無意識の招き手








気がつくと、そこは分史世界と変わらずニ・アケリアの霊山だった

けど、何処となく空気が違うし、あの世界が壊れるのも見たから…ここは正史世界




「これで分史世界が消えたのか?」

「うん。壊さない内は戻れないから、戻ってこれたって事はこれで完了」




ルトガーにそう説明して、改めて彼が持つあの光る歯車みたいなのを見る




「それがカナンの道標?」

「どうだろう……」

「カナンの道標!?」




その歯車について今度こそ聞こうとしたら、先に答えを聞いてしまい私は驚いた

あれがカナンの道標だったなんて……

前にビズリー社長から聞かされていたカナンの地に行くための物で、深い深度の分史世界のどこかに存在して全部で5つあると言われている

それが、この光る歯車なのか…


けど、待って。分史世界の物はクルスニクの鍵がいないと正史世界に持ってこれないはず


まさか…




「(ルドガーが……クルスニクの鍵?)」




そう思ってルドガーを見ていると



















「なんなの……今の?」




その時、もういないはずのミラの声がしたような…!

驚いて、声のした方を向くと……そこにはエルと手を繋いだままゆっくりと立ち上がって周りを見るミラがいた!




「なっ!」

「えっ!?そんな……」

「なんで、あんたまで正史世界に!?」




皆、信じられない!って驚いてミラを見る。一瞬幻ではないか?って思ったけど、そこにいるのはちゃんと地に足を着けて息をしている……間違いなくさっき一緒にいた分史世界のミラだ




「(これは…クルスニクの鍵の力の影響?)」




私はそう思って、さっきの分史世界の壊れる直前を思い出す

たしか、ミュゼを倒した後、ルドガーはミラと離れた所にいてカナンの道標を持っていた

で、ミラは…エルに抱き締められて……




「(ん?エルに…?)」




それを思い出した時に、まさかエルもクルスニクの鍵なのか?って思ったけど、ルドガーの影響で周りにいた人達も触った分史世界のものを持ってこれたとも考えた

でも、そうなればさっきの戦いで服に付いた砂ぼこりすら一緒にくるのに、何も無い…

色々思考を巡らせる中、ユリウスさんは何か確信したのかエルを見て「やはり……」と呟く




「ユリウスさん?何を……」

「姉さんはどうなったの!?何が起こったのか説明してよ!」




ユリウスさんに何か知らないか聞こうとしたら、ミラが私達にミュゼの事を問いただす

……クルスニクの鍵について考えるのは後でもいいか。今はとりあえず、この状況を何とかしないといけない




「……お前の世界は、俺が壊した」




そんな中、ルドガーが最初にミラに話す

それを聞いたミラはルドガーの言った事に理解出来ず首を傾げた




「は?じゃ、ここはなに?」

「あなたのとは違う世界なんだよ」

「意味わかんない」




レイアが言っても状況が把握しきれていないミラはそう一言で済ませると、ルドガーに詰め寄る




「姉さんは!?元の姉さんに戻るのよね?」




再度ミュゼに関する問い。それはミラにとっては、今すぐ知りたい事

ミラは刺されて消えたミュゼの姿が嘘であってほしいと必死な様子


…本来ならば一緒に消すはずの彼女。それがこうして一緒に正史世界に来るなんて予想外だから、騙してミュゼを倒して世界を壊した私達は誰もミラの問いに答える事が出来ず、黙ってしまう…悲しくおかしな話だけど

私はミラの問いに首を横に振る




「ミラ……ミュゼはもう元に戻るとかの話じゃないの」

「あんたの知ってるミュゼは消えたんだ」

「貴女の世界と一緒に」




私達はルドガーだけの責任ではないと、皆でミラに真実を話す

するとミラは、只でさえ違う世界って言われて混乱しているのに、最後に信じた希望に裏切られてしまい呆然とする




「……ひとつだけわかった」




そして静かにそう言うと、次の瞬間ミラはルドガーを睨むと彼の頬を思いっきり殴った




「私を騙したのねっ!」




悲しみを交えたミラの怒りは、まずミュゼを刺したルドガーに向けられる

ミラを止めたいけど、こうなるのは当然だし彼女の言う通りだ

ルドガーも何も言わないままミラの怒りを受けていると、エルが間に入ってミラを止める




「やめて、ミラ!ルドガーの仕事なんだよ」

「ふざけないで!世界を壊す仕事なんてあるわけ――」

「あるんだよ、それが」




たしかにそうだけど、いきなり自分の世界を壊されて1人だけ違う世界に来るのは、あまりにも唐突すぎて受け入れがたい。聞く人によっては馬鹿馬鹿しく聞こえる話だ

私だって、もしこれがトリップじゃなくて、自分の世界を壊されて来たものだったら……ミラと同じようにすごく取り乱していた

けど、私達はふざけて言っているわけではない。こんな形だけど真面目に真実を話している

…すぐに理解してくれとは言いたくないけど


ミラはユリウスさんの言葉を聞き、私達の様子を見て、複雑そうだけど嘘ではないって思ったのか黙ってしまう


その時、ルドガーのGHSの着信音が鳴る




「まずいよ、黒匣は――」




レイアがさっきの自分の様になってしまうと恐れて慌ててルドガーにGHSを切らせようとしたけど、ミラはショックのせいか黙って俯いたまま

ミラには申し訳ないけど……そう思いながらルドガーが出ると、相手はジュードからで無事に「時歪の因子は破壊できたか?」って聞こえた




「…ああ。なんとか破壊した」

「ジュード達も戻ってたんだ」

「こっちは平気。エリーゼもローエンも一緒だよ」

「任務達成だな。合流しようぜ」

「ああ…」

「うん……」




そう言って話が決まると、GHSを切ってニ・アケリアに行こうと霊山を下山する




「ミラも、いこ」

「………」




エルはただ純粋に今一緒にいるミラを新たな仲間として、一緒に行こうと誘う

どう理由であれ、今の彼女をここに置いていくわけにはいかないから、一緒に行くしかない


その時、今度は私のGHSが鳴る


画面を開いて発信者を確認すると…


思わず、皆と離れた所で歩きながら出る





「お疲れ。リル分史対策室副室長」

「……お疲れ様です。リドウ分史対策室室長」

「なんだ、もう知っていたのか」




電話をかけてきたのは、楽しそうに私を副室長と呼ぶリドウからだった

けど、私が驚かずに冷静にリドウに向けて室長って呼ぶと、つまらなさそうに言う声が聞こえてくる

……リドウは私が副室長になったのを後から話して驚かせるために黙っていたっていう予想が当たったかも




「まぁ、それよりも……何の用ですか?」

「ああ、道標は回収出来たか?それに報告ではユリウスがいるって聞いたが…」

「はい、カナンの道標はルドガーが持っています。そしてユリウスさんも……今一緒です」

「そうか…俺は今ニ・アケリアに向かっている。そこでユリウスを捕らえようと思っているが、途中で逃げないか見張ってニ・アケリアまで連れてこい。強行突破されそうになったら……」

「?」

「…追わずにその時は連絡しろ」




何か考えた後、私にそう指示した

ちょっと間が長いように感じたのが気になったけど、次にリドウが続けて言う




「間違ってもルドガー君とかの情に流されるなよ?お前はクランスピア社のエージェントだからな」

「はい、わかっています……あの」

「なんだ?」

「その…捕らえるのはユリウスさんだけですよね?」

「ああ、そのつもりだが……まさかお仲間の中にユリウスの手助けをした奴がいるのか?」

「いえ!そうじゃなくて……同行者が1人増えて……その方は拘束しないでもらいたいんです」




私は名前や詳しい事情は出さずに、ミラを捕らえないでほしいってお願いした

……今までにない事例だから、分史世界の人間をクランスピア社がどうするかわからない

今はユリウスさんを捕まえる事だけが全エージェントに与えられた命令だから、ミラに関する事は私情を交えても……いいよね?




「あ?1人増えた?意味がわかんねぇな……そんなの勝手にしたらいいだろ?」

「……わかりました」

「なら、ニ・アケリアで」




そう言うと、向こうからGHSを切られた

…リドウは分史世界の人間がいるってわからないから、適当に答えたと思う

けど、それが好都合。私もリドウみたいに嘘も本当も言わない作戦をして、分史世界の人間ってバレた後でもミラが酷い境遇を受けないようにした




「(ミラ……)」




ミラに対する複雑な気持ちが残ったまま、私は皆と下山してニ・アケリアに向かう



[TOP]