドガーとレイアの間に入って2人の肩を叩いてユリウスさんに言う
「若者をいじめるなよ。仕事にはこういうこともあるだろ」
「わかっているさ。だからこそ……」
アルヴィンの言葉に何か言いたそうにしたけど、ユリウスさんは途中で言うのを止めて背を向く
そして、霊山への扉が開くと、ミラとも一緒に頂上を目指した
その道中、改めてよろしく!ってミラに挨拶するレイアや何かかしら話している皆とは、一歩離れて歩くユリウスさん
私は彼に近づいてさっきの言いかけたのも含めて、気になる事を聞くことにした
「ユリウスさん……家族でもないのに、ミュゼを殺すのは嫌なんですか?」
「えっ」
「突然すみません。前にユリウスさんが時歪の因子が家族だったらちょっと躊躇うって聞いたのを思い出したんです。けど、今はそうじゃないのに何でミラを騙そうとした事に悲しそうな表情をしたのかなぁって」
「それは……」
いきなりの私の質問に戸惑うユリウスさん。クルスニクについてまだわからない所はあるけど、一応私はクランスピア社の人間だから、この質問の答えじゃなくてもさっきの言いかけたのは何だったのか聞けるって思ったけど…
やっぱり無理かな?だとすれば、本当に何かを企んでいるのかな?
また疑いの目で彼を見ていると、重たい口を開いてこう言った
「全ては話せないが……これだけは言える。ルドガーを俺の様にさせたくないんだ」
「ユリウスさんの様に?」
どういう意味だろう?つまり、自分のしてきた分史世界の破壊っていう辛いことをさせたくないって事かな?
そう聞いて私は単純に本当に弟思いだなって思ったけど、よく考えればオリジンの審判の事を忘れていた
…まさか、何だかんだ言いつつ表向きはかっこよくそう言っておいて、自分の願いを聞いてもらうために、ライバルになりそうなルドガーを蹴落としているのか?って思っていまう
分史世界のユリウスさんもだけど、なんで遠まわしにわかりずらく言ってんのかな〜?
無い頭で考えるように色々可能性を考えていると
「ルドガーがいなかったら、俺はいないからな」
そんなまた意味深な事を言ったけど、その言葉は別にオリジンの審判関係じゃないし、ルドガーを蹴落とすようなものではない
むしろ、ルドガーに感謝するように言うそれは…
「えっ…それってどう言う……」
聞こうとしたところで頂上付近に着いたため、皆は息を潜め静かに慎重に登って行くことになった